ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる (文春新書 1191)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166611911

作品紹介・あらすじ

ベートーベンが「市民」をつくった?「近代+土着」でドイツを勝利させたワーグナー。歴史の流れがするすると頭に入る、斬新な音楽史&世界史。「歌は世につれ、世は歌につれ」と言いますが、これは流行歌だけに限った話ではありません。一般大衆から遊離したハイカルチャーに思えるクラシック音楽も、実は社会、経済と深いつながりがあるのです。19世紀に質量ともにピークを迎えたクラシック音楽は、大都市の市民階級という新しい消費者に向けられた最新の文化商品でもあったのです。誰が注文し、いかにして作られ、どのように演奏され、どこで消費されたか。クラシック音楽を知れば世界史がわかる! といっても過言ではありません。博覧強記の片山杜秀さんが縦横に語りまくる本書を読めば、激動の近代ヨーロッパの歴史が楽しく頭に入ります。・音楽が時代の影響を受けやすい経済的理由・宗教改革で音楽は「簡素」になった・「時代遅れ」だったバッハ・トルコ軍楽隊が西洋に与えた影響・なぜモーツァルトは就活で苦しんだのか?・革命の騒音が音楽を「爆音化」した・産業革命が楽器を一変させた・ベートベン最大のヒット作は「戦争の再現ドラマ」・世界中が真似たワーグナー・システム ほか

感想・レビュー・書評

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  • 教会音楽?クラシック音楽?バッハ?ベートーヴェン?ワーグナー?なにが違うの???

    …と、音楽的素養のない私にはそう感じられるのだが、この本を読んで、世の中や教会の権威、音楽の受け取り手の世界史の中での変容に応じて(またはあらがう形で)、音楽が歴史を紡いできたことを知ることが出来た。当時の世の中の受け取り手に向けて、こういう意味合いで作られた音楽…という作品の背景を知り、敷居の高い音楽、全く分からない音の羅列を、理解するヒントが得られたような気がする。
    ベートーヴェンの運命の、覚えやすい冒頭のメロディーは、なぜそうなっているのか、が分かる。

  • タイトルに惹かれて図書館で借りた。次の予約が入っていて延長不可とのこと。人気なのかな?

    「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」というのは、クラシック音楽のある曲を聴けば、その時代の様相が見えてくるというような意味合いかと思うが、それはなかなか素人には難しい。

    本書を読んで、クラッシック音楽の曲作りには、その時代の様相が反映されているんだなということがおぼろげなながら分かった。

    誰のために曲を作るのか、どんな目的で作るのか、また作曲家はどのようなことを志向して作曲するのか、どんな境遇で作曲するのか、、、そういうことで生みだされる曲の作りは違ったものとなる。

    第一章ではグレゴリオ聖歌の話。第二章では宗教改革を行ったルターの賛美歌やオペラの話。第三章ではバッハ、ヘンデル、テレマン、ハイドン、モーツァルト、第四章ではベートーヴェン、第五章ではロマン派のメンデルスゾーン、シューマン、ショパン、第六章ではワーグナー、そして、第七章ではマーラー、シュトラウス、ラヴェルらについて書かれている。

    教会のための曲作り、王侯貴族のための曲作り、そして庶民のための曲作り、市民の富裕層のための格調高い曲作りへと、時代とともに対象や目的は変遷する。ワーグナーの時代に至っては、主役が聴衆から芸術家(作曲家)へと入れ替わり、そういう曲作りとなっていく。

    第三章のバッハ、ヘンデル、テレマンの3人に比較は面白かった。最も知名度が低いと感じられるテレマンが、その時代では最も活躍していたようだ。バッハの志向は、その時代には受けず、むしろ後世になって受け入れられた。

    あの天才モーツァルトは音楽で、悠々生涯を終えたのかと思いきや、時代の影響をうけ、求職に苦労する生涯だったようだ。「バッハやテレマンなどが正規雇用の宮廷楽長だとすると、モーツァルトは非正規雇用の扱いでした」などいう著者の表現が分かりやすくて面白い。

    続く第四章では、著者の熱い語りに、読者は間違いなくベートーヴェンに魅了されるはずだ。著者独特の「〇〇でございます」調が、この章だけ多発する(笑)。

    庶民をターゲットとしたベートーヴェンの革新的な曲作りについて、著者はその特徴を「わかりやすい✖うるさい✖新しい」と端的に表現し、その一つひとつを検証するような形で述べている。

    著者の熱弁を読み進めるに際し、思わず交響曲第一から第九までの9つを聴き比べながら読まざるを得なかった。

    また、ベートーヴェンの生涯を語り、「ベートーヴェンは音楽だけでなくその人生も作品なのです」は著者の名言だなと思う。

    これまで、クラシック音楽については、一把一絡げの感覚であったが、本書を読んで少なくとも今後は、本書に登場する著名な作曲家を聴く時には、本書の章立てくらいには意識を区別して聴くようにしたい。

