運命の人(三)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163281308

作品紹介・あらすじ

国家機密は誰のためのものか?密約を追及する弁護団の前に立ちふさがる、強大な権力。記者生命を失った弓成が見た光景とは-。徹底した取材と執筆に十年をかけた壮大なドラマ、いよいよ佳境へ。

感想・レビュー・書評

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  • 女事務官の恨みが弓成亮太を潰す……
    運命の人3作目 
    2009.04発行。字の大きさは…中。

    国家公務員法111条違反(そそのかし)に問われた毎朝新聞政治部記者の弓成亮太は、国家公務員法100条(秘密を守る義務)に問われた外務省安西審議官付きの女事務官の三木昭子の嘘に塗り固められた証言で裁判を戦う物語です。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    物語は、東京地方裁判所では、外務官僚の逃げの証言が続き。女事務官三木の私は、一方的に弓成に脅迫されて、肉体を奪われて、精神的に従うしかなかったと言う嘘の証言を裁判官が吟味し判決を下します。
     「主文。
     被告人三木昭子を懲役6月に処する。この裁判の確定した日から1年間、右刑の執行を猶予する。
     被告人弓成亮太は、無罪」

    続いて、検察が弓成を上告し、
    東京高等裁判所での判決は、
     「原判決を破棄する、被告人、弓成亮太を懲役4月に処する」

    弓成側が、上告し。
    最高裁判所では、上告を棄却し、高裁の判決が確定します。
    弓成亮太、有罪が確定。

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    【読後】
    この裁判を見て。裁判は、事実に基づいて行われるのでなく、嘘や、欺瞞、政治的な力で罪が出ちあげられるのですね。憤りを覚えます。

    弓成は、妻と別居し、父、そして母も失意のうちに亡くなります。九州で一番大きかった家業の弓成青果も救済合併されと。いまは、競馬にはまっている姿を見ると痛ましいです。
    そんな中で、長男の洋一は、由里子の従妹の鯉沼玲が居るボストンのハイスクールからシカゴ大学へ。次男の純二は、高校三年生で受験勉強に励んでいます。妻の由里子は、自宅で英会話の塾を開いています。
    妻や子たちは、新しい道へ進んで行きますが、夫が、父が罪を受け、大々的に報道された影響は計り知れないものがあります(涙)

    4月29日から音読で読んで来た物語も、次作で最終章の4作目です。
    どのような物語が待っているのか楽しみです(ニッコリ)
    2021.06.10読了

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    【音読】
    5月26日から6月10日まで音読で読みました。今回は、大活字本でなく単行本です。

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    著者の山崎豊子さんが、「この作品は、事実を取材し、小説的に構築したフィクションである。」と文頭に書いて有りますが。読んで行くと1971年の沖縄返還協定に関する取材で入手した機密情報を記事にする以前に野党国会議員に漏洩した毎日新聞記者の西山太吉らが国家公務員法違反で有罪となった実際の西山事件を想起させる内容となっています。
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    ※「運命の人」の感想と読了日
    運命の人4作目 2021.07.07読了 2021.07.08感想記入
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/4163281401#
    運命の人3作目 2021.06.10読了
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/4163281304#
    運命の人2作目 2021.05.25読了 2021.06.04感想文記入
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/4163281207#
    運命の人1作目 2021.05.07読了 2021.05.31感想文記入
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/416328110X#

  • 裁判がようやく終わる。その中で家庭はズタズタになり、子どもたちは大きくなる。主人公よりもその妻の方に感情移入してしまうのは、女性ならではだろうか。会社は裁判が終わった主人公には冷たくなる。社会ってこうだよな…と寂しくなる。

  • 「外務省機密漏洩事件」裁判の決着を書いた3巻。

    政治家や事務官はどこまでもたぬき。
    女はどこまでもしたたか。

    しかし、一審無罪は震えた。
    「知る権利」と「機密情報保護」って、結局どうなの?

