汚れた手をそこで拭かない (文春文庫 あ 90-2)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167921255

作品紹介・あらすじ

第164回直木賞候補作。ひたひたと忍び寄る恐怖ぬるりと変容する日常話題沸騰の「最恐」ミステリ、待望の文庫化。閉鎖空間に監禁されたデスゲームの参加者のような切迫感。                ──彩瀬まる平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、元不倫相手を見返したい料理研究家……きっかけはほんの些細な秘密だった。保身や油断、猜疑心や傲慢。内部から毒に蝕まれ、気がつけば取返しのつかない場所に立ち尽くしている自分に気づく。凶器のように研ぎ澄まされた“取扱い注意”の傑作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • またしても体調を崩している。
    なんだか今年は季節の変わり目全部で体調を崩していて、厄年が全て終わったにも関わらず、しんどかったような気がしている。細菌が目に見えたらいいのに。免疫が目に見えたらいいのに。

    今回は、咽頭炎だ。
    発熱もない、頭痛もだるさも鼻水もない。ただただ、喉が痛くなって、声が出なくなった。
    今はもう声以外の不調は全くなく、約一週間、声が出ない生活を送っている。
    仕事に支障は出まくりだし、家にいても独り言ばっか言ってたことに気づかされるし、結局わたしは一人で外出している時以外は基本的にずっと喋っているらしい。そんな時はもう、カフェで読書一択!

    人間関係を描いているのに、まるでホラー作品を読み終えたかのような読了感を覚える作品というのが、ある。代表例は、辻村深月さんの『噛みあわない会話と、ある過去について』とか。
    あの、ぐりぐりとこちらを追い詰めてくるような描き方は本当に本当に怖かった。

    で、本作品はというと。
    5つの作品の主人公(もしくは登場人物の一人)は、みんなある隠し事を抱えている。その隠し事は、絶対に他人にばれてはいけない。でも、もしかしたら誰かには、その隠し事のことがばれたかもしれない。そしてその誰かは、ばれたら一番やばいやつかもしれない――
    という、ずっとこのヒヤヒヤ感とともに進んでいく読書で、まるでそれは、解説を担当されている彩瀬まるさんの言葉を借りると「閉鎖空間に監禁されたデスゲームの参加者のような切迫感」。カフェの喧騒が嘘のように静かになった世界で、わたしの唾を呑む音だけがごくり、と響き渡る。悲鳴を上げそうになったその瞬間、再び喧騒の中へ。何が起こったか分からなくなると同時に、息苦しさだけが残り、呼吸が浅くなっていることに気付く。目の前には、まだ温かいソイラテ。そんなに時間は経っていないはずなのに、ずいぶんと時間が経っているような気がする。それだけ追い詰められていたということか。

    特に印象的な作品は2つ。『埋め合わせ』と『ミモザ』
    いずれもものすごく日常的な場面を描いている分、怖さがましまし。
    『埋め合わせ』の主人公は小学校の先生。日直で学校へ行った日に、あることをやらかしてしまう。彼は必死でそれを隠そうと、計画を企てる。そして実行する。さて、この計画は果たして成功するのか否か。
    『ミモザ』の主人公は、料理研究家の女性。現在は結婚し、夫がいる。しかし、すでに関係が終わった不倫相手に再会。彼が放つ言葉が、愛の言葉だったらまだマシだったかもしれない。

    この『埋め合わせ』に、五木田先生という先生が出てくる。
    この男、読みながらやばい匂いがぷんぷんしているのだけれど、この先生、実写化したらたぶんわたしの好みなんじゃないかという気がしていて、P82「とらえどころがなく、いつも飄々としていて、話していると落