NOISE 下: 組織はなぜ判断を誤るのか?

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100689

感想・レビュー・書評

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  • 普段の生活に存在するノイズを具体例を用いて説明してくれているのですごく分かりやすかった。
    ノイズを防ぐためにどうすればいいのか、また、ノイズをなくしていくことでどういったことが起きるのかをよく理解できた。
    きっちりとした成果を出していくためには、ノイズが生じにくい環境作りが大切。しかし、ノイズが皆無であれば、システムが崩壊する可能性もあると思った。
    いいバランスでノイズを削減していくことが重要である。

  • 上巻よりも読みやすかった。
    バイアスとノイズ。
    計量経済学での攪乱項を深く分析していると認識しました。

  • ノイズが思った以上に多く、これを少なくすることは簡単ではない。
    人間に首尾一貫した判断が苦手であり、やはりガイドラインのようなものでかなり判断の振れ幅を抑えてやる事が必要だとよくわかる。
    このガチガチのガイドラインは、日本人にはかなり好まれる傾向にあるとは思うが、融通の効かない社会は息苦しい。
    筆者の対策を、うまく使って行きたい。

  • ノイズを減らす方策としての判断ハイジーンが紹介されていた。予防的な衛生管理に似てるからハイジーンらしい。

    判断ハイジーンとしては、ガイドラインやルールの設定、判断の統合、媒介評価プロトコルのような構造化プロセスが紹介されていた。

    仕事上の判断でノイズがあるなと思い当たることがあるけど、ノイズを減らすコストと便益を考えていきたい。

  • ノイズの事例や著者の例えが分かりやすく終始読みやすかった。バイアスとノイズの関係性やノイズの分析はプロフェッショナルのみならず活かせるものがあると思う。
    あと、「人間の不合理」という話題は尽きない。自分の気持ち良さを優先してしまう愛すべき人間だなぁと。

  • 上巻に引き続き読了した。
    前作ファストアンドスローに比べて、非常に表面的に見つけることの難しいノイズ(バラツキ)についての内容で、前著ほど事例が腑に落ちない箇所が多くて、実践するためには読み込むことが必須の本だった。

  • ・どんな意思決定にも予測的判断がかかわってくる。予測的判断においては、正確性が唯一の目標であるべきだ。だからあなた個人の価値観は事実から切り離しておくように
    ・人間はご機嫌だとでたらめを受け入れやすくなり、また全般的に騙されやすくなる。つまり、つじつまの合わないところを探し出したり、嘘を見抜いたりする気がなくなってしまう
    ・カスケード効果:情報カスケードとは大勢の人が順番に前の人の選択情報を参照しながら判断する場合に、自分自身の持つに基づかず、多数派の選択肢を選ぶ傾向を指す
    ・機械学習アルゴリズムは、ほかのモデルが見落としてしまうような変数の組み合わせの中に重要なシグナルを見つける。データに隠れているある種の極めて稀なパターンがハイリスクと強く創刊しており、アルゴリズムはそれを発見できる
    ・結論バイアス:初めから特定の結論を目指して判断プロセスを開始すること
    ・過剰な一貫性:予断を持っているとき、それを裏付ける証拠ばかり探し矛盾する証拠は無視する各省バイアスも、後から出てきた重要な証拠を過小評価する点で似ている

