極楽征夷大将軍

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916958

感想・レビュー・書評

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  • ──人は欲で惑う。それは煩悩である。
    しかし、欲が人を動かす─

    この壮大な物語は、欲と無欲がテーマ。
    無欲が果たして、どのようにして天下人に化けるのか。
    足利尊氏、後醍醐天皇、楠木正成、新田義貞など歴史上の人物以外にも、あまり馴染みのない名前が多数登場するので追っていくのも必死。
    それでも読み終わった時には、もっと触れていたかったと思えた。

    歴史ジャンルで無欲といえば『足軽仁義 三河雑兵心得』シリーズの植田茂兵衛が思い当たる。出自が卑しく出世欲がない点で共通する。もっと言うと、人を押し除けようという気がない。この2つの作品がもつ魅力は同じかもしれない。

    無欲はガマンや清貧などとも違うようだ。それは、2人とも波を見極めるのが上手いことから分かる。波とは、人の感情や欲とも見れる。欲がないことが、冷静に欲を御する力、人を見る力を与えてくれるのかと思う。

    この2人のつながりに、なんだか考えが深まったような気がした。
    欲まみれの垣根作品(笑)の中から、この物語が誕生したことが意味深く面白い。

  • 足利尊氏を描いた歴史小説。昭和の精神論根性論的な武人イメージとは真逆のキャラクターが清々しい。

  • 昔NHK大河ドラマで「太平記」をやっていて観ていた。
    調べてみたら1991年とのこと。
    尊氏が真田広之、直義に高嶋政伸、師直に柄本明
    懐かしい。

    鎌倉幕府で執権の北条氏を滅ぼし、
    その後も色々ありながら九州から攻め登って幕府を開くまでは団結していた三者(尊氏、直義、師直)。それが幕府の運営を巡って軋みが生じて同族相争う骨肉の闘いとなる。実に愚かしいが周りを見渡せばそんな例は沢山ある。

    そんな人物像を垣根涼介はどう描くか。
    読んでいて実に楽しかったが、これもう少し字を大きくして上下巻に分ければ良かったのにと思いながら読んだ。
    寄る年波で小さい字を長時間読んでいると目が疲れる。
    人気の垣根涼介なら上下巻にして売り上げを上げれば良いのにと内容に関係無いことを思ってしまった。

    作品紹介・あらすじ
    やる気なし
    使命感なし
    執着なし
    なぜこんな人間が天下を獲れてしまったのか?

    動乱前夜、北条家の独裁政権が続いて、鎌倉府の信用は地に堕ちていた。
    足利直義は、怠惰な兄・尊氏を常に励まし、幕府の粛清から足利家を守ろうとする。やがて後醍醐天皇から北条家討伐の勅命が下り、一族を挙げて反旗を翻した。
    一方、足利家の重臣・高師直は倒幕後、朝廷の世が来たことに愕然とする。後醍醐天皇には、武士に政権を委ねるつもりなどなかったのだ。怒り狂う直義と共に、尊氏を抜きにして新生幕府の樹立を画策し始める。

    混迷する時代に、尊氏のような意志を欠いた人間が、何度も失脚の窮地に立たされながらも権力の頂点へと登り詰められたのはなぜか?
    幕府の祖でありながら、謎に包まれた初代将軍・足利尊氏の秘密を解き明かす歴史群像劇。

  • 室町幕府の初代征夷大将軍となった足利尊氏と、
    彼を身近で支えていった、実弟・直義と
    足利宗家執事・高師直の生涯を描く。
    極楽殿と揶揄され、やる気の無い、しかしカリスマな尊氏に
    振り回される二人の、運命は如何に。
    第一章 庶子 第二章 波上 第三章 朝敵 最終章 敵対
    ・主な登場人物 ・参考文献有り。 

    直木賞受賞作品で、2段組みの550ページな長編。
    完読に3日かかってしまいましたが、中断できない面白さ。
    たまたまではあれど「現代語訳吾妻鏡」や鎌倉幕府関連、
    中先代の乱、南北朝関連、観応の擾乱の書籍、
    コミックでは「逃げ上手の若君」を読んできてたので、
    「吾妻鏡」の人物たちの子孫や鎌倉幕府滅亡と南北朝の
    人物たちが多く登場するのが良く、楽しかったです。
    また、多くの資料で裏打ちされていることも、わかります。
    鎌倉幕府の劣化から、後醍醐天皇の暗躍、そして雪崩のような
    鎌倉幕府の滅亡。建武の新政前後の混乱、南北朝動乱の始まり。
    そんな歴史の変遷の流れに逆らわぬ高波のような足利尊氏の姿。
    呑気で明るい邪気無き鵺。自負心の無さと欲求の希薄さ。
    それがため、多くの者たちが高氏信者になるカリスマ性も。
    そんな彼を相変わらずの腑抜けっぷりよと嘆きながらも、
    付き従う、理屈っぽく怜悧な直義と家政を仕切る師直。
    ある時は共闘し、ある時は対立し、理解が深まる二人。
    だが、室町幕府成立と初代征夷大将軍就任以後、尊氏は
    政務は丸投げ。多忙と不信から二人の蟠りは徐々に
    深まっていき、尊氏をも巻き込んでの観応の擾乱が起こる。
    領地のため、一門のため、一族のためという鎌倉武士の
    思いを引きずった人物たち。朝廷を維持したい天皇と公家たち。
    多くの欲が渦巻く中での無欲の有り様としての、尊氏が
    コミカルで人間味過多で、こういう描き方もあるんだなぁと、
    感心しながら読み進めました。
    静と動の絶妙さ、戦闘場面の詳細さの凄みあれど、
    ざんばら髪の騎兵集団爆誕!には笑ってしまう可笑しさも、有り。