  • 音楽はそもそも教会、王侯貴族、ブルジョア階級の権威を表す手段であったから、今日でもなんとなく権威があるように捉えられている。
    古代以前の音楽は楽譜が残っていなため詳細不明。判明している起源は教皇が編纂したグレゴリオ聖歌であり、9世紀頃の成立。ネウマ譜に残されており今日の楽譜の起源。単旋律(モノフォニー)、声楽のみが特徴。
    12世紀ルネサンス後複線律(ポリフォニー)が盛んとなる。伊のパレストリーナが代表格。科学発展による神の世界の秩序の複雑化が背景にある。宗教改革を機に教会権威は落ち、ポリフォニーから独唱の時代となる。
    ルネサンスと宗教改革を経て音楽の主要舞台は教会から世俗へ移行。王族や富裕層がパトロンとなる。バッハはモノフォニー時代に逆行しポリフォニーに拘り厳格厳密な音楽を構築。当時は流行らなかった。
    モーツァルトの頃には宮廷財力が低下。就職活動に苦労しフリーの音楽家として生計立てる。当時は軽薄とされ評価が高まるのは19世紀後半以後である。
    ハイドンはハンガリー大貴族付の楽団長として活躍後、ロンドンでも活躍。交響曲の父とされる。その弟子ベートーベンは市民にわかりやすく覚えやすいメロディーを追求。成り上がりの小金持ちを退屈させないため。
    ポストベートーベンのロマン派はシューマン、ショパン、シューベルトなど。ワーグナーは民族主義を追求。19世紀後半以降は資本主義の加速と機械化、グローバル化に伴う市民の不安感が作曲のテーマとなり、無調楽曲など作成される。

  • 音楽は一人では演奏できないから、極めて社会的営み。だから当時の社会がわかる。と非常に納得感のある講義でした。聞き手、楽器製作の技術、お金の出どころなどなどの条件で音楽性自体も変わってくるのだな。

  • タイトルを見て面白そうだったので衝動買い。
    でも、これは良かった。

    読みやすい。
    そして的を得た指摘。

    およそ芸術と名の付くものに共通する点も多い事柄。
    その作品は誰のために作られたのか。歴史の流れに於ける聴く側と作る側の関係の変遷を概観する事で新たな視点が加わった。

    多くの場合、今までは作品をそのまま1つの存在として観たり聴いたりしていて、その背後にある事柄・歴史をほとんど意識して来なかった。
    耳を凝らして聴いても聴こえて来ないもの、幾らじっくり観ても見えてこないものには無頓着だつた。

    他の本を読んでそういうことの重要さは理解していたつもりだったが実践を伴っていなかった。
    この本を読んで背後に、ある何かを考える際の指針を得た気がする。

    今後は面倒でも作品の背景も調べて観たり聴いたりする様に心掛けたい。

  • 脳内革命が起こった。何回読み直しても新しい発見があります。

  • 第3章までは、普通の音楽史に書かれている普通の進行だが、第4章の「ベートーベンの時代」から面白くなってくる。

    市民の時代において、市民と向き合うことで生まれてきたのがベートーベンの音楽である。
    キーワードは、①わかりやすい(簡易・単主題) ②うるさい(刺激・エネルギー・力) ③新しがる(資本主義・驚き)

    ちょっと強引に作曲家と時代を関連付けすぎていると感じる部分もあるが、代表的作曲家が存在した時代背景についての認識を持っているのと、持たずにいるのでは、聴こえてくる音が全く違ってくるだろう。

    ベートーベン以降はシェーンベルクに至る(ロマン派から近代)、社会と音楽の変遷が非常分かりやすくまとめられている。この様な説明を受けると、それぞれの作曲家が出てきたのは偶然ではなく必然だったのだと思わされる。

    この本で直接的に書かれているわけでは無いが、ワーグナーとヒットラーが台頭してきた背景があまりにも似ているのにビックリ。



  • 背ラベル:762.3-ベ

  • ふむ

  • 表題は引きつけるためのもので、内容は少し違う。
    いわゆるクラシックの歴史を、世界の歴史の流れの中で説明しました、という本。
    ベートーヴェン関連の部分は知っていたが、ワーグナー関連の部分は知らないこともあり、なるほどと思えた。
    クラシックを聞く耳が変わる。

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著者プロフィール

1963年生まれ。政治思想史研究者、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』(いずれもアルテスパブリッシング、吉田秀和賞およびサントリー学芸賞)、『未完のファシズム』(新潮選書、司馬遼太郎賞)、『鬼子の歌』(講談社)、『尊皇攘夷』(新潮選書)ほかがある。

「2023年 『日本の作曲2010-2019』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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