- Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152099730
作品紹介・あらすじ
2060年代後期。個人情報を企業に提供することにより収入を得られる世界で人々が「個」を失いかけていたさなか、データを管理するトランスパランス(透明性)社の元社長が、殺人の罪に問われる。 温暖化で存亡の危機が迫る人類に、彼女が用意した壮大な計画とは
感想・レビュー・書評
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フラン人作家マルク・デュガンの『透明性』を読みました。
一言でいうなれば大金持ちなったテック系ギークである女社長の哲学問答、という中身です。
ジャンルも設定もSFなのですが、必ずしもSFへの興味や知識は必要ありません。
2068年の地球を舞台に、強力なテクノロジーを背景に地球上のあらゆる産業、企業を手中に収め、トランスヒューマン(オルダード・カーボンで言うところのスリービング)・・・魂を腐らない鉱物材料で出来た人体そっくりな入れ物に移植して不死を実現させた地球上最高の権力者である女性が、神になる事を拒否し、独裁的権力を否定しつつ、自分の家族や世界の宗教家、政治家、情報機関と対話し、モノローグする過程でバックキャスティング的にいま我々の生きている世界の生命倫理、あるとすれば生命の目的、宗教観、政治、社会保障、エネルギー・環境問題、セックス、家族観、資本、経済、消費、知の体系についての通念に次々と疑問を投げかけてくる構成になっているからです。そう、作中で問われているのは殆どが「現代」なのです。
ここが上手い。「このままいくとえらいことになるよ」という警句ではなく、革命が起こりあらゆる秩序が変わり果てた世界の中心人物から「あの時はこんなおかしなことをやっていたけども」と語らせ、我々の現在の世界観、固定観念をグリグリと抉ってくるのです。
フラン人らしい皮肉たっぷりにキリスト教会教皇や米国やフランスの大統領をこき下ろし、やり込める。「半世紀前には・・・」と作品中2度ほどトランプの事をくさしているのもタイムリーで非常に面白い。
通底するテーマとしては、人間がデジタルに「常時接続」していることへの危機感とそのために起こる劣化について書かれていて、ドイツ人哲学者のマルクス・ガブリエルが「グーグルはユーザーからタダでデータを吸い上げ、労働搾取している」「インターネットこそが我々の民主主義を破壊している」と言っていることに共通している問題意識がありました。
プラットフォーマーに対する制裁金措置などを見ても、通商問題や産業競争とは別のフレームで、ヨーロッパの知性や哲学はインターネットとデジタルに対して主導権奪取の戦いを仕掛けているように見えます。それは19世紀的世界秩序への回帰であるとマルクス・ガブリエルは説明していますが、デジタルへの不快感や警戒感がヨーロッパから強く聞こえてくるのは興味深いですね。
ジャーナリズム、ノンフィクション出身の書き手のためか非常に読みやすくてスッと頭に入ってくる文章でした。 -
ありそうな40年後。グーグルが個人情報を管理し自由意志を操作、環境破壊が進んで北欧にしか住めなくなった人類。今このまま手をこまねいていれば、そこにたどり着く。そういう意味では警鐘ではあるよね。
個人的には”エンドレス・プログラム”は希望しないと思う、永遠の生命がほしいわけではないので。やはり、限りがあるからいいじゃないかな、限りは時には救いになることもあるんじゃないかな、と思う。 -
フランスの知識層が書いた「なろう小説」的な感じを受けました。近未来SFの形を取りつつ、環境問題や行き過ぎたデジタル化、拝金主義への危惧と批判など。
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Amazonレビュー送信済み、以下の通り…
先日、とあるテレビ番組で、Google検索エンジンの便利さと、その裏にある企業側による個人データの(今のところ決して悪意の無い)収集、に関する報道を観て、自分の中で多少の畏怖を覚えた…。
…この小説はもちろん創作物語、フィクションであり、あえてジャンル分けを強制するとすればある種SFの範疇に入るのではないかと思う。
ただその背景は極めて「近未来」であり「いま起きている」或いは「数年後には起きている」かもしれない事象であるとも思わせてくれるだけの現実的な描写が物語の中に散見される。
そのように私が感じた理由は、既に私たちがほぼ無意識に毎日のように使っている“検索エンジン”による「個人情報の集積(と活用)」という『手法』が既に確立されつつあると実感でき(まだまだ自分の閲覧履歴に基づく広告が配信されてくる程度であるが、それは時としてなんとも言えない気持ち悪さを感じる事がある)、またその『手法』を限りなく拡大していく事により、小説の中に描かれた「個人情報の集積」による〜ひとりの人間のコピー〜という膨大な作業が、演算と記憶という、そこで必要となる半導体技術の進歩をムーアの法則に則て考えれば、全く非現実的なものではない、と改めて気付かされ、驚愕をも覚えたからである。
その様な自分の中での気づき、が、この小説を中盤以降読み進めていく事を堪らなく楽しくさせてくれた。また繰り返しになるかもしれないが作品の背景、情景、地球環境を含む世界情勢、というものが極めて現実的であり、全く飽きさせない。
著者はこれまで主にドキュメンタリー等を手がけ、長編小説が本邦に公開されるのは今作が初めてだと言う。過去にエンジニアを経験したこともあるとの事で、その文体は文学的と言うよりも理論的、悪く言えば散文的ですらある。登場人物の感情の抑揚といったものもそこまでエモーショナルに伝わっては来ない。ただ、先に書いた様にその題材は極めて現実的、魅力的、興味を惹かれるものであり、読み進めていく事に何ら苦痛を感じなかった。
大きな見方で、長い目で見て、これからの世界情勢、宗教も含めた人間観、世界観、という事を考えるにあたり参考としたい書籍でもあると思う。 -
SFなんですかね?翻訳物のSF読むのは多分中学生以来な気がする。アイデアと世界観はとても現代的で良いのだが、ストーリーテリングがイマイチ。オチもまぁよく分からない。
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デジタル革命で個人情報が共有された2060年台、地球温暖化でせまる破局を前に、ついに不老不死のモデルが発表される。
Googleやトランプ等、今から未来を考えるとこういう世界が予言されるのでしょうか?
まあ私は魂のない、永遠の命なんてものはいらないけれども。