    ・ノイズとは、各人に備わった「判断者としての性格あるいは個性」の副産物なのである
    ・優れた判断者は、自分の最初の考えに反するような情報も積極的に探し、そうした情報を冷静に分析し、自分自身の見方と客観的に比較考量して、当初の判断を変えることをいとわない人、いやむしろ、すすんで変えようとする人である。リーダーが決断力を発揮するのはプロセスの最後であって、最初ではないのだ
    ・人間の判断は、たとえば、怒りや怖れといった感情的要因にも左右される(機会ノイズ)。だから、可能であれば数日、数週間後にもう一度判断するのは良い習慣である。
    ・超予測者は、自分の当初の仮説に反するような情報や反対意見を積極的に探し、反対意見が正しく、自分の判断が間違いである可能性をいつでも認める用意があり、「自分と同じ意見の人より違う意見の人に耳を傾けるほうが有益だ、と考える。自分の予測を絶えずアップデートし、自己改善することこそが、超予測者の必須条件である
    ・判断を分解する、評価を独立に行う、総合判断は最後に行う
    ・初めから非構造化面接のようなものを行っていると、最後に下すべき結論のことが頭から離れず、すべての情報を常に最終目標に照らしてみてしまう。議論の最初から落としどころを探っていて、結局遅かれ早かれそこに到達する。集合知を生かせない
    ・分析チームのミッションは「最終決定においてこの項目がどのような重みづけがされるかはべつとして、この項目の評価に関する限り買収はイエスかノーか」というシンプルな問いに対する答えになる
    ・基準率と比較した相対的な統計的評価を入れる
    ・とりわけ重要な判断の場合には、大方の人が何らかのスキームや計算式に縛られることを嫌がるし、それを使って判断することに頑強に抵抗する。計算式を使わなければならないことが決まると、システム自体を都合よく捻じ曲げ、望みの結論に達するよう採点を変えてしまったりする。そのため、プロセスの最後までは独立して評価を行う必要がある
    ・創造性豊かな人間には、それを発揮する場を与えてやらなければならない。人間はロボットではないのだ。どんな職業でも、人間には判断の余地を与える価値がある。君を規則でがんじがらめにしたら、君はノイズを出さないだろう。だが、全然楽しくないから、独創的なアイデアも出てこなくなる
    ・不正行為を防ぎたいなら、ある程度のノイズは容認しなければならない、学生たちが、論文の盗用をしたらどんな罰を受けるかわからない状態にしておくほうがいいのだ。そうすれば盗用を慎むだろう、ノイズの形でいくらか不確実性を残しておくことが抑止効果を高める
    ・実効性のあるルールの策定に必要な情報を持ち合わせていないケースのほうが重大な問題
    ・プロジェクトマネジャーに適任なのは、会社の管理部門の幹部クラスである。社内の手続き上の面倒を避けられるメリットがあり、会社がノイズ検査に本気で取り組んでいるというメッセージを発信できる
    ・最近起きたとか、劇的であるとか、個人的に重要な意味があるといった理由から、あまり関係のない出来事や情報を過剰に重視していないか

  • 第16章 パターン
    パターンノイズについて話そう
    「あなたはずいぶん自信ありげだが、この問題はそうかんたんではない。情報はいろいろな可能 性を示している。別の解釈も可能だということを見落としていないだろうか?」
    「君と私は同じ候補者と面接し、いつものように同じような質問をした。なのに、君と私は正反 対の判断に達している。このパターンノイズの原因は何だろう?」
    「人間いろいろで性格もちがうからこそ、イノベーションが生まれる。さまざまな個性は興味深 いし、刺激的でもある。だが判断ということになると、話は別だ」

    第17章 ノイズの原因
    ノイズの原因について話そう
    「判断の平均レベルのちがいにはすぐ気づく。だが気づきにくいパターンノイズも大きいのでは?」
    「この判断ミスはバイアスのせいだと君は言うが、結果がちがってもそう言っただろうか?ノイズの存在は考えたことがあるか?」
    「バイアスを減らす努力をすることはもちろん正しい。だが同時に、ノイズを減らすことにも取り組むべきだ」

    第18章 よい判断はよい人材から
     つまり、認知反射や認知欲求のテストは注意深い遅い思考に取り組む傾向を計測するのに対し、開かれた思考テストはさらに踏み込み、自分の判断は未完成であり必要に応じて修正したいとする謙虚な思考態度を計測する。

    よい判断を下せるのはどんな人かについて話そう
    「君はたしかに専門家だ。しかし君の判断は結果で検証可能なのか、それとも不可能なのか?」「われわれは二人の専門家から得た助言のどちらかを選ばざるを得ない。しかし、彼らの専門的な能力や過去の実績は何もわかっていない。だから、知的能力の高いほうのアドバイスを採用することにしよう」
    「ただ、知的能力がすべてというわけではない。認知スタイルや思考態度といったものも重要だ。 われわれが選ぶべきなのは単に頭のいい人間ではなく、開かれた思考のできる人だと思う」

    第19章 バイアスの排除と判断ハイジーン
    バイアスの排除と判断ハイジーンについて話そう
    「いま減らしたいのがどういうバイアスで、どんな具合に結果に影響を与えているのか、はっき りしているのだろうか。もしわかっていないなら、複数のバイアスが作用している可能性を考え なければならない。その場合、どのバイアスが強く作用しているのかを見きわめるのはとてもむずかしい」
    「話し合いを始める前に、まず意思決定プロセスのオブザーバーを指名しよう」
    「今回は判断ハイジーン手順をきちんと実行できた。よい決定を下せたのはたぶんそのおかげだろう」

