三体0【ゼロ】 球状閃電

  • 早川書房
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感想 : 109
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152101945

作品紹介・あらすじ

14歳の誕生日の夜に"それ"に両親を奪われた少年、陳。謎の球電に魅せられ、研究を進めるうちに、彼は思いも寄らぬプロジェクトに巻き込まれていく。史上最強のエンタメ・シリーズ『三体』三部作で描かれたアイデアやキャラクターが登場する、衝撃の前日譚!

感想・レビュー・書評

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  •  三体シリーズの前日譚ということになっているが、「三体」は特にでてきません。主人公は、球電のの謎を追い求める科学者陳と女性軍人林雲。そして彼らを助ける天才物理学者丁儀。この丁儀が「三体」に登場するのだ。

     本書は日本では、ヒットした三体シリーズの後から翻訳出版されたので、営業的にシリーズに含めちゃえということになったらしい。そのほうが手にとってもらえるだろうからと。自分もそれで読んでみたわけですが、内容はとても面白いですよ。

  • 大ヒットSF大作の前日譚。球電(Ball lightning)に取りつかれた研究者の陳が主人公である。既存の常識ではあり得ないと考えられた現象を発想の転換で明らかにしていく中盤は読んでいて高揚する。

    量子力学の不確定性原理は不思議な気持ちにさせられる。現実に接する物理法則に反しているためである。ミクロの世界で成り立つ話と自分を納得させていたが、『三体0 球状閃電』では人間か関知するレベルの話で不確定性原理がマクロの世界で起きる。これは現実に生きている人々を混乱させる。『三体0 球状閃電』では不確定性原理と観察者効果が合わさった現象が人間の知覚できる規模で起きている。

    主人公は人民解放軍の空母の艦長に「あなたの空母のために、ぼくら庶民は税金をひとりあたり十元は払ってますよ」と言った。これに対して艦長は「十元では、艦載機と護衛の巡洋艦の費用にもなりませんよ。ですから、港を離れるときはいつも、背中に重い荷物を背負っているような気持になります」と答えた(106頁)。

    正直なところ、ここまで税金で成り立っていることに重い意識を持つ人が日本の公務員に存在するだろうか。日本と中国では中国の方が権威主義的な体制と考える人が多いだろう。しかし、中国の方が公務員の税金の無駄遣いへの批判意識が鋭い。税金の使い方への意識の高さは、民主主義や選挙制度よりも消費者意識の高さと比例するのだろう。民間感覚が大切である。

    ソビエト連邦の科学研究の官僚主義が語られる。ソビエト連邦のある研究者はスパイ容疑の冤罪で有罪を宣告された(133頁)。ところが、冤罪を作った側は研究者の知識が必要であるため、研究に従事させようとする。これは卑怯極まりない。ソビエト連邦から多くの科学者が亡命したが、それに納得できる。ソビエト連邦の崩壊は必然である。冷戦時代にはソビエト連邦はアメリカ合衆国と世界の科学技術をリードしていたイメージがあったが、実際は粗末であった。

    冷戦時代に中国は大躍進政策で農村に粘土で釜を築く土法高炉で鉄鋼の生産を増大させようとして逆に失敗した。ここでは中国はソ連以上に後進的な手法に固執している。今は中国が発展してソビエト連邦の過去を批判的に描くことに不自然さはない。

    後半は米国と中国で戦争が勃発する。米国では中国の技術者が海外留学して技術を盗むとの報道がある。これに対して『三体0 球状閃電』では中国の研究者が開発した民生用の技術をアメリカが軍事技術に応用した(308頁)。立場が逆になっている。

  • 泣いた(༎ຶ⌑༎ຶ)
    まさか泣けるとは…。

    【三体】三部作の前日譚!
    シリーズ全てを読むと誓い、この作品を1番に読むべし!!‎߹ㅁ‎߹)♡


    大好きな【三体】シリーズの前日譚。
    『エピソード0』として日本では3部作後に翻訳されましたが、あとがきによると、中国での刊行順は最初のようです。

    この作品を1番に読んだ方が、シリーズを時系列で読むことができると思います。
    また、腑に落ちる点も多々あるかと思います。

    ただ、三部作後に読むのはまたそれはそれで楽しみのひとつ!!
    と感じる方もいるかと思いますので、お好みで♡(*^^*)

