日本4.0 国家戦略の新しいリアル (文春新書 1182)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166611829

作品紹介・あらすじ

内戦を完璧に封じ込めた「1.0」=江戸、包括的な近代化を達成した「2.0」=明治、弱点を強みに変えた「3.0」=戦後。そしていま、日本は自ら戦える国「4.0」に進化する!世界的戦略家による緊急提言!日本に核武装はいらない。必要なのは「先制攻撃能力」と「作戦実行メンタリティ」だ。[ルトワック語録より]●日本のチャンスは北朝鮮の非核化が本格的に開始されてからだ。●戦争で必要なのは、勝つためになんでもやるということだ。そこにはズルをすることも含まれる。目的は「勝つこと」であり、「ルールを守ること」ではないからだ。●見事なパレードを行う軍隊は、ほぼ実戦で役に立たない。無駄なことにコストを使っているからだ。●米中の対立の主戦場は、もはや軍事的な領域から、地経学(ジオエコノミックス)的領域に移りつつある。●もし日本が本当にリアルな戦略を考えるならば、最優先されるべきは少子化対策だ。

感想・レビュー・書評

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  • 2018年トランプ政権下で出版された軍事専門家による国家戦略論

    日本の高度な戦略文化論から入る

     1.0 江戸システム 幕藩体制をもって敵を消失させる戦略論
     2.0 明治システム 西洋近代から日本を防衛し、近代化を達成した戦略
     3.0 戦後システム 防衛費をGNPの1%に抑えながら経済大国に押し上げた戦略
     4.0 今求められているシステム 北朝鮮の核や、中国の尖閣から日本を守るために必要な戦略

     4.0に必要なもの
      ①北朝鮮のすべての核関連施設とすべてのミサイルを排除するために、先制攻撃を行う能力
      ②国家の衰退を防ぐために少子化を解消する。
      ③アメリカの同盟軍としての期待を捨て、日本はみずからを防衛するために、自前の国家安全保障を行うべきであり、そのために必要になるが「作戦実行メンタリティ」である。
      ④これまで用意してこなかった、防衛のための攻撃能力を手に入れるために、早急に手にいれるべきは、現実的な戦闘能力である。ズルをしても相手にかつこと。である。
      ⑤実戦の混乱した状況化でのみ、本物の戦闘能力を培うことができる。パレードで素晴らしい動きをする軍は、そのための訓練しかしておらず、弱い。

      自衛隊に必要なのは、 ①常にアクションを仕掛けること、②即興性を恐れないこと ③リスクをとること だ。

      ⑥特殊部隊の育成が必要。冷戦後に大規模な戦闘は起きにくくなっている。大量に兵士が死ぬことは大きなリスクであり、たとえ高額な費用が発生しても、空爆やドローンのような
      攻撃を大国はとっている。だが、その対象は、少数の敵であり、数万という空爆はあまりにも、非効率なのである。

    朝鮮半島の置かれている状況
      ・防空システムは前近代的、
      ・中国が援助をしているにもかかわらず、核実験などを行い、中国の国益を損ね、中国の面子をつぶしているにがにがしい同盟国
      ・アメリカは北朝鮮を中国に渡すことはできない。そうなれば、朝鮮半島に中国軍がなだれこんでくる
      ・アメリカにとって、韓国は守るに値しない国である。38度線に近いソウルから南に経済を移転するように進言したにもかかわらず、韓国は実行していない。
      ・脆弱な韓国軍を補完するために、西ドイツとイタリアから武器をただ同然で導入できなにもかかわらず、韓国は自国での開発を優先した。
      ・トランプの戦略は、核を放棄した北朝鮮がアメリカの保護下で経済的に成長するための援助をすることであったが、うまくいっていない。ちなみに、南アと、リビアではうまく行った。


    現代は、地政学(フィオポリティックス)から地経学(ジオエコノミックス)を重視する時代にはいった
    地経学とは、地政学+経済+貿易 米中の対決でトランプが採用している戦略は、地経学をベースに組み立てられていることを語る

    中国は、過去の時代に受けていた優遇措置をつかって、アメリカに経済的な挑戦をおこなっていて、トランプはその特恵を取り去ろうとしている。
    軍事と密接に組みあわさった、経済、貿易の交渉はある面妥当なのである。

    イノベーションは、過去、小さな組織から起こっていて、中国、アメリカの規模からは、かならずしも継続的に起こるかどうかは定かデハナイ。シリコンバレイは、官僚的なインド人が増えてきていて、ITなど技術の中心がかわりつつあることを最後に示唆している。

    目次

    第1章 日本4.0とは何か

    第2章 北朝鮮の非核化は可能か

    第3章 自衛隊進化論

    第4章 日本は核武装すべきではない

    第5章 自衛隊のための特殊部隊論

    第6章 冷戦後に戦争の文化が終わった

    第7章 「リスク回避」が戦争を長期化させる

    第8章 地政学から、地経学へ

    第9章 米中が戦う地経学的紛争

    訳者解説

  • 2023/05/19:読了
     本自体は、3つのフィールドのうち、「安全保障」に関する2つのフィールドについてだが、冒頭だけに記載されている、残りの1つである少子問題の対策が、いちばん興味深かった。


     P18  北朝鮮危機という契機
     私の考えでは、「日本4.0」が戦わなければならないフィールドは、
     ・北朝鮮の脅威
     ・米中対立を軸とした「地経学」(ジオエコノミックス)的紛争
     ・そして少子社会
     である。

