ビンラディン、9・11へのプレリュード 大仏破壊 (文春文庫 た 63-1)
- 文藝春秋 (2007年4月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167717216
感想・レビュー・書評
-
同著者の著作は非常に読み応えがある。
どのようにしてビンラディン氏、アルカイダ, タリバンが作られていった(変化していった?)が書かれている。
”国際的無関心”の度合いがもう少し低ければ防げたかもしれないという主張は、先日読み返したUNHCR関連の本の内容ともリンクし、非常に興味深い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『戦争広告代理店』のあの人。
9.11のテロの予兆は、その半年前、アフガニスタンのバーミヤン大仏の破壊にあった。
タリバンとは何か、アルカイダとは何か、そしてビンラディンとは何者なのか。
世界のパラダイムを変えたあのテロの背景にあったものは何なのか、それを当事者への取材を通して描いた一冊。
知識のインプットのためには良書。
しかし、ちょくちょく出てくる著者の見解がウザイ。
日本の外交を批判したいのならそういう観点でしっかり書くべきだし、ちゅうと半端に関係ない話挟みすぎ。
せっかくの良書がもったいないです。
でも良書であることは間違いないので、中東、アジアに興味ある人だけでなく、国際政治に興味がある人にはお勧めです。 -
今では「テロリスト」と同義語になってしまったタリバンも、始まりは
純朴な田舎の神学校の青年たちの集団であった。ソ連軍撤退後のアフガ
ニスタンは事実上、無政府状態が続いた。民兵を率いてソ連軍と戦った
軍閥同士がそれぞれの支配地域を拡大しようとしての内戦が勃発した。
そこへ国内の平定を目指して登場したのがムハマンド・オマルを指導者
と仰ぐタリバンだった。
「勝手に武器をもつ者を武装解除すること。そのことによって治安を
取り戻すこと。そして群雄割拠の状態にあったアフガニスタンの国土を
統一すること」。
実にシンプルな政策を掲げたタリバンは、民衆からの大きな支持を受け
て勢力を拡大して行く。そして、指導者であるオマル自身も国情が安定
したら政治の分かるものに政権を任せ神学校へ戻る気でいた。
しかし、そこに客人としてオサマ・ビンラディンがアフガニスタンに
やって来る。歯車が狂い始めるきっかけだった。
現在ではイスラム原理主義と切り離せなくなったタリバンだが、ビン
ラディンが力を持つ以前、オマルは仏像を破壊しようとした司令官を
更迭し「文化遺跡を保護せよ」との命令を発する。そして、側近にも
国際社会との関係を重視した者もいた。
それは多くの文化財を保有しながら長らく閉鎖されていたカブール博物館
の再開であり、イスラム世界で軽視されている女性教育に手をつけいたい
という思いであった。
タリバンを国際社会に認めて欲しい。オマルをはじめとしたタリバン幹部
の多くが望んだことが、ビンラディンという寄生者によって徐々に国際社
会からの絆を断たれていく。
ビンラディンが持つ強大な資金力がオマルを取り込み、側近さえもビン
ラディンに通じるアラブ人で固められ、タリバン誕生当時からの幹部の
説得にさえ耳を貸さなくなったオマルはバーミアン遺跡破壊に突き進んで
行く。大仏は異教徒の偶像崇拝であり、反イスラムだとして。
寄生者が宿主を食い破り、権力を握って行く過程が読みやすい文章で書か
れており、全編飽きることなく読める。
また、ユネスコや国連のアフガニスタン特別ミッションの外交官たちが
遺跡破壊を思いとどまらせようと奔走する様子には胸を打たれる。特に
フランス人外交官が遺跡を守ることはイスラムの教えに反することはな
いと、綿密にコーランを分析する誠実さには感動すら覚える。
タリバン、アルカイダ、アフガニスタンを理解する上で最良の1冊である
。尚、バーミアン破壊直後、次の悲劇を予感した日本人がいたことも覚え
ておきたい。 -
戦争広告代理店が面白かったので購入。
9.11の衝撃は忘れられない。
けれど、実像は忘れて行く。
連日、報道されていた内容や
その裏にあったことが、わかりやすく書いてあって
