海軍航空隊始末記 (文春文庫 け 1-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167310035

作品紹介・あらすじ

山本五十六の懐刀と言われ、真珠湾奇襲の作戦計画を練り上げた男、源田実。「日本海軍が産んだ空の天才」と呼ばれた航空参謀が、真珠湾への道のりから、開戦後の破竹の進撃、そして運命のミッドウェイ海戦、連合艦隊崩壊の序曲となったマリアナ沖海戦、終戦間際の紫電改「剣部隊」の活躍までを克明に綴る。航空戦史を語る際に不可欠の幻の名著、ついに文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 資料

  • 読はじめてまず引っ掛かった点があった。それは対米開戦に向けて、空母の集団運用を考えたというくだり。筆者たちは分散配置された空母から飛び立った飛行機が空中で集合する作戦を練ったが、難易度が高く実現しない。結果として世界初の空母集団運用に踏み切るのである。戦艦砲戦の時代は火力の集中が鉄則だった。航空兵力も集中した方が効果的だが、空母自体には脆弱性が高いので集団運用はリスクを伴う。空母の集団運用は日本海軍が世界で初めて実現し脅威を知らしめたのだが、その防御面の手当てを発明したのではなかった。結局のところ、日本海軍機動艦隊は太平洋とインド洋で集団運用の脅威を知らしめた後、ミッドウェイ沖で4隻まとめて屠られることになる。


    歴史上で事を為した人はその記録を後世に残す必要がある。山本大将も南雲中将も亡き後の戦後にあって、参謀としてその責を引き受けたのは立派だ。しかし、大事なところで微妙な弁解や正当化を散りばめているのは海軍随一のエリートならでは。ミッドウェイ海戦で敵空母発見後の攻撃遅れを「僚機が海に落ちるのを偲びず」と表現したのは「魔の5分間」などと弁解するのに比べれば気が利いているけれども、それまでの油断の糊塗が透けて見える。マリアナ海戦後の大戦末期の戦いについては、自ら開発を主導した震電や紫電改による本土邀撃戦の成果を語るのは良い。しかし長崎県大村の飛行隊司令官として、特攻隊に言及しないのは語るべき言葉が見当たらないからだろう。レイテ戦を飛ばしているのも同様かと思われる。


    とまれ、戦後68年経った今日にあってはこのように何とでも言える。この本の刊行当時は多くの関係者が存命で旧軍に対する言われ方も違っていたはず。巧みな修辞を用いながらもいくつかの教訓を残してくれた筆者には感謝したいし、一方で今日を生きる我々はそういう眼で戦史を読んでいく必要があるのだと思う。

  • 4167310031 380p 1997・9・20 5刷

  • (2013.08.23読了)(2005.12.24購入)
    【8月のテーマ・戦闘機を読む・その③】
    源田氏は、零戦の開発の際に、要求仕様の決定に関与したと思われる記述が「零戦 その誕生と栄光の記録」堀越二郎著、等にあったように記憶しているので、この本を読めば、きっと零戦の性能要求の事などが、分かると思って読んだのですが、その辺のことには、全く触れていませんでした。
    海軍の参謀としての源田氏が、いかに有能であったのかを綴っています。作戦がうまくいかなかった場合は、源田氏の要求が上層部に受け入れられなかったためのようです。
    最後の章は、日本本土を爆撃しにくるアメリカの爆撃機や戦闘機を迎撃する部隊の指揮をした話です。このような部隊がいたことを知りませんでしたので、興味深く読めました。
    日本が戦争に敗れたのは、物資不足ということになるのでしょうが、それははじめる前からわかっていたことで、勝っているうちに当初の予定通り終戦に持ち込めなかったことにあるのでしょう。個々の戦闘については、暗号が解読されていそうなことに気づきながら変える面倒くささを嫌って同じものを使い続けたことが最も大きいのではないでしょうか。
    暗号は、解読されるものと考えて定期的に変更することが必要であることは、今ではパスワードと同様、世の中の常識になっているかと思います。
    暗号のつぎには、情報収集能力と戦闘後の反省能力ではないでしょうか。
    アメリカは、攻撃作戦では、戦果を確認する担当がいたということです。戦艦の撃沈や戦闘機の撃墜、等をしっかり確認していました。日本では、戦闘に参加した人たちからの聞き取りで推計していたので、過大な戦果を集計していたようで、次の作戦のときには、相手の戦力を過少に見積もったうえで作戦を立てていたので、うまくいかなかったということが重なったようです。
    アメリカは、レーダーが開発され実用化されました。日本は、戦闘機相互の連絡もなかなか取れなかったようです。
    アメリカは、随時反省会を開いて、その後の作戦に生かしていたといいます。
    日本では、作戦を企画した人や遂行した人たちの非難につながるようなことは嫌いましたので、そのようなことは一切なされなかったようです。

