絵のある自伝 (文春文庫 あ 9-7)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167901028

作品紹介・あらすじ

『旅の絵本』『ふしぎなえ』『ABCの本』などが世界中で愛されている画家の、初の自伝。「自伝のようなものは書くまい」と思っていたが、日本経済新聞の「私の履歴書」欄に原稿を寄せるうちに「記憶のトビラがつぎつぎに開いた」、と大改稿大幅加筆。人情味のある豪傑な義兄、小学校で隣の席だった女の子、朝鮮人の友人、両親、弟……昭和を生きた著者が出会い、別れていった有名無名の人々との思い出をユーモア溢れる文章と柔らかな水彩画で綴る。「わたしも、冗談が多すぎた。でもまだ空想癖はやまない。しかしこの本に書いたことはみな本当のことで、さしさわりのあることは書かなかっただけである」とは著者の弁だが、炭鉱務め、兵役、教員時代など知られざる一面も。50点以上描き下ろした絵が、心温まる追憶は時代の空気を浮かび上がらせ、読む者の胸に迫る。楽しく懐かしい、御伽話のような本当のお話。

感想・レビュー・書評

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  • 2020年12月に亡くなった安野光雅さんの自伝エッセイ。安野さんのどこかほっとするような挿絵と手書きコメント入りである。

    幼年時代から(執筆)現在に至るまでのエピソードを時系列に並べた構成となっている。戦争に振り回され、大好きな絵も思うように学ぶことのできなかった青春時代。戦後は苦労してようやく絵の仕事につくことができ、今ではご存じのとおり、安野さんの絵を見たことがない人はないほどの活躍ぶりである。
    現代の私たちには想像もできないような過酷な人生だったと思うが、安野さんのユーモアたっぷりの口ぶりと柔らかな水彩画でずいぶん中和されているような気がする。

    心に残る人物エピソードも興味深い。小学校の同級生で、貧乏だが明るい子だったというつえ子は、田畑を耕して4人の息子全員を大学にまで通わせた。畑をおそうイノシシ以外に心配はない、というつえ子の現状をうれしく思う安野さんの友への思いが温かい。

    「ABCの本」を海外で出版する際、英米の編集者から思いもよらない指摘を受けた話などは、文化の奥深さを感じるエピソードだった。相当大変だったと思うが、面白い体験だと思えるのが安野さんらしい。

    友情に厚く、ユーモアたっぷりで、心の中にまっすぐな芯の通った人柄が感じられ、改めて安野さんの絵本をじっくり眺めたくなった。

  • 具体的なことがとてもよかった。ディテールがおもしろい、興味深い。
    祖父母のライフヒストリーの聞き書きをしたいと思った。

  • 1926年生まれ・・・とプロフィールをみて、ふと、かこさとしさんと同年生まれだったんだなと気づく。戦争を知っていて、その体験を絵や言葉で伝えうる大きな存在がまたひとり、いなくなってしまった。世に出された作品を、繰り返しかみしめたい。

    子ども時代から少年、そして戦争の日々について、身の回りの小さなエピソードまでよく覚えていらして書かれている。ユーモアたっぷりで、悲惨とか厳しいといった語り口ではないのだが、それゆえに率直な気持ちがにじみ出ていると思う。

    ユーモア、という点で、『農民兵士の手紙』の話がなんともいえずよかった。よかったというのもおかしいのだけど。
    「わたしは戦争には反対だが、学徒と農民を差別することにはもっと反対である。徴兵猶予などと、だれが考え出したのだろうとおもう。」
    徴兵された農民を思っての言葉だが、そのあとに自らの若い恋のエピソードを重ねてこう続けるのだ。
    「しかし、先に書いたように、「花ある君」に手紙を出し、返事をもらった友人がいなかったら、このような公憤と私憤を混同することもなかっただろう。」

