なぜ日本の会社は生産性が低いのか? (文春新書 1202)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166612024

作品紹介・あらすじ

人気エコノミストが徹底解説!長時間労働、ワンオペ地獄、人材に投資しない……だから給料が上がらない「働き方」の不条理を解決するツボが丸わかり!「生産性を高めよう」が合言葉になっている。きっかけは安倍政権が「働き方改革」を提唱したことだ。実際、日本企業の生産性はスペインやイタリアにも劣り、先進国で最低レベルまで落ち込んでいる。たくさん働いているのに、稼げなくなっているのだ。いったいなぜ、日本は生産性が低くなってしまったのか?じつは日本企業は、旧日本軍と同じ失敗をしている。たとえば近年、日本企業はどこも「ワンオペ」が増えている。社員1人で膨大な作業量を何でもこなすシステムだ。しかし、各個人が孤立して仕事をしているため、組織全体の効率は追究できない。また、ノウハウを組織でシェアできないという致命的な欠陥がある。チームで効率よく仕事をやるほうが、圧倒的に強いのだ。これは特攻と何ら変わらない。大局的な戦略をもたず、現場の個人に「がんばれ!」「なんとかしろ!」と精神論で負荷をかけ、一発逆転の局面打開を期待する……これでは勝利は望めない。本書は、日本企業のどんなところが低生産性を招いているのかを具体的に指摘したうえで、「では生産性をあげるために何をすべきか?」を具体的に提言する。本当の「働き方改革」はここにあり!

感想・レビュー・書評

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  •  参院選が近いのと、絶賛転職活動中の身として気になるテーマ。なぜ給料が上がらないのか=企業の生産性が上がらないから=経費削減されたまま教育を怠り、チームではなく個人で生産性を上げようとしているから。要は経営者のマインドに因るのでは?いち従業員レベルではどうしようもないことが多すぎでは?と思ってしまった。とにかくまとめると、失敗を恐れずリスクを取ってガンガン投資し、成長産業を見つけてね、ということか。

  • 2023年12月読了。
    2019年1月第1刷なので少々古いのだが褪せない内容だと思う。

    9ページ
    過去の成功体験が私たちを束縛する
    →「物量重視」、「持久戦志向」、「判断の柔軟性」、これを目指すことが肝要。特に「持久戦志向」は大いに共感する。職場の限られた人の「職人芸」を誉めそやしているようでは危ないことだと思う。

    20ページ
    OECD加盟国内では日本は相対的には低所得、例えば2016年段階のトップはスイスだが、国民1人あたりの所得は日本はスイスの半分以下。

    33ページ
    サービス業よりも製造業のウェイトが高い日本、ドイツ、イタリア、韓国。なんだかんだ言っても物を作って金に変えるモデルからは抜けられないのか。

    37ページ
    狭いエリアで戦い、価格競争をしない戦略
    →これも目新しい理屈ではないんだろうが、できていそうでできていない。

    62ページ
    人件費抑制のツールとしての「成果主義」
    →2000年代初頭に流行った成果主義だが、これは要するに年功制が維持できる程の成長力を失った企業が人件費を抑えるために導入した仕組みという評価が定着しているような気がする。「なんか勇ましい」ように聞こえる成果主義だが、定見なくなんとなく導入すると失敗しそうだ?

    64ページ
    生産性アップを個人のパフォーマンスのみに求める愚
    →ロクに資本を投下しないでもっと働けと言われたってそれはできない相談というもの。賃金を上げらない経営者は恥を知れ。