ためになった。 -
前作「戦争広告代理店」が興味深かったので。
引き続き「PR}に焦点をあてたノンフィクション。 -
タリバンはホントにナイーブ(否:日本語的意味)過ぎたのだなぁ。
ものの数年で事実上アフガニスタンの政治までも乗っ取ってしまったラディンも恐ろしい。 -
¥105
-
アフガニスタンのバーミアン大仏が爆破された映像はテレビで何度も見て鮮明に記憶に残っている。これが2001年3月のことである。それから半年後の2001年9月NYでの9.11テロが発生した。いずれもビンラディンの影響下での犯行である。大仏破壊は9.11の前奏曲(プレリュード)であるとの位置づけである、というのが題名に込められた意味である。筆者は、NHKのディレクターであり、番組でその大仏破壊をドキュメンタリーとしてまとめ放映したのであるが、取材の過程で得た事実をノンフィクションの形でまとめたのが本書である。
旧ソ連がアフガニスタンに軍事侵攻したが、ソ連崩壊の過程で手を引き、アフガニスタンは各部族が争う内戦の状態に突入する。そこに義勇軍のような形で登場したのが、オマルひきいるタリバンである。義勇軍というのは、基本的にはボランティアであり、アフガニスタン国内に治安と平和をもたらすために、各部族の犯罪活動に対抗し闘うことが当初のタリバンの唯一の目的であったようであり、国民の支持も受けながらタリバンは闘い続け、首都カブールまで進攻する。当初、政治権力を握ることに野心を持っていなかった(というか、それをはっきりと拒否していた)オマルであったが、アフガニスタンのイスラム教の最高指導者に選任された後、実質的な政権をつくることとなる。
ここまでは、何の問題もなかった。並行してビンラディンの動きがある。もともとの出自がサウジアラビア人であるビンラディンであるが、反欧米を掲げた、テロを含む活動家であったビンラディンはサウジアラビアを追放される。他国に身を潜めるも、結局は、どこの国にも受け入れてもらうことが出来ずに、最終的にアフガニスタンに落ち着く。そこで、軍事キャンプ、軍事訓練所(そのリクルートビデオは9.11のあと何度もテレビで放映されることとなった)を設け、テロのための準備活動を行う。当初は、親ビンラディンではなかった、というか、国外退去も真剣に考えた節のあるオマルであったが、国内北部同盟との戦いのための武器・金・人材というか軍隊をビンラディンが提供するようになると、そのビンラディンの援助なしには国内統治ができなくなったオマルは、ビンラディンへの傾倒を強めていく。
イスラム教では偶像崇拝を禁じている。バーミアンの大仏が偶像にあたるかどうか、は微妙なところなのであるが、異教徒の偶像は先達のイスラム教徒が1000年以上も、破壊せずに残してきたものなので残しておく、という解釈を当初はしていたオマルであるが、狂信的イスラム原理主義者、というか、イスラム的でないもの全てに反対するビンラディンの影響を受け、とうとう大仏破壊を決定・実行してしまう。とまぁ、ここまでが要約であり、ある程度、マスコミで報道されていたことでもある。
タリバンが、あるいは、オマルがビンラディンの影響を強く受ける前、ビンラディンがアフガニスタンで強い影響力を持ち、軍隊・テロ組織を整備する前に、ビンラディンをなんとか出来たのではないか、というのが、この本を読むものの共通した感想であるだろうし、筆者の主張するところである(ビンラディンを国外退去させろ、あるいは、身柄を引き渡せという要求はかなり頻繁に当時アフガニスタンになされていたのである。それを徹底すればよかった、ということ)。9.11のあとアメリカはアフガニスタンを攻撃し、タリバン政権を倒してしまうわけであるが、9.11の前に手をうてていたはずではないのか、それは結局ブッシュの不手際ではないのか、そうすれば悲劇は避けられていたし、世界も今とは随分と違う様相を示していたのではないのか、ということである。9.11のあと、ブッシュは、「テロとの戦い」という言葉をよく使っていたけど、それは当初は「ビンラディンとの戦い」という限定的なものでよかったはずで、結局は自分の不手際を隠すために、そういう言葉づかいをしているのではないか、とも思えてしまう。