    教員になり、画家として立ち、というその後の人生で出会った人との交流も興味深い。また、大上段に構えたものでなく家族など身辺のことに徹していて、ひとりごとを読んでいるような穏やかな気持ちになった。
    さいごの『空想犯』もおもしろい。全くの"空想近況"を書いた年賀状を出してしまう安野さん。人柄の一端がしのばれる、たいへんユニークなエピソード。

  • 安野光雅さんのエッセイ。

    少年時代から歳を重ねるまでの思い出が綴られています。
    生きてきた時代は異なるのに、どこか懐かしい匂いのするお話も多数あり、朗らかな気持ちで読めました。

    そんな中にも安野さんなりの信条や絵を思う気持ちが散りばめられていて、ますます安野さんのファンになりました。

    本の中で、
    妄想と空想は違う。
    妄想は現実と想像の違いがわかっていないが、空想は現実を理解した上で想像していること。
    というようなことをおっしゃっていたのが印象的でした。

    宮沢賢治は教員時代に空想の時間を設けていたようですが、「空想」は自分の世界を広げるために必要な時間だなと改めて思います。

  • 2020年に安野さんは亡くなった。
    それから3年。
    かなりご長命でいられたので、もうすぐ生誕100年にもなる。

    本書は80代に入って生涯を振り返ったもの。

    故郷の津和野の様子。
    宿屋を営んでいた家族のことなどの他、土地の人々のことも書かれている。
    貧しい家に生まれたけれど、立派に子育てをして幸福を築いた幼馴染のつえ子さん。
    「げんきでヘンヨウせいよ」という伝言を残して突然転向した山本虎雄君。
    「過ぎたことはみんな、神話のような世界」と安野さん自身も言うが、しかしどこか味わい深い。

    司馬遼太郎の「街道をゆく」の取材に同行したこと。
    ダイアナ妃来日時のレセプションに参加したこと。
    『ABCの本』が海外でも読まれ、英語圏の人々からさまざまな意見が来たこと。
    そんなことが飄々とした文章でつづられていく。

    昭和四十五年の年賀状の話は傑作である。
    その年賀状は収録されているので、そこだけでも十分見る価値がある。
    顰蹙を買う可能性もあるけれど、ユーモアのセンスがない自分には、こんなことができる人はうらやましくて仕方がない。

  • 絵を描く人なのに、言葉選びも無駄がなく洗練されていると思った。私の親世代より少し上くらいだと思うけど、その時代のことが気軽に抵抗無く(固く古めかしい感じではなく)読めて良かった。大型本屋の戦争特集か何かで平積みされているなかで、読みやすそうだなと思って見つけた。大型書店はこういう出会いがあるから本当に好き。

  • 安野光雅さんの自伝。エッセイ。
    絵のことはあまり書かれてなかった。絵本がすごく大好きでいろいろ読んだので、少しでも詳しいことがわかればと思ったが。ただ書き下ろしの絵が沢山で有難い。ABCの本については残念。いろいろ考えて描かれたのに駄目出しが多かったり無断で使われたりあまり良いことがない。それでも大好きな絵のひとつ。

  • 安野さんの絵を意識してみていたかと言われれば、そうでなかったように思う。風景のイメージが強いのもなぜだろう。。

    「昭和を生きた著者の人生」が突き刺さる。自分はそれを祖父に見ていただろうか。

  • 感想
    絵を描く人の鋭い目線。刺々しい切れ味はなく優しさに満ちている。それでいて他人が気づかない細部に気がつき大局を汲み取る。時代の空気を感じる。

  • 思い出話。著者の人柄がよく分かる。
    同世代の人が読んだら懐かしく感じることも多いだろう。

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著者プロフィール

安野光雅(あんの みつまさ):1926年島根県津和野生まれ。画家・絵本作家として、国際アンデルセン賞、ケイト・グリーナウェイ賞、紫綬褒章など多数受賞し、世界的に高い評価を得ている。主な著作に『ふしぎなえ』『ABCの本』『繪本平家物語』『繪本三國志』『片想い百人一首』などがある。2020年、逝去。

「2023年 『文庫手帳2024』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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