    第20章 科学捜査における情報管理
    情報管理手順について話そう
    「判断のあるところノイズあり。 指紋鑑定も例外ではない」
    「この件についてはいろいろな情報が入ってきている。だが知っていることをすべて専門家に話すのは、彼らが判断を下すまでやめておこう。バイアスがかかりかねないからだ。向こうからどうしても必要だと要求してきた情報のみ提供することにしたい」
    「セカンドオピニオンを求めるにしても、その人物が最初の判断を知っていたのでは、独立した意見にはならない。三番目の人物もそうだ。確証バイアスのカスケードが起きてしまう」
    「ノイズと戦うには、まずノイズが存在することを認めなければならない」

    第21章 予測の選別と統合
     …超予測者の特徴は、分析的、確率的に感がられることだったのである。
     超予測者は問題をどのように捉え、どのように構造化するのだろうか。たとえば重大な地政学的問題(EUから離脱する国はあるか、これこれの地域で戦争が勃発するか、政府高官が暗殺される可能性はあるか、など)に取り組むとき、彼らはいきなり漫然と予測するのではなく、まず構成要素に分解する。直感だの虫の知らせだのには頼らず、「答えがイエスになるのは何が起きた場合か」「答えがノーになるのは何が起きた場合か」を考える。次に、そこから派生する問いまた考える。こうして問いと答えを重ねていく。
     超予測者は「統計的視点」から考えることにも長けており、基準率をつねに探す。ガンバルディのケース(第13章)で述べたように、ガンバルディの経歴や人柄に注意を払う前に、平均的なCEOが二年の契約期間を全うできる確率を知っておくことは役に立つ。どうやら超予測者には、基準率を調べる習慣が身についているようだ。一年以内に中国とベトナムが国境紛争をめぐって武力衝突する可能性はあるか、と質問されると、超予測者はすぐさま中国とベトナムがいま何をしているか調べたりはしない。おそらくその件についてニュースや解説記事を読んで自分なりの直感は働いているにしても、それはひとまず棚上げする。彼らは、直感に従うとだいたいにおいてろくなことにならないと知っているのだ。だから基準率を調べる過去の国境紛争が武力衝突に発展したケースはどのくらいあるのか。もしそういうケースが稀だとすれば、まずその事実を押さえる。その後に初めて中国とベトナムの現状に目を向ける。
     要するに、超予測者を際立たせるのは彼らの絶対的な知的能力ではない。それをどう応用するかが重要なのである。

     サトパの推論によると、ある人の予測精度が他の人より高い理由、低い理由は主に三つある。
     第一に、精度の高い人は予測に必要なデータを見つけて分析するスキルに長けていると考えられる。このことは、情報の重要性を示唆する。
     第二に、一部の人は一方の側に偏ってエラーを犯す傾向がある。一〇〇回の予測のうち、何かが起きる確率をほぼ必ず過大評価する人は変化を好むバイアスが、過小評価する人は安定を好むバイアスがかかっていると考えられる。
     第三に、一部の人はノイズが小さい、つまりランダムエラーが少ない。判断と同じく予測でも、ノイズを誘発する要因はたくさんある。ある種の情報に対する過剰反応(これはバターンノイズの一種である)や機会ノイズのほか、使う尺度がちがう場合にもノイズが生じる。

    選別と統合について話そう
    「四つの独立した判断の平均をとることにしよう。こうすれば確実にノイズを半分に減らすこと
    ができる」
    「私たちは永遠のベータ版であり続けなければならない。超予測者のように」
    「この状況を検討する前に、該当する基準率を知っておくべきだ」
    「このチームは人材揃いではあるが、判断の多様性という面で不安がある」

    第22章 診断ガイドライン
    医療のガイドラインについて話そう
    「医師の診断には想像以上にノイズが多い。X線撮影を行った場合ですら、専門医の意見が一致しないことがある。患者にとっては、受ける治療がくじ引きで決まるのとたいして変わらないとさえ言える」
    「月曜日でも金曜日でも、あるいは朝早くでも午後遅くでも、つねに安定した診断を下している医者は言いたがる。だが実際にはそうではない。疲れは診断に影響する」
    「医療ガイドラインが導入されれば、医師の診断ミスで患者が犠牲になるケースは減ると期待できる。ガイドラインは診断のばらつきを減らすことになるので、医師にとっても大いに助けとなるはずだ」

