玻璃の天 (文春文庫 き 17-5)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167586058

作品紹介・あらすじ

昭和初期の帝都を舞台に、令嬢と女性運転手が不思議に挑むベッキーさんシリーズ第二弾。犬猿の仲の両家手打ちの場で起きた絵画消失の謎を解く「幻の橋」、手紙の暗号を手がかりに、失踪した友人を探す「想夫恋」、ステンドグラスの天窓から墜落した思想家の死の真相を探る「玻璃の天」の三篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • ベッキーさんは気になるのです。どうしても入ってこないのです。この時代が好きな人は良いと思います。

  • 前作よりも重みが増してきた、一冊。

    時が経ち、やがて世の中が暗さに包まれる…そんな不穏な空気が漂う今作。

    謎解きも人物像も更に重みを増してきた気がした。

    英子の推理は知識と教養がしっかり身についているからこその推理。
    そこにさりげなくヒントを投げかけるベッキーさんとの会話は頭の中が整理されていく感覚だ。

    そして霧が晴れるように視界がクリアになった瞬間に見えた真相。

    今作はどれもせつない余韻。

    特に表題作の余韻が心に残る。

    ベッキーさんの言葉、このラストシーンにどれだけの思いが凝縮されているのか…しばし思いを馳せた。

  • ベッキーさんシリーズの第二巻。
    舞台は昭和8、9年。
    上流家庭の娘英子の生活環境と彼女の身の回りに起きる日常生活ミステリーの解決が主軸であった第一巻「街の灯」から作品の雰囲気が変わり始め、テーマは単なる日常の出来事ではなく時代や国の在り方に関わり始めてきた。
    この先第三巻となる「鷺と雪」がどのようなものになるのか、話が日常ミステリーに戻らないことだけは確かだろう。

    巻末の岸本葉子さんの解説が作品の解釈を深める。
    文庫本ならではのありがたさ。

  • 暗雲垂れこめ始める昭和初期の帝都を舞台に、令嬢(花村英子)と運転手兼お目付け役兼護衛のベッキ-(別宮みつ子)が、不可解な出来事に挑む『街の灯』に続く<ベッキ-さん>シリ-ズ第2弾。 上野の帝国図書館で閲覧した明治31年の「東京日日新聞」の死亡広告が鍵となる『幻の橋』、デートリッヒのスパイ映画「間諜X27」と暗号解読が絡む『想夫恋』、才色兼備・男装の麗人〝ベッキ-さんこと別宮みつ子〟の過去の素性が明らかにされる『玻璃の天』の三篇は、歴史の歯車が加速をつけて回転を始めた、不穏な時代の哀切感がただよう。

  • 昭和初期の帝都を舞台に、令嬢英子と女運転手ベッキーさんが
    不思議な謎に挑むベッキーさんシリーズの2作目では、ベッキーさんこと
    別宮みつ子氏の素性が明らかになりました。

    これで今後は
    桐原勝久大尉とベッキーさんの二人の行く末が気になるところ....
    この二人に何か進展はあるのでしょうか♪
    期待が膨らみます。^^

    このたびも、ちょっとしたミステリの中に
    文学・芸術が絶妙な味わいで織り込まれた三編。
    英子令嬢とベッキーさんは好奇心旺盛に真相を探っていきます。

    ・与謝野晶子・枕草子・あしながおじさん
    ・百人一首・想夫恋.... 

