誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち

  • 早川書房
4.13
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本棚登録 : 603
感想 : 57
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152096388

感想・レビュー・書評

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  • 「お試し版」であらすじを読んだだけで興奮を覚えていたが、本編は想像していた以上のとんでもないドキュメンタリーだった。

    90〜2000年代に激変した音楽コンテンツの環境や音楽ビジネスのことは、一消費者としてしか知らなかった。この本では、その裏側で繰り広げられていた壮大なストーリーが、フォーマットを開発した技術者たち、音楽産業界のエグゼクティブ、窃盗犯グループという、三者の立場で生々しく綴られている。登場人物と注釈が多過ぎるのは読むのにちょっと苦労するが、単なる事実の列挙ではなく(それでも、膨大な資料や証言で綿密に裏付けされた記録なのだが)、登場人物たちそれぞれの心情も織り交ぜられ、多面的に展開する。

    しかし、読み進めていくうちに、段々と心苦しくなってしまった。その理由は、音楽を簡単に盗めてしまうという事実を、自分事としてリアルタイムで体験したからに他ならない。LimeWireやNapstar、MP3プレーヤー、iTunes Store、Spotifyといった、本書に登場する数々のアイテムの、登場から隆盛、そして消滅やさらなる発展という音楽環境の激変の中に、自分も進んで巻き込まれていた。「音楽をタダにした」人間の中に、しっかり自分も取り込まれてしまっていた。
    その後、結局は良心の呵責から、盗んだ曲と同じ曲をiTunes StoreやAmazon MP3でダウンロード購入し、徐々に置き換えていくことになった。興味本位でダウンロードしてみただけで、一度も再生しなかった曲も多かった。どうしてもその音楽を聴きたい飢餓感ではなく、単に、いつでもアクセスできる安心感が欲しいだけだった。
    ハードディスクを占めるスペースも肥大化する中で、何度かのクラッシュを経験したにも関わらず、バックアップも諦めてしまった。その一因は、永遠に増え続けるかに思えたライブラリーのデータも、自分の音楽的興味、好みのアーティスト、そして自分自身と、すべてが高齢化するに従って、変化が乏しくなってしまったことにも関係していたように思う。
    結局は、自分の音楽の聴き方も、SpotifyやGoogle Play、Apple Musicのようなストリーミングやサブスクリプション式に移行しつつある。コンテンツの置き場とアクセス権、フォーマットをぐるぐる巡るジレンマを、人生で最も貴重なリソースであるはずの時間と引き替えに過ごしてきたのかと思うと、半ば暗澹たる気持ちにもなるのだった。

    著者と同様に、いずれ自分だけのライブラリーとしてのメディアは、処分することになる予感はずっとしてきた。読み終わった後にも、物語が終わった爽快感・安堵感のようなものが全くないのは、この本で語られていたことが、今も、自分ごととして続いているからだろう。

    あまりにもドラマティックな群像劇から、やはり映画化も決定済みとのこと。音楽に金を出して買う習慣が無い世代には、このストーリーは一体どのように受け取られるのだろう?

  • mp3を開発した技術者、音楽業界の大物、そして海賊たちの三者、それぞれの視点を切り替えながら描いていく手法は、ドキュメンタリーでありながら小説のようで、筋立ての面白さが特徴。事態の推移は勿論、彼らの人物像や人間関係まで描き出している。「盗み」を容易にした圧縮技術やP2Pソフトは、そういえばそんなのが流行った時代もあったなと、CD時代を通り越して、それすら懐かしく感じられ、ストリーミングが主流になりつつある今、世の中の移り変わりの激しさを実感もした。

  • 【所在・貸出状況を見る】 https://sistlb.sist.ac.jp/opac/volume/207197

  • 苦労の末、音楽の圧縮ファイルを生み出した技術者と研究仲間、
    新たな音楽領域を開拓してのし上がってきた大手レーベルのCEOとその周囲の人々、
    音楽共有ファイルの世界でリークにのめりこむ、CD製造工場の従業員とリーク仲間、
    一見全く関連なさそうな3つのグループがあるきっかけで絡まっていた糸がスルスルとほどけるようにつながる。

