椎名林檎論 乱調の音楽

著者 :
  • 文藝春秋
4.21
  • (9)
  • (6)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 252
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916064

作品紹介・あらすじ

「文學界」掲載時から大きな話題を呼んだ連載が書籍化! 約20年もの間、評論の言説がほとんど追いつけなかった、その規格外の才能を、歌詞・和音・構成・歌唱・意匠から統合的に論じる。『無罪モラトリアム』から『音楽』まで、椎名林檎の音楽を「演奏」するように論じる、革新的音楽論。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • まさに、『椎名林檎の戦い』を丁寧に解説してくれている。
    2014年に椎名林檎のLIVEに行った際に、同じようなことを感じて書いた。

    2014-12-08
    林檎博’14 年女の逆襲 -椎名林檎LIVE- レビュー

    もともと、デビュー当時から、椎名林檎は世の中で流行っている音楽に違和感を感じていた。何となく良さげなメロディー、キレイな音づくり、ボーカルメインの構成、耳触りのいい歌詞、といった当時のヒットソングに対して、あたかも喧嘩を売るがごとく、ファズの効いたギターをかき鳴らし拡声器で叫んでいた。それは狂気とも見える椎名林檎の「いい音楽とは何か」を問うデモンストレーションだったのだ。
    デビューから15年間、椎名林檎は日本の音楽「J-POP」というジャンルで闘い続けてきたのだ。そして、ここ数年のヒットチャートに苛立っていた。これが売れるのか、これが求められている音楽なのか、本当にいい音楽とはこういうものなのか、J-POPはこれでいいのか…。アイドルグループ、アニソン、企画モノがヒットチャートの上位を占める今のJ-POPの状況。もちろん、これらの音楽を椎名林檎は否定するわけではないのだが、「今の時代において自分が本当にいいと考える音楽」を提示しようとしたのがアルバム「日出処」だった。

    そして、ライブの日を迎えた。セットリストは初期の代表曲やライブで盛り上がる曲を一切排除した全27曲。途中でMCをはさむことなく演奏がハイテンションで続いていく。椎名林檎もバンドメンバーもまさに「カラダを張って」演っており、ステージから圧倒的な熱量が発せられていた。

    本来というか、妊娠出産休養から復帰後の椎名林檎は、ライブでは来場者に気を遣うタイプのミュージシャンである。特にデビュー10周年の「林檎博'08」では、ヒット曲や代表曲をメインにしたセットリストだった。今回のライブでも、観客に満足して帰って欲しいという気持ちを持っていたはずだ。ところが今回のセットリストは全く違った。丸サも本能もここキスもギブスも罪罰も、そしてあり富すらもやらない。新作アルバムの楽曲を中心とした「今の椎名林檎の音楽」が、スタートから26曲目まで猛烈なパワーと驚異的な精度で一気に進んでいく。

    そして最後の1曲を残したところで椎名林檎のMCが入った。「今日は逆襲ということで、少しサディスティックな感じになってしまってごめんなさい」というコメント。このライブは椎名林檎の闘いだったのだ。デビュー当時のように、今の音楽シーンに対する違和感と苛立ちから、「アーティストとしての矜持」を観客に全力でぶつけてきた。だから「逆襲」であり、「サディスティック」だったのだ。

    そこにあるのは「お前らは今のJ-POPでいいのか! 私が最高と考える音楽を最高のレベルで演るから、よく見とけ!」という気概とアジテーションである。一部批判を受けた「NIPPON」のアウトロでは、フルテンでファズを効かせたギターを力強く弾く椎名林檎の姿があった。そんな強い意志を持った音が僕の体を貫き、密度の高い楽曲が僕の身体を包み込む、そう僕が感じたから衝撃的に涙が出たのだ。

    演出や衣装は椎名林檎としての一応のサービスだったかもしれない。しかし楽曲は観客の期待に応えることなく、敢えて自分の音楽をひたすら突きつける。そんなことをせざるを得なかった椎名林檎は、最後に「ごめんなさい」と言ったのだ。

    https://kenrisa.hatenablog.com/entry/410311593.html

  • ◯ 過去/現在、視覚/触覚、遠景/近景、欠落/欲望といった対立構造。(45p)

