- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163917467
感想・レビュー・書評
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青春物語だとばかり…。青春を過ぎた大学で研究をする方のお話し。「ポスドク」
好きなことを追求していくことは、幸せだろうと思いましたがこんなに大変なことだと思わず、途中、読み進めるのが辛くなるほどでした。
でも、額賀澪さんなので、そっかあー…と読了。
時系列が後からわかったので、そうだったんだ。となりますね。 -
『転職の魔王様』のテレビドラマ化も記憶に新しい著者の新刊。今作も仕事・労働・雇用といったテーマ。主人公は年齢的に人生の岐路に立っているポスドク。彼が研究者を引退するか続けるか葛藤する人間ドラマを主軸に、10歳年上の先輩ポスドクの失踪事件ミステリーがスパイス的にまぶされている。研究者って経済的な点から見るとなかなか厳しいのが実態なんだな…スーパーの特売日をカレンダーにメモって食費を削り研究費を確保している描写なんてもう。自分は理系で大学院(修士課程)まで行ってるもののあっさり一般企業に就職した身なので、どこかヒリヒリしながら読んだ。
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感想
自分のしたいこと。追いかけるのが青春の醍醐味。だけど現実の生活がもっとはやく追いかけてくる。新しい道を自分で切り開く。壮年期の入口。 -
好きな作家さんなのに、私が色々としんどい時期のせいか
読み進めるのが難しく何度も苦しくなった。
でもいくらか未来のある終わり方で良かったと思う。 -
タイトルに惹かれて手に取った。内容は特別面白くもないけど、大学生時代に読めてよかったと思える一冊。章と間章のバランスがいい。全体的にやや重めだけど終わり方はくどさがなくて良い
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切ない小説だった。古事記が好きで大学院へ進み、35歳になって大学の非常勤講師のクチも途絶えた主人公・朝彦。10歳年が違う先輩・小柳の失踪もあり、研究者の夢をあきらめた同輩・栗山が立ち上げたレンタルフレンドの会社でのアルバイトでの経験を重ね、最後には研究者の道に区切りをつける。
自分が同じような道を歩んでいるわけじゃないけれど、何となく重なるような感じを覚えながら読んだ。小柳が亡くなっていたことがわかり衝動的に比婆山を訪れたときの部分をちょっと引用(p.210)。
▽ここから
頭上で木の枝葉が歌うように鳴いた。半分になってしまった自分を再び満たすだけのものが、この世にあるのだろうか。満たされなくてもいいから、せめて補うくらいの何かがあるといい。
「好き」を道標に生きてきた。暗闇を進む灯火だった。この光のせいで生きていけないのだと気づいた。これを大事に抱えている限り、暗闇を歩み続けなければならない。消す日が来た。明りを消して、この真っ暗闇を出て行く日が来た。
それほどまでのものに出会えた人生は、幸せだった。たとえ、今はそう言い聞かせることしかできなかったとしても。
目を開ける。時刻は昼近くのはずだが、一瞬だけ空の色が朝焼けのように淡く揺らいだ。
朝。新しい日々の始まり。夜闇に迷う人が待ち望むもの。それが俺の名前の由来。だが、研究者の俺に朝は来ない。だから朝がある場所に歩いていく。
それは、悲しいことでしょうか。
小柳になのか、この場所に眠るイザナミになのか、イザナミを黄泉の国へと迎えに行ったイザナギになのか、古事記を愛し、研究し、脈々とそれを受け継いできた数多の研究者へなのか、朝彦は問いかけた。
△ここまで
狭い世界しか知らない若い頃にハマったものでその先を、たとえば就職先や業界を決めてしまうこと自分にもあった。いまそれが正解だっただろうかと考えると、何ともいえず……考えたくないって感じかな。自分の不遇と真正面から向き合うことになりそうで嫌だ。
朝彦は自分で選んだ道を進んできたわけだけど、最終的にその道を断ち切った。読み進めながら断ち切らず、また希望をもって道を究めるようなことにならないかと思ったけど、そんなあまいことにはならず、そしてそれこそが現実的でもあり、現代の小説でもあると思う。
あわせて思ったのは、思い切りどきのこと。いつか何者かになれるんじゃないかと未練たらたらやるあたりは自分の問題だけど、この小説でも栗山や小柳が果たせなかった夢を彼らの分も背負っていくような立場になっていて、それもおいそれとやめられない理由になるだろうなと思った。それから、けっこうな年齢になって新しいことに踏み出すのも怖いと思う。それくらいなら過酷ないまのままでいてしまう気持ちも自分はよくわかる。
それにしても読むだに、自己責任や他人を非難し自分の優越を保つような現代を感じるし、自分やこれからの世代に輝かしい未来がないことを突きつけられるようでなかなかつらい。ちょうど並行して藤子不二雄の自伝的作品「まんが道」を読んでいるんだけど、昭和20~30年代を舞台にした希望に満ちた感じと何と違うことだろう。
古事記の面白さにも触れることができた。なかでも古事記の時代には色って赤・青・白・黒しかなく、色の概念がそもそもできてなくてそれぞれ明るい、淡い、はっきりしている、暗いというものの状態を示す表現から転じたとされているとか。だからこの4つだけが、赤い、青い……と形容詞的にいわれるんだって!(p.126) -
文系研究者の「今」を鋭く切り取っている。
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真壁仁の詩「峠」のフレーズが浮かんできた。
峠路をのぼりつめたものは
のしかかってくる天碧に身をさらし
やがてそれを背にする。
風景はそこで綴じあっているが
ひとつを失うことなしに
別個の風景にはいってゆけない。
大きな喪失にたえてのみ
あたらしい世界がひらける。