- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163912462
作品紹介・あらすじ
累計65万部突破! 人気シリーズ第8弾。5月。お草が営むコーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」の近所のもり寿司は、味が落ちたうえ新興宗教や自己啓発セミナーと組んでの商売を始め、近頃評判が悪い。店舗一体型のマンションも空室が目立ち、経営する森夫妻は妻が妊娠中にもかかわらず不仲のようだ。その様子を見て、お草は自らの短かった結婚生活を思い出したりしている。そんな折、紅雲町に50歳過ぎの男が現れる。新規事業の調査のためといって森マンションに短期で入居している男は親切で、街中で評判になっていた。その男が、お草のもとにやってきた。店の売却・譲渡を求められるのかと思ったお草に対し、男は自分は良一だ、と名乗る。良一とは、お草の息子。夫や婚家との折り合いが悪く、お草が一人で家を出た後、3歳で水の事故で亡くなったはずだった。だがその男によると、じつは良一は助け出されたものの、父と後妻の間に子供が生まれて居場所がなくなり、女中だったキクの子として育てられたという。その証拠として、お草と別れた夫との間で交わされた手紙や思い出の品を取り出して見せる――。男の言うことは本当なのか、本当に我が子なのか。お草の心は千々に乱れる――。嘘は、人生の禍となるが、救いとなることもある――。甘いばかりではなく苦みを伴いつつ、深い味わいのある佳品。
感想・レビュー・書評
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このシリーズは毎回評価に迷う。おばあちゃん探偵のほのぼの系を期待していると見事に裏切られた第一作以来、主人公の草さんには共感しないところも多いのに、何となく読み続けてしまう。結局は作家さんの思惑にはまっているということになるのか。
今作は、草の亡くなった息子・良一を名乗る男が現れるところから始まる。
すわ身寄りのない年寄りを狙った詐欺かと身構える草だが、彼の話にも渡された『証拠書類』にも信憑性がなくもない。何しろ草は良一が亡くなった時には婚家を追い出され葬儀に出ることも遺骨を分けてもらうことも叶わなかったのだ。死んだと聞かされていた良一が実は生きていたという可能性もなくはない。
全編通してのテーマは疑惑、或いは嘘だろうか。
経営も関係も破綻仕掛けている寿司屋の夫婦。同棲を考えているほど関係は進んでいるのに、山男をとうに止めたことを明かさないでいる一ノ瀬と彼に何かを感じている久実。
二組の男女を見つめる草の冷静な態度が草さんらしいな~と改めて思う。かといって介入する権利も資格も理由もないのだけど。
草のあまりに不本意な結婚生活とその破綻は第一作に書かれていたと思うが、今作ではそこに良一の乳母の存在と元夫とその仲間たちで作っていた芸術家サークルについても描かれる。
第一作では実家の方針に物申せず、ただ頼りなく不実な男という印象だった元夫だが、芸術家の夢が破れたことも彼を変えた一因だったのだろうか。
悲惨な結婚生活しか経験のない草に二組の男女へ何が言えるのかという自問自答ゆえに敢えて口を出さないのか。前作では久実にこれでもかこれでもかと迫っていたのに?
だが一方でアルコール中毒の薬剤師とその尻拭いをする眼科医の兄にはやたらと口を挟む。
『口を挟む側は言えば役目を果たした気になれるが、聞かされた側は無力感に苛まれ、放り出されるだけだった』
分かっているなら止めれば良いのに、と思うがそれがお草さん。男女の関係にはあれこれ言えないが、それ以外ならお任せを。何しろ泥酔した薬剤師と揉み合い、着物の袖が破れるほどの立ち回りまでやっちゃうのだ。
さらに先の(疑惑)良一にはレストランでコップの水までかけちゃう。何とヤンチャなおばあちゃんだろう。
極めつけは雑誌の誤掲載でなんと草さん急逝と書かれてしまったのに笑い飛ばせる力強さ。この年齢で〈小蔵屋〉を堅調に切り盛り出来るだけの技量と度量があるはず。
人は真っ当、真っ正直だけでは生きられない。
『自分につく嘘、他人につく嘘、どちらが辛いのか』
嘘に良いも悪いもないとはいうが、さてそうなのか。ちょっとくらい夢を見たくなる気持ちも解るだけに辛いし切ない。
このシリーズ、最終的に決着はついても「めでたしめでたし」ではないのだが、今回は半分くらいは「めでたし」だっただろうか。傷は残るがいつかはふさがるか忘れた振りをするか。
気がかりなのは一ノ瀬と久実。特に久実には幸せになって欲しいな。 -
人気シリーズ8作目。
生まれた町で好きな物を並べた店をやっているお草さん、高齢なりの知恵と勇気とおせっかいで町の事件を解きほぐす?
