この父ありて 娘たちの歳月

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916095

感想・レビュー・書評

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  • 読み応えあった。少しずつ読んで楽しめた。
    「書く女」の文章を通り抜けているからか本当に生きていた人の生々しさが昇華されていて、切ないものを見ているみたいだった。

    ずーっと前から何の気なしに目にしていた角川文庫の発刊のことばの背景を初めて知って、胸がじんとした。

  •  なんと重いテーマの父娘の物語か。
    父も、娘も、更に、母も、夫も、それぞれの葛藤を抱えている。 それが故なのか、九人の娘たちは、" 書く人 " となる。
     書かざるおえない何かを深読みする力は、私にはないが、重く影をさすあの時代・戦争について考えさせられた。

     そして、改めて、茨木のり子が好き、と想う。
     彼女の夫は、『茨木の父と同様、開明的な人物で、家庭に妻を家庭に閉じ込めることをしなかった。』と、ある。 夫も父も、よき理解者であったよう。
     気が滅入るような壮絶な人生を歩む娘たちが多いなか、読んでいて、心が和む。


     そして、我が身を想う。
     頑固で短気だった我が父も、齢を重ね、耳も遠く、食も細くなり、小さくなった。 そして、言葉の足りない父の柔らかな眼差しに気づいたのは、わたしも子を持つ身となってやっとだった。
     父も娘(わたし)も、不器用だったのだろう。笑いたくなるが、父に似て、わたしも短気で頑固なのだと、今更ながら想う。 だか、それも悪くない。


     

  • 渡辺和子・齋藤史・島尾ミホ・石垣りん・茨木のり子・田辺聖子・辺見ジュン・萩原葉子・石牟礼道子

    以上
    9人の女性と主にその父親と家族との関わり事

    『置かれた場所で咲きなさい』の作者
    渡辺和子さんから始まり9人
    お一人お一人を興味深く読んだ

    それぞれのエピソードに
    いろいろと感じたけど
    文才無くまとまらず
    この気持ち上手く書けない



    作者、梯久美子さんのあとがきには
    『人はたまたま遭遇した時代に人生を左右される‥
    その時代ゆえにそのように生きるしかなかった‥』
    とあった






  • 衝撃、慟哭、天を仰ぐ内容がずらりと並ぶ内容ばかりだった。
    あえて、そういった方々ばかりちょすしたのかと思うほどに。

    それが陽のサイド,陰のサイド的には、こういった日本人が日本を作り上げてきたともいうべき感慨。
    良くも悪くも。
    最もすべての日本人は言うまでもなく、女性作家すべてがこのように父親の血、空気もろもろを受け継ぎ、懊悩し、自らの生き方を決めていったとも思えないが。

    昭和、平成、令和と日本は変容していっている・・良くも悪くも。
    しかし渡辺和子氏の父☆
    ~戦犯の一人一人の物語の重さを殆ど含有しているような番館迫る、胸のつぶれるような内容だった。
    しかし、戦犯とならないで成功し、ぬるっと絹板男たちがいることも事実。

    石垣りん★
    オスとしての父の姿に思う娘・・【家に一つのキンカクシ、その下に匂う】の分がザクッと胸に刺さった。
    血の絆は頸木にほかならぬという文も痛く 目に焼き付いた。

    事物を言葉に変えるという魔法  血縁を生きるとは何か  家とは  家族とは  障害と居続けた彼女
    時代は流れ手もいまだに、それの持つ意味の重さ、苦悩、時には人を苦しめ地獄に突き落とすことすらある。
    一方で人を救い、安らかな旅立ちへいざなうこともある。

    萩原葉子★
    戦前、最高の美男子作家(いまでも そのように称されている)父親、そして実母がもたらした子供への傷 養母との宿痾
    そこをどこまでも掘り下げ、運命として徹底的に身をひさぐ職業としてまでも貫いたのは凄絶。
    かといって別の選択肢もあったのにとまで思わされた…実母の最期を引き取り、看取っている。
    石垣りん★
    祖父も実父もある意味、当時には多かったであろうが、とりわけ特筆されるような人間だと思えた。
    リンガ引き受けた血の書き綴りが表面的に世間で受け止められていった気すら覚える。しかし、晩年の彼女の筆致には、ほかの8人の女性作家同様、悟りといえるような澄み切ったものを感じさせられた。