  • ※註 全四巻まとめてのレビューです

    『沈まぬ太陽』から10年、山崎豊子の最新作は1971年の沖縄返還協定の調印にあたって、日米間で取り交わされたいわゆる「沖縄密約」についてのドラマである。

     毎朝新聞政治部の辣腕記者であった弓成亮太は、沖縄返還にあたってアメリカ側が補償すべき地権者への土地修復費400万ドルを日本政府が密かに肩代わりする旨の密約を示す電信文を、親しくしていた外務省女性事務官・三木から密かに入手した。
     当初、ニュースソースを秘匿するために、紙面でも詳細に立ち入らず慎重を期したが、世論を喚起するには至らなかった。そこで予算審議が大詰めを迎えた国会の場で、国民を欺き通す政府・外務省を糾弾しこの問題を世に問うべく、この秘密の電信文を野党・社進党の若手議員に手渡した。しかし、弓成が自身の記事ですら慎重を期したこの電信をあろうことかこの野党議員は委員会審議の場でふりかざし、文書の漏洩が問題化した。

     長期政権の花道をつけるべく用意した沖縄返還について邪魔を許さぬ新聞嫌いの佐橋首相の意向もあり、文書を弓成に流した事務官の三木は国家公務員法違反で逮捕され、弓成自身も三木に国家機密の漏洩を「そそのかした」かどで同時に逮捕された。
     そして、注目の起訴状には弓成が夫を持つ三木と性的関係にあり、その情に訴えて強引に外交機密を盗み出させたという内容が並べられていた。新聞社側は「知る権利」「報道の自由」を断固守るべく、全面的に弓成をバックアップし、国民に知らせるべき内容を秘匿した外務省側の責任を一審で責め立てた。一方検察側は、この密約が秘匿されるべき国家機密であるという前提の下、三木を籠絡した弓成に報道に携わる者の倫理の逸脱と取材方法の違法性に重大な責任を課すというストーリーを作り上げ、真っ向から対決となった。結果的に、一審は弓成に無罪判決を下したものの、二審は逆転して有罪、最高裁への上告も棄却され、弓成は敗北した。

     ストーリーの全体構成は第1巻が事件の概要、第2巻~第3巻が裁判経過、第4巻が裁判後の弓成の半生を描いている。

     およそ小説とは思えないぐらいの取材と現実への厳しい眼差しは、他の追随を許さないが、1971年の高度な政治的問題である日米外交交渉とスキャンダラスな裁判、1945年の凄惨な沖縄戦、1990年代の沖縄基地問題を一つの作品に詰め込むにはかなり無理があったのではないだろうか。
     社会派小説を書いては右に出る者がない山崎の力作であるが、著者の年齢を考えれば長編小説としてはこれが最後になる可能性もある。小説の出来としては、『大地の子』『沈まぬ太陽』のように頁をめくるたびに胸を締めつけられるような傑作とは言えないが、戦後日本政治外交史の最重要問題である「沖縄」についての著者の強いメッセージを受け取ることができた。

  • 外務省の極秘文書をスクープしたことから
    国家公務員法違反罪で起訴され、
    一審では無罪となったものの
    二審では逆転有罪、
    最高裁は棄却。

    国家権力がひとりの人間(家族も含めて)の人生をずたずたに切り裂く。

    実際にあったことがベースなだけにやりきれない。

  • (全巻を通しての感想) 
    さすが山崎豊子というべき作品であった、といのうが率直な感想である。言論の自由と政治そして倫理と情念、観点はそれぞれ違えど、一つの事実をめぐり、翻弄される人たちのドラマから本作品は始まる。
     物語りの始まりは沖縄の返還という戦後のひとつな大きな転換期を迎える時代からである。
     その時代に生まれていない私はその当時の空気感は当然知ることはできないが、様々なドキュメンタリーや書籍などを介し、想像のなかでは確かに存在する時代である。
     その中で、必死に立志し時に利己的過ぎるほどに生きた一人の記者の魂の変遷の物語である。
     ただし、本書はその一人の記者の人生を基軸に、より大きな複線が全体を形どっている。 

