ラーメンカレー

著者 :
  • 文藝春秋
3.57
  • (12)
  • (14)
  • (22)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 412
感想 : 24
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916569

作品紹介・あらすじ

「すべての出会いは運命的だ」

35歳、9月。ロンドンで高校の同級生の結婚式に参加した。

仁と茜の夫婦は、茜の古い友達を訪ねてペルージャまで足を延ばす。
そして窓目くんは、結婚式でシルヴィに出会ってしまったのだった。
――言葉と記憶があふれだす、旅の連作短編集。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 旅のなかで、芽生える友情や恋心。
    その旅先で、どんな物語が出来上がるのか、そして、その物語が全部が良い物語とは限らない。
    本作の登場人物たちも、旅先で、様々な体験を
    目の当たりにし、新たな価値観を得る。

    本作では、イギリスとイタリアにそれぞれ旅に
    向かうのだが、茜と仁の夫婦は、仁の友達のけり子の結婚式が行われるイギリスに向かう。
    その後に、今度は茜の友達が住んでいるイタリアのペルージャに向かうのだが、そこまでに行くのが大変で、バスの乗り換え、チケットの買い方等、
    様々なトラブルに遭いながら、夫婦お互いの目線で、物語が語られている。こういう性格なんだとか、英語しゃべれるんだとか、普段あまり知らない部分が、慣れない土地での旅でお互いに見えてしまう。少し嫌悪感を感じてしまう部分も露わになるのだが、茜と仁2人の絆が垣間見れる、良い物語でした。本作は、連作短編になっていて、茜と仁のストーリーと、仁の友人の窓目の話も描かれている。窓目の健気さにやられました。優しさは
    時に自分を傷つけてしまうのかと、あらためて実感しました。

  • 本の説明にはないけれど、「長い一日」のスピンオフ版かしら。
    その友達たちの旅の連作短編集なんだな。

    ロンドンやイタリアペルージャでの出来事、コロナで遠ざかった世界が懐かしい。
    窓目くんが相変わらず飄々として達観している姿が愛しい。
    結局、タイトルのラーメンカレーってなんだっけと思いながらも、居心地のよい空間にいた感じでした。

    紹介されていたカレーの本は、しっかりブックマーク!

  • 滝口作品と言えば、記憶、思い出。
    今回は旅が(大きな意味で)テーマ。
    旅を描くという事は、記憶を辿ることは必定。
    滝口悠生作品の髄を存分に楽しめる。
    後半は窓目くんが主人公。
    『長い一日』などで存在感を放っていた彼がついに。
    なんだかやっぱり、いいキャラクターだ。

  •  はっきりと、こんなお話で面白かった、と言えない話だった。
     例えば、知らない誰かの独り言をずっと聞いているような、お茶しながら友達の話を聞いているような気分になる。
    それが面白い時もあれば、ふんふん頷きながら眠たくなってしまう時もある。
     そんなお話だなあ、と言う感想。

  • 2023年2月
    日常って人を癒す効果があるなぁと思う。旅行に行く"非日常"も含めて日常。事件も事故も起こらない。
    普通の人が日常を振り返って書いたならばこうはならない。鮮やかさがすごい。まるでわたし自身がこの日常を体験したような気がしてきてしまう。そしてこの日常から浮き立ってくるものは幸福だなぁと思う。

  • どうしようもなく好き。いっしょにおなじ場所に行っても、思うことや思い出すことは違っていて、共有しようとしても100%完全に伝えることはできない。それがいいよね。記憶が記憶を呼んで、いまここにいないと思い出さなかったこともきっとある。いまこの瞬間も、いつかの未来で思い出すかもしれないし、思い出されないかもしれない。偶然すれ違ったアジア人に親しみを持つかもしれない。私たちは一瞬一瞬の選択の積み重ねで生きているけど、大きな時代や歴史の流れと無関係に生きることはできない。
    あわせて読んだ文學界3月号の特集もとても良かった。

  •  新刊が出れば必ず読む滝口さんの最新作。海外旅行記系小説でオモシロかった。2023年の今はだいぶ戻りつつあるが、海外旅行に気軽に行けて世界の距離が近かった時代の話として貴重なように思える。異文化交流の中で生じる喜びや悲しみが惜しげもなく表現されていて、自分の過去の経験を思い出したりもした。加えて最近はオンライン英会話で海外の方と月内に何回か話す中で自分の気持ちや意見が伝わらないときの切なさや悲しみ、一方できちんと通じて盛り上がったときの喜びを経験する日々を過ごしている。こういった感情の機微が逐一言語化されている感覚があった。
     大きく分けて前後半あり、前半では夫婦での海外旅行の話。夫婦それぞれの視点があり旅行中にピリッとする感じが絶妙に表現されていて身に覚えがあった。あとはまさか滝口さんの小説でウィードの話が出てくるとは思わず、そこでテンション上がったし赤ちゃんの描写は植本さんとの共著『ひとりになること、花をおくるよ』に通じる部分があった。海外旅行での疲労感とかどうしようもなさを小説を通じて実感、その苦労も含めて旅に出たいなと思わされた。
     そして後半は窓目君という人物の一大恋愛物語となっていて、いったい何を読んでいるか分からない良い意味で謎のメロドラマだった。この人物は『長い一日』で登場した人物であり、そこから地続きの物語のように読める。今回は特にこの窓目なる人物のすべてにおいてToo much、けど憎めない人物像が全面に展開されており読んでいて楽しかった。元は手記があってそれを滝口さんが語り直したらしく、手記ではないからこその蛇行があり、それがまさに滝口さんの小説らしさが存分に出ていてオモシロかった。また調理過程がここまで細かく書かれている小説を読んだことがなく、読んでいるとカレーをスパイスから作りたくなった。最近ビリヤニを作ったりしているのだがミックスされたスパイスを買ってそれを混ぜてるだけなので水野氏の書籍など読んでベースから勉強したい。文學界も買って読んだのだけど合わせて読むと本著の理解が深まってオモシロかったので両方読むのがなおよし。