  • 苦手な歴史小説。
    しかも二段組。
    でも豊崎由美が褒めてたし、最初の数ページが面白かったから読み始めた。
    のが1ヶ月前。

    歴史好きにはたまらない解釈なんだろうなとは思うが、出てくる人間が多すぎる笑
    室町幕府ややこしすぎる。
    北朝と南朝、人があっちこっちしすぎです!どっちかにしろー!と叫びたくなる笑
    しかも、エピソードが「太平記」を元にした史実なのか、大方の歴史通が知ってる解釈なのか、作者の新解釈なのか、そこら辺がわからぬ私には、面白さが多分半分くらいしか伝わらないように思う。歴史通の人はかなり面白いのでは?
    時々歴史通の相方にそこら辺の感覚を聞きつつ、ダラダラと、いや、粘り強く読み続けた。(途中で万城目やブレイディみかこにおそらく10冊は逃げた)

    ちょうど今新聞連載で今村翔吾が楠木正行の生涯を小説にしている。なので、さらに混乱。
    でも、楠木一家(正成・正行・正儀)は誰が書いてもすごいやつなのね、ということはわかった。
    それから、初めて存在を知った足利直冬ってなかなか面白い人じゃないか、と思った。この人そのうち大河の主役になるのでは?
    という、初心者ならではの知識の獲得もあった。

    しかし何より読み終わって、ようやく本腰入れて溜まってた他の本が読めるとホッとしてます。
    当分歴史小説はお腹いっぱいなので読まなくていいです笑

  • 極楽トンボの足利尊氏を弟である直義と足利家の執事である高師直が補佐し室町幕府を開く。エンタメ風の長編時代小説だが感動作。直義、師直の献身、そして敵対。実質的な主人公は直義と師直 。2023年上期直木賞。お勧めの一冊。物語の最終盤に登場する楠木正成の嫡男、正行が朝日新聞の連載小説、今村翔吾『人よ、花よ、』(2022.8-2024.3)の主人公となっている。
    2段組で、550ページの長編は読み応えがありました。加えて、『人よ、花よ、』の連載が終了した直後だったので、師直の捉え方の違いが鮮明でした。幕府が開かれた後の物語、最終章が印象的です。本書を読む前にWikipedia で「足利尊氏」の項目をサラッと読んでおくことをお勧めします。

  • 室町幕府の開祖、足利尊氏、その弟
    直義の物語である。またはその家族(兄、尊氏も)
    の物語でもある。

    日本史の中で苦手だった辺り〜
    後醍醐天皇、建武の新政、高師直、
    そして南北朝時代。
    この本を手にして少しは理解できた…とも言えない
    自分に気が付く。
    歴史の波に呑まれ揺す振られザンギリ頭に惑わされそして、幾多の死を見つめる彼ら。(ザンギリ頭という表現は明治維新のモノばかりではない!)
    今に続くその波は同じくして、現代人をも惑わしているのだな、と思う。
    軍記物、読みにくいという先入観で始まってはみたけれど当の征夷大将軍、尊氏の魅力的な(とは言い難い?)存在がツボにはまって楽しい読書タイムを
    こんなに長く持てました。

    そしてまた、ずっ勘違いしていたあの騎馬武者の絵は実は!とわかったのが一番の収穫でしたね。

  • 「やる気なし 使命感なし 執着なし」。ヒーローじゃなくフツーに普通。
     でも、そんな人が周りの人をエキスパートにするのかも。
     役割は誰にでもあるのだ。優秀である必要などないのかもしれない。
     優秀であるより、自分自身であることのほうがよほど大事だと思う。
     長いので読み終えるかどうかもわからない。
    最後まで読めない本も沢山ある。積読もある。
    そのままBOOKOFFに読まずに行った本もある。これでいいのだ。

  • 直木賞受賞おめでとうございます。
    読んでも読んでも終わらない作品ではあるが、読後感は一応スッキリ☆

    南北朝終焉から室町勃興、そしてその後
    に至るまでの流れが描かれた作品を他に知らないので、とても勉強になった。

    もっと内容の濃い感想を書きたいけれど、楠木正成の武勇がなぜ歴史に残ったのか分かった気がする。

  • 軽いけど分厚い読み応えのある一冊。新たな尊氏と直義像が絶妙。直義に感情移入する人が多そうt

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著者プロフィール

1966年長崎県生まれ。筑波大学卒業。2000年『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。04年『ワイルド・ソウル』で、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞の史上初となる3冠受賞。その後も05年『君たちに明日はない』で山本周五郎賞、16年『室町無頼』で「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞。その他の著書に『ヒート アイランド』『ギャングスター・レッスン』『サウダージ』『クレイジーヘヴン』『ゆりかごで眠れ』『真夏の島に咲く花は』『光秀の定理』などがある。

「2020年 『信長の原理 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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