可燃物

著者 :
  • 文藝春秋
3.63
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163917269

作品紹介・あらすじ

米澤穂信、初の警察ミステリ!

二度のミステリーランキング3冠(『満願』『王とサーカス』)と『黒牢城』では史上初のミステリーランキング4冠を達成した米澤穂信さんが、ついに警察を舞台にした本格ミステリに乗り出しました。

余計なことは喋らない。上司から疎まれる。部下にもよい上司とは思われていない。しかし、捜査能力は卓越している。葛警部だけに見えている世界がある。
群馬県警を舞台にした新たなミステリーシリーズ始動。

群馬県警利根警察署に入った遭難の一報。現場となったスキー場に捜査員が赴くと、そこには頸動脈を刺され失血死した男性の遺体があった。犯人は一緒に遭難していた男とほぼ特定できるが、凶器が見つからない。その場所は崖の下で、しかも二人の回りの雪は踏み荒らされていず、凶器を処分することは不可能だった。犯人は何を使って〝刺殺〟したのか?(「崖の下」)

榛名山麓の〈きすげ回廊〉で右上腕が発見されたことを皮切りに明らかになったばらばら遺体遺棄事件。単に遺体を隠すためなら、遊歩道から見える位置に右上腕を捨てるはずはない。なぜ、犯人は死体を切り刻んだのか? (「命の恩」)

太田市南部の住宅街で連続して起きた可燃ゴミの小火騒ぎ。警察は放火の疑いで捜査を始めるが容疑者を絞り込むことができない。月曜から木曜にかけて三件連続して放火が起きているが、その後ぴたりと犯行が止む。犯人の動機は何か? 犯人の姿が像を結ばず捜査は行き詰るかに見えたが……(「可燃物」)


突然中断した連続放火事件の謎を追う表題作を始め、葛警部の鮮やかな推理が光る5編。

感想・レビュー・書評

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  • 5編の短編からなる作品。ブクログに書かれているレビューから興味が湧いて、米澤穂信さんの作品を初めて読了した。それぞれの作品の主人公は群馬県警察本部刑事部、葛警部。部下を率いる班長である。どの作品も、葛の鋭い着眼により、事件が解決に向かっていく。すんなりと事件解決には向かわず、混沌とした捜査が繰り広げられていくが、そのような中で明らかになっていく状況が、小気味良く展開されていく。葛が感じる少しの違和感が、事件解決へと導くきっかけとなっていく。葛の思考に沿って、どの短編も犯人を予想しながら、読み進めていった。それだけ、作品の世界に入り込んでいたのだろうな。だからこそ、犯行の具体が明らかになっていくところには、その度に驚かされた。

    各短編の物語が、葛の視点で展開されていく。登場人物の言動にかかわる警察用語を読みながら、犯行を解明していく刑事の動きや警察内部のやりとりを想像していた。作品の中に描かれているのは、警察組織としての動きと葛や葛班の動き。同一方向で事件の被疑者を追求し、解決方向に向かうことがあれば、意見が異なり違う方向性になることもある。これは、警察に限らず、組織で動くときには起こりうることだろうな。ただ、これが事件解決へと足並みを揃えて追求していくという話となれば、しがらみが生まれ、難しい状況にもなるのかな。その辺りの状況が、登場人物の言動として丁寧に描かれていて、想像が膨らむ。

    5つの短編は、「崖の下」「ねむけ」「命の恩」「可燃物」「本物か」である。改めてタイトルを見直すと、それぞれの作品の柱となる重要な言葉であり、事件解決に迫る重要点であると感じる。短い言葉の中で作品を象徴する言葉を表出する、読者への手がかりを示す、そこにも米澤さんの作品にかける熱量や思いを想像する。

    それぞれの作品において、事件解決を追求していく中で秀逸だなと感じたのは、葛と容疑者や目撃者、関係者とのやりとり。容疑者や目撃者、関係者のちょっとした言葉や行動から、葛は疑念をもつ。それは、刑事なら当たり前なのだろうか。そういう習慣になっているのか、それとも葛に備わる特別な力なのだろうか。いずれにしても、その洞察力や推察力に感嘆する。緊迫した中でとる食事は菓子パンとカフェオレ。そこには、現実が想像されるとともに、安らげる時間を惜しむ捜査状況が浮かぶ。その世界を紡いでいる米澤さんの表現や構成にも感動する。だからこそ、どの作品も読後の爽快感を味わえたのかな。