  • 【35歳。もう、若かった頃のように若くはないのだ】9.11、日韓WC、貧乏一人旅、サークル同期のあの子――青春の記憶はあらゆる所で飛び出して、あらぬ所へ誘いだす。連作短篇集。

  • 『長い一日』と同じように独特な雰囲気のある小説だ。窓目くんのキャラも不思議な感じだが、前半の方の海外にいる友人を訪ねる話もけっこうおもしろかった。茄子の入った味噌汁の描写でうまい以外に「安堵に似た喜び」を表していることなど、とてもきれいな風景だと思えた。後半の窓目くんの手記については、共感と疑問が混在しつつ、大爆音で流れ続ける徳永英明「レイニーブルー」のシーンのインパクトがすごかった。リピートされ続ける「レイニーブルー」を聞く感情はたしかにごっちゃ混ぜになりそう。
    ====
    由里さんがお椀に入った味噌汁と取り皿を持ってきてくれた。木の箸を少し懐かしいような気持ちで手にして味噌汁に口をつけると、おいしくてまた腰が砕けるような感覚になり、夫婦揃ってため息のようなものを漏らした。入っていたのは茄子で、お味噌汁を身に含んで柔らかくなっていて、そのさまがいまの自分たちととても似ていて、うまいとかそういうこととは別の、安堵に似たよろこびがあった。(pp.46-47)

    眼にする木や鳥の名前を知らないのは、たいていの場合、一度も聞いたことがないから知らないのではなくて、何度聞いても覚えていないということだと思う。それがそれである特徴と、その名前とが紐付かず、名指すことができないまま、やがて時間が経って、外国語の単語を忘れるようにその名前を忘れてしまう。名前は忘れ、覚えていられない。文法は名前じゃないから、なんとなく憶えていられる。木や花や鳥の名前は、子どもの頃に覚えないと、なかなか覚えられない気がする、と夫は景色を見続けながら考え続ける。(p.69)

    記憶というのは、残酷で優しいシステムだ。膨大な時間と空間に存在していた浜ちゃんを、ひとつの場面に納めて、意識に浮かび上がらせる。虚構と現実というのは、だから対立するものじゃなく、ひとが自分の人生や運命について語ろうとするとき、共同的に働いて、現実よりも現実的な場面をつくり出し、提示してくる。(p.198)

    手記とは、自らの経験を書き記すものである。窓目くんもシルヴィと出会い、関係を紡いできたその経験を書き記してきた。書き記すうちに、シルヴィと出会う以前の窓目くんの恋愛遍歴にまでその記述が及んだこともご承知の通りだ。経験を書き記すということはそういうことなのだ。ある出来事について書き記そうとすれば、そこに至るまでの時間が流れ込んでくる。手記のなかの現在はどこまでも仮構的なものである。手記を書く者は、すでに過ぎ去った時間、過ぎ去った経験についてしか書くことができないのだから、つまりその内容はことの顛末とその経緯である。もし実況中継みたいな現在と同時に進行する手記が存在するならば、そこには以前の出来事が流れ込む必要も、そんな余地もない。そしてそうではないからこそ、わざわざ手記を書く意味があるのだと思う。顛末の経緯を記せば標すほどに、ある時間は別の時間と結びつき、別の出来事がことの顛末として本線に連絡する。そうやって件の出来事が豊かに彩られ、厚みを増していく。それっが手記という形式の意味ではないだろうか。本件でいえば、シルヴィと窓目くんのロマンスは標すほどロマンティックになっていく。傍からどう見えるかはともかく、手記を記す窓目くんにとっては、手記を記すほどにロマンティックが高まり、窓目くんは昂ぶる。(p.233)

    窓目くんとジョナサンがふたりでキッチンに立ち、料理をつくった。カトレット、ポルサンボル、カードチリ、マサラオムレツ、鯛のカレー、チキンカレー、バスマティライス、そしてイディアッパム。できあがった料理を並べたはしからつまみつつ酒を飲み、次の料理にとりかかる。部屋にはスピーカーにWi-Fi接続したけり子のスマホでランダム再生される陽気な曲が流れている。ダンサブルなリズムで灰トーンの男性ボーカルの曲がはじまった。やがてビートを刻みはじめると、そのすべてに手拍子が載っていて、聴いているだけで体が踊り出す感じがする。BTSの「Dynamite」だ。あの頃窓目くんは名前すらよく知らなかったが、シルヴィの好きだったこの韓国のアイドルグループは、今年この曲を世界的にヒットさせた。(p.260)

  • それぞれの章を読むたびに、誰の目線で書かれているのかを読みながら整理していく感じ。そして、それぞれの章がつながっている。登場人物の生い立ちや経験や選択が出会いや旅先に反映されていて、無意識にこなしてきた人生のアレコレって案外うまく回収されるんだなと自分の現状と照らし合わせても感じる。
    久しぶりに海外旅行に行きたくなったし、何と言ってもカレーが食べたくなる!そして人と関わりながら生きて行きたいと思った。

全24件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

滝口 悠生(たきぐち・ゆうしょう):小説家。1982年、東京都八丈島生まれ。埼玉県で育つ。2016年、「死んでいない者」で第154回芥川龍之介賞を受賞。主な著作に『寝相』『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』『茄子の輝き』『高架線』『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』『長い一日』『水平線』などがある。

「2024年 『さびしさについて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

滝口悠生の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×