ビンラディン、9・11へのプレリュード 大仏破壊 (文春文庫 た 63-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167717216

感想・レビュー・書評

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  • 同著者の著作は非常に読み応えがある。
    どのようにしてビンラディン氏、アルカイダ, タリバンが作られていった(変化していった?)が書かれている。

    ”国際的無関心”の度合いがもう少し低ければ防げたかもしれないという主張は、先日読み返したUNHCR関連の本の内容ともリンクし、非常に興味深い。

  • なぜ911が起こったのか、それがどうしてバーミヤンとつながっているのか、タリバンとは何か、がすべてクリアにつながる良書。
    ソ連侵攻の後、内戦に明け暮れるアフガニスタンに、イスラムの教えに忠実に従うことで、平和と秩序をもたらそうとしたタリバン。悪な高き勧善懲悪省も当初は、田舎のマドラサでしか学んだことのない無知からくる極めて素朴な人間の集まりだった。しかし彼らがビンラディンと結びつくことで、アルカイダに上手く利用され、孤立と過激思想強めていく。
    無知に基づく勧善懲悪省が、国際社会の批判を招き、さらにビンラディンに利用される形で、極端な思想を強め、タリバンに巣食っていく。
    大仏についても当初は「現在アフガニスタンに仏教徒はいない、したがって仏像はを拝む者はいないから、偶像崇拝にあたらない」としていた。
    しかし、匿ったはずのビンラディンは、「聖地を蹂躙するアメリカ人を皆殺しにしろ」と、勝手な声明を出し、最高指導者のオマルの怒りを買うが、反省したふりをしつつ、オマルにアラブ兵という武力と金をを与えてオマルを操るようになる。オマルの周りを徐々に自分の息のかかった者で固め、「世界各地でイスラム教徒が苦しめられている」というオマルにはなかった思想を植え付け、タリバンの誰の話も聞かなくなり、アラブ兵の力を使った大仏破壊に進む。アルカイダは大仏を破壊することで、国連や国際社会からタリバンを孤立させることに成功した。
    国際社会は大仏破壊が目前になって大きなキャンペーンを始め、旱魃でアフガンが苦しんでいる時には充分な支援をすることができなかったことも、彼らの過激思想の発達を止めることができなかった一因だと筆者は言う。
    そして、大仏もツインタワーも巨大な気が遠くなるような労力かけて作られたモニュメントを壊すことで、非イスラム文明の思いあがりをぶち壊すという象徴的な意味があったという。(ピエール・ラ・フランス)
    国際社会=キリスト教国、西欧社会というビンラディンの指摘は否めないところもある。また、SPACHのデュプレのいう「フェミニストに特有の押し付けがましさを全面に出すやり方では、アフガニスタンの女性を救うことにならない」といのも一部の理がある。

  • 愛の反対は無関心,とマザーテレサが言ったらしい。
    9・11のプレリュードというべき,大仏破壊に至る経緯を,タリバンの成り立ちから,アルカイダ,ビンラディンがタリバンを乗っ取って変化していくさまを通じて描いている。
    あれだけの大事件を起こしたにもかかわらず,わたし達のうちどれだけの人間が,タリバンとアルカイダの違いを知っていただろうか。わたしは,タリバンのトップ,ムハンマド・オマルについてですら,本書を読んでwikipediaをみて,ああ,ニュースでオマル師とか呼ばれていた人ね,と思ったくらいだった。
    筆者は,アフガニスタンに国際社会がきちんと関心を持っていれば,大仏破壊,9・11そして,尽きないテロは防げたのではないかという。
    ビンラディン殺害についての報道は大々的にされたが,その後アルカイダがきっかけとなって生じたテロ,アフガニスタンの情勢についてのニュースは,少なくなってきている。このままでいいのか,ということを考えさせられる。
    物足りない点は,タリバンの武闘派や,アルカイダ側の証言がほとんどないこと。オマルがどのようにしてビンラディンに取り込まれたか,という要が抜けてしまっている。また,PRと結びつける点にこだわりすぎかな,と思った。

