望楼館追想

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (561ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163213200

作品紹介・あらすじ

つねに白い手袋を身につけ、他人が愛したものを盗み、蒐集している《ぼく》が住むのは、古い邸宅を改造したマンション"望楼館"だ。人語を解さぬ"犬女"、外界をおそれテレビを見つづける老女、全身から汗と涙を流しつづける元教師、厳格きわまる"門番"…彼らの奇矯な住人たちの隠された過去とは?彼らの奇行の「理由」が明かされるとき、凍りついていた時間は流れ出し、閉じていた魂が息を吹き返す…。美しくも異形のイメージで綴られた、痛みと苦悩、癒しと再生の物語。圧倒的な物語の力と繊細なたくらみをそなえた驚異の新人のデビュー長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 何とも不思議な読後感。登場人物の誰もが変わっていて理解を拒んでいるかのよう。孤独で自分だけの世界に閉じこもっていた望楼館の人々が、新たな住人の登場によって変化が起きていく。
    主人公のフランシスは変人の極致で、共感できるところがあまりない。それでも彼の特異な行動や考え方の理由が分かってくるにつれ、その特異さが痛々しくてたまらなくなる。すごく面白いとは言えないけど、忘れられなくなる物語だった。

  • 一行目:ぼくは白い手袋をはめていた。

    エドワード・ケアリーは、呑み込まれた男で初めて読んだんだけど、こちらも数ページめくったら、ああ間違いなくエドワード・ケアリーの作品なんだなと実感。
    やみつきになるような魅力がある。

    正しいか誤っているのかは置いておいて、愛のストーリーなのだ。
    登場人物たちは自分が正しいと思って、それぞれ懸命に生きている。

    訳者さんの解説にあるように、直訳では「天文館」になるところを「望楼館」にしたというお話が大変よかった。

  • 主人公が中年男性だからか、アイアマンガー三部作よりもやや大人向けテイストだったかな。
    ケアリーの《物》への執着は処女作からの不動のモティーフだと再認識。
    蝋人形への憧れみたいなものの片鱗もちらほら。
    あ~~『おちび』読むのが楽しみだ・・・。

  • この奇妙な名前の建造物「望楼館」その前の名前の「偽涙館」,そしてそこに生息するもっと奇妙な人々の織りなすタペストリー.蝋人形館で人形と化すフランシス・オームを筆頭に,それぞれの人物が強く何かに囚われて,そこから抜けようとせずに病的にのめり込んでいく姿がおかしみを伴いつつも哀しい.フランシスの地下の「愛の収集品」の奇天烈さにも圧倒された.ロット番号1番の領収書から広がる世界を思うとすべての収集品の先に見える世界の広がりにめまいがしそうだ.とにかく,非常に面白かった.

  • P185

  • アンナ以外は似たような登場人物ばかり。なぜアンナがフランシスに惹かれるのかに関する説明無し。フランシスとアンナに子ども出来て終わり。 #D65101

  • 異様な書き出し、次々と登場する非日常的人物、短い章立て、グランドホテル形式を採用した交代する複数の人物群、一人称視点に支えられた覗き見趣味、常時白手袋を着用し蝋人形や彫像を擬する主人公の不可解な行動と、これが処女作とも思えない達者な語り口に引きずられるように550ページにも及ぶ物語を一気に読まされてしまった。そういう意味では面白い小説と言えるだろう。

    しかし、物語が佳境に入るあたりから、何かちがうという気がしてくる。本を手に取ったときに感じた異世界に入れる切符を手にした特権的な読者という己の位相が徐々にずれてきて、もしかしたら予定調和の世界にいるのではないかという恐ろしい予感が鎌首を擡げてくる。そうなると、怖いもの見たさで一気に最後まで読み進めることになる。とても訳者後書きにあるように、この時間がもっと続けばいいのになどと思えるようなものではない。

    巻末に付された996品目にも及ぶ収蔵品のリストや、百種の臭いのする汗と涙を流し続ける禿頭の男、犬と交わりながら暮らす犬女、男に捨てられてからテレビを見続ける女と、登場する人物に附されたディテールを瞥見すると一見奇想を売り物にする物語と思えるのだが、実はちがう。シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』やバーネットの『秘密の花園』、あるいはオスカーワイルドの『わがままな巨人』と同じ主題、つまり、外部との間に塀を建てた孤独な魂が、愛(善意)によって回復する物語だと分かってしまえば、手品の種明かしを見てしまったように物語を支えていた奇想が剥がれ落ち、さしもの望楼館も崩壊してしまうことをとどめることはできない。

    人物の外側を彩っていた退嬰的な装飾が剥がれ落ちてしまえば、一連の落魄趣味に装われた人物群はもしかしたら読者の傍にもいるかもしれない孤独な人々の相貌に酷似しているだろう。自分を愛されはしたが好かれなかった「取り替え子」だと感じ、自分の素手を見ることを自ら禁じてしまった主人公は、他者が愛した痕跡の残る物を盗んでは自分のコレクションとすることで愛の空白を埋めようとする。

    孤児に生まれ、これも愛されることの少なかったヒロインは主人公を愛し、彼の周囲にいる孤独な人々の心を開いていくが、望楼館という朽ち果てていく建築の中に自己の悔恨に満ちた過去を閉じこめひたすらそれから目を背けることでつまらぬ生を生き延びてきた人々は、ヒロインと接することで、さながら凍りついていた過去が溶け出すように色鮮やかに甦った過去の追想の中に浸り、やがて自己の真実の姿に得絶えずして崩れ落ちるように死んでゆく。

    人は誰しも多かれ少なかれ独自の強迫観念(オブセッション)の中に生きている。生まれ落ちて入った誰それという殻とうまく収まりがつく幸運な人々は別として、纏った何某という鎧と柔らかな自分という存在が接するあたりで擦れ、傷みを感じてしまう繊細な自我を持つ人々にとって日々を生きるということは、その傷みを避け続ける営為と同義である。生き埋めから逃れようと足掻くことで恩寵のように白手袋を汚すという禁忌を破る行為に導かれ、予想外の結末を得る主人公を、彼を分身と見てきた読者は裏切られた思いを抱くのではないだろうか。

    望楼というのは、建物の一部を構成する「遠くを見るための櫓、火の見櫓」を意味する。「高楼」のように、楼はそれだけで一つの建物で、その楼に館を添えるのは屋上屋を添える企てというべきである。ディケンズに『荒涼館』という作品がある。著者が翻訳の音の響きを気に入ったというが、訳者自らがいうように『天文館』でよかったのではないか。蛇足ながら「追想」は余計だった。読む前から回想的視点で書かれた物語であり、館は今はないことを暗示してしまうからだ。訳者として僭越の誹りを免れないだろう。

  • 不思議な本だった。読み終えてもなんだかふわふわして落ち着かない。

  • 蒐集。異質。閉じられた埃っぽい空間。

  • 好き嫌いが分かれるでしょうね。
    登場人物達の不器用さが胸に痛い・・妙に余韻が残る本です。
    迷った末の星3ですが、実際は3.5という感じ。

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