- Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167348243
作品紹介・あらすじ
喫茶店に掛けてあった絵を盗み出す予備校生たち、アルバイトで西瓜を売る高校生、蝶の標本をコレクションする散髪屋-。若さ故の熱気と闇に突き動かされながら、生きることの理由を求め続ける青年たち。永遠に変らぬ青春の美しさ、悲しさ、残酷さを、みごとな物語と透徹したまなざしで描く傑作短篇集。
感想・レビュー・書評
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2015年の文春文庫青春フェアの限定カバーがとてもかっこよくて、普段なら読まないと思われる作家だが購入してしまった。
かくたみほさんという方の写真が表紙になっている。
長いこと積んでいたが、読んでよかった。
昭和54~56年に小説誌で発表された短編集だが、ほとんど古臭いところがない。
主人公はみな若者で、彼らの感性に違和感を覚えることもない。
執筆当時、著者は32歳頃のはずだが、その当時の彼の感性は今にも通じるものがあるのだろう。
「星々の悲しみ」を除けば、どれも劇的な出来事が起こるわけではない。
しかしほとんどの短編に印象的な物があり、記憶に残る物語ばかりなのだ。
それをもう一度見たいと感じた時に、何度も読み返す可能性のある本。
「星々の悲しみ」☆☆☆☆
図書館の雰囲気と、「星々の悲しみ」の絵が印象的。
特に絵は文章で描写されているだけなのに、頭の中で情感たっぷりに想像できる。
はじめは穏やかな絵を想像したはずなのに、物語の進行に伴ってだんだんと悲しさを帯びてくる。
私にそれを表現できる画力があればと悔やむ。
絵を盗むなんていう青春らしさもいい。
「西瓜トラック」☆☆☆
大した出来事ではないはずなのに、スイカと夏らしさが印象に残る。
「北病棟」☆☆
影絵が一つの道具となっているが、描写が少なくあまり活きていない。
栗山さんと主人公の状況が対照的で、重苦しい雰囲気の中で主人公が浮いて見える。
あまりのめりこめなかった。
「火」☆☆
マッチの火が印象的。
古屋は何を思って火を見つめていたのだろうか。
闇を感じる。
「小旗」☆☆☆
交通整理の小旗。
一生懸命に交通整理をする青年を見て父の死を悔やむというのは、一見関連性がなくおかしいように思える。
しかし、物語通りに主人公の心情を追っていくと、妙に納得できてしまう。
自分でもよくわからない心の動きを感じさせられる。
「蝶」☆☆☆☆
怖い。とても怖い。
ガード下にある理髪店には、無数の蝶の標本が飾られている。
頭上を列車が通ると、振動によって蝶の羽が動いているように見える……。
それしかないという表現で気味の悪さを描写している。
この気味の悪さには美しさからくるものも含まれているのか、読んでいて自分でもよくわからない。
物語の終わり方もいい。
「不良馬場」☆☆
印象に残るものがこの作品だけなかった。
短編の並びが悪いと思う。
この作品が最後のせいで、後味が悪い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
タイトルにもなっている「星々の悲しみ」が一番印象に残ったが、他の作品もいずれもとても良かった。
宮本輝の小説はどれも叙情的で少し物悲しくて、でも読後は胸にストンと落ちてくるような不思議な気持ち良さを感じる。その感覚が癖になってどんどん読んでしまう。
読んでいると自然と「生と死」について考えさせられる。死は容赦なく誰にでもやってくる。同じ死でもやはり若い人が死ぬのはとりわけ辛い。日々後悔のないように生きなければならない。 -
自分の学生の頃から名前は知っていたけれど、宮本輝の本は初めて読んだ。
大変読みやすい文体、内容であることに驚いた。
大阪弁の会話のなんと心地いいこと。
解説に書いてある通りになってしまうけれど、普段から村上春樹ら「都市生活者のための現代文学」みたいなのばかり読んでいるせいか、こういう少しじめっとした地味な小品がとても沁みる。
物語に奇を衒ったようなところはなく、社会性や思想性もないけれど、心に沁み入る文章である。軽いタッチの文体でありながら、結核療養、精神病院等の描写が出てきて、生命の儚さ、人生の切なさを感じさせる。
この、深い・難しい問題を考察するような小説でないのに、じっくり感じ入るようにさせるのが、自分にとって新しい感じがした。日本の作家ではあまりいないような気がする。
そして作品が1981年のものであることに驚く。こういう文学こそが実は普遍性を持つのかもしれない。 -
一つ一つ、綺麗な物語だと思った。
人間のドロドロした感情、妬みや裏切り、執着など、負の部分が描かれているけれど、目を背けさせたいのではなく、ましてや正義感や正論で矯正しようというのでもない。淡々とした丁寧な文章が、非常に好ましく心地良かった。 -
人間ってその土地に大きく影響されて生きるものなんだな。息遣いも考えも。たぶん。
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かなり好みの初期短編集。
冷たくて暗いが、救いが無くはないそのバランスが良い。 -
短編7編集。生きることの儚さとたおやかさが両立する。生と死の同居が、宮本さんの筆で描かれる。
若い時代、誰もが行く先に希望を持ち、理想に憧れ、寄り添いたいと異性を本質的に求めるあの頃の若者が主人公の各編。
若さ由来の血気盛んなこの頃、世間の水はどれだけ温かく、時に冷たいか。どれほど深く、広いかなどと考えることもなく、前に先に進もうとする。
内実は、自分に悩み、答えあぐね、失敗や挫折の壁に足踏み。宮本さんは生きることのみっともなさや、生臭さを作品で呈してくれている気がする。誰にでもどうにもならないことがたくさんあるのだ。
生き続けるため、前に進むために、開けない心の蓋、悲しみ、哀しみや心細さ等、自分の手中でコントロールできない様を老若男女様々な境遇の登場人物たちと絡めながら、細やかに描かれている。
みんな必死でぶざまだ。それが悪くない。
学歴、就職、病、結婚など、超えて当然で普通とされがちな人生の関門で、つまづく。
教訓や説諭のような押しつけがない。どの作品も消え入るような終わり方で、年齢を重ねてきた私も、この先そんなに悪くないんじゃないかなと心に温かさが不思議と静かに湧き上がる。 -
ずっと昔に読んで印象が良かったので再読。やはり独特の余韻があり、私の感性にフィットする感じがする。
作者の死生観と、それを情景に描き出す巧みさが光っていると思う。 -
表題作の「星々の悲しみ」は個人的に特別な作品で、高校生の頃、小説というものを本格的に読み始めるキッカケになった物語の一つで、それから数年が経ち文庫本で改めて読むことにした。
読み終わって思った事は、やはり自分の中では「星々の悲しみ」が個人的に衝撃だった作品という事を再確認出来た事だった。他にも収録順に「西瓜トラック」「北病棟」「火」「小旗」「蝶」「不良馬場」とあり、どれもアイテムや印象となる姿がタイトルとなっている。しかし、どれを取ってもタイトルから物語を思い出せるくらいのもので、逆に衝撃的読書だった「星々の悲しみ」は冒頭からこうなり、途中でこうなって、最後にこうだからこうなのだ――と揚々なくらいだった。ただ、全体的に生々しく、暗い、昭和の臭いを感じる物語だった。 -
さすが宮本輝。
西瓜トラックは30枚。そこを目指して書いてみよう。