うるさいこの音の全部

著者 :
  • 文藝春秋
3.29
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163917610

作品紹介・あらすじ

「おいしいごはんが食べられますように」で芥川賞を受賞した高瀬隼子さんの次なる挑戦。ゲームセンターで働く長井朝陽の日常は、「早見夕日」のペンネームで書いた小説が文学賞を受賞し出版されてから軋みはじめる。兼業作家であることが職場にバレて周囲の朝陽への接し方が微妙に変化し、それとともに執筆中の小説と現実の境界があいまいになっていき……職場や友人関係における繊細な心の動きを描く筆致がさえわたるサスペンスフルな表題作に、早見夕日が芥川賞を受賞してからの顛末を描く「明日、ここは静か」を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞作家・高瀬隼子さんの<私小説>的小説。
    違いますよ完全オールフィクションですと云われても、そう思ったんだからそれでいい。

    そして そう思った私に、主人公の<長井朝陽>、いやペンネーム<早見夕日>、いや高瀬隼子(これもペンネーム)さんは嫌悪感を感じるんだろうな、と苦笑してしまう。

    高瀬作品らしく、コミュニケーション不全や、苦悩する女性の描写が続くが、今作は男である私にも共感できる部分が多かった。
    他者の期待(たとえば友達のノリ)に応えたくて、軽いウソを吐く感じとか。

    繊細でモヤっとしたテーマにも、人間だから仕方がない、なので困るし面白くもあるという気持ちになった。

    また、主人公が執筆中の「作中作」(『幽霊が遊ぶ箱』)がふつうに面白い。なにしろ作中で芥川賞を受賞するのだ。笑

  • いい子のあくびに続き、高瀬さん作品は3作目。きっと内容から逆に実体験ではないと思うが、他者からどう見られるのか、即ち他者とのギャップという観点でいえば、やや前作に似たようなところもある。
    独特な視点で作品作りを行う作家さんだからこそ、もう少し違う内容の作品を読んでみたくもあったが、読めば読むほど、不思議な感覚に陥る妙は、さすが。

    『幽霊が遊ぶ箱』は、ぜひいつか全文読んでみたい。

  • 日常で言語化し辛く感じるモヤモヤが細かく書かれていて共感しやすい。
    読後もモヤモヤが残るけど個人的にはとても好きな残り方。

    嘘はバレないレベルなら嘘じゃないし…と話を盛っちゃうことはあるけど、こんな話を読んじゃうと身につまされるというか…
    ありそうな範囲で歪みが生じていくのがゾワゾワっとした。

  • ゲームセンターで働く長井朝陽は、「早見有日」のペンネームで書いた小説が新人賞を受賞してから職場にも知れてしまう。
    周囲の朝陽への接し方が変化していき…。

    本人にしてみればどちらが自分なのか…というよりどちらも自分であるわけで。
    同僚や友人たちはどう思っているのか考えても自分はただ変わらないはずで。
    わかったような気分で話しかけてくる人たちにいったい何がわかるのだろう。

    うるさいこの音の全部とは、こわいほど感じてしまうあらゆる声なんだろう。
    息苦しさを覚える日常のリアルだとするとたまらないなと思った。






  •  続けての高瀬隼子さん、この作品はめっちゃ混乱しました!

     ゲームセンターで働く長井朝陽、ペンネーム「早見夕日」として執筆した小説が文学賞を受賞することになったことで、取り巻く環境が変化していくというもの…。どこまでが小説なのか読んでいるうちにわからなくなっていくかのような…そんな作品でした。ゲームセンターが小説の舞台になるってのは興味深かったです。もう、1編の「明日、ここは静か」は、早見夕日が作家としてどうあるべきか、イメージだけで過去が自身でもわからなくなっていくかのような…そんな内容です。

     この作品の読後も高瀬隼子さんの作品ならではです。ただ、ストーリーのわかりやすさとザワザワ感をいっぱい味わいたいのなら「おいしいごはん…」「犬のかたち…」「水たまり…」かなって、個人的には感じました。

  • 小説を読むのが好きなのと、小説を実際に書くこととは本当はずいぶん違うことだろうと思う。それをやっている作家さんたちは凄いことをやっているな、と感じた。自分を積極的に発信する人もいるし、ミステリアスに表に出てこない人もいる。反対側に、その人がどんな人なのか頭に入れてその人の小説を読みたい人もいるし、そんなの興味もない人がいる。自分は書く人間ではないのに、読んでいてなんだか苦しくなってしまって、この苦しみは何だろう?共感しているのだろうか?と訳がわからなくなった。

  • ゲームセンターで働きながら小説家としてデビューした女性が主人公。
    現実の話と交え、小説の内容が作中作の様に語られる。

    冴えないながらも平凡に暮らしていたはずが、小説家としてのデビュー作が思わぬ脚光を浴びた事で崩れていく日常。
    現実の自分・長井朝陽と、嘘で作り上げられた作家・早見夕日。
    いつの間にか主人公自身も、読んでるこっちもその境界線が分からなくなっていく。

    相変わらずの高瀬さんワールド!
    ざわざわする〜〜
    ちょっと頭の中ごちゃごちゃってなりながらも面白かった。
    何か事が起こると周りってすぐ騒がしくなるもの。
    大なり小なり実際の日常でもあるあるだよなと思う。
    そしてこんなに極端でなくても、現実とはちょっと違う自分を作ってしまう気持ちも分かる気がする。
    実際の高瀬さんも会社員、兼、作家さんなので少し重なるとこもあったりするのかな?