    「ホタクのアメリカ体験をみると,日本からアメリカを訪ねる人々と比較したくなる。留学,転勤,あるいは単なる遊びでアメリカに一定期間滞在して帰ってくる人は多い。しかし,ホタクのように冷静に,自らのアイデンテぃティをしっかりともちながら,吸収すべき点は吸収して帰る,という人は実は多くないのではないだろうか。・・・ホタクがバランスの取れた形で『アメリカの衝撃』をうけとめることができたのは,なぜか。
     イスラム教という信仰があったからか,アフガニスタンの伝統と歴史への誇りというよりどころがあるからか,バランスのとれた広い教養と柔軟な思考を持ち合わせていたからか。おそらくは,それらすべてが総合的に作用してホタク野仲に,自らのアイデンティティーについてのゆるぎない自信を生み出していたからだろう。」
    「ビンラディンは,タリバンの体内に巣食った危険な寄生虫である。最初は宿主タリバンの保護を受け,利益を与えて『共生』していたが,やがてタリバンの体内を食い荒らし,腹を破って外にでてきて,残ったのは宿主タリバンの死体だった。」
    「らくだの像を渡した中国人も,これにオマルが何らかの反応を示す可能性があることは分かっていた。それなのに像を持ち出したのはわざとであり,そこにはオマルを試そうという意図があったに違いない,とムジダは言うのである。
    『オマルが,ビジネスのためには,宗教上の原則を少し曲げるくらいのりせいをまだもっていたかを知りたかったんだと思いますよ。中国人の目の前で像を壊せば,オマルの狂信性はビジネスパートナーとして失格,ということになっていたはずですが,客が部屋を出るまで絶えたので,一応商売はできるという結論になったに違いありません。それでもオマルの表情がゆがんだことは見逃していませんでしたがね。』
    ベテラン外交官のムジダは,その中国人のしたたかさについて,そう語っている。」
    「軍事力も,経済力も他の安保理常任理事国と比べてはるかに劣りながら,国際社会に存在感を保ちつづけるフランスの『外交力』の大きさを感じざるを得ない。その『外交力』の源泉は,ラフランスやベルトーがその身をもって示す『誠実さ』にあるのだと私は思う。」
    『彼らは全く勉強不足でお話にならなかったですよ。それでいて頑固に自説の結論だけを繰りかえすので,腹が立ってきました。完全に論破されているのに,いったいこの強固な信念は,どこからくるのだろうと不思議に思いましたね。』
    「孤独な支配者オマルが,過激な思想の闇の世界に完全に踏み込んでしまう前に,たとえ裏に野望が隠されていたにせよ,ビンラディンがその言葉や態度やお金や,そのほかさまざまに物心両面から支えることで示したタリバンへの『献身』を打ち消すほどの何かを国際社会がもたらすことはできなかったのだろうか。」『国際社会には,勧善懲悪省と同じくらいの責任があります。大仏破壊が目前のものとなって初めて大きなキャンペーンを始めたのです。それでは遅かったのです。…』
    『9・11でニューヨークのビルが崩れ落ちていくのを見たとき,これは大仏を破壊したのと同じ精神によるものだ,とすぐ分かりました。大仏もWTCも,巨大な,気が遠くなるほどの労力をかけてつくられたモニュメントであり,それを破壊することで”非イスラム文明の思い上がり”をぶち壊す,という象徴的な意味がこめられていたのです』『大仏破壊は,9・11のプレリュードだったのです。』

  • 『戦争広告代理店』のあの人。

    9.11のテロの予兆は、その半年前、アフガニスタンのバーミヤン大仏の破壊にあった。

    タリバンとは何か、アルカイダとは何か、そしてビンラディンとは何者なのか。

    世界のパラダイムを変えたあのテロの背景にあったものは何なのか、それを当事者への取材を通して描いた一冊。


    知識のインプットのためには良書。

    しかし、ちょくちょく出てくる著者の見解がウザイ。

    日本の外交を批判したいのならそういう観点でしっかり書くべきだし、ちゅうと半端に関係ない話挟みすぎ。

    せっかくの良書がもったいないです。


    でも良書であることは間違いないので、中東、アジアに興味ある人だけでなく、国際政治に興味がある人にはお勧めです。

  • 今では「テロリスト」と同義語になってしまったタリバンも、始まりは
    純朴な田舎の神学校の青年たちの集団であった。ソ連軍撤退後のアフガ
    ニスタンは事実上、無政府状態が続いた。民兵を率いてソ連軍と戦った
    軍閥同士がそれぞれの支配地域を拡大しようとしての内戦が勃発した。

