作品紹介・あらすじ
晴明と博雅は俵藤太とともに、平将門の死の謎を追ううち、将門の遺灰を盗み出した者がいたことを突き止める。事件の裏に見え隠れする将門との浅からぬ因縁。誰が、将門を復活させようとしているのか?そして、その背後に蠢く邪悪な男の正体とは?ラストまで息をつかせぬ展開と壮大なスケールで読ませる人気シリーズ長篇。
感想・レビュー・書評
絞り込み
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上下巻合わせて読むべし。中盤からは映画のよう。映像を頭に浮かべながら読書できる。
滝夜叉姫は平清盛の娘、滝子姫のこと
怨念のイメージしかなかった将門が愛の深い人、普通の人であることにほっとするエンディング。
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上巻の中での色々な展開、関係する人物の過去の出来事の描写が在って下巻に至る。
下巻では、或る大きな陰謀と、それを阻んで丸く収めようとする側と、何方に寄って動くのか判り悪い者との動きが交錯しながら、何やら禍々しい事態が進展する。虚実入り混じったような、武術的な戦闘力と呪術とが交錯する闘いが展開する。そして如何なって行くのかという物語だ。
その豪勇な様が「鬼神の如く」と語り伝えられる勇壮な武者が、本当に“鬼”となってしまっているという様子…そこから起こる様々な物語…そういう状況の仕掛人と、その仕掛人の正体を暴いて事態の解決を図ろうとする人々という感の本作の物語。少し夢中になった。
本作は、何か「画が思い浮かぶ」という調子の多くの章が折り重なって全体の形を作っている。何か「映像化」を意識しながら綴っているような気もしないではなかった。何れにしてもなかなかに愉しい!広く御薦めしたい。
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すごいボリューミーだった
大地獄祭りって感じで面白かった
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事件の関係者が出揃い、いよいよ本格的に晴明が動き出す!
『陰陽師 瀧夜叉姫 (下)』 夢枕獏 (文春文庫)
そもそもの発端は“平将門の乱”。
それから二十年、今は亡き平将門を蘇らせようと企む人物がいるというのだ。
将門を蘇らせ、都を滅ぼし、新しい国を作ろうとする陰の黒幕の正体が最後に明らかになる。
この人物、名前から受けるインパクトはそんなにないが、歴史的には重要人物だ。
「我らは充分に生きた。もうよいではないか」
将門に無理やり連れられ、炎に身を投じる場面は凄まじい。
「陰陽師」を読むといつもそうなのだが、結局誰が悪かったのか、と考えるとよく分からなくなってしまう。
将門に対してもそうだが、この悪者に対しても博雅は、「おかわいそうに」と涙を流すのである。
「人なればこそ天下に覇を唱えん」
と言い、様々の企てに
「操ったのではなく、人の心の中にあるものを育てただけ」
と言い放ったその人物もまた、目に見えない何かに心を掴まれていたのかもしれない。
彼もかつては“人の心”を持っていたはずなのだ。
蟲毒(こどく)や児干(じかん)など、読むに堪えないむごい描写もあるが、児干に関しては、今昔物語に実際に記述があるというから驚く。
すごい時代だ。
今回は、歴史上の出来事を題材に扱っているせいか、実在の人物が物語の中心になっていて、晴明と博雅にはそんなに派手な出番はない。
冷静に事を判断し、絶妙なタイミングで手助けをする、縁の下の力持ち的存在に徹している。
それもまたよし、です。
今回は、俵藤太や平維時といったまともでちゃんとした人もいたし、めんどくさがりの保憲も真面目に仕事していたので、そこがよかった。
道満は意外と何も企んでなかったな。
平貞盛は、“災難”の一言。
操られて児干するし、将門には首を乗っ取られるし、死んだ後も首なしのまま道案内はさせられるし(笑)
二十年をかけた陰謀、というスケールの大きな今回の長編、やはり人の“業”がテーマである。
「花がそうである如く、人であることをまっとうするために、わたしはこの世に生じた」
という博雅の言葉は名言。
生まれ持った天賦の感性を、風が花の香を運ぶがごとく、惜しげもなく振りまく博雅は、今回も、
「おまえがいるから都もそう悪くない」
とか晴明に言っちゃったりする。
そういうほのぼのとした、はんなりと優しいところと、外連味たっぷりの鬼のシーンがうまく混ざっているのが、「陰陽師」シリーズの魅力でしょうか。
二十年前の事件について、何とか争わずに済む方法はなかったのか、との博雅の問いに、
「人だからな」
と、ぽつりと晴明がつぶやく。
「人がこの世にある限り、なくしようのないもの」
“人”がいて“業”がある限り、妬みや恨みや呪いや祟りがある。
そんな時に助けてくれる、平安時代のサイコセラピスト安倍晴明。
やっぱりかっこいい。
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人として死ねたことは救いになるのかな。
時代とはいえここまで殺し殺されているとすっきり終わることなんて
できないのだろうけれど、悲しいな。
そのままで生きても、博雅になったり純友になったりする。
ただそのまま人としてあることで満ち足りれば博雅となって
覇を得んと、上なのかなんなのかそういったものを求めるとそうなってしまうのだろうか。
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過去分
今回は、かなり蘆屋道満が活躍してて感動。道満が良いやつだった。一度、本格的な晴明vs道満を見てみたい。
今までは名前の知らない人が多く登場してきたが、今回は平清盛、藤原純友といった知ってる人が多く出てきた。
清盛と純友って同年代だったんだなぁ。
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晴明たちは、平将門を鬼へと変え都をおびやかそうとする黒幕の存在にしだいに近づいていきます。そこに、俵藤太と桔梗の心のつながりや、父である将門の身体を集める滝子などのストーリーがからまって、上巻で張った伏線を回収しつつ、物語のクライマックスへと向かっていきます。
二巻にまたがって展開される物語でしたが、文章のテンポがよいこともあって、あっという間に読めてしまいました。本シリーズの他の巻にくらべると、エンターテインメント性を追求することに徹した作品という印象ですが、その意図は十分に達成されているように感じました。
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結局、滝夜叉姫の話ではない。夢枕獏全盛期の作と比べると、不満もいろいろ出る。描写がつまらない。凄まじい、とか、ゾッとするような、とか地の文で言うのは興ざめだ。剣撃のシーンも、「ぎいん」「ぎいん」の類いが多すぎる。この人は徒手格闘のほうが向いている。知らない作者なら、まあまあ良かったと言うところだが、過剰な期待をしてしまった。
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上下巻通して苦手な人は全然ダメだろうな、と思う話ではあるけど何度も読んでしまうんですよね。
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著者プロフィール
1951年、神奈川県出身。第10回日本SF大賞、第21回星雲賞(日本長編部門)、第11回柴田錬三郎賞、第46回吉川英治賞など格調高い文芸賞を多数受賞。主な著作として『陰陽師』『闇狩り師』『餓狼伝』などのシリーズがあり、圧倒的人気を博す。
「2016年 『陰陽師―瀧夜叉姫― ⑧』 で使われていた紹介文から引用しています。」
夢枕獏の作品
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