    勉強にもなります。

  • シリーズ第二作。「幻の橋」「想夫恋」「玻璃の天」の三編の連作短編。時代が昭和初期なので、後の時代を知っている者だからか、段々と不穏な空気がひたひたと迫ってくるのを感じる。
    学習院(と思われる学校)に通う令嬢、花村英子と彼女の女性運転手、別宮みつ子をワトソンとホームズにしたような小説。時代背景が現代ではないので、基礎となる知識が現代とは違っていて、物語を読みながら、自分なりに調べながら読んだ。そうしたくなるような本だ。
    戦争の気配が濃くなる中でも、学生が「うれー」(嬉しい)「すてー」(素敵)のような流行り言葉を使うのが、微笑ましく、可愛らしい。

    「幻の橋」は英子の同級生の恋のお話。英子は満14歳ということだが、昔の女性のお輿入れは早かったのだなあ、と痛感する。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」も10代の話だった。この短編に出てくる月岡芳年の画集を持っていたので、見てみた。芳年が好きな私は、この絵が発禁になったことがある、ということは芳年に原因があるのか(妊婦の逆さづりとか描いているし)と思っていた。しかし調べてみたら、天皇の出自に関すること(大正天皇の母になるのだが、大正天皇に疾患があることの原因を生母にもとめたらしい)で発禁になったのか、と驚いた。美人と名高い柳原白蓮の叔母にあたる方である。

    「想夫恋」は英子が積極的に友人を作り、その交流を中心に描いた短編と思いきや…。これもYouTubeで「想夫恋」を聞いてみた。
    この短編で心惹かれたのは「例えば、《あたし達》という存在は、小は家庭から、大は国家、そして世界に囲まれている。そこに映る自分を、どのように見つめるかは、大変に難しいことだろう。」という部分。これは現代でも同じではないだろうか。

    「玻璃の天」で別宮さんの正体がわかることになる。「幻の橋」で桐原勝久様が別宮さんに「あなたに、ドアを開けさせはしませんでしたよ」と言った意味が分かる。
    また与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」の歌の解釈について英子と兄で話すシーンがある。自分の解釈の仕方が全く通り一遍で別の角度から見たら、ということが想像できずにいたことが、「なんて残念な自分…」と思ってしまった。確かに軍隊にいる弟にとって、戦意高揚しようとしている国で自分の姉が上記のような歌を詠んだら、弟の軍隊での居心地が良いものになろうはずがない。
    お料理の描写も多く、資生堂パーラーでのお食事の場面は、銀座に行ってしまいたくなる。

    本当に北村薫は何度でも読みたくなる。次は直木賞の「鷺と雪」だ。

  • ベッキーさんシリーズの第2弾。第1弾の『街の灯』は、2003年に本格ミステリ・マスターズの1冊として出たときに買っていた。マスターズは京極夏彦さんの装丁だが、本書はマスターズではなく、当然、装丁に連続性はない。なんだかそれが業腹で、ついつい読まずにここまできてしまった。
    丁寧な筆致が見事に昭和初期の情景を浮かび上がらせる。円紫さんシリーズの「わたし」が本シリーズの「わたし」にも重なる。短編なので、独立して読めるが、所々に物語に通底する伏線が張られている。おそらく未読のシリーズ完結篇に連なるものが、この時点で北村さんの頭の中にはできていたのだろう。
    「幻の橋」でベッキーさんが口にする『漢書』の一節、善く敗るる者は亡びず。昨今の情勢を見るに噛みしめたい言葉。

  • ベッキーさんシリーズ二作目。不穏な時代を背景に懊悩する人物描写が前作より強調され、切なく深い余韻が残る。ある意味一番のミステリーであるベッキーさんの背景も明らかに。漢書を諳んじるシーンの静かな力強さは読んでて鳥肌が立った。

  • シリーズ1作目の街の灯も良かったが、2作目は言葉では表せないくらい良かった。って言うより、感想を上手に自分の言葉で書き綴ることが出来ない。
    いつもだけど、北村薫さんの本を読むともっと勉強したくなる。
    枕草子も伊勢物語も、平家物語も…。
    そしてこの物語で描かれている時代についても。
    ベッキーさんのことが少し判ったけど、これからどうなるんだろう?
    さあ、シリーズ最終章を読もう!