    そこへ国内の平定を目指して登場したのがムハマンド・オマルを指導者
    と仰ぐタリバンだった。

    「勝手に武器をもつ者を武装解除すること。そのことによって治安を
    取り戻すこと。そして群雄割拠の状態にあったアフガニスタンの国土を
    統一すること」。

    実にシンプルな政策を掲げたタリバンは、民衆からの大きな支持を受け
    て勢力を拡大して行く。そして、指導者であるオマル自身も国情が安定
    したら政治の分かるものに政権を任せ神学校へ戻る気でいた。

    しかし、そこに客人としてオサマ・ビンラディンがアフガニスタンに
    やって来る。歯車が狂い始めるきっかけだった。

    現在ではイスラム原理主義と切り離せなくなったタリバンだが、ビン
    ラディンが力を持つ以前、オマルは仏像を破壊しようとした司令官を
    更迭し「文化遺跡を保護せよ」との命令を発する。そして、側近にも
    国際社会との関係を重視した者もいた。

    それは多くの文化財を保有しながら長らく閉鎖されていたカブール博物館
    の再開であり、イスラム世界で軽視されている女性教育に手をつけいたい
    という思いであった。

    タリバンを国際社会に認めて欲しい。オマルをはじめとしたタリバン幹部
    の多くが望んだことが、ビンラディンという寄生者によって徐々に国際社
    会からの絆を断たれていく。

    ビンラディンが持つ強大な資金力がオマルを取り込み、側近さえもビン
    ラディンに通じるアラブ人で固められ、タリバン誕生当時からの幹部の
    説得にさえ耳を貸さなくなったオマルはバーミアン遺跡破壊に突き進んで
    行く。大仏は異教徒の偶像崇拝であり、反イスラムだとして。

    寄生者が宿主を食い破り、権力を握って行く過程が読みやすい文章で書か
    れており、全編飽きることなく読める。

    また、ユネスコや国連のアフガニスタン特別ミッションの外交官たちが
    遺跡破壊を思いとどまらせようと奔走する様子には胸を打たれる。特に
    フランス人外交官が遺跡を守ることはイスラムの教えに反することはな
    いと、綿密にコーランを分析する誠実さには感動すら覚える。

    タリバン、アルカイダ、アフガニスタンを理解する上で最良の1冊である
    。尚、バーミアン破壊直後、次の悲劇を予感した日本人がいたことも覚え
    ておきたい。

