- Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152103147
感想・レビュー・書評
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ブクログ内で話題であってため、本作を手に取りました。設定が人工生命ということでSFでありながらも、すごく人間的な内容であったと思います。
物語の内容としては、幼少期に融合手術を受け、人工生命体となり老いない体を手にした少女の手記の物語。その手記には、彼女を取り巻く家族史が描かれているといったストーリー。
まず本作を取り上げる上での注目ポイントとしては文章です。手記の文章がひらがな主体で書かれており、本当に人工生命体が書いたような違和感が感じられ、手記にリアリティを感じさせていて、読んでて面白いです。
しかし、少女の目線で手記が書かれている割には書いてる内容がとても重くて驚きでした。特に、少女が手術を受けた経緯や、彼女の恋愛事情なんかは、倫理観を度外視してることばっかりで、正直嫌な気持ちにさせられました。まぁこの部分があるからこそ、「人間らしさ」が逆説的に語られているので、本作の魅力であることには間違い無いのですが、個人的には好みではなかったかなと…
読んだ総括としてはこの作品は、どっちかというと純文学とかに近いかなと思うので、好きな人は本当に好きな作品なんだろうなって思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ほとんどひらがなの文章が「アルジャーノンに花束を」を彷彿させる。第十一回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作。
父親から肉体的、精神的虐待を受けてきた女性が脳を機械の体に移植し、ほぼ不老不死の体になる。そして自分が受けてきた虐待を、それと気づかずに甥に対してしてしまう。その後、地球は人間の住める環境でなくなる。彼女は他星への移住ではなく、地球に残ることにする。本作は彼女「家族史」として書かれたという形をとっている。
ストーリー性があり、小説としても完成度も高いと思うのだが、SFとしての「面白み」ない。SFコンテストに応募する必然もない。ここが大賞受賞作の「ホライズン・ゲート 事象の狩人」と大きく違うところ。☆の数もそこを考慮した評価です。
なお読んだのは単行本ではなく、SFマガジンに掲載されたものです。 -
賛否が分かれる話題作のようで、気になって読んでみた。奇を衒った話題になりたいだけの本の可能性もあるな、と斜に構えて読み始めた。
すると、時々語られる主人公の素の考えの部分が、あまりに自分と同じでびっくりした。進化して才能を得て若返った自分がこれを書いているんじゃないかと思うほどに…
そして、だんだん引き込まれ、106ページからが素晴らしかった。最後の方は、もう融合手術を受けた設定がどこか行ってしまったのではと思うほど人間味があった。
1章は漢字がたまに混ざる程度のほぼひらがなだった文が、2章では読みやすい書き方へ、3章は全部ひらがな。この移り変わりの意味や、そこから読み取れる主人公の移り変わりを考えてみるのも読後の楽しい作業だった。
○融合手術を受けて、いろんなものがわたしから消えていったのに、他人からちゃんと愛されてみたかったっていうのは、どうして消えてくれなかったんでしょうか、…
○人間から人間へ、罹って罹らせて繰り返してしまう何か、自分の力だけではどうしようもない何かが、生まれて生きるの中にあるんでしょうか、わたしにはどうにもできなかったんでしょうか…
この心の叫びのような二つの文章がとても心に残った。
主人公がこれからしたいことまで自分と同じで、作者に会ってみたくなった。
子供が大好きなプロ棋士の永瀬拓矢さんの話がたくさん出てきたのも嬉しく、より親しみを感じた。
私にとっては心が通じ合える友達に出会ったような、特別な一冊になりました。 -
ここは、100年後と聞いて想像する、
こわい方の未来。
人間じゃなくなれた「わたし」のお話。
ものすごーくよかった!!!!!
いろんなことが強烈すぎて、
この作品について考え出すと止まらなくなってしまう。
人の、心と体と命のあり方は、
科学とともに進化できるのかな。
そして愛することは。
全部ゆがんでしまった。
人のあり方がこうなってしまう未来は
もうそこまで迫っている気がして、
でも愛を語る苦悩は普遍のものな気がして、
社会と個人のバランスがまもなく破滅を迎えてしまいそうで、こわい。
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老いない体を手に入れた彼女の家族史。
身体が永遠に老化しなくなる手術を受けた主人公が、これまでの人生と家族について約100年の間に起きたことを家族史として書き始めることから話しが始まります。
主人公が融合手術を受ける前の出来事や、受ける経緯が徐々にわかりますが、自分の生き方を他人に搾取されることがとても辛く胸にずしりときました。手術を受けた後、人間としての感情が少し欠落していて、淡々と生きているように描かれていますが、最後にやっと自らの生き方を決められた結末がとても良かった。全体的に切ないお話ですが、最後に希望を感じることのできる読後感でした。 -
哲学書やん
まず最初に来たのがこれ
まぁ、私前々から繰り返し言ってますけど、SFって結局哲学なんですよ(自分自身が初耳)
なのでまず「哲学」って何よ?ってところから始める
「哲学」ってのはね、要するに「人が幸せに生きるためにはどうするか」を考える学問なんです
つまりこの本を読んで、これは「人が幸せに生きるためにはどうするか」を書いた物語だと感じた
ということになるわけ
でね、何を「幸せ」とするかって結局人によって違うわけじゃん?
なのでこの本を面白く感じるかどうかってのも人によって違うわけ
そしてものすごい当たり前のことを書いている自己認識はある
かろうじてある-
2024/05/20
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2024/05/20
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2024/05/20
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或る女性の人生。
融合手術なるものでロボット化し、若い姿のまま100年を生きる。両親の死を看取り、兄弟の死を看取り、甥を恋人とする。
火の鳥、復活編、望郷編を併せたような内容であるが、時は正に今。もう未来が未来でない時代に来てしまった。AIの進化、エアカー、アバター、メタバース、ロビタ、不老不死。進化に人の感情は置いていかれる。冒頭からアルジャーノン同様、ひらがなだらけの文章に四苦八苦しながらも引き込まれる。途中、都度道に迷いながら、また先に進む。不思議な行ったり来たりを繰り返し終盤へ。読後の余韻が半端なくじわる。感情が揺さぶられる。これはあれか?
旅する練習を読み終えた後の感覚に似ている。途中、辛かったのは確かだが、素晴らしい作品である。 -
自分を見つめ、自分がしたことをなかったことにしない、ということはとても大切だけどなかなかできないことで難しく辛いことだと思います。
それを主人公の『わたし』は成し遂げていてすごいなぁ、強いなぁと思いました。
主人公の名前をあえて表記されていない点が、自分に置き換えて考えられるので良いかな、と感じました。
読み終わった感情が、何とも言えない…
自分を見直さなければ、と思える作品でした。
読みやすい本で、こんなに考えさせられる内容の本は初めてでした。
また読み返したいと思います。