  • シリーズ一作目よりもその世界観にぐっと引き込まれた。若月さんや綾乃さん、乾原さんと、新たに登場した人物が魅力的だった。情熱と哀しみが入り混じっているようなそれぞれの心に惹きつけられた。
    なんとなく、読んでいる間ずっと周囲が夜のような気がした。だんだんと戦争の話になっていくんだろうか...。主人公とベッキーさんとの日常に馴染んできたからこそ、次作を読むのが少し怖い。

  • 昭和初期のつかの間の平和な時代、華族の栄子と運転手のベッキーさんは身の回りに起きる事件の解明に挑む。ベッキーさん三部作の二作目。

    謎解きミステリーは相変わらずにしても、やはり文章そのものに魅力のあるお話なので、これだけ慣れてくると文章を読むだけでもう十分楽しめる気がします。
    さて、この本では栄子さんとベッキーさんの思いが少し時代に切り込んでいて、そこが見せ場だなあ、と思いました。特に若月少尉と栄子さんの丁々発止のやり取りは見もので、時代の行く先をしっかりと見据えながらも自分が意識していなかった恐るべき社会格差を指摘されて愕然とするあたりからは、このシリーズの時代背景をどう捉えていくのか、その覚悟みたいなものを感じさせられました。
    シリーズは「鷺と雪」で終わってしまうのですが、その後戦後までを登場人物たちがどう生きたのか知りたくなります。その先を読みたくなるけど、ここで終わったことがベストだということも明白。楽しいシリーズでした。

    破滅的な社会的格差を突きつけられてその人生を革命に投じた上流階級の女性を描いたマンガ、「ベルサイユのばら」といっしょにお楽しみください。

  • お嬢様と別宮(ベッキー)さん、どちらもしっかり教養と自分の考えを持っていて素敵だった。
    ユーモアもあって面白かった。
    ミステリーとしても面白かった

  • オール讀物2005年11月号:幻の橋、2006年7月号:想夫恋、2006年11月号:玻璃の天の3つの短編を2007年4月文藝春秋から刊行。ベッキーさんシリーズ2作目。2009年9月文春文庫化。第137回(2007年上半期)直木賞候補作。登場人物たちに魅力があります。時代の雰囲気も良く出ていて、楽しめました。

  • ベッキーさんシリーズ二冊目。
    今回でベッキーさんの秘密も明かされてきます。
    今回も主人公英子とベッキーさんの知的な雰囲気に包まれ、背筋がしゃんとするようです。
    著者の表現が日本語の美しさとむずかしさが入り混じり、一段上の世界を歩くように読んでいます。

    ベッキーさんの印象に残った言葉。
    「水中の魚に、己を囲む水は見えないものだと思います」
    こんなこと思いもよらなかった。私たちを包む空気というものが当たり前ではなかったのだなと今さら感じました。

  • 昭和初期を舞台とした、ベッキーさんシリーズの第2巻。「街の灯」の続編に相当します。
     
    随分昔(調べてみたら3年も前だった!)に前作の感想を書いた際、「時代設定上どんどんつらい話になっていきそうでちょっと不安」と記したのですが、やはりどうしてもトーンは暗くなりがちですね。登場人物たちのきらびやかな暮らしが、あるいは栄華を誇る帝都が、今後どうなるか予測がつくだけに辛いものがあります。芽生えつつある恋のロマンスも、どうも先行き不安です。
     
    北村薫氏の作品に接すると、何気ない一言にドキッとさせられる事が往々にしてあるのですが、今回はこの一言。
     
    「貴女様の役回り」
     
    凛としたベッキーさんの"闇"を垣間見たようで、背筋がぞくりと震えました。この"闇"は、終盤でよりはっきりと、そして思わぬ形でその輪郭をあらわにする訳ですが。

    暗澹とした展開が続くものと予想されますが、それでも一筋の光明が灯る事を期待して、次巻を待ちたいと思います…ってもう出てますね(笑)。

  • ベッキーさんシリーズ第二弾。
    知らずに2巻から読んでしまったが、短編連作なので、2巻から読んでも楽しめる。
    舞台は昭和初期の東京。
    主人公の令嬢と女性運転士のベッキーさんが事件や謎を解いていく、日常ミステリ。
    華族同士のつながりや、学校の友人たちの話など、昭和初期の知らない時代の様子を読むのも面白い。
    ベッキーさんの正体が明らかになるが、そこの章で出てくる会話が、読解力がなさすぎて、何度も何度も繰り返し読んで理解した。
    理解すると、いろいろ繋がってきて納得する。