    例えばこの作品を1番最初に読んだ場合、続編を手に取りやすいかと言われれば、三部作中の一部にはどうしても負けてしまう…。

    理由は2つ。

    1つは(『球状閃電』の内容がいまいちだと言うことではなく、めちゃめちゃおもしろいけど)この話で完結し、丁儀のスピンオフ作品という要素が強めであると言うこと。

    もう一つは『三体』(一作目)もまた、続編に続く描き方(続きが気になりすぎる)により、またずば抜けて面白いと言うこと。

    結果、日本ではこの刊行の流れが一番適切だったのでは…と感じました。

    話は、陳という青年が主人公で進みます。
    彼は幼少期のトラウマから『球電』の虜になり、研究に打ち込みます。

    この『球電』が、三体シリーズの一部に出てくるので、知っておきたい要素となります。

    陳が研究を進めていくうちに出会う人物が、軍人の林雲と『三体』シリーズきってのイケメン天才物理学者、丁儀⁝(ᵒ̴̶̷᷄⌑ ᵒ̴̶̷᷅   )⁝♡

    その時の社会情勢でこの研究が必要であるかとの葛藤。軍人の林雲は兵器の開発として。丁儀は物理学研究者として。陳は両親を殺されたトラウマとして。
    それぞれの想いを内に秘め『球電』を再度目撃すべく試行錯誤し、研究を進めていきます。

    アメリカ、中国、ソ連の関係性と当時の情勢も関係してくるので、歴史が絡むと一段と話が面白くなってくる。
    SFの魅力の1つです。

    『三体II 黒暗森林』では、「フェルミのパラドックス」が少なからずテーマであったのですが、今回は量子力学の「二重スリット実験」を知識程度に調べておく事をお勧めします。

    電子は波である。電子は粒である。
    どちらとも言えるし、言えない。
    それは、観察者の存在で決定する。

    この実験、めっちゃ面白いですよ!!
    初めて知った時ビビりました(^▽^;)
    「シュレイディンガーの猫」も面白い!
    箱を開けてみるまでどうなってるか分からないやつです。

    私は理系の人ではないので、知識程度でしか知りませんが、本書は知っている前提で話が進んでしまっているので…(・_・;

    私の頭では、科学的な事は3部作より難しく感じました(-∀-`; )

    ですが劉慈欣の作品は、愛が強めに感じます。
    と言うか、SF全般、愛強めでは?と思っています。
    普段、偏愛要素強めのミステリばかり好んで読むからでしょうか…。゚(゚ノ∀`゚)゚。

    そして読了後…、
    今この空間への見方が変わってしまいました…。
    ⁝(ᵒ̴̶̷᷄⌑ ᵒ̴̶̷᷅   )⁝

    すごくすごく面白かったです!!

    シリーズ全部読んで欲しい♡
    お勧めします!!!




  • 両親を一瞬で灰に変えたのに二人が座っていた椅子に変化はない。「球電」と呼ばれる不可思議な現象を体験した陳は、気象学から球電についての研究に没頭していく。ある日共に研究を進めていく運命の女性、林雲と出会うが彼女は雷を使った新兵器の開発に邁進している軍人だった。研究が何度も頓挫する前半はしんどいが、その分理論物理学者丁儀が颯爽と登場から球電の謎が一気に解明されていく展開が爽快。量子力学が判った気になってしまうのも凄い。陳と林雲の立場の違いによる研究の果ての残酷さを越えた先のシュレーディンガーな叙情的なラストにはやられた。青い薔薇が象徴的で良い。本編との繋がりは匂わせ位だったけど合わせて是非。

  • 三体シリーズの前日譚的な作品。「三体」シリーズには天才物理学者 丁儀と女性将校 林雲が登場しているとのこと(林雲は「三体」の425~427頁に登場 by訳者あとがき)。「三体」シリーズのディテールを覚えてないので、読み直さないと関連性はよく分からないが、「三体」と関係なく楽しめる作品だった。本書は「三体」のような宇宙スペクタクルものではない。2002年雑誌掲載、2005年に単行本刊行。

    球電(球状閃電、ball lightning)の謎に執念を燃やす研究者の陳、兵器に魅せられた冷利な女性技術将校の林雲、天才物理学者の丁儀の3人が、球電の謎を解明し、兵器(雷球砲)開発と実戦使用を果たす物語。

    球電というのは実在する謎の自然現象なんだな。著者も目撃したことがあるという。球電の謎を膨らませてSFに仕立てたのが本書なんだな。

    球電 = 励起されたマクロ電子の他にも、空泡 = 非励起状態のマクロ電子、弦状のマクロ原子核、マクロ原子,マクロ核融合、量子共鳴など、奇想天外なアイデア満載だった。特に、「球電によって殺されたすべての人間は量子状態で存在している」というアイデアが面白かった。「タイタンの妖女」と似たアイデアだな。

    ラスト、量子状態の林雲の独白は説明調過ぎていまいちだったかな。

  • 2005年6月中国で出版された球状閃電を訳して、2022年12月早川書房刊。意識を持つ観察者というのが出てきて、てっきり智子(ソフォン)のことなのか?と思ったがそうではなかった。三体との繋がりなんか無いのにタイトルに三体を付けただけだよね。

  • 『三体0』というタイトル付けの経緯だけは事前情報として知りつつあらすじも知らぬまま読み始めたのだが、役者あとがきまで読み終えて『三体』の該当箇所を読み返してみると丁儀の人物像が少し膨らんだように感じた。