  • 本書は、読んでみると「はじめに」のつかみから面白い。
    現在の労働現場では、「ボッチ仕事」というワンオペが増えていると言っています。中高年のサラリーマンの中で、一人でプロジェクトを進めている役職者が多くいるというのです。
    「劇団ひとり」ならぬ「チーム自分ひとり」だというのです。
    本書は言います。「本来、企業とは、大人数が協働することによって一人仕事よりも生産性を高めることを目的としてつくられたはずである」と。
    それが「チーム自分ひとり」になってしまうと、生産性を上げるために日々努力しているそれぞれのノウハウが誰にも継承されることはなくなるというのです。
    そして、企業経営者は「生産性上昇」というミッションを、組織として考えることをせずに、個人に丸投げしている側面が隠れていると指摘しています。
    「生産性を高めよう」との動きは、2016年に安倍政権が「働き方改革」を提唱ししたことで、社会全体に広がりました。
    しかし、その内容は「個人のオペレーション」に強く依存した形で生産性上昇を求めるものとなっています。「個人の頑張りで何とかしろ」と。
    本書は指摘します。「いくら個人が頑張っても、企業組織やチームの生産性は、全体の機能やビジネスモデルが変わらなければ、大きく向上することはない」と。
    著者は、旧日本軍の「失敗の本質」を例示して、「共通した体質がにじみ出てくるところが怖い」と書いています。
    日本のOECD諸国の所得ランキングは、2016年時点で19位です。
    過去日本は1986~97年まで3位か4位を保持していたことを思うと、その凋落ぶりは際立っています。
    本書は、この日本の経済的地位の低下は、「生産性の低下」によって生じたものだと言っています。
    その原因として、高齢化だけではこれほど劇的な生産性の低下はないと主張して、90年代から非正規雇用に就業者がシフトしていったことを上げています。
    日本の弱点は「サービス業」であるとして以下のような考察をしているのです。
    業種別の労働生産性のデータを分析し、そこから平均年収を計算すると、飲食店(108万円)、洗濯・理容・美容・浴場業(125万円)、持ち帰り・配達飲食サービス業(148万円)など個人サービス部門はとりわけ低い実態があるといいます。
    この労働集約型サービス業だけが就業者数を増やしているというのです。もっとも労働生産性が低い労働集約型サービス業にほかのカテゴリーから就業者が移動してくるので、結果として全体平均の生産性が下がってしまっていると考察しています。
    また、医療・福祉・介護は、労働集約的な性質がとりわけ強くて、機械化・システム化によって生産性が高まりにくい。また、財政再建の必要から構造的な低生産性になっているといいます。
    そして、会社員が高齢化するだけではなく、個人向けサービスの主な顧客も高齢化しています。
    いまや個人消費の49.2%(2017年)が、世帯主60歳以上のシニア消費によって占められているというのです。
    高齢者は節約志向が強いため、高齢者向けのサービスは価格を引き下げないと成り立たちません。
    そうなると労働者を非正規化させてコストを下げていかざるを得ない。そこで賃金の低い非正規労働者の増加となります。低生産性が再生産されることとなっているというのです。
    それから社内人口が、高齢化によってピラミッド型から逆ピラミッドになると、人件費負担が急増します。
    高齢化による人件費の急増を恐れた経営者は「成果主義」を導入します。隠された目的は「人件費の抑制」です。
    その「成果主義」の定着によって、企業が個人を単位に業績を考えることが当然視される風潮を生んだと本書は指摘しています。
    社員に余裕がなくなり、会社が個人単位に業績を考えるようになると、社内でのスキルの伝承の社内教育も行われなくなります。これも生産性低下を引き起こしたとされています。
    また、ワンオペ仕事の中で、教育習慣も失われたとも指摘しています。日本企業から、重要な教育習慣が失われたことが生産性低下の理由の一つだとしているのです。
    長時間労働をなくすには、「生産性上昇」が必要です。
    しかし、長時間労働は一人当たりの仕事量が多すぎてさばききれないことが原因です。「自分で工夫すれば長時間労働をなくせる」とは納得ができないと主張しています。
    マネジメントに問題があるのです。そこが未解決のまま規制で上限を縛っても、長時間労働は隠されてしまうだけです。
    本書は「経費節減したまま、生産性向上を求めようとする愚」と指摘しています。企業経営者への厳しい批判です。
    大企業の巨額の内部留保については、すでに広くよく知られていることですが、本書では中小企業も2013年ごろから年間のキャッシュ増加額が拡大してきて「どこも金余り病」だと指摘しています。
    その理由として「経費節減」の慣性力が組織全体に蔓延しやすいからだと主張しています。組織の習慣によるものだというのです。
    その習慣の理由として、2000年代のデフレ期にはこれで成功したという経営者の「成功体験」を上げています。
    本書を読むと、確かに説得力はそれなりにはあるのですが、理由はそれだけなのだろうかとも考えてしまいます。
    本書は、日本の生産性がなぜ低いのかについて、多くの示唆がありますが、まだまだこれがすべての理由なのかがよくわからない思いを持ちました。本書は興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします

  • 【目次】(「BOOK」データベースより)
    はじめに 「生産性の低下」で日本は貧しくなっている/第1章 日本企業はなぜ生産性が低いのか?(堕落した日本企業/ワンオペ化する日本企業の現場)/第2章 生産性とは何だろう?(かゆいところに手が届かない経済理論/生産性を捉え直す)/第3章 「働き方改革」の錯覚(「働き方改革」は生産性を高めるか/生産性上昇は個人任せでよいのか ほか)/第4章 生産性を上げるにはどうすべきか?(人材育成と組織改編/無形資産の生み出すもの ほか)

  • 読んでいて日本の実情を思うと、惨憺たる気持ちになる。がっくし。
    解決法はあるが、今の日本の経済政策の失敗をみていると、
    解決する気はないのでは無いかと感じる。
    がっくし。

  • 購買力のある消費者の減少がイノベーションのモチベーションを下げ、結果的に生産性を下げているという主張は面白い。言われてみれば、飛び抜けたサービスや商品を買う人、周りに少ない気がする。

  • どこかで見たようなことしか書いていない。第一生命は首席エコノミストが顕名でこんなつまらない本を書いてて困らないのか。

  • インパクトはなし。

    共感・感心したところ
    ○成果を増やすセオリー
    1.余力づくり…まず効率化
    2.投資…浮いた時間・人材でトライアル&エラー
    3.横展開…上手く行ったら他部署にも適用
    ○なにもしないこと(=前例踏襲)のリスク。リスク許容力の小さな上司は最悪。
    ○政府の働き方改革は「個人の工夫で生産性を上げろ」という前提

  • 部下がいないワンオペの責任者、管理職が多い。役職定年の人たちも同じ。企業の価値を生かしきれていない。
    ノウハウが伝わらない。生産性向上を一人の責任に押し付けている。組織で利益をあげる発想がない。

    リーマンショックの時、節約で乗り切った。キャッシュリッチはその結果。節約で利益を積み上げる成功体験から抜け出せない。

    日本と同じ産業構造=ドイツ、イタリア。製造業の割合が高い。
    アメリカイギリスがにている。サービス産業が高い。
    ドイツには隠れたチャンピオン企業がいる。ニッチな分野でBTOB、世界シェアが一位、中小企業。
    日本の中小企業は大企業の下請けが多い。
    ニッチ市場でグローバル化する。

    シニア消費は拡大しない。

    生産性が低いのは少子高齢化、人口減少、非正規化、だけではない。

    成果主義は教育習慣が失う要因。
    モラル低下=一人仕事が増える、明るい将来が見通せない。
    他人の面倒を見ても成果には反映されにくい。
    短期的な利益にはしる。

    戦時下のGMでは戦争に追い込まれて性三瀬が向上=忠誠心とやる気の高まりが背景にあった。
    成果主義飛ばし反対の方向性だった。
    無形資産への支出が減らされて、士気が上がらない結果となっている。

    TPP=全要素生産性。ソロー。
    リッチな消費者が少なくなるとサービスが停滞し生産性が延びない。

    節約志向が、設備投資を躊躇させ、韓国サムソンに敗れた。量を売り切る自信がない。

  •  自己啓発の文脈上にある個人の生産性向上ではなく、会社組織の生産性の話としてよくまとまっており読みやすい。一律にはいえないとは思うけど、まあ大方はそうだろうな。それはなぜかと分析するとこうなんだろうという万人に想像できる範囲の内容だろう。それが実現されていないとすればもうこれは構造的な問題というしかない。女性活躍もそうだったけど上に立つものほど柔軟で先進的な思考をもたなければ組織はだめになる。自分の類型の再生産を繰り返しているような組織に未来はない。

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著者プロフィール

第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト。1967年 山口県生まれ。 横浜国立大学経済学部卒。1990年 日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年 第一生命経済研究所に入社。2011年から現職。主な著書に『なぜ日本の会社は生産性が低いのか?』(文春新書)ほか

「2022年 『デジタル国家ウクライナはロシアに勝利するか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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