    モヤモヤっと穏やかではない空気感があるけど、なぜかクセになる作家さんだ。

    • 1Q84O1さん
      mihiroさーん!
      この作品が今年最後のレビューになりそうですか??
      年末の挨拶に参りました!w
      今年一年ありがとうございました(≧▽≦)...
      mihiroさーん!
      この作品が今年最後のレビューになりそうですか??
      年末の挨拶に参りました!w
      今年一年ありがとうございました(≧▽≦)
      また、来年もよろしくお願い致しますm(_ _)m
      2023/12/31
    • mihiroさん
      一休さ〜ん、今年はここまでになりました♪
      今年はたくさん絡んでお話して下さってありがとうございました(TT)♡嬉しかった〜〜⤴︎⤴︎
      来年も...
      一休さ〜ん、今年はここまでになりました♪
      今年はたくさん絡んでお話して下さってありがとうございました(TT)♡嬉しかった〜〜⤴︎⤴︎
      来年もマイペースな私ですが、またよろしくお願いします(*^^*)
      2024年が一休さんとご家族にとって素敵な年になりますように〜✩︎⡱✩︎⡱
      2023/12/31
  • 読後感は、もやもやする。
    美味しいごはんが…と同じような、なんともやるせない気持ちになる。
    ゲーセンに勤務しながら小説を書く朝陽。ついに新人賞を受賞して小説家になり芥川賞をもらう。
    周囲へのリップサービスやゴタゴタ回避のためか、嘘いや虚言を重ねる。
    はらはらしながら読んでいたけど、読んでる私は、どれが嘘でどれが本当なのかわからなくなり混乱した。
    小説家さんって、こういう葛藤が少なからずあるのかもと感じ、本を閉じました

  • 「私は言いたいんじゃなくて、書きたいんです」という最後の心の叫びが印象に残った

    ・ナガイさんと早見さんを一緒に扱われることへの混乱
    ・フィクションの小説と興味を引くインタビューの重圧
    ・小説家の早見へのインタビューにどっちで答えるのかの葛藤

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    構造がすごい

    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)

    嘘だけど嘘じゃない、作家デビューの舞台裏!

    「おいしいごはんが食べられますように」で芥川賞を受賞した高瀬隼子さんが挑む新たなテーマはなんと「作家デビュー」。

    ゲームセンターで働く長井朝陽の日常は、「早見有日」のペンネームで書いた小説が文学賞を受賞し出版されてから軋みはじめる。兼業作家であることが職場にバレて周囲の朝陽への接し方が微妙に変化し、それとともに執筆中の小説と現実の境界があいまいになっていき……職場や友人関係における繊細な心の動きを描く筆致がさえわたるサスペンスフルな表題作に、早見有日が芥川賞を受賞してからの顛末を描く「明日、ここは静か」を併録。


    ⚫︎感想
    芥川賞作家高瀬隼子さんが、芥川賞作家になる前からなってからの早見有日こと長井朝陽を描く作品。冒頭女子大生の話だなと読み進んでいたら、そちらは作中作で、長井朝陽のゲームセンターでの日常生活が描かれ、あ、こっちが実生活か…と読み進めると、溶ける、混ざり合う。
    現実と小説世界が曖昧になる体験自体は、読者が純文学ではよく感じるものだと思うが、「うるさいこの音の全部」という小説内でも現実と小説世界が混ざり合い、さらにメタ構造として、現実の高瀬さん自身も「うるさいこの音の全部」と混ざり合って、大変面白く読めた。

    「求められる自分を演じる」ということ自体は一般人でさえ大なり小なり当てはまるのだろうが、こと有名人ともなると、造られた像と本当の自分との乖離に相当苦しむだろうというのは想像に難くない。

    この作品を読んで、芸術家について考えてみた。
    小説家、画家、造形家、音楽家、書道家、華道家…いずれも自分の中の何かを絞り出して作品を生み出すのだろう。だが、小説家は少し他の芸術とは受け取る側の感覚が違う気がする。小説家は「言葉」で表現するが故に、他の芸術家よりも、作品そのものが、現実を切り取ったり、著者と作品が切り離して考えてもらえにくかったりするのではないか。例えばほかの芸術作品であれば、事細かに「この部分はどういう意味ですか?」「これはあなたですね?」みたいな感じにはっきりとは思われないが、小説だと言葉を操っているせいで、説明可能ではないのか?言葉で表現しているのだから、説明もできるはずなのでは?これは本人の体験だろう、などと思われがちなのではないか。そんなことを少し考えた。

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著者プロフィール

1988年愛媛県生まれ。東京都在住。立命館大学文学部卒業。2019年「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。2022年「おいしいごはんが食べられますように」で第167回芥川賞を受賞。著書に『犬のかたちをしているもの』『水たまりで息をする』『おいしいごはんが食べられますように』『いい子のあくび』『うるさいこの音の全部』がある。

「2024年 『め生える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高瀬隼子の作品

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