    ◯ 『修羅場 adult ver.』は、誰の模倣でもない独創性と、誰からの模倣も拒む音楽といってもよいだろう。(202p)

    ◯ <分裂>に対する<統合>、これが本アルバムを貫通する主題である。引き裂かれることなく一致>した自画像。その安堵と心地よさが端々から感じられる。(249p)

    ★アルバムのリリース順に、楽曲、歌詞、演奏、歌唱法、MVなど、色々な角度から分析されている。インタビューでの発言も引用されており、林檎さんへの理解を深めることができた。

    ★25年間を一気に駆け抜ける感じ。拘り続け、闘い続け、創り続けた時間を記録したら、1冊では足りないと感じた。

  • 音楽を言葉に落とし込むのが上手すぎる。
    音楽理論がわからなくても楽しめるし、椎名林檎が好きでなくても楽しめる。
    ぜひ他のアーティストでも書いて欲しい。

  • 【唯一無二の表現者の真髄に迫る、革新的音楽論】約20年の間、評論が全く追いつけなかった規格外の才能を、歌詞/和音/構成/歌唱/MV/ライブから徹底的・統合的に論じ尽くす。

  • 椎名林檎の30年をメタ的に追走することができた。
    自分の年代的には東京事変から音楽的には物心ついていた頃合いで、その前のソロ時代の世間の熱狂度は実感がなかった。
    生のメッセージが強くなった頃の切実さ、あなたが生きていてくれてよかった。と切に思う。

  • 文学界連載を楽しみにしていた。椎名林檎の楽曲をここまで徹底的に分析した記録が本として残ることがありがたい。

  • CDを持っている第9章まで読了

  • デビューからこれまでの変化ぶりを追うことができる一冊。
    初期の頃は「新宿系」という表現が似合う感じの何でもアリ感だったけど、最近はそんな枠すら不要な独自性が出て来てるんだなあと実感。
    東京事変の曲は「永遠の不在証明」以外は正直あまり知らなかったけど、聴いてみたらまあカッコイイ。「能動的三分間」とか「キラーチューン」とか。あらためて音楽を聴く機会をくれたことに感謝。

  • 30 音楽の特徴
    37 日本的なものを脱する実践
    43
    44
    62
    70
    84 音像
    89 70年代から90年代の音楽
    93 アイドルのアーティスト化
    96 音楽の特徴
    97 宇多田ヒカル
    109 資本主義
    111 情報からフラットに
    122 パッケージとmv
    126
    130
    135 政治
    161 美空ひばり
    196 逸脱性
    242 転換
    258 歌と音楽
    272 ソロ→2期
    288 個性をフラットに
    300 アイドル音楽に抗して
    303 思想と音楽の転換点
    305 日本
    308 『Nippon』
    312 政治性を演劇性とパロディに
    317 東北
    321

  • 宇多田ヒカル✕椎名林檎の“浪漫と算盤”や林檎さんベスト・アルバム“ニュートンの林檎”を再生しながらザーーッと拝読。

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

映画研究者/批評家。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。単著に『椎名林檎論——乱調の音楽』(文藝春秋、2022年)、『アクター・ジェンダー・イメージズ——転覆の身振り』(青土社、2021年)、『24フレームの映画学——映像表現を解体する』(晃洋書房、2021年)、『美と破壊の女優 京マチ子』(筑摩書房、2019年)、『スター女優の文化社会学——戦後日本が欲望した聖女と魔女』(作品社、2017年)、共編著に『川島雄三は二度生まれる』(水声社、2018年)、『リメイク映画の創造力』(水声社、2017年)、翻訳書にポール・アンドラ『黒澤明の羅生門——フィルムに籠めた告白と鎮魂』(新潮社、2019年)などがある。

「2023年 『彼女たちのまなざし 日本映画の女性作家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

北村匡平の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×