    梯さんの所論は面白いとは言わず、理と血を同居させたものを感じる、
    たまに読むのは面白いが、狭い視野に陥って、「その人」の事象を特別視しそうな感覚にならないとも言えない。
    NHK放送の【ファミリーヒストリー】的と言えなくもない。

    表に出てこない逸話が世の中の人生にあふれている。

  • 読み応え充分。
    中でも二・二六事件で自分の眼の前で銃殺された渡辺錠太郎の娘、渡辺和子(置かれた場所で咲きなさいの著者)
    島尾ミホ、石垣りん、茨木のり子、田辺聖子、石牟礼道子。
    島尾ミホの父親が実父では(養父母に育てられたらしい)ないもののほんとの娘のように慈しみ愛情を持ってミホを育てたとのこと。この養父を捨てて(不便な疎開先に追いやった)まで敏夫を一緒になった故、浮気された時はそんな心中もあったのだろうか。
    お聖さんも大好きな父親だっだのに、戦後まもなく亡くなった父に「やさしい言葉の一つもかけることなく、父を死なせてしまった」と。
    石牟礼道子のご両親も、また立派な人格者。
    ガリガリに痩せてしらみだらけの身元不明の少女を嫌な顔ひとつせず一ヶ月以上も世話をしていたなんて、家族だけでも食べていくのが大変な時に。
    無償の愛の精神が道子にも流れていたんだろう。
    母親と娘の関係もそうだけど、父親と娘の関係も異性だけに
    一筋縄だはいかないものがそれぞれにあってしみじみと読了。

  • 9人の女性作家とその父親との関係思いへの考察。
    書き手となった娘たちが、立派で尊敬し愛する父である場合はもちろん、そうでない場合も、この父ゆえに作家となったことが伝わってくる。
    石牟礼道子の父親の亀太郎氏が興味深かった。

  • 9人の女性作家と家族、特に父親との関係に焦点を当てて書いてあるが、読みごたえがある。
    成長と家族との関係が、筆を動かす。
    2.26事件で父を惨殺された修道女の渡辺和子、ベストセラーの置かれた場所で咲きなさいは読んで、心動かされた。
    同じ事件で投獄され、その死後、歌会始に招かれ、天皇に声をかけられる齊藤史、なんとも凄い。
    死の棘の島尾ミホ奄美大島で立派な養父母に育てられたこと。
    9人の歴史が痛かった。

  • たいてい本の後ろに書いてある著者の紹介では知ることができない、戦中、戦後を生きた家族の話でした。石垣りん、茨木のり子、石牟礼道子さんは教科書に登場という風に切り取られて理解してきたことを反省しました。

  • 時代を生きた女性作家9人を、それぞれがそれぞれに多大な影響を受けた父親の存在とともに描いたノンフィンクション。

    濃かった。もちろん境遇は違えど、著名な女性作家たちが揃いも揃って、ここまで父親との壮絶な物語があるとは。だからすんごく面白かったのだが。憎み、恨み、苦しみ、悲しんだ彼女たちがこれまた共通しているのは、それらを「書くこと」によって整理したことだ。浄化したわけじゃない、決して。悩み、考え抜いたことを言葉に、文章にして、常人には到底たどりつかない答えを自分なりに出している。だからこれもまたすんごく面白い。

    規模はちがえど、父娘関係の難しさをそれなりに体験しているからこそ、1人1人の物語が響いたかと思うと、父娘関係がそんなに良くないことも悪くないな、とすら思う。そうなのか?

  • 石牟礼道子論が読みたくてだったが、どれもこれも優れた日本近代文学史だった。この人の評伝はやはりいい。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961(昭和36)年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』、『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』(読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞受賞)、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』、『この父ありて 娘たちの歳月』などがある。

「2023年 『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梯久美子の作品

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