     P22 安全保障と少子問題
     多くの読者は、北朝鮮や尖閣への危機対応という安全保障上の問題と、少子問題が並べて論じられることに違和感を覚えるかもしれない。
     しかし、これらの問題には2つの点で通底するものがある。
     ひとつは、いずれも日本がまさに直面している、致命的な問題でありながら、実際的かつ有効な対処法に誰も取り込もうとしていない点だ。
    (中略)
     もうひとつ、子どもがいなければ、安全保障の論議など何の意味もないということだ。
    (中略)
     もし日本が本当に戦略的な施策を打ち出すのであれば、最も優先されるべきは、無償のチャイルドケアだろう。スウェーデン、フランス、イスラエルは、高い水準のチャイルドケアを整備し、実際に子どもが増えている。

  • 文字通り日本の国家戦略について説いた一冊。

    独特な視点もあり、勉強になった。

  • ルトワックの本、他のも読みたいと思った。奥山先生の翻訳が読みやすかった。

  • 日本のやるべきことはよくわかる。それをやっていないこともよくわかる。どうすれば良いかは読書が考えるほかない。

  • ルトワックの日本への指南書(前半)とグローバルな情勢分析。

    題名の日本4.0とは、日本の戦略文化について、内戦を一掃した徳川幕府を1.0、西欧の帝国主義に飲み込まれないための明治政府の近代化政策が2.0、戦後の軍事面での弱体を日米安保に依存して経済に全力集中した3.0と整理する。その上で、3.0の構造は抑止が効く中露にはともかく、抑止できない北朝鮮との間では、自らの身を自らで守る必要があり、4.0と言うべき戦略文化に移行すべきというもの。

    方法論としては、少子化の傾向を変えて、イノベーションや経済成長の基盤を維持し、北との関係で持っても使えない核兵器は持たず、代わりに実戦的な先制攻撃力や特殊部隊を確保することを挙げている。パレードだけ上手い軍隊を戦えないと非難して、イスラエルやフィンランドのように脅威に晒されている国の軍隊のリアリティを称賛している。

    また、リアリティについては、第二次大戦後に、ポストヒロイックウォーとして、犠牲を避ける傾向がアメリカ軍でも強まっていることを指摘。イスラエルの単純な作戦と異なり、完璧を見据えて作戦規模が拡大して本末転倒になっている状況を指摘している。また、マティスやペトレイアスについても、politically correctな軍人で軍事合理性を欠いていると批判。要するにリスクを恐れない戦士の文化が消えつつあるということ。

    また、最後の章で地政学から地経学という視点で米中対立を分析。

    リアリスティックに戦士の文化を効率的に追求し、新たな戦略文化に至ること、これが現在日本の課題である。

  • ふむ

  • 日本を含むアジア情勢について、北朝鮮に関することを中心に戦略を述べています。
    ほんとに、先制攻撃できる手段を持つことは重要です。戦争自体は反対だけど、戦争を遂行できる能力を持つことは大賛成。こういう話をしてもあまり周りには賛同してもらえませんが。
    例えていうなら、お金持ちのスネ夫は、ジャイアンにむしり取られるだけ、ということ。のび太はドラえもんという戦略兵器を持って、ジャイアンからの直接的な攻撃に対抗するだけでなく、攻撃する気も起こさせないようにすべし。今の日本は、お金を持っているのび太です。

  • 「日本4.0」というタイトルだけれど、日本について論じている部分はごくわずかで、軍事分野を中心に国際的な戦略論の現在の潮流について解説(批判)した本。
    もう少し日本について詳しく語ってほしかったが、そもそも知日派のような専門家ではないのだろう。

    強く興味をそそられるようなテーマではなかったものの、「リスクを極端に恐れ、最小化しようとする現代の軍事文化」が却ってコストの増大や効率性の低下を招いている、という主張は、「一人も死なせてはならない」という前提を前に硬直してしまっている現在のコロナウイルス対策になにか当てはまるような気がして(国家レベルでも個人レベルでも)示唆的だった。

  • 『勝利という目的は得たいのに、リスクという代償は払いたくない。実際には莫大なコストがかかり、犠牲が増える可能性すらある。軽減されているのは指導者の責任だけだ』とあります。これは今の低強度紛争に対する大国の作戦を批判した文脈ですが、日本のリスクナーバスな意思決定そのものにも向けられているようにも思えました。多くの示唆お得られる一冊。

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著者プロフィール

ワシントンにある大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級アドバイザー。戦略家であり、歴史家、経済学者、国防アドバイザーとしての顔も持つ。国防省の官僚や軍のアドバイザー、そしてホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーを務めた経歴もあり。米国だけでなく、日本を含む世界各国の政府や高級士官学校でレクチャーやブリーフィングを行う。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれ。イタリアやイギリス(英軍)で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学で学位を取った後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得。同年国防省長官府に任用される。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論。著書は約20ヵ国語に翻訳されている。邦訳には『クーデター入門』(徳間書店)、『ペンタゴン』(光文社)、『アメリカンドリームの終焉』(飛鳥新社)、『ターボ資本主義』(TBSブリタニカ)、『エドワード・ルトワックの戦略論』(毎日新聞社)、『自滅する中国』(芙蓉書房出版)、『中国4.0』(文春新書)、『戦争にチャンスを与えよ』(文春新書)がある。

「2018年 『ルトワックの”クーデター入門"』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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