二十三の戦争短編小説

著者 :
  • 文藝春秋
3.50
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 10
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (574ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163200309

作品紹介・あらすじ

惨苦のはての澄明、しぶとく苦いユーモア。戦争の記憶が風化するにまかされる今日、この稀有の作家の営みは永久保存にあたいする。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 著者の古山氏は、昭和17年に入隊し、フィリピン、ベトナム、ラオス、中国、ビルマ(ミャンマー)、カンボジア、マレーシア、タイを転戦し、昭和22年に復員した。
    戦地では、司令部付けということで最前線に立つことは無かった。だが、行軍中にわずかの差で砲撃で死んだ戦友もいるなど、死とはいつも隣り合わせだった。
    また、戦後は戦犯として入獄するなど苦労もしている。
    本書は、そんな彼の体験を小説化した作品と、過去を思い出しながら書いたエッセイの23編を収録している。
    平成13年、80歳の時に出版された574ページの本書は、彼の体験した個人的な戦争の記録でもある。
    前年に妻を亡くし、2年後にはご本人も亡くなる。それまでには、戦争を生き残った戦友たちとも冥界を境にし、寂しい思いをしただろう。
    彼は南京大虐殺についてはマスコミの誇大報道があるとしているが、実際にタイでカレン族の村をスパイ容疑で襲い、同行していた憲兵が彼は何も知らないだろうが見せしめのために殺すと村人を殺害したり、逃げる村人たちを女性子供まで銃撃させられたりした経験から軍隊が民間人を殺害することはあっただろうと書いている。
    慰安婦については1度しか利用していないとしつつも、駐屯数日後には慰安所が設けられ、軍人の階級によって値段と行ける時間帯などが違っていたことなどを書いている。
    読んでいると自分は体験していないことなのに、著者の体験にいつの間にか同化し、まるで自分が体験したような気になってしまう。
    芥川賞受賞の短編では、登場人物が仮名にしてあるが、後半のエッセイではモデルは誰それと本名が書かれているのも面白い。
    彼は捕虜虐待の罪で戦後もすぐには帰ることが出来なかった。懲役8ヶ月の判決が出たときには、それ以上に服役していたので、すぐに釈放される。
    釈放されても復員船に乗れるまではキャンプで過ごすことになるわけだが。
    それにしても生きて帰ってくることが出来て、結婚もし、戦後60年近く生きた彼だが、ほかの戦友同様一生を戦争体験から逃れることは出来なかったようだ。

  • 63回芥川賞受賞作「プレオー8の夜明け」を含む.

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

古山 高麗雄(ふるやま・こまお)
1920年、朝鮮新義州生まれ。2002年没。旧制第三高等学校文科丙類中退。42年に召集され、東南アジア各地を転戦。47年復員。河出書房など出版社勤めを経て、雑誌「季刊藝術」の編集に従事。70年『プレオー8の夜明け』で芥川賞、94年『セミの追憶』で川端賞、2000年『断作戦』『龍陵会戦』『フーコン戦記』の戦争文学三部作で、菊池寛賞受賞。

「2021年 『文庫 人生、しょせん運不運』 で使われていた紹介文から引用しています。」

古山高麗雄の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×