    化学的な部分や謎の自然現象、兵器開発、戦争など大掛かりな物語だが、それらに人生を捧げながらも心の傷や拠り所を抱える人の物語のようで『三体』とは違う満足感があった。『三体』のストーリーとの直接的な繋がりではないが、丁儀の関わりにちょっと物語の本筋以外の楽しみがあった。個人的に主人公の陳より丁儀のほうが気になったのは『三体』を読んだ後だから仕方ないのだろうか?『三体』未読の方のほうが純粋に物語を楽しめるのかもしれない。

  • 三体シリーズの前日譚的位置づけの物語。
    物語は主人公陳博士の両親が球電(球状の雷)に焼き殺されるところから始まる・・謎を解明すべく研究を進めるも、なかなか再現に至らず。そこに林少佐という人物と出会い、三体シリーズにも出てくる丁儀と出会い、球電の生成に成功するようになる、そして軍事への転用、そして・・というような話。
    丁儀が登場する、三体シリーズの前の話ってことから、三体0ってことになったらしい。あとがきによると、元々は三体シリーズにも球電の話が出てくるのだが、順番が違うってことで違う内容に差し替えられたのだとか。確かに、三体シリーズで球電は見なかった気がする。
    三体シリーズは読むの大変なのですが、ついつい買ってしまいますね。今回も球電一つでここまで想像を巡らせて話を膨らませるの?って感じで、興味深く読みました。SFって言っても、こういうスケールの大きな作品は他では読めない気がします。
    まだ劉慈欣さんの未翻訳の作品が一つあって、2023年中に発売予定らしいので、ファンの方は楽しみにしていると良いのではないでしょうか。自分はさすがにもういいかなという気がしてきた。

  • 「それがこの世界に残された彼女の最後の姿だった。」

    読み終えた後に自分の中に湧いてきたのは「ままならないな…」という感情。
    三体三部作を読み終えた時にも感じたが、シリーズ通してただのエンタメでは無く、読者にどっしりとした重みを残していく作品だと感じた。

  • ・プレリュード 
     14の誕生日の夜は雷雨だった。
     それは壁を通り抜け家の中に入ってきた。
     半透明の赤いボールは、僕から父と母を奪った。
     1週間後、僕は別人になった。そして父のアドバイスのように、日々を送っている。

    「息子よ、すばらしい人生を送ることは、実際はそれほどむずかしくはない。いいか、だれもが認めるような世界的な難問に取り組みなさい。すばらしい人生を送る鍵は、なにかひとつのものに夢中になることにある。」

    第一部
     陳は大学に進み、一心不乱に球電について研究する。もう一度、球電を見るために。
     指導教官・帳彬は、陳に球電の研究を諦めさせようとするが、その理由は…。
     球電の目撃情報を追った先で出会った軍の技術者・林雲は、陳に共同研究を持ちかける。

    第二部
     ロシアの球電の研究者に合ってから夢が覚め、一般の生活の中に埋もれようとしていた陳は、再び球電の研究と新しい兵器の開発を軍に依頼される。研究所に行き詰まり、国家科学院最年少フェロー・丁儀を招く。そして、球電は…。
     陳は科学者と人の間でゆれ、兵器に憑かれた軍人である林雲と乖離を感じるようになる。

    第三部
     軍の仕事から完全に離れた陳は、今度は竜巻の研究で世界的な科学者になっていた。しかし、中国は戦争に突入する。竜巻の防衛システムの開発に打ち込んでいたある日、中国全土の三分の一にあたる地域で、ICチップのみが突然損壊した。これは球電兵器ではないかと疑った陳は…。
     家を訪ねてきた、丁儀に話を聞きすべてを知る。

    ○今回は武器と戦争だったので、少し引いたところから読んでいた
    林雲にどうしても彼女の上層部と同じく危うさ、また嫌悪感を抱いてしまう。一面だけで語れない人物だけど。
    ○量子学はファンタジーに見えた。シュレーディンガーのネコ。
     マクロ電子
     SF科学は面白い!
    ○原子や電子は生きものでないのに、なんで私たちは生きものなんだろう。
     どこか遠いところからだと、私たちも器物も、見分けられないほどの差しかないのかな
    ○丁儀先生!『三体』を読み直さなくては
    ○SFプロトタイピングを思うと、本作品は少し怖い。作中で武器の弱点も述べられているのは救いだけど。
    ○科学者の業


     

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著者プロフィール

1963年、山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短篇を執筆。2008年に刊行された『三体』で人気に火が付き、“三体”三部作(『三体』『黒暗森林』『死神永生』)は中国で2100万部以上を売り上げた。2014年にはケン・リュウ訳の英訳版が刊行され、2015年、アジア人作家として初めてSF最大の賞であるヒューゴー賞を受賞。2019年には日本語訳版が刊行され、11万部を超える大ヒット。

「2023年 『神様の介護係』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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