紅雲町は何かと波乱含みの日々。
怪しげな商売に走る人あり、アル中の弟を抱えた人あり。
コーヒー豆と和食器の店をやっているお草さん。
店の大事な店員である久実と恋人の一ノ瀬との仲も微妙なものがあって気になるのでした。
そんなある日、お草のもとへ「本当は村岡良一」だと名乗る男が現れる。
離婚した後に、水の事故で亡くなった幼い息子が実は生きていた?
詐欺かとすぐに思った草だが、男は証拠の品を見せ、話し方にもなぜか真実の響きが…
お草が家を出た後に起きた事故なので、お草は現場にはいなかった。
とはいえ、まさか?
夫とは彼が芸術家の集まる集団を主催して高揚している時期に出会い、挫折した後に婚家に入った。
そこで草はひどい扱いを受け、それを止められない夫とついに別れたのだから。
結婚の詳細は当初は語られていなかったので、そんなこととはと驚きます。
幼い我が子の死は草にとって忘れることのできない悔いと悲しみであり、シリーズの底に響く重低音のようなもの。
え、まさか息子が生きていたという展開?!
家を出され、女中のキクの子として育てられたという男は、本当に息子なのか。
やがて真相とそのいきさつを知ることになるお草さん。
人の気持ち、思わぬことで絡み合う人生、我が子を救うための嘘。
しみじみとした余韻を残す作品でした。 -
紅雲町珈琲屋こよみシリーズ、第8弾。
シリーズ始まった頃は、店を精力的に切り盛りし、ご近所のミステリーに首を突っ込み、アクションまでこなすバリバリなお婆ちゃんだったお草だったが、いつの頃からか、いつか来るその日を思い描く描写が増えてきた。
毎回思い出される、元の婚家に置いてきて、その後に水の事故で喪った息子の良一のことが、お草さんの十字架になっている。
お草さんにとって、最期の日を迎えることは、良一の元に再び帰ることなのだ。
今回は、そんなお草さんに衝撃な展開、「村岡良一です」と名乗る男が現れた。
なんの詐欺か!と憤慨するが…
一つ飛んで、前々作の続きのような感じ。
お草さんの若き日、夫の透善らとの芸術家グループの記憶。
お草さんのセンスの良さも、毎回何かひとつ描かれるが、目の付け所が違う、というのは元の仲間、寺田博三のお墨付きでもある。
歳をとると、自分が輝いていた日々ばかりを思い出すようになるのかなあ、と思う。
しかし、結婚してみれば、あまりにも違った人生が待っていたのだ。
「本当は村岡良一」と名乗る、丹野学(たんのまなぶ)の出現は、もう一度過去と向き合う機会になった。
それと同時に、お草さんと小蔵屋には後継がいないのだということを再認識した。
同時に描かれるのは、潰れそうな寿司屋と、アル中の弟に悩む眼科医。
何人もの人生とつい絡んでしまうのは、いつものお草さんであるが、いつも苦いものを含んでいるシリーズだ。
珈琲屋だから?
第一章 初夏の訪問者
第二章 蜘蛛の網
第三章 ががんぼ
第四章 遥かな水音
第五章 風ささやく -
このシリーズを読むと、いつも暖かさとヒヤリとした冷たさを感じる。
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大きく動きを見せた今作。
スッキリ、とはとても言えないけれど
台風一過の清々しさを感じさせる終わりから
次はどうなっていくのか、また気長に待とう。
[図書館·初読·10月22日読了] -
2020年8月文藝春秋刊。書き下ろし。シリーズ8作目。帯に「あの子が生き返ったの!?」と書いてあり、ドキドキしながら読みました。ドキドキは、そんなでもなかったのですが、ご近所の問題とうまく絡めて面白いお話に仕上ってました。
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紅雲町にやってきた、親切と評判の五十過ぎくらいの男。ある日彼は小蔵屋を訪ね、草に告げた。「私は、良一なんです」草が婚家に残し、三歳で水の事故で亡くなった息子・良一。男はなんの目的で良一を騙るのか、それとも―。
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なんといっても、お草さんのキャラクタが魅力的である。悟り切った年寄りではなく、上からものを言うこともなく、決して優等生ではないところに、リアルな人間味が感じられる。それにしても、今回ほど心を揺さぶられたことはあっただろうか。なんとも悩ましい日々が描かれていて、切ないような、やり切れないような、呑み込めないような、複雑な心持ちにさせられる。そんな中でも、やはり助けられるのはひとの縁。言葉はなくても、まごころは通じ合うものである。お草さんの胸の底の重たさが少しでも軽くなっていたらいいと願わずにはいられない一冊だった。
「ギャップを狙っているのでしょうか」
その可能性があるんだ!
未読の「御子柴くん」(中央公論新社)、購入+積読予定の「葉...
「ギャップを狙っているのでしょうか」
その可能性があるんだ!
未読の「御子柴くん」(中央公論新社)、購入+積読予定の「葉村晶」(文藝春秋)が杉田イラストでしたが、、、
探せばまだそのタイプの作品があるかも知れないですね(^_^)
探せばまだそのタイプの作品があるかも知れないですね(^_^)
にゃ!
にゃ!