    この作品は短編集だったけれど、その世界に入り込むには十分の内容であった。どの作品も事件が解決し、葛の力が功を奏す。すっきりとした読後感を味わえた。ブクログのレビューから、米澤穂信さんの作品で気になる作品がある。手にして読んでみたい、そんな思いが膨らむ作品となった。

    • ぱらりさん
      ヤンジュさん、初めまして。
      たくさんのいいね&フォローありがとうございます。励みになります。
      ブクログの方々のレビューを見ていると、読みたい...
      ヤンジュさん、初めまして。
      たくさんのいいね&フォローありがとうございます。励みになります。
      ブクログの方々のレビューを見ていると、読みたい本が更に増えてたいへんなことになっています汗
      今後ともよろしくお願いします。
      2023/12/29
    • ヤンジュさん
      ぱらりさん、こんばんは
      コメントといいね、ありがとうございます
      確かに、おかげさまで、私も読みたい本が増え続けています
      これからも、よろしく...
      ぱらりさん、こんばんは
      コメントといいね、ありがとうございます
      確かに、おかげさまで、私も読みたい本が増え続けています
      これからも、よろしくお願いします
      2023/12/29
    • ぱらりさん
      す、すみませんフォローを強要してしまったようで汗(顔から火を吹いております)
      ボケたおしてますが改めて今後ともよろしくお願いします。
      す、すみませんフォローを強要してしまったようで汗(顔から火を吹いております)
      ボケたおしてますが改めて今後ともよろしくお願いします。
      2023/12/30
  • ★5 警察小説と本格ミステリーの融合! 美しく洗練された文章やセリフが超絶エグイ傑作 #可燃物

    米澤先生の文章は美しい。
    面白くてどんどん読んじゃうんですが、消費するのがもったいないんですよね。まるで上質なフランス料理をいただいたいるようで、しっかりと味わいたくなる作品。贅沢な読書をさせてもらって幸せですね。

    手がかりが提示され、ひとつひとつロジカルに吟味していく主人公。あたかも自身が刑事になって捜査しているかのようです。そして警察キャリアの駆け引きもやたらリアルで緊迫感が半端ない。

    なにより葛警部の魅力がエグイ。切れ味が凄すぎ。あえて感情を除外しているところが狡猾で、冷淡さや神秘性にも満ちています。短編もミステリーを純粋に楽しめて大好きですが、ぜひ社会性を抉ったど真ん中の警察小説も読んでみたいです。

    〇崖の下
    スキー場で遭難時に発生した殺害事件。
    アンソロジー神様の罠で既読済でしたが再読。理詰めで凶器を詰めていくシーンは、警察官の思考を除いているようで、ドキドキが止まらんです。

    〇ねむけ
    交通事故現場、どちらが信号無視をしたのか。
    警察官僚体質の側面が見え始める作品、会話がやたらリアルでヒリヒリします。人物と条件提示が面白く、真相もシンプルながら、ありそうで納得感が高い。

    〇命の恩 【おススメ】
    山林でのバラバラ死体、その理由とは。
    不可思議な事件でミステリーファンは夢中になること請け合い。これはしっかり推理すればたぶん解けた、うーん悔しい!

    〇可燃物 【超おススメ】
    ゴミステーションでの放火事件。
    切れ味が凄すぎるミステリー、こんなにもシンプルなのにハッとさせられた真相は久しぶり。

    〇本物か 【おススメ】
    ファミリーレストランでの立てこもり事件。
    様々な関係者からの事情聴取するシーンが秀逸ですね。こんなにもシビアで絶妙なセリフ回しができるのは、米澤先生だけだと思います。

    ■ぜっさん推しポイント
    警察小説ですが、これは完全に本格ミステリーです。

    ミステリーファンをを楽しませる本格ミステリーはいっぱいあるんですが、誰にでもおススメできる本格ミステリーって、意外と少なかったりするんですよ。

    本作はどなたにも楽しめて、おすすめができる洗練された本格ミステリーというところがスゴイ。気になる方はぜひチャレンジしてみて!