    【目次】
    英国滞在二年間の収穫
    真珠湾に至るまで
    印度洋を席巻する二カ月
    MI作戦発動さる
    完敗に終わったミッドウェイ海戦
    南太平洋海戦と頽勢の建直し
    国運を賭したマリアナ海戦
    三四三空最後の勇戦
    あとがき
    解説  原勝洋

    ●不徹底な追撃(16頁)
    太平洋戦争中に、我が海軍が極めて有利な立場に占位しながら、敵を過大評価して決戦を避けたり、あるいは、不徹底な追撃のために戦果の拡充が不十分であった例は数え切れない程である。
    ●戦闘機の防御(24頁)
    英国の飛行機は防禦が施してないために、僅かの被弾で火災を起こしたり、搭乗員を失ったりしているが、ドイツの飛行機は相当の防禦が乗員並びに燃料タンクに対して施してある。このため、たとい不利な戦闘の場合でもドイツの飛行機には強靭性がある。
    ●ミッドウェイ(183頁)
    ミッドウェイ海戦は、この時、すなわち午前七時十五分までは、受け身でこそあれ、我が方の一方的勝利で進行していた。既に撃墜した敵機の数は一一〇機にも上っている。しかも我が軍の艦艇には一発の爆弾も、一本の魚雷も命中していない。
    ●情報の不備(209頁)
    ミッドウェイ海戦の結末は、戦場の制空制海両権を敵側に渡したのであって、取りも直さず我が敗戦を意味する。この敗戦も、我が兵力や術力の不足によるものではなく、情報の不備と、用兵の拙劣によるものであった。
    ●一式ライター(238頁)
    我が方の一式陸上攻撃機は、敵戦闘機の一三ミリ機銃の前には脆いものであった。その燃料タンクには防弾装置が施してなかったために、いとも簡単に火を吹いた。搭乗員たちは、余りよく火を出すので「一式ライター」とも呼んでいた。
    ●戦闘機が負ける(311頁)
    十九年の末期になって、私はつくづくと考えた。戦争に負けているのは、海軍が主役をしている海上戦に負けているからである。海上戦に負けるのは航空戦で圧倒されているからである。航空戦が有利に展開しない原因は、我が戦闘機が制空権を獲得できないからだ。つまり、戦闘機が負けるから戦争に負けるのだ。
    (性能で負けたのではなく数で負けた、と思うのですが。)

