- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167277208
作品紹介・あらすじ
つましい月給暮らしの水田仙吉と軍需景気で羽振りのいい中小企業の社長門倉修造との間の友情は、まるで神社の鳥居に並んだ一対の狛犬あ、うんのように親密なものであった。太平洋戦争をひかえた世相を背景に男の熱い友情と親友の妻への密かな思慕が織りなす市井の家族の情景を鮮やかに描いた著者唯一の長篇小説。
感想・レビュー・書評
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向田邦子さんは当然知っている。知っているけれど作品は恥ずかしながら読んだことがない。私にとって向田邦子デビュー作となったのがこの「あ・うん」で、苦手なジャンルかと思いきや見事なまでに引き込まれてしまった。
門倉の言葉や、水田の一人娘さと子の言葉に幾度もはっとさせられた。特に「芋俵」の門倉の熱弁…人間の心理描写が巧みで、読み応え抜群の作品だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「いちばん大切なことって、人には言わないものなんでしょ。」
曖昧な物事や関係まで、何もかも全部わかりやすく白黒つけるだけが正しいわけではない。言語化のはばかられる事柄まで、無理に言語化して浅く分かった気になる必要はない。大切なことは言葉にせずにじっくりと胸の中であたためる、というのが必要な時もある。 -
《図書館》【再読】おじさん二人の友情物語。映画化もされてる作品。映画も観てみたい。
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磁石のように同体として惹かれ合い弾き合う、狛犬の如く阿吽の門倉修造と水田仙吉。彼らの生き方はこと現代においては許されるものではないかもしれないけれど積将棋と同じようにすべてが微妙なバランスで完璧な形で成り立つ。血肉となった二人の関係は門倉の突然の決別は同質化することと喪失することへの恐れであろう。戦争の色を濃くしていった時代の閉塞感と鬱積を比し、それでも人々の諸事を描く妙は向田邦子氏ならでは。義理や人情とは異なる、誰もが持つアンビバレントな不思議な人間模様を描き出している秀作。
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TVドラマと変わらぬ内容で戦前東京の生活が描かれる。仙吉とたみ夫婦、そして仙吉の戦友・門倉のプラトニックな三角関係に気づく年頃の娘さと子は “一番大事なことは人にいわないものだ” と判る。”言わないこと” それは戦前の空気、戦争への向かう世相の言論統制や同調圧力に通じていく。巧みに反戦を謳う物語は、淡く滑稽な市井の人々の生活に溶け込んでいく。先は見えない、しかし “信頼” という面映ゆい安堵に小さな幸せが宿っている。”豊かさ” という高揚ではなく、”暮らし” という平穏が大切なのだ。
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時代が時代なのもあるが、正直令和の今読むと、登場人物の感覚に違和感を通り越して苛立ちを感じた。明治以前であればアリなのかなと思うが、昭和初期という古くも新しくもない時代だけに余計そう感じるのかも。
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向田邦子、唯一の長編小説。(他の小説は、ドラマシナリオを他の作家が小説にしたものだから、ということらしい。)本作品も、テレビドラマや映画化されている。舞台は第二次世界大戦突入前の東京。戦友の2人とその家族(妻、娘)の話。一方は、戦時突入前、実業家で羽振りが良く、もう一方のサラリーマン家庭を陰で支える。友人が抱く友人妻への恋心。
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大人は誰でも思っていても言わない秘密を抱えている。秘密が見え隠れしながら、なんだか安定しない行動が続く。でも、その不安定な人が、また不安定な人を支えて、またその不安な人が違う不安定な人を支えて見事にバランスを取っている話。もちろん安定した個人でもいいけど、何故かそこには寂しさを感じる。だからやっぱり不安定がいいんだと気づく。人らしさ、人臭さを表現した一冊でした。
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つつましい暮らしの家族と、羽振りのいい家族の
日常と交流関係。
連続短編で進んでいきますが、色々な落差が激しい。
この時代の人の女性として、妻の方は慎ましやかですが
夫は分かりやすく…といえばいいのか。
親戚筋(?)も面倒そうですし。
平和と言えば平和ですが、この時代に当然というべきか
別の女性もでてきたり。
なのに何だかのんびりとした感じに思えるのは
何故なのでしょうか??