過去を運ぶ足 (文春文庫 278-1)

著者 :
  • 文藝春秋
3.36
  • (3)
  • (7)
  • (15)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 82
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167278014

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 東京創元社、双葉社、桃園書房、講談社、徳間書店、新潮社、学研と、様々な出版社の雑誌に、1972~1977年に発表された作品が15編収められた、阿刀田高氏の第2短編集。単行本刊行は1978年に双葉社から。文庫化は1982年に文藝春秋社から。

    収められた作品は、阿刀田高作品らしいブラックな味わいがやや薄い気がしますが、解説の武蔵野次郎氏によると、第1短編集『冷蔵庫より愛をこめて』のほうにブラックな味わいが濃い作品が収録されているそうです。

    こちらはブラックな味わいが全く無いものもあったりと、雰囲気もテーマもまちまち、寄せ集め感がありますが、発表誌が同じでも雰囲気が違っていたり、発表年に差があっても雰囲気が似ていたり、と、比べて読むとなかなか楽しいです。

    以下は作品ごとに簡単な感想を↓

    自殺菌
    ちょっとしたことで自殺願望に襲われる恐怖を、空想の「自殺菌」というものに例えたショート・ショート。
    ブラックな味わいは薄め。死に囚われた瞬間の描写が美しい。△

    死亡診断書
    介護問題をモチーフにしたシリアスなミステリー。オチはブラックですが、ショート・ショートではなく短編なので、オチに辿り着くまでの切れ味がちょっと悪い気がしました。△

    幸福を交換する男
    強い妻に文句を言われながら切手の収集をする男が、謎の男と出会う、という物語。ブラックなオチの味わいが良いです。〇

    シーソーゲーム
    野球の試合の始まりから終わりまでの間に、ふとしたことで、野次を飛ばす大洋ファンの観客の一人にあった事件を推理する巨人ファンの男の物語。妻ではない若い女と野球を観に来た男の、勝敗の行方ととともに揺れ動く心を、実にうまく書いています。〇

    幻聴マンション
    マンションの、上の階の住民の足音が、次第に狂気を生み出すショート・ショート。〇

    蠢く夜
    単なるワンナイトラブの話、だと思わせて、落差のあるオチ。オチの1ページに辿り着くまでの20ページは、ちょっと長く感じました。△

    天国に一番近いプール
    殺人トリックを物語のメインにした本格ミステリー。阿刀田高作品に期待するブラックな味わいは薄めです。△

    過去を運ぶ足
    これもミステリー小説。出生の秘密がテーマで、メロドラマ的。哀愁を感じるいい話ですが、ブラックな味わいはほぼありません。〇

    氷のように冷たい女
    死体消失をテーマに描かれた、ちょっとノスタルジックで、ちょっとイヤな話。△

    断崖
    互いに別れたがっている若い夫婦を描いたショート・ショート。やはり短いほうがオチへの切れ味は良いですね。ブラックな味わいも良いです。〇

    毒のある女
    これもブラックな味わいがあるショート・ショート。ストレートすぎるタイトルから連想される通りのオチなのがちょっと残念です。△

    ゴキブリ幻想
    この作品集で唯一初出誌が『高1コース』の作品。高校生男子向け、ということを意識して書かれているようで、主人公は高校生男子、直線的なグロさを描いています。〇

    記号の惨殺
    これも、殺人トリックを物語のメインにした本格ミステリー。ブラックな味わいの全く無い、ごく普通の昭和のミステリー。△

    不在証明
    これもまた、殺人トリックを物語のメインにした本格ミステリー。ややブラックな味わいのラストは良いです。△

    窪んだ壁
    ほぼ男女2人の会話だけで成立する短編。
    これは、ブラック・ユーモアを感じさせていいです。〇

  • どの作品もアッと思わせるラスト。
    「自殺菌」「死亡診断書」「幻聴マンション」が特に印象に残ります。

  • 男性誌で掲載されており、メイン読者層となる中高年男性にとって親近感を持ちやすい設定なのだろうが、邪魔になった口うるさい妻を殺害する作品が何度も登場するため、さすがに食傷気分になった。

    15篇中で特に気に入ったのは下記。

    「自殺菌」
    書き出しと終わりの文の美しさが印象的。

    「幸福を交換する男」
    タイトルとオチの繋がりが良い。キャラ設定にも親近感を持てた。

    「氷のように冷たい女」
    伏線回収に膝を打った。

    「窪んだ壁」
    短編推理小説として面白かった。完成度が高い。

  • 大好きな作家です。ストーリーの構成が素晴らしく、読ませる文章力とともに短編文学の天才ですね。

  • ミステリー短編集。全15編。

    最高♪これもきっと再び読み返すことになるだろうなぁ。

    阿刀田さんのすごいところの一つは、そんなに特異なあらすじでなくても、つまり、へたしたら「どっかでみたかも」ってなりがちな話でも、凡人には思いもよらない、超非凡な角度から書いて、今までに目にしたことないような意外な方向へ物語を展開させて、思わず「おぉ〜」って声が漏れちゃいそうなくらい予想だにしない結末へ導いちゃうところなんだよなぁ。

    毎回×2よくこんなにおもしろい作品が書けるもんだと、平伏しちゃいます。やっぱり才能だなぁ。感嘆。

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

作家
1935年、東京生れ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続け、78年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。79年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集『ナポレオン狂』で直木賞。95年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞。日本ペンクラブ会長や文化庁文化審議会会長、山梨県立図書館長などを歴任。2018年、文化功労者。

「2019年 『私が作家になった理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

阿刀田高の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×