小銭をかぞえる (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 1131
感想 : 135
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167815011

作品紹介・あらすじ

女にもてない「私」がようやくめぐりあい、相思相愛になった女。しかし、「私」の生来の暴言、暴力によって、女との同棲生活は緊張をはらんだものになっていく。金をめぐる女との掛け合いが絶妙な表題作に、女が溺愛するぬいぐるみが悲惨な結末をむかえる「焼却炉行き赤ん坊」を併録。新しい私小説の誕生。

感想・レビュー・書評

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  • いわば人間の屑とでもいうのだろうか。
    働きもせず金を無心し、すぐ激昂し、女に手を挙げ、の繰り返し。それも私小説とは。。
    現代の話をかようにまでも大正昭和の人が書いたような文体、計算ずくの内心描写を筆致に描き上げる力量は解説者をして天才と言わしめるだけのことがある。
    早逝が惜しまれる。

  • 大人になった貫太の恋人との同棲編。今までの不遇だった性欲への不満が解消された惚気話のようだがタイトルの『焼却炉行き』という不穏さがこの人の破滅性を示す。
    子どもを産ませないよう予防線を張り代替えのぬいぐるみ及び女性に精神的肉体的経済的に虐待を働くとんでもない男であるが誰しもが持つ屑部分(幼児性)を曝け出しているところが共感を呼ぶのかもしれぬ。
    現実の作者はどうだったか分からないけど私小説という事は日常を切り取っている訳でもし作者が逝去しなかった場合どのような展開を迎えていったか夢想してしまう。

  • 西村賢太さんの小説ってなんでこんなに面白いんでしょう

    ド屑を主人公とした私小説、読んでいてヒリヒリしてくるようなやりとり、なのにどこかユーモラスな滑稽さも感じてしまいます

    たぶんこれは、主人公を屑として描き、それに対して弁明めいた描写が一切ないからという、そのバランス感覚が上手いんじゃないかなぁなんて思うのです

    主人公の内面描写をしっかりと書き、とことんまで自己中心的な思考回路で悪いのはあくまで相手、そんな考え方が徹底されています
    でも、主人公の一人称視点という点から見れば自己弁護に徹底しているのだけど、他者が絡んだ時にその屑っぷりを容認するような甘い文章は一切出てこないんですよね

    本人の考え方としてはこうだけど、他者から見れば最低な男、と、こういったポイントを第三者的な視点ではきちんと理解して冷静に描いている、そんなところに真顔で演じるコメディのような滑稽さが産まれるのではないかなぁと思うのです

    あとは、メディアに出演されていた時のチャーミングなご本人像とか、ちょっとした行動・考え方にどこかあるあるめいた共感を覚えてしまったりとか、私小説とはいえ多少は露悪的に描いているんだろうなとか、なんかもろもろそういった要素とかもあったりはするのだろうけど


    ……『小銭をかぞえる』の感想というより西村賢太作品の感想文になってしまった(笑

  • いやーおもしろい。隠さずにすべてを晒すことができるのが私小説の良さなのか。

    クソみたいな人間に辟易するがなにか愛らしい。
    「こんな人間にはなりたくない」「こんな部分が自分にもあるのかも」「自分も角度を変えるとクソなんじゃないか」
    よくわからんが、いろんな感情に揺さぶられる。

    しかしどんな想いも包み込む文学の懐の深さに何か安心もする。

    この人の作品をもっと読みたい。

  • こんな男に死後弟子を名乗られる藤澤淸造が可哀想になった。

    • nabechangさん
      藤澤清造も作者に負けず劣らないダメ人間だったみたいですから、良い師弟関係かもしれませんよ(笑)
      藤澤清造も作者に負けず劣らないダメ人間だったみたいですから、良い師弟関係かもしれませんよ(笑)
      2023/07/09
  • 最近、あくていを読んだばかりで、罵詈雑言系が続きましたね。ただ、あくていは主人公が女性、こちらは男性。そして、まぁ
    クソ野郎。本当に屑男です。上手いなぁ。
    本当。これでもかっ!これでもかっ!って次から次へと言葉の凶器、凶器、凶器。
    なんか、鋭利な刃物というより、鈍器で
    叩き潰す!みたいな言葉の凶器です。
    心地良くテンポ良く、悪口に酔いしれました。面白いです!

  • 大なり小なり、意識しているしていない、に関わらず、ここまで先鋭的で分かりやすくなくても、人間て同じようなことしているよなあ。主人公は不自然なくらいに分かりやすくクズとして描かれているけど、実際問題としてここまでクズなのではなくて、普通にいい人ぶっている連中って本当のところはこんなクズと同じなんだと作者は分かりにくく表現しているのかもしれないような気がしてきた。

  • 本の帯が強烈に面白い、となっているが、
    私にはツボらなかった。
    自虐ネタってだけで、その勇気を面白いというのか?

  • 激烈におもしろかった。
    女に頭を下げてお父さんから50万借りれることになった直後に実は本当に必要なのは30万で、これはビフテキが食えるぞとなるあたりは笑っちゃう。

  • 『苦役列車』が面白かったのでこちらも。「焼却炉行き赤ん坊」のスピード感がたまらない。爆笑に次ぐ爆笑。文章のグルーヴがとんでもないことになっている。そして読後にはわずかな寂寥感が取り残される。なんなんだコレは。他の文庫も全部揃えたくなった。
    「心の底から反省して、二度とこんな陋劣な真似はしませんから、今度だけは許してよ」
    こんな情けない男は見たことがない。

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著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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