     それはまさに戦争というどこまでも深く悲しい負の歴史である。
     そして沖縄という日本で唯一の地上戦が繰り広げられ、その後アメリカの土地となり、数えきれない悲劇を繰り返してきた、その土地とそこに住む人たちの歩みである。

     この沖縄を舞台とした本書の世界感によって、一人の記者の生涯を通じ、戦後という大きな時代の区切りを描いた著者に強い敬意を抱いた。

  • 一審判決で無罪を勝ち取る弓成。しかし、自身が起こした事の重大さに、自ら辞職する。しかし、その後の控訴審では、懲役4ヶ月、執行猶予1年の有罪判決となる。すぐさま上告するが、5人の裁判官全員一致で上告棄却という、到底納得できない結果であった。

    今まで、山崎豊子さんの作品を見ると(特に映像化されたものは)主人公=善というイメージだつたのだけど、今回は、いい意味でも悪い意味でも生々しい人間だったと思う。当時では、こういう男性の方が当たり前だったのかな?とも思いつつ。

    わからないのは、三木昭子。この巻で、過去の2人の関係も描かれているのだけれど、それを見ると明らかに恋愛感情があったようなのに、短期間で別れを言い渡し、事件発覚後は、これでもかと主人公を貶める。自分を守るためというのは、わからないでもないけど、週刊誌に出した手記には、それ以上のものを感じた。

  • 人生が大きく変わった巻。
    三木も三木なりに辛酸を舐めた。でも、やっぱり牙が健在。嫌いじゃないけれど、敵にすると怖い。

    自己中心的な登場人物の中にいながら、由里子は必死に生きている所が潔い。
    夫婦には、それぞれの親がいる。でも、二人の、生き方の分かれ方は切ないような。どちらの家族に何かあった時二人で力を合わせられたらと思うけど、そんなの私の青い理想論だろうな。

  • 一審は初公判から一年余りで審議され、
    三木は執行猶予、弓成は無罪を勝ち取った。
    しかし判決の直後に三木の手記が発表され
    弓成は毎朝新聞を辞めて父の青果家業を継ぐことにした。
    弓成と別居した由里子は自宅で英語塾を始めて自立を目論む。
    続く高裁ではまさかの逆転有罪、
    弓成たちは最高裁へ控訴したが上告棄却され
    青果業も業績が悪化、途方に暮れる弓成であった。
    装丁:石崎健太郎

    裁判に焦点を当てているから時の流れがあっという間で
    物語に置いて行かれがちになってしまいます。
    気づいたら新しい仕事に着いていたり
    周りの人が亡くなっていたりする。
    この巻で面白いのはやはり三木の変貌ぶりではないか。
    余計なことを言わないように粛々としていたのが
    可哀相な自分をアピールすべくどんどんマスコミに露出していく。

    「取材に客観的な線引きをすると云いながら、結局は三木の供述にある「心のゆとり」という甚だ曖昧なもので事実認定を行っていることに、斉田は首をひねった。そんな曖昧さで報道の自由と一人の新聞記者を裁いていいものだろうか。」

  • 2010/01/06完讀

    這一集大部分也是在說訴訟的進行,弓成一審獲判無罪ー法官認定有教唆該當但並無違法性,三木昭子則是有罪。昭子在週刊誌投稿捏造不實心路歷程,裝出受害女性形象,讓勝訴的弓成同時飽受批評,家庭也四分五裂,妻子還一度想尋死。

    昭子投下的爆彈或許影響了日後法院的心證,本案的焦點由知的權利漸漸轉為男女關係的議論,檢方上訴後,二審以詰屈聱牙、似是而非的理由改判有罪。最終結果是有罪確定(可惜一審開庭的論辯精采多姿,二三審的內容令我有些錯愕)。弓成已回到北九州的弓成青果任職,父親過世後市場被九州青果併吞,最後不得已也得將公司拱手讓人,沈迷於賭馬。

    這一集多是平版敘述弓成的訴訟和家庭的破裂,比較缺乏轉折。希望這兩集灑出來的線,在下一集都能有交代。

    (268page)

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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