- Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167145262
作品紹介・あらすじ
西南戦争で共に腕を負傷した同期の大尉二人。病院で一人は腕を切断され、もう一人は、軍医の気まぐれから切らずに治療することになる。これがその後の二人の進路を大きく隔てることになった。運命の残酷を描く直木賞受賞作「光と影」のほか、初期の医学ものの傑作「宣告」「猿の抵抗」「薔薇連想」を収録。
感想・レビュー・書評
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『光と影』は、医師の思いつきから腕を切断された主人公とされなかった同期の、対照的となってしまった人生が描かれている。
主人公は、自分より優れているとは思えない同期がどんどん出世していく姿を、常に自身の取り残されていく人生と対比しながら生きていく事となる。
こういう事は現代の世界でも常にある事であり、例えば企業の中で戦いに負けたと感ずる多くの人が共感する事かと思う。
最後医師から真実を告げられた時、主人公の中で何かが弾けた音が聞こえる様だった。羨望と妬みの思いから抜けられずに生き続けた姿が苦しくて涙が滲んでしまった。
他の作品も、医学博士の著者ならではの視点や人間に対する皮肉や醜さなどが込められており、渡辺淳一作品の面白さがよく分かりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
直木賞を受賞した表題作のほか、初期の医学小説三編を収録しています。
「光と影」は、西南戦争でおなじように腕に傷を負うことになった小武敬介と寺内正毅の生涯をえがいた作品です。二人の治療に当たった医者のほんのわずかな気分のちがいで、小武は腕を切断され、寺内は腕をのこされることになります。先に怪我から回復した小武は、予備役に編入され、やがて軍の外郭団体である偕行社で事務の仕事をすることになります。一方寺内の方は、腕の治療が思うようにならず苦しみますが、その後すこしずつ回復し、軍にもどって順調に出世します。こうして、二人の運命がしだいにへだたりを生んでいく様子がたどられます。
「宣告」は、末期の直腸癌に侵された画家の祁答院正篤の物語です。外科医師の船井俊介は、芸術家である祁答院にのこされた時間を使って優れた作品を残してもらいたいと考え、彼に余命を告げることを決断します。その結果、彼の思いは裏切られ、祁答院は生気をうしなって消沈する日々を送ることになりますが、死の直前に祁答院は故郷に帰り、最後の作品に取り組むことを決意します。
「猿の抵抗」は、梅毒に侵された川合という男の物語です。彼の担当している桐田医師が、学生たちの前で彼を単なる「症例」としてあつかうことに苛立った彼は、反抗を試みます。
「薔薇連想」は、劇団の研究生をしている氷見子という若い女性が、宇月友一郎というテレビ局の宣伝部長をしている男に梅毒を感染される物語です。
「薔薇連想」は、著者の性愛観を考えるうえで重要な作品ではないかと、個人的には思っています。著者の性愛観というと、医学的な知識にもたれかかった本質主義的な発言が多く、批判を浴びることもしばしばです。たしかにそうした批判はあたっているといえなくもないのですが、この作品のなかで主人公の氷見子は梅毒に侵された多くの者たちの血が自分のなかに入り込み、さらに他の男たちにつながっていくという連想に基づいて行動しています。ここには、著者の性愛観において医学的な知見と文学的な想像力が接続するポイントを見定めるための、貴重な視点が提示されているように思います。 -
内容が難しかった
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おそらく25年ぶりくらいに読んだ。もともは高校時代に渡辺淳一さんを知った本である。
光と影の分かれ目のポイントが渡辺さんらしいんだな。他の作家だったら、多分違う部分に持ってきただろう。 -
「光と影」実在した人物を下地にしたフィクション。主人公が、一度は優越感を抱いてしまったゆえに転落していく姿が哀しい。「サラバ!」の弟みたいな感じ。個人的には「薔薇連想」がしっかり怖かったなあ…
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978-4-16-714526-2 267p 2014・5・20 新装版5刷
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重かった。。。
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時間があれば。
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渡辺淳一が世に出た直木賞受賞作「光と影」をはじめ、初期の医学をテーマにした「宣告」「猿の抵抗」「薔薇連想」を所収した文庫。
「光と影」:陸首のちに首相にもなる寺内正毅、そしてその同級生とのまさに運命の悪戯ともいえる医療処理によって、2人の運命・人生が大きく動いていく。
渡辺淳一は、ただのエロ親父ではなかった、と痛感させられる作品。
収録されるその他の作品も医療を素材にした作品という点で、まさに渡辺淳一らしさがあふれている。とはいえ、「猿の抵抗」「薔薇連想」も梅毒患者の話というのもその後の渡辺作品の片鱗を伺わせているような気もした。 -
人生とはほんの少しの人の気まぐれや、ちょっとしたボタンのかけちがいみたいなものでこんなに大きく変わってしまうものなのか…。
影が影過ぎて…胸が苦しくなった。