  • 米澤さんの初の警察物ミステリー。
    ミステリーというよりは謎解き推理小説。
    なにかのインタビューで米澤さんが
    「この作品は読者への挑戦状的なつもりで書いた作品」と読んだので、自分もそのつもりで読み進めた。

    作品は全5篇からなる短編集。群馬県警捜査一課の葛が主人公。葛が事件を謎解きしながら解決していくという物語。
    ということは自分のライバルは葛であり、彼が解決する前に自分が謎を解かなければならない。いつも以上に気合いを入れて読んでいた。

    全編「何時、何処で、何故、誰が、どうやって」という色んな角度からの5W1Hのニット系の謎解き。
    正直、謎解きは難しい。苦手分野。
    犯人であろう人物や犯行手段的な物はなんとなく想像しながら葛より早く触れていけるのだが、完全にこれだという正解は一つもなかった、全篇完敗。

    物語はというと身近でおきそうな事件が多く、凄い大事件という物ではない。登場人物も各々少なく、読者も入り込み易く謎解きに参加しやすい。明らかに意図的にそうしているのだろうと読後感じた。

    このような作者からの挑戦状的な謎解きは始めてでかなり楽しめた。
    次作も執筆されるのならばまた挑戦したい。
    次は葛に負けないよう己の推理力を上げておきたい。

  • 米澤穂信さん初の警察ミステリー


    葛警部の推理が面白い!
    注意深さや着眼点にハッとさせられます

    葛警部の頭の中を軸にしながらも
    ちょっと俯瞰した書き方で
    事件全体がわかりやすく
    またリアルタイムで感じられて
    あっという間に読めました
    5篇の短編集です


    短編ですが内容が薄いということもなく
    どの話も驚きがありました

    それだけにやっぱり
    長編が読みたいー!!!
    長編だったら星5つでしたね



    葛警部のキャラも立ってるので
    シリーズものにしても面白そう
    菓子パンとカフェオレにクスッとしました笑
    次は葛警部シリーズの長編、待ってます!!


    米澤穂信さんは自分の中で
    ハズレが続いていたので
    あんまり読んでなかったのですが
    他のも読んでみようかな(^^)


    どなたかおすすめあれば教えてください(^^)
    Iの悲劇は読みました!面白かったです(^^)

  • 今までにない警察小説。
    とにかく葛警部の推理が鮮やかで注目すべき箇所を瞬時に見抜くところは凄い。
    葛班というチームで動いているわけだが、部下も不満はないのか実力を認めているのか…活躍はほぼなく葛警部の単独推理である。
    上も葛班は、葛警部のワンマンチームじゃないかと疑っている。捜査手法は独特でスタンダードに情報を集めながら、最後の一歩を一人で飛び越える。
    その手法は学んで学び取れるものじゃないが、下が力をつけなければ捜査力は落ちると危惧するのだが。
    葛警部は相変わらず必要な捜査を指示し、方針を変えることなく犯人を突き止める。
    気になる箇所をすべてメモ書きして、周りに置いて考察していく。
    そこから見えてくるもの、おかしいと感じたことを重点的に調べ尽くす。
    時間との戦いといえども毎回といってもいいほど食事が、菓子パンとカフェオレというのがニヤリとさせてくれて印象的。

    表題作「可燃物」を含む全5話。

    ○崖の下〜スキー場で遭難し、崖下でいた2人のうち亡くなっていた1人は何が原因だったのか?

