- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167908294
作品紹介・あらすじ
新芥川賞作家の傑作小説集!「しんせかい」で第156回芥川賞を受賞。鮮烈なスタイルで現れた山下澄人の初期傑作集を待望の文庫化! 『ギッちょん』『コルバトントリ』二冊の単行本を一冊に。〇収録作・ギッちょん四十過ぎてホームレスになった男。目の前を往き来するのは幼馴染み〝ギッちょん〟とひとりぼっちの父。(第147回芥川賞候補)・水の音しかしない毎朝同じ電車になる男が鬱陶しくて、時間をはやめてみたら、やはり男といっしょになった。適当に話を合わせているうちに「わたし」は窮地に陥る。・トゥンブクトゥ第一部 街でゆきかう老若男女の様々な思惑、殺意。第二部 海辺のサバイバル。・コルバトントリわしは死なへん。お前も死なへんねん。誰も死なへん。生者も死者も人間も動物も永遠を往還する――(第150回芥川賞候補)〇小川洋子さんによる解説を収録。「山下澄人さんの小説を読むと、語り手も登場人物たちも皆、魂だけになってしまった人々のようだ、と思う。魂というと普通、肉体の檻から解放された、純度の高い存在の源、のようなイメージがあるが、山下さんの場合は少し違う。」「山下さんの小説に現れるのも、この〝在り間〟に近いものたちだと思われる。存在する、と明確に断言するだけの自信もなく、かと言って、存在しないのだな、と問われるといや、待ってくれと言いたくなる。どっちつかずの隙間、空洞、落とし穴、のような何か。ないけれどある。あるけれどない。」「語り手たちは皆、迷ってばかりで、自信がなく、肝心なことをすぐに忘れる。生かされている世界に圧倒され、その前でちっぽけな自分を持て余している。そんな小さな人々にしか見えない真実の風景が、ここには描かれている」
感想・レビュー・書評
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短編4作収録。どれも生者と死者の区別がつかなくなるような不思議な話だった。まずは表題作。幼い頃一緒に遊んだ「ギッちょん」というあだ名の友達、しかし語り手である「わたし」以外は誰も一緒に遊ばず話しかけもしなかったギッちょん。最初のうちはイマジナリーフレンドだったのかなと思いながら読んでいたけれど、語り手がどんどん年老いて紆余曲折の人生を歩むうち、いったい誰の妄想で誰が実在なのかもどんどん曖昧になっていき、そもそも「わたし」とは誰なのか、「わたし」こそ実在したのかと思えてくる。
「水の音しかしない」も、ふつうのサラリーマンの男が、ある朝会社に行ったら同僚も机もなくなっていて、変な上司や変な新人にふりまわされ不条理な目に合う。キーワードは午後二時四十六分。ある晩酔っぱらって終電で帰宅しようとしたら自分の家がわからない、そこから記憶がどんどん混濁して回想と現実と夢の区別もつかなくなり・・・。勘の良い人ならきっと「午後二時四十六分」に何が起こったかすぐに気づくだろう。私は津波というワードが出てくるまで気づかなかった。語り手はすでに死んでいるかあるいは意識不明なのか、電車でいつも会う男というのは精神科医のようなものかと思った。
「トゥンブクトゥ」電車の中で偶然乗り合わせた人々、それぞれ「わたし」として語られる日常、水族館のラッコの警備員だったり、取引先に罵倒されてビルに挟まって泣くOLだったり、老人だったり、子供だったり。しかしやがて元ボクサーの同僚に殴られたり、布団屋に刺されたり、いろんな理由で多分みんな死んでしまって、あれもしかして電車に乗っているのは最初から全員死者だったの・・・?という、一種「銀河鉄道の夜」みたいな。
「コルバトントリ」も同じ系列のお話。語り手の背景は「ギッちょん」に近い。語り手はおそらく死の床についてすべてはその朦朧とした記憶の中の話で過去も現在も夢も現実も死者も生者も一切が混在しており、子供だと思っているぼくはすでに老人だ。やはり電車の中で、轢かれて死んだはずのヤンキーの中学生が出てきていろいろ言うけれど、この電車というのは死者の魂をこちらの世界からあちらの世界へ繋ぐ渡し船のようなものなのだろうか。
4作品すべて同じテーマの話だったと思う。どれも好きだった。小川洋子さんの解説もわかりやすかった。
※収録
ギッちょん/水の音しかしない/トゥンブクトゥ/コルバトントリ/解説:小川洋子詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【ギッちょん】
過去のことが連想されたり、記憶が曖昧になっている感じが面白かった。でも意識をリアルに書きあらわすと案外こんな感じなのかもしれない。今がいつなのかわからなくなったり、そもそも今という瞬間自体がないように思えたり、何が架空のことで何が現実なのかもわからないような浮遊感というか掴み所のなさが良かった。
【コルバトントリ】
過去の自分が未来の自分の視点で過去の印象を語るような箇所が何箇所もあり不思議で面白い。
話の筋とかがこの小説の面白さのポイントではなく、感覚が次々と飛び込んできて記憶や予兆がごちゃ混ぜになって今考えたことなのかその時思ったことなのかもわからないような特殊な、でもリアルな意識のあり方が読んでいてとても面白い。ガルシアマルケスの百年の孤独に近いタイプの小説だと思った。 -
【小川洋子さん感嘆! 新芥川賞作家の傑作小説集】「しんせかい」で第156回芥川賞を受賞した著者の、芥川賞候補作を含む初期傑作集。解説の小川洋子さんも感嘆する独特の作品世界!