    第23章 人事評価の尺度
    評価尺度について話そう
    「わが社の人事評価制度には膨大な時間を注ぎ込んだが、それでも実態はといえば、ほんとうに能力や実績に基づく評価は四分の一にすぎず、残り四分の三はシステムノイズという体たらくだ」
    「この問題に対処するために三六〇度評価や強制的ランク付けも試してみたが、事態はますます悪くなった」
    「レベルノイズがこれほど多いのは、たとえば”すぐれている”と“きわめてすぐれている”の解釈が評価者によってちがうからだ。具体的なケースをアンカーとして評価尺度に付け加えれば、評価者の間の不一致を減らせるだろう」

    第24章 採用面接の構造化
     この問題を克服するために、グーグルでは評価を事実に基づいて行うだけでなく、項目ごとに独立して行うことを徹底した。「構造化行動面接(structured behavioral interview)」、まさにその具体的な例である。この面接では、面接官には候補者を気に入ったかどうかを決めることは求められていない。面接官の役割はもっぱら評価項目に必要な情報を収集し、項目ごとに採点することにある。そのために、候補者の過去の行動についてあらかじめ決められた質問をしなければならない(「これまでに、これこれの状況に遭遇したことはありますか、あなたはそのときどうしましたか、そのどうなりましたか?」といった類のである)。また採点に際しては、あらかじめ定められた統一的な尺度に従うことが大切だ。その尺度には、質問ごとに「ふつう」、「よい」、「きわめてよい」の例がこまかく記載されている。前章で紹介した行動基評価尺度にいくらか似ていると言えるだろう。こうした共通の尺度があれば、ノイズを減らす役に立つ。
     くだけたおしゃべりのあるおなじみの面接とはずいぶんちがうぞ、と感じただろうか。それは当たっている。じつのところ、構造化行動面接は口頭試問か尋問に近い。しかも一部の調査では、面接をする側も受ける側も構造化面接を嫌っていることが判明した(すくなくとも非構造化ほうを好む)。それに、どのような構造化されていると言えるのかについてはまだ結論が出ていない。それでも、一つ確実なことがある。それは、従来の構造化面接に比べ、将来の実績との相性がずっと高いことだ。相関係数は0.44~0.57、PCで言えば65~69%である。つまり、よい人材を選べる確率が七割近い。これは、非構造化面接の56~61%と比べると顕著な改善と言ってよい。
     加えてグーグルは、いくつかの評価項目では他の情報も考慮する。たとえば知識については、プログラマー志望者にはコードを書いてもらうというふうに実務試験を行う。調査によると、将来の仕事の出来不出来に関する限り、こうした実務試験の予測精度が最も高いことがわかっている。グーグルは、社内の照会も参考にする。これは、候補者が指名した照会先ではなく、たまたま本人を知っている社員に会する方法である。
     第三原則は、総合判断は最後に行うというものだ。かんたんに言うと、直感を禁止するわけではないが、最後の最後まで遅らせるということである。グーグルの場合、最終判断は採用委員会が下す。委員会では面接ごとに各評価項目についてつけられたすべての採点を集めたファイルおよび結果など他の評価に基づき、各委員が対等の立場で発言し、そのうえで誰に内定を出すかを決定する。
     グーグルはデータ指向の強い企業として名高いにもかかわらず、そして評価の統合は機械的に行うほうが臨床的に行うよりすぐれているという数々の証拠があるにもかかわらず、最終決定は機械的に行わない。グーグルといえども、そこは人間の判断に委ねられている。それはそうだろう、採用委員会であらゆる情報を集約し、勘案したうえで議論するのは、「この候補者はグーグルでうまくやっていけるか?」ということなのだ。

     判断を分解する、評価は独立に行う、総合判断は最後に行うという三つの原則は、必ずしもすべての企業に当てはまるとは言えない。それでも、これらの原則は組織心理学者がずっと前から提唱してきたこととおおむね一致する。

    構造化面接について話そう
    「構造化されていない標準的な面接では、候補者のことを理解できたつもりになったり、ウチの会社に合わないと決めつけたり、といったことは避けられない。こうした直感を鵜呑みにすべきではない」
    「標準的な面接は危険だ。バイアスがかかりやすいだけでなく、ノイズも大きい」
    「面接を、いや人材選抜プロセス全体を構造化すべきだ。まずは候補者に何を求めるのかをもっと具体的にはっきりさせよう。そして、項目ごとに独立して評価するというルールを決めて実行しなければいけない」

