経理から見た日本陸軍 (文春新書 1312)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166613120

感想・レビュー・書評

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  • 陸軍の会計監査官がコンサルタントのような働きをし、経理面で企業形態を先進化を促したなど、軍という巨大な歯車が動くことによって生じた、日本の近現代化という側面が興味深かった。資料も豊富で、膨大な数値を見る人が見れば、そこから色んな実情が読み取れそう。

  • 普段、軍事作戦や政治介入の観点から主に叙述される日本陸軍を経理の視点から見てみるという切り口の面白い本。

    専門性の強い分野なので、網羅的では無く、読者が飽きないようにわかりやすいテーマから説明している。

    例えば、大蔵省とのバトル、日用品の単価、関特演を予算から見ると動員と、動員先での維持経費で現在価値で9兆円ともいう壮大な無駄遣いだったこと、陸軍省軍人のサラリーマンとしての仕事ぶり、食事や階級別給料、各種物資の調達と契約担当官の悲哀などなど。

    その後、筆者の本業とも言える原価計算による価格算定方式や経理幹部の教育カリキュラム、経理組織の変遷などの話になるが、ここまで来ると専門的過ぎて素人にはついていけない世界になってしまった。

    とは言え、2/3の内容は門外漢にも大変わかりやすく、貴重かつ明快な研究成果と言える。

  • 経理の専門的なことは一切分かりませんが
    ちょいとした軍ネタ拾いに購入。

    しっかし、関特演(関東軍特種演習)予算が
    現在価値8兆5000億円とは・・・。

  • あまり聞いたことのない話がたくさん載っている本でした。

    「兵器価格は生産原価を基礎に、類似品の生産価格や従来の統計値、経験等に基づいて定価を算出し」て陸軍大臣が認可し、「兵器価格表」などを作成していたという。
    現在価値に換算すると
    鉄帽48,000円
    三八式歩兵銃45万円
    九九式軽機関銃675万円
    九七式中戦車(武器除く)8億2,700万円
    など(昭和16年)。素人目には高く見える。現在とは違って機械による大量生産とかないだろうし、そういう意味では妥当なのかもしれないが。

    その一方で、兵隊の給料は安い。
    二等兵乙だと月額約3万円(現在価値)で、現在の自衛隊の二等陸士16万4,700円と比べると大きな違いがある。もちろん兵営に入っていて食費負担がないのだろうけど。
    死亡賜金も二等兵は75万円程度である(ほかに埋葬料19万円)。
    武器は高くて兵隊は安いのだとすると、バンザイ突撃もさせるし、人海戦術になるのかね。

    一方で将官の給料はかなりの高待遇である。ひっそりと賞与も支給されていた(兵隊にも出ている)。そのうえ戦時加算がバンバンつく。
    平和になると軍人の数が減らされて懐も寂しくなる、という話はよく聞くが、この金額を見ると「そりゃそうだろう」と思う。
    そして、軍人からするとアメリカとの大戦争なんかはもってのほかだけど、小さな事変を起こすのは経済的なインセンティブがあったのだろうな。立派な大義名分を掲げていても、醒めるね。

    こういう話だけじゃないのだけど、福田赳夫が大蔵省職員だった頃に陸軍と予算折衝で対峙していた話とか、いろいろな話が載っています。

  • 手の付け所は面白いが、読み進めるうちに少し退屈になるのも事実。

  • ●陸軍省で物と金を握っていたのが経理局だ。陸軍軍政の1部として、軍需諸物件の調達、管理、補給及び人馬の給養(食事)並びに財務を指す。
    ●軍隊は予算がないと動けない。日華事変が片付かなかったのは軍の責任ではない。議会の責任だ。
    ●関東軍特殊演習、通称「関特演」の壮大な無駄遣い。ノモンハン事変の失敗もあり、北方の安全を確保する好機と捉えた参謀本部がソ連との戦争準備に向けて、一気に邁進するのである。
    ●給料と被覆費、食費で予算の6割。計算上、ご飯は1日6合。12杯。麦が少し入るのは、脚気予防のため。因みに献立も経理が決めていた。一汁一菜で肉が出るのは週二回くらい。
    ●兵器と言うと、銃や大砲、軍艦などの武器をイメージするが、通信機材や給水機材も「兵器」なのだ。
    ●幹部は俸給で、年俸。12等分した金額が毎月末に支給。下士官以下の給料は月額。二等兵は月額たったの6円(約3万円)。徴兵だから仕方がないとしても、小遣い程度の給料。
    戦時増俸、出戦手当、戦地増俸。死亡賜金で相続争い。大将は1100万、二等兵75万。別途遺族年金が大将で年1500万、二等兵で年135万
    ●エリートたちは、一流企業からと軍からと給料を2重取り。
    ●酒保(軍隊の営内あった売店)で人気の定番メニューの1つがパイナップルの缶詰。鳳梨缶。酒保は兵士の士気の維持、向上に必要不可欠であり、その中でも、酒・タバコ・上品を嗜好品のラインナップが必需品だった。
    ●特別会計は拡大解釈により固定資本を拡張し、不足する運転資本を前受金や借り入れ兵器等を使用して満たし、そして決算時に完成品と仕掛品の区分を変更することにより利益操作を行う手段だった。コンプラ違反の常習であり、大きな不祥事が何度か発生していたのは、このような組織風土とは無縁ではないだろう
    ●軍刀20、38式歩兵銃45、軽機関銃は3〜700万。対戦車ライフル3150万。戦車が4〜8億。化学兵器は安く、貧者の核兵器。