  • 戦争広告代理店が面白かったので購入。

    9.11の衝撃は忘れられない。
    けれど、実像は忘れて行く。

    連日、報道されていた内容や
    その裏にあったことが、わかりやすく書いてあって
    ためになった。

  • 前作「戦争広告代理店」が興味深かったので。

    引き続き「PR}に焦点をあてたノンフィクション。

  • タリバンはホントにナイーブ(否:日本語的意味)過ぎたのだなぁ。
    ものの数年で事実上アフガニスタンの政治までも乗っ取ってしまったラディンも恐ろしい。

  • ¥105

  • アフガニスタンのバーミアン大仏が爆破された映像はテレビで何度も見て鮮明に記憶に残っている。これが2001年3月のことである。それから半年後の2001年9月NYでの9.11テロが発生した。いずれもビンラディンの影響下での犯行である。大仏破壊は9.11の前奏曲(プレリュード)であるとの位置づけである、というのが題名に込められた意味である。筆者は、NHKのディレクターであり、番組でその大仏破壊をドキュメンタリーとしてまとめ放映したのであるが、取材の過程で得た事実をノンフィクションの形でまとめたのが本書である。
    旧ソ連がアフガニスタンに軍事侵攻したが、ソ連崩壊の過程で手を引き、アフガニスタンは各部族が争う内戦の状態に突入する。そこに義勇軍のような形で登場したのが、オマルひきいるタリバンである。義勇軍というのは、基本的にはボランティアであり、アフガニスタン国内に治安と平和をもたらすために、各部族の犯罪活動に対抗し闘うことが当初のタリバンの唯一の目的であったようであり、国民の支持も受けながらタリバンは闘い続け、首都カブールまで進攻する。当初、政治権力を握ることに野心を持っていなかった(というか、それをはっきりと拒否していた)オマルであったが、アフガニスタンのイスラム教の最高指導者に選任された後、実質的な政権をつくることとなる。
    ここまでは、何の問題もなかった。並行してビンラディンの動きがある。もともとの出自がサウジアラビア人であるビンラディンであるが、反欧米を掲げた、テロを含む活動家であったビンラディンはサウジアラビアを追放される。他国に身を潜めるも、結局は、どこの国にも受け入れてもらうことが出来ずに、最終的にアフガニスタンに落ち着く。そこで、軍事キャンプ、軍事訓練所(そのリクルートビデオは9.11のあと何度もテレビで放映されることとなった)を設け、テロのための準備活動を行う。当初は、親ビンラディンではなかった、というか、国外退去も真剣に考えた節のあるオマルであったが、国内北部同盟との戦いのための武器・金・人材というか軍隊をビンラディンが提供するようになると、そのビンラディンの援助なしには国内統治ができなくなったオマルは、ビンラディンへの傾倒を強めていく。
    イスラム教では偶像崇拝を禁じている。バーミアンの大仏が偶像にあたるかどうか、は微妙なところなのであるが、異教徒の偶像は先達のイスラム教徒が1000年以上も、破壊せずに残してきたものなので残しておく、という解釈を当初はしていたオマルであるが、狂信的イスラム原理主義者、というか、イスラム的でないもの全てに反対するビンラディンの影響を受け、とうとう大仏破壊を決定・実行してしまう。とまぁ、ここまでが要約であり、ある程度、マスコミで報道されていたことでもある。
    タリバンが、あるいは、オマルがビンラディンの影響を強く受ける前、ビンラディンがアフガニスタンで強い影響力を持ち、軍隊・テロ組織を整備する前に、ビンラディンをなんとか出来たのではないか、というのが、この本を読むものの共通した感想であるだろうし、筆者の主張するところである(ビンラディンを国外退去させろ、あるいは、身柄を引き渡せという要求はかなり頻繁に当時アフガニスタンになされていたのである。それを徹底すればよかった、ということ)。9.11のあとアメリカはアフガニスタンを攻撃し、タリバン政権を倒してしまうわけであるが、9.11の前に手をうてていたはずではないのか、それは結局ブッシュの不手際ではないのか、そうすれば悲劇は避けられていたし、世界も今とは随分と違う様相を示していたのではないのか、ということである。9.11のあと、ブッシュは、「テロとの戦い」という言葉をよく使っていたけど、それは当初は「ビンラディンとの戦い」という限定的なものでよかったはずで、結局は自分の不手際を隠すために、そういう言葉づかいをしているのではないか、とも思えてしまう。

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著者プロフィール

1965年、東京生まれ。1990年、東京大学文学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして数々の大型番組を手がける。NHKスペシャル「民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕」「バーミアン 大仏はなぜ破壊されたのか」「情報聖戦~アルカイダ 謎のメディア戦略~」「パール判事は何を問いかけたのか~東京裁判・知られざる攻防~」「インドの衝撃」「沸騰都市」など。番組をもとに執筆した『ドキュメント 戦争広告代理店』(講談社文庫)で講談社ノンフィクション賞・新潮ドキュメント賞をダブル受賞。二作目の『大仏破壊』(文春文庫)では大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。

「2014年 『国際メディア情報戦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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