    第25章 媒介評価プロトコル
    媒介評価プロトコルの手順
    1.判断を媒介評価項目に分解する
     (繰り返し行う判断では、1度決めれば流用できる)。
    2.各項目の評価では、可能な限り「統計的視点」を取り入れる
    (繰り返し行う判断では、可能であればケース尺度を使い、相対的に評価する)。
    3.分析段階でも、可能な限り項目ごとの評価の独立性を維持する。
    4.意思決定を行う会議でも、媒介評価項目を1つずつ切り離して評価する。
    5.会議はデルファイ法に沿って進める。
    6.最終決定に臨むまでは直感を働かせないが、最終決定に際しては直感を禁じない。

    媒介評価プロトコルについて話そう
    「わが社では採用決定のプロセスを構造化した。採用だけでなく、戦略的な意思決定にも構造化を導入してはどうか?考えてみれば、選択肢は候補者のようなものだから」
    「この決断を下すのはむずかしい。 媒介評価項目の採点はどうなっているのか?」
    「この計画について、直感に基づいて総合的な判断を下すことは重要だ―しかし、いまではな い。まず先に独立した評価項目ごとに検討しよう。その後のほうが、われわれの直感はずっとうまく働く」

    第26章 ノイズ削減のコスト
    ノイズ削減に伴うコストについて話そう
    「教育におけるノイズを減らしたいなら、かなりの支出を覚悟しなければならない。生徒の採点に関する限り、先生たちはノイズだらけだ。同じ課題を採点しても、五人が五人ともちがう」
    「ソーシャルメディアが人間の判断に頼らず何らかのアルゴリズムを導入し、文脈を問わずある種の言葉を含む投稿を機械的に削除したら、たしかにノイズはなくなるだろう。だがたくさんのエラーを生むことになる。治療は時として病気より悪い」
    「バイアスのかかったルールやアルゴリズムが存在することは認めよう。だが人間の判断にもバイアスはある。われわれが問うべきは、ノイズがなくバイアスも少ないアルゴリズムを設計するのは可能なのか、ということだ」
    「ノイズを排除するには、たしかにコストがかかる。だがコストをかけるだけの価値はあるだろう。ノイズのある判断はきわめて不公平だ。もし、ノイズを減らすために講じた手段が行きすぎと感じられる場合、たとえばガイドラインやルールがあまりに硬直的だったり、逆にバイアスを第生んだりするなら、全部を投げ捨てるのではなく、よりよい手段を試みるべきだ」

    第27章 尊厳
    尊厳について話そう
    「多くの人が対面でのやりとりを重視し、ぜひとも必要だとさえ主張する。自分の不安や苦情を生身の人間に聞いてほしいのだ。だから、人間に裁量の余地を与えるべきだという。もちろん、そうなればノイズが生じることは避けられない。だが人としての何物にも代えられないという」
    「道徳的価値観は絶えず変化するものだ。あらゆることを厳密に規定するルールを導入したら、変化する価値観に対応する余地がなくなってしまう。ノイズを減らす方法の中には、あまりに硬直的なものがある。あれでは、変化をまったく受け付けない」
    「不正行為を防ぎたいなら、ある程度のノイズは容認しなければならない。学生たちが、論文の盗用をしたらどんなを受けるかわからない状態にしておくほうがいいのだ。そうすれば、盗用を慎むだろう。ノイズの形でいくらか不確実性を残しておくことが抑止効果を高める」
    「ノイズをなくしたければ、明確なルールを決めるしかない。そうしたら、よからぬ輩は必ず抜け道を見つけるだろう。だからノイズは、ルールの裏をかくような行為を防ぐために払う価値のある代償だと言える」
    「創造性ゆたかな人間には、それを発揮する場を与えてやらなければならない。人間はロボットはではないのだ。どんな職業でも、人間には判断の余地を与える価値がある君を規則でがんじがらめにしたら、君はノイズを出さないだろう。だが全然楽しくないから、独創的なアイデアも出てこなくなる」
    「結局のところ、大方のノイズ擁護論は説得力がない。人間の尊厳を重んじ、価値観の変化に対応する余地を確保し、創造性を発揮できるようにしつつ、ノイズの不公平とコストを抑える方法はいくらでもある」

    第28章 ルール、それとも規範?
    ルールと規範について話そう
    「ルールはやることを単純にし、ノイズを減らしてくれる。規範しかないと、状況に応じていちいち判断しなければならない」
    「ルールか規範か?まず、エラーが多くなるのはどちらか考えよう。次に、ルールなり規範なりを決めて運用するのはどちらがかんたんか、どちらの負担が大きいかを判断しよう」
    「本来ならルールを決めるべきときに規範を設けていることが多い。それは、ノイズに注意を払
    っていない証拠だ」
    「世界人権宣言からノイズをなくせとまでは言わない。すくなくともいまは。だが、ノイズがきわめて不公平であることは強く言いたい。世界中の法制度はもっとノイズを減らすことを考えるべきだ」