    ☆関連図書(既読)
    「零式戦闘機」吉村昭著、新潮文庫、1978.03.30
    「零式戦闘機」柳田邦男著、文春文庫、1980.04.25
    「零戦 その誕生と栄光の記録」堀越二郎著、講談社文庫、1984.12.15
    「永遠の0」百田尚樹著、講談社文庫、2009.07.15
    「特攻基地知覧」高木俊朗著、角川文庫、1973.07.30
    「今日われ生きてあり」神坂次郎著、新潮文庫、1993.07.25
    「非情の空」高城肇著、中公文庫、1992.09.10
    「大空の決戦」羽切松雄著、文春文庫、2000.12.10
    「太平洋戦争 日本の敗因(1)日米開戦 勝算なし」NHK取材班、角川文庫、1995.05.25
    「太平洋戦争 日本の敗因(2)ガダルカナル 学ばざる軍隊」NHK取材班、角川文庫、1995.05.25
    「太平洋戦争 日本の敗因(3)電子兵器「カミカゼ」を制す」NHK取材班、角川文庫、1995.07.10
    「太平洋戦争 日本の敗因(4)責任なき戦場 インパール」NHK取材班、角川文庫、1995.07.10
    「太平洋戦争 日本の敗因(5)レイテに沈んだ大東亜共栄圏」NHK取材班、角川文庫、1995.08.10
    「太平洋戦争 日本の敗因(6)外交なき戦争の終末」NHK取材班、角川文庫、1995.08.10
    「真珠湾メモリアル」徳岡孝夫著、中公文庫、1985.12.10
    「捕虜第一号」酒巻和男著、新潮社、1949.11.15
    「「大東亜」戦争を知っていますか」倉沢愛子著、講談社現代新書、2002.07.20
    「滄海よ眠れ(1)ミッドウェー海戦の生と死」澤地久枝著、文春文庫、1987.06.10
    「滄海よ眠れ(2)ミッドウェー海戦の生と死」澤地久枝著、文春文庫、1987.07.10
    「滄海よ眠れ(3)ミッドウェー海戦の生と死」澤地久枝著、文春文庫、1987.08.10
    「家族の樹―ミッドウェー海戦終章」澤地久枝著、文春文庫、1997.05.10
    「マリアナ沖海戦」吉田俊雄著、PHP文庫、2000.11.15
    (2013年9月3日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    山本五十六の懐刀と言われ、真珠湾奇襲の作戦計画を練り上げた男、源田実。「日本海軍が産んだ空の天才」と呼ばれた航空参謀が、真珠湾への道のりから、開戦後の破竹の進撃、そして運命のミッドウェイ海戦、連合艦隊崩壊の序曲となったマリアナ沖海戦、終戦間際の紫電改「剣部隊」の活躍までを克明に綴る。航空戦史を語る際に不可欠の幻の名著、ついに文庫化。

  • ・今まであんまり大東亜戦争の航空戦について知らなかった事がわかった。攻撃機、爆撃機、偵察機、ってああいう風に使い分けられていた、なんて基礎的な事すら知らなかった。
    ・さらに、戦艦とか空母の用兵法も良く分かって無かった。これを読んで、真珠湾攻撃についてもある程度わかったし、大砲巨艦主義と航空主戦主義の対立ってのも良く分かった。その点では筆者の源田氏は先見の明があったね。
    ・同時期にNHKの「その時歴史が動いた」のミッドウェー海戦の回をビデオで観た。どうも一般的には源田参謀の失策として認知されている様子。本人の記述だとその辺が良く分からんけど、自身も後書きで歴史家との捉え方の違いについて論じてる。別に自分の失策を隠蔽しようっていうつもりでないのは良く分かった。
    ・後半の司令としての源田氏は参謀としての自分をすっかり忘れたかのようで、なんだか別の話のようです。
    ・しかしミッドウェーは惜しかったな。翔鶴や瑞鶴も連れて行ってればな〜と思わないでいられないな。暗号解読されてたんで、結果は変わらなかったかもしれないけど、それでも惜しい。
    ・こういう航空戦が主役な戦争だったのに、大和って何だったんだろうね。大和も武蔵も信濃と同じく空母にしてたら、とか言い出すよ俺。仮想戦記ものでも読んで鬱憤晴らすとしますか。
    ・震電の名前もちらっと出てきた。あれも量産されてればな〜。末期の試作機はロケットあり、ジェットあり、前翼型ありで魅惑です。
    ・やっぱり先入観とか傲りなんですかね。

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著者プロフィール

元第一航空艦隊参謀

「2020年 『風鳴り止まず〈真珠湾編〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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