    ○ねむけ〜強盗の容疑をかけられた男を追跡しているときにおきた交通事故。
    どちらが信号無視をしたのか。
    目撃者が多いのには理由があった。

    ○命の恩〜キャンプ場近くで発見された腕。
    そこから次々と切断された人体が…だがそれが自殺したものだとは。

    ○可燃物〜連続放火事件ではあるが、なぜか可燃物であり天気も気になるところで…その動機に。

    ○本物か〜立てこもり事件が発生するが、人質は?交渉内容は?
    何かがおかしいと感じたときには葛警部が推理していた…早すぎるっ。





  • 群馬県警葛警部の5つの事件を扱ったもの。2つ目の事件から既読感があり、奥付けを確認すると全て『オール讀物』で発表されていた。思い出したのは3編。やはり印象に残る独特な推理小説。
    葛警部は色々な証拠を元に、独自な推理を組み立てる。独自すぎて部下や上司から嫌われているが、実績が凄いために何とか継続できている。
    表題の「可燃物」も証拠から、ある容疑者が浮かび上がり、周囲から早期の逮捕を求められるが、欠けたピースを埋めるため、独自に証拠を探し逮捕に結びつけた。
    「本物か」も、丹念に証拠を集め、予想外の犯行の裏側を暴き出した。「崖の下」でも消えた凶器を考え出した。中々、この凶器は考え難かった。

  • 犯人を見つける洞察力がすごい。同じ情報を持ちながら1人見え方、考え方が違う葛警部。犯人が分かった時スッキリ感と普通の人はそこまで推理に厚みを出せない力の差を感じました。推理の勉強になりました笑

  • 群馬県を舞台にした5編の短編からなる警察小説。
    圧倒的な捜査能力のある葛警部は寡黙で愛想のないザ・刑事(昭和)。
    組織からの評価は高いものの、部下や上司からは絶妙に距離を置かれています。
    そんな葛警部の元に一筋縄ではいかない事件が起こります。
    実際に自分も捜査に加わったような感覚で事件の謎を解明しようと試みましたが、
    どれも予想していた結末と異なっておりました・・・。
    自分が部下だったらもう葛警部には呼ばれないだろうな・・・苦笑
    最後はもやっとするお話ばかりで、それがなんとも言えない気持ちになります。
    個人的には表題でもある「可燃物」と「命の恩」がゾクゾクともするし、
    ミステリー要素もありで面白かったです。
    次回作は是非とも長編で葛警部の活躍を見たいです・・・(続編希望!!)

  • 【感想】
    「このミステリーがすごい!2024」で第1位を獲得した本書。米澤さんは2022年にも『黒牢城』で1位を取っており、今回の受賞で4回目のミステリ・ランキング3冠である。

    私が本書を読んでいて「上手いなぁ」と思ったのは、文体だ。情景を細微まで丹念に描くことはせず、見たものを見たまま理路整然と記す。非常に淡白でカッチリとした文体なのだが、これが主人公の葛の設定――冷静かつ余計なことを言わない「凄腕警部」というキャラクターと非常にマッチしている。葛の隙の無い性格と卓越した捜査能力がくっきりと描写されているし、同時に「警察」という公機関特有のお堅さも上手く表現できている、と感じた。

    本書は5編にわたる短編小説が収録されている。1つあたり50ページ程度であり、短すぎず長すぎず、テンポよく読める分量だ。ただ、葛と彼の上司・部下たちは、全編にわたって人物像が描写されるが、容疑者・犯人側は毎回変わってしまうため、キャラクターの深掘りがされない。そのため、ストーリーによっては犯人に感情移入できなかったり、犯行動機に共感できない面もややあった。多くの人が「長編で読みたかった!」という感想を述べているが、自分も同感である。
    ミステリとしては、シンプルながらも上手くまとまっていて非常に完成度が高い。万人にオススメできる一冊だと思う。

  • 群馬県警本部 刑事部捜査一課 葛警部の事件簿。
    葛警部が次々難事件を解き明かす。
    「本物か」の一節に、
    「察しで物事を進めちゃいけねぇ。」
    察しは視野を狭くする。
    気づけることに気づけなくなる。
    どの事件も葛さんは、色んな方向から物事を見ていて、他の人が気づかないことに気づく。
    目で見るってこともたいせつなんだなと、つくづく思う。
    事件を解決していく途中の展開にドキドキしてしまう。
    どれも、そっちーかあーと、まんまとひっかかってしまっていた。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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