    まとめと結論 ノイズを真剣に受け止める
    ノイズを(そしてバイアスも)減らすには
    原則1 判断の目標は正確性であって、自己実現ではない
    原則2 統計的視点を取り入れ、統計的に考えるようにする
    原則3 判断を構造化し、独立したタスクに分解する
    原則4 早い段階で直感を働かせない
    原則5 複数の判断者による独立した判断を統合する
    原則6 相対的な判断を行い、相対的な尺度を使う

    付録B 意思決定プロセス・オブザーバーのチェックリスト
    バイアス発見のためのチェックリスト
    1 判断に臨む姿勢
    (a)置き換え
    ・情報や証拠の取捨選択や議論の焦点に問題はないか? 本来判断を下すべき困難な問題を、答えを出すのが容易な問題に置き換えていないか?
    ・重要な要素を見落としたり無視したりしていないか、また無関係な要素を不当に重視していないか?
    (b)統計的視点
    ・検討に際して統計的な視点を取り入れているか?絶対的な判断ではなく相対的な判断を試みているか?
    (c)多樣性
    ・何人かにバイアスがかかっていて、同じ方向に偏ったエラーが出る可能性はないか?
    ・重要な意見や専門家としての見解があるのに黙っている人がいると感じる点はないか?

    2 予断と時期尚早な結論
    (a)議論開始前の予断
    ・ある結論にいたると得をする人はいるか?
    ・すでに結論を下してしまっている人はいるか? 何らかの偏見や予断を疑うべき妥当な理由が存在するか?
    ・何にでも反対するタイプの人はいるか?その人は意見を述べたか?
    ・極端な意見に引きずられて議論があらぬ方向に迷走する恐れはないか?
    (b)時期尚早な結論、過剰な一貫性
    ・早い段階で検討された選択肢に予期せぬバイアスがかかっていないか?
    ・他の選択肢も十分に検討されたか、他の選択肢を裏付ける証拠を積極的に探したか?
    ・都合の悪い情報や不快な意見を無視したり抹殺したりしていないか?

    3 情報処理
    (a)入手可能性、顕著性
    ・最近起きたとか、劇的であるとか、個人的に重要な意味があるといった理由から、あまり関係のない出来事や情報を過剰に重視していないか?
    (b)情報の信頼性
    ・個人的な体験、断片的なエピソード、説得力のある物語や比喩といったものに過度に依存していないか?報の裏付けをとったか?
    (c)アンカリング
    ・正確性や信頼性の疑わしい数字に最終判断が左右されていないか?
    (d)非回帰的予測
    ・平均への回帰を無視した推定、見積もり、予測を行っていないか?
    4 決定
    (a)計画の錯誤
    ・予測を参照する場合に、情報源や有効性をチェックしているか?統計的視点を活用して予測を検証しているか?
    ・不確実な数字について信頼区間を設けているか?その区間は十分な幅があるか?
    (b)損失回避
    ・意思決定者のリスク選好は組織の方針と一致しているか?慎重すぎないか?
    (c)現在バイアス
    ・計算に使用される数字(現在価値への割引率など)は、組織の短期的長期的優先順位のバランスを適切に反映しているか?

  • ノイズという考え、参考になる。
    まとめ、解説、チェックリストから読むのがわかりやすいように思う。

  • これはまあ 無理だな そもそも正解の無いビジネスには

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著者プロフィール

心理学者。プリンストン大学名誉教授。2002年ノーベル経済学賞受賞(心理学的研究から得られた洞察を経済学に統合した功績による)。
1934年、テル・アビブ(現イスラエル)に生まれへ移住。ヘブライ大学で学ぶ。専攻は心理学、副専攻は数学。イスラエルでの兵役を務めたのち、米国へ留学。カリフォルニア大学バークレー校で博士号(心理学)取得。その後、人間が不確実な状況下で下す判断・意思決定に関する研究を行い、その研究が行動経済学の誕生とノーベル賞受賞につながる。近年は、人間の満足度(幸福度)を測定しその向上をはかるための研究を行なっている。著作多数。より詳しくは本文第2章「自伝」および年譜を参照。

「2011年 『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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