    音楽にもテクノロジーにも全く詳しくないですし、
    次々と出てくる登場人物を追うのもなかなか大変ですが、
    ストーリーに入り込んで一気に読んでしまいました。

    ネットから音楽や映像がダウンロードできたり、
    ストリーミングてきたりするというのは、
    今では当たり前のようにできますが、
    色んな方が関わって可能になったのだと感じた次第です。

  • 技術的な話から始まったので、はじめはなかなかエンジンがかからなかったが、読んでいくうちに止まらなくなった。mp3ってそういうものだったのか!と初めてわかったし、それがCD売上に依存する音楽業界をいかに「ぶっ潰し」たか、そしてそのキーを握っていたのは一握りの男たちだったということが書かれていて衝撃を受けた。技術というものはいつも、発明した者の思惑を外れて使用され大きな影響力を持つ。「デジタル時代に資本主義がうまく機能するには、シェア行為は罰せられなくてはならない。」(p.206) 著作権所有者が希少性を作り上げることで利益を生んでいること、しかしそれがテクノロジーの民主化により難しくなっていること。「ソフトウェアが特許で保護されていなければ、mp3は絶対に存在していなかった。」(p.317)という矛盾。これは音楽業界の話だけれども、もっと敷衍すれば、世の中を動かしている経済の話になり、政治や思想信条の話になる。そう考えるとかなり興味深い。それにしても、ダグ・モリスやり手だな~、すげー。

  • mp3開発の裏話は非常に面白く、この技術なしには今の音楽の状況はなかったんだと理解出来た。
    それにしてもアメリカでこんなにも大胆に新譜のリーク合戦が行われていたとは驚きである。
    日本でも発売前の漫画のリークが問題になったが、犯人はお金よりも1番にリークすることが最大の目的である事が共通している。こんなことで音楽業界が衰退してしまっていることは非常に残念。

  • 花泉図書館

  • 今でこそmp3ファイルをダウンロードしたり、CDからリッピングしてスマホで聴くことが当たり前になっているけど、CDやMD、下手すればカセットテープで聴いていた20年前と比べると大きく変わっている。
    そんな変化をmp3開発者、音楽業界の大物、海賊ネット(違法ダウンロード)の中心人物達のエピソードを交えて綴られていて、大変興味深く、楽しんで読めた。

  • CDからmp3へ、とか、アルバムからライブへ、とか音楽業界のビジネスモデルは縄文時代から弥生時代へ、ぐらいに変化した、と聞いていますが、音楽の縄文と弥生の間の革命の物語。革命と言っても勇ましいものはなくてぐちゃぐちゃしてて当事者としても何が何だか解らぬうちに進行していく、今と地続きの10年ぐらい前の出来事を著者は丹念に取材しています。テクノロジーサイドからブランデンブルグという歴史の表舞台には出て来ない天才、コンテンツサイドからトレンドを更新し続けた音楽産業の大立者のモリス、そして本人の自覚無しに音楽の状況を変えた海賊としての一市民のグローバー、という3人の交わらないけど結果的に絡み合ってしまう人生を丁寧に拾っています。そう、歴史になる前の今だからこそのドキュメンタリーでした。この本の中ではスティーブ・ジョブズもちょっとしか出て来ない脇役。デジタル革命って数知れぬ無名の人々が意識せずに実現してしまう英雄無き革命なのかも、と思いました。

  • 画期的な音声圧縮技術MP3が世界水準になっていく前半はベータvsVHS戦争のような様相でさながらプロジェクトX。

    後半はMP3とインターネットブロードバンド改革の流れでファイルシェアが進み、新譜を盗みいち早く「無料で」オンラインシェアする海賊リーク集団と大手レーベルの攻防が描かれる。
    著作権侵害による業界の衰退と「音楽」の形を変えてしまった功罪が本当に面白かった。

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