始皇帝 中華帝国の開祖 (文春文庫 あ 33-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (385ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167913854

作品紹介・あらすじ

始皇帝は“暴君”ではなく“名君”だった!?自らを「始皇帝」と名乗るに至った男、嬴政(えいせい)。乱世に終止符を打ち、中華帝国を統一した男は暴君なのか、それとも英雄なのか? 三歳まで人質として過ごした幼少期、兄との熾烈な玉座争い、家臣との相克――。天賦の才覚と不屈の精神力で過酷な運命のもとに勝ち上がった嬴政の真実を浮き彫りにする、不朽の名著。

感想・レビュー・書評

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  • 暴君だと思っていた始皇帝が、実はたいそう優秀な人であったと勉強になった。

    キングダム読んでる自分は、名前が出てくるだけでワクワクしてしまった。

    始皇帝の息子がボンクラだったことは知っていたけど、これほどまでとは…

  • 『封神演義』の書きっぷりが肌に合っていたので、著者の他の作品も読んでみようと購入したが、本書は史書の一部をちょこちょこ引用していたりでやや堅い雰囲気があった。
    人によってはちょっと説教くささやくどさを感じる部分があるかもしれない。
    自分の読んだなかだと、宮城谷昌光の作品に似ているように感じた。
    春秋戦国時代は史書がほとんど無い時代であるが、著者は無理なく生き生きと始皇帝の人物、物語を描きながら、
    その一方で史書や史跡にある事柄(荊軻による暗殺未遂事件や馳道、焚書坑儒など)にも後代の作為を排除する独自の解釈を加えることで、悪い意味でデフォルメされてしまった従来の始皇帝像とは異なる人物像を描き出している。


    表題の始皇帝嬴政が登場するのは63ページから。
    序盤の邯鄲での人質生活は嬴異人(= 父親)が中心で物語が進んでいくので「誰だ??」となった。
    呂不韋が悪漢ではなく、(野心家だが)有能な人物として描かれているのは意外だったが面白かった。
    李斯の評価も面白い。
    前半の嬴政が帝王学を学んでいく場面では、商鞅の著書(商君書)の一部を抜粋しているが、その内容が興味深く「これは新の王莽に読ませるべき!」と思った。これは本当に書かれている内容なのだろうか?現代語訳された商君書が容易に手に入らなさそうなのが残念だった。
    商君書意外にも本文中で時々引用されている韓非子や尉繚子の内容も驚くものが多く、春秋戦国時代の諸子百家の思想の広さや合理性、先見性に驚いた。現代語訳された原著を読んでみたくて、本書を読みながら現代語訳版を探して読みたいリストに突っ込んだくらいだ。
    著者は本書の随所で儒教を嫌っている記述をしているが、これほどの深さと広がりを見せた(しかも前3世紀かそれよりはるか以前に!)思想が、儒教が片棒を担いで封殺されていったとすれば、知識がある分だけ恨みもひとしおだろうなと共感してしまった。

    本書の描かれ方で始皇帝の印象もかなり変わった。
    呂不韋があっさり退場する場面の後での、「政が人情味に欠けるのではなく、6歳から王として育てられたためだ」という解釈は、それまで抱いていた非情な始皇帝のイメージに、人間らしい側面を無理なく加えることができた。
    一方で、従来のイメージに近い傲慢さは、その非凡な賢さに由来するとも描かれている。若い頃は勤勉に学ぶとも、年齢を経るに従って人から学ぶことが無くなり、また、学ぶためでも2度頭を下げることを嫌う様子も現れてくる。
    しかし、年代を経ても傲慢になるわけではなく、異常な勤勉さで政務や巡幸を文字通り命を削りながら行っている。一族を凡夫としたり、労役を撤廃したのも驚きで、そういう意味では民のことを思い、自他共に厳しい清廉な人物だったのかもしれないと思った。

    著者は始皇帝の業績が現在まで続く中国を形作ったことを本文中で何度も褒め、最後に始皇帝を中国人の宗祖と呼び偉大な業績を再度まとめて物語を締めくくっている。
    黄河文明と長江文明は異質でその違いは根が深く、秦の時代から数百〜千年が下ってからでも南北朝時代や南宋(と金)のように南北に分裂することがあるくらいだ。
    これを1つの国として規定したことが始皇帝の極めて優れた業績と評価されていると思っているのだが、この評価はいつからかたまっていたのだろうか??最近の考え方かと思っていたが著者は90年代にはその考えをしっかり持っていたようである。

    始皇帝の大きな失敗は後継者をしっかりと決めておかなかったことで、これが帝国の崩壊につながる。感情移入をしながら物語を読んでいると、残念だったなぁとため息が出た。
    しかし、古代の巨大な帝国は傑物がいてこそ維持できるという例も多いので、扶蘇がスムーズに帝位に就いていても帝国を維持できたのかはわからないとも思った。
    後継者問題と言えば、始皇帝の親族を凡夫として扱う厳しさは中国史上でも珍しいのではないかと思われるが、次代の漢代に多くの親類に力を与えることで呉楚七国の乱が起きていることを考えると、この時代としては正しい方向だったのかもしれないとも思った。


    物語としては、
    統一への準備段階は長いが、他国の侵略はかなりあっさりで、物語の中盤に数ページで一気に統一されていく印象。
    史実としてはたいした人物ではないので当然だが、キングダムの主人公(?)信が大口を叩いて楚の攻略を失敗する場面もサラリと終わっている。
    241ページ以降は帝国の統治についての内容で、途中、暗殺騒動などを挟みながら、始皇帝が苦心しながら新しい統治制度を実施・広報して行く様が描かれている。

    巻末の解説も、史書の始皇帝臨終以降の場面を引き合いに「史書を盲目的に信じていいの?」を訴えており、面白かった。

  • 始皇帝に関わる列伝の中では、李斯に興味がある。統一国家を存立ならしめる法体系と運用というソフトウェアを、始皇帝の意を体していたにせよ具体的な姿を与えたという力量は凄まじいものではないか、と思うからだ。

  • 【始皇帝は“暴君”ではなく“名君”だった!?】世界で初めて政治力学を意識し、中華帝国を創り上げた男。その人物像に深く迫りつつ、現代にも通じる政治・経営学を解きあかす。

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