  • 『ベッキーさんシリーズ』三部作の第二作。昭和初期の東京が舞台、女学校へ通うお嬢様と運転手兼付添人のベッキーさんが活躍するミステリー短編集。表題作では謎多き女性であるベッキーさんの過去が判明する。おすすめ。このシリーズは昭和のお嬢様ワールドが味わえるが、いざ事件発生の場面でも作品全体の気品を損なわない程度の最小限描写にとどめてあり、状況把握がしずらい欠点があると思った。
    収録作)『幻の橋』、『想夫恋』、『玻璃(はり)の天』

  • ベッキーさんシリーズの1冊目「街の灯」を読んで面白くて
    大喜びでこの第二弾の「玻璃の天」を読んだわけですが。
    今回は先が気になり過ぎてゆっくり読めずでした。
    文章もあんまり味わう余裕がなかったです。
    お話の中の雰囲気が、不穏な空気が漂っていて重い感じを受けました。

    違う本のことを書いてしまって良くないのかもしれないけど
    つい最近読んだ広瀬正さんの「マイナス・ゼロ」の中に出てくる時代(の一部)と殆ど同時期で
    あちらは庶民の目から見た銀座界隈の生活を描いていましたけど
    その先の戦争のことも書いてあって・・その辺のことを思い出したりで
    なんか「ああこの先は・・」とか思っちゃって辛かったです。

    ベッキーさんのことが段々と分かってきて、悲しくなったり
    英子ちゃんのこれからを思うと心配になってきたりとか
    とても素晴らしい本なのは確かなのに、レビューに暗いことばっかり書いてしまいます・・。
    シリーズ最終の「鷺と雪」も買ってあってすぐ近くに置いてあるんだけど
    なんとなく手が伸びません・・。
    なんだこの「街の灯」の時とのテンションの違いは。
    もう少し落ち着いたら読むことにしよう・・。

    こんな変なレビューだけど、本当に良い本だからこそ影響を強く受けて気持ちが動いているってことだと思ってます。

  • 柔らかく、優しいミステリーのベッキーさんシリーズの2作目です。

     前作からの個人的な疑問ですが、「私」である主人公、背景となる上流社会、この辺りは私的にあまり興味を感じないハズ。にもかかわらず、2作目も読みたかった。何ででしょうね?
     ミステリーではあるが、「穏やかな流れのなかにある感じ」がして不思議です。

     1作目から少し時間の経った昭和8~9年が背景です。戦意高揚の雰囲気がピリピリしてます。ですが、相変わらず「私」は穏やかな生活の中で、謎を解いていく。「想夫恋(そうふれん)」の謎解きは、読んでもさっぱり分かりません。

     傍らにあり終始冷静で透明感のある「ベッキーさん」こと別宮は、1作とは違い「私」との間に距離を感じます。読み終わってみると、なるほどです。

     1作目最大の謎であった、「別宮が何者であるか?」が分かります。ココに2作目の冒頭から、「私」に距離を感じた理由がありました。

    「ベッキーさんシリーズ」は次の「鷺と雪」で最後で御座います。もうしばらく、この世界感に浸らせて頂きます。

    1作目「街の灯」のレビューはココで
    http://booklog.jp/users/kickarm/archives/1/4167586045

  • 言いたいことも好きには口に出せない、口にすればたちまち糾弾される。そんな時代をうまく物語に絡めてきます。前作に比べると昭和初期の事件が近づいてくる時代を意識してか、少し暗い話題もちらほら。その中で、資生堂パーラーのクロケットなどの明るい流行の話題が混じったりしていいバランス感。ところで、コーヒーが出てくるのはいつの時代からなんだろう・・・。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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