  • 腹が減っては戦はできぬ。経理の視点から見た日本陸軍の意外な側面。

    太平洋戦争は技術力もあろうが、物量、補給つまりは国力で敗けたというのが定説。とはいえ具体的な補給、企業と同じくヒトモノカネの動きについてはあまり語られない。

    本書は残された陸軍の予算や会計の資料を掲示して、戦争に必要な予算や兵士に対する食料や給与、被服や装備などを具体的に描く。

    輸送力の弱い日本陸軍。補給品は現地で確保しなければならない。軍に先行して進軍する経理部員の苦闘。娯楽の少ない僻地。唯一の楽しみの日本酒の調達と劣化をふせぐ工夫。

    戦争についてこれだけ具体的な金額を算定して描いた作品は画期的。近代装備をするためにも何より予算が必要。結局は国力と結びつくのだが。

    筆者は元防衛事務官。調達関係畑を歩いた後に学者に転向したという。軍事史に新たな視点を与えた点、本書を高く評価したい。

  • 滅茶苦茶面白かった。この視点で陸軍を徹底的に解剖した本は読んだことがなかったので目から鱗の連続で夢中で拝読させていただきました。予算の箍が結構あったことや、階級間での凄まじい給与差や関特演の途轍もない無駄使いや缶詰の件、「日本酒の手入れ」、山下奉文に始まる原価計算のあれこれ等々、好事家にはたまらない内容の数々。本当に読んで良かった。

  •  著者は会計畑にいた元防衛省事務官。原価計算や会計のケーススタディか、といった部分は頭に入りにくいが、全体的には個別トピックの積み重ねで、面白い箇所も多い。
     関特演の後始末。独ソ戦序盤の独の勢いや陸軍は動員に時間にかかることを考えれば、参謀本部が大規模な関特演を主張したのも軍事的には一理あったのかもしれない。しかし開戦は断念しつつも集積は行ったことから、膨大な予算が必要となった。
     ほか、陸軍省担当主計官福田赳夫の外地を含む現地視察。「委任経理」で予め決まった予算の中での糧食や被服のやりくり。今よりずっと大きい将と兵の給与格差。魚肉缶詰の導入。外地現地での糧食調達の苦労と、ラバウルで自ら畑を耕す今村均第八軍司令官。満洲と中国戦線での日本酒「手入れ」や醸造の苦労。海軍が押さえていた抹茶を詐術を使って入手するのは、「経理部魂」とは言っても、現代なら完全にアウトだろう。当時でも「法を犯す」との意識はあったようだが。また、経理上の不正の原因に色恋絡みが多いのは普遍的なようだ。

  • 【目次】(「BOOK」データベースより)
    第1章 軍隊も予算がないと動けなかった/第2章 経理から見た軍隊生活/第3章 補給品を確保せよ!!/第4章 軍需品の価格はどう決まっていたのか/第5章 陸軍経理部の歴史/第6章 陸軍にもあった経理上の不正

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著者プロフィール

1959年8月東京生まれ。成人教育学博士。NPO学習学協会代表理事、京都造形芸術大学教授(一般教養カリキュラム開発担当)、NPOハロードリーム実行委員会理事、一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会理事、一般財団法人しつもん財団理事。東京大学文学部社会学科卒業、ミネソタ大学大学院修了(成人教育学 Ph.D.)。ミネソタ州政府貿易局、松下政経塾研究主担当、NHK教育テレビ「実践ビジネス英会話」「三か月トピック英会話:SNSで磨く英語アウトプット表現術」の講師などを歴任。「教育学」を超える「学習学」を提唱し、大人数の参加型研修講師、TVニュース番組のアンカーとして定評がある。著書54冊を数え、年5~6冊のペースで執筆活動を行う。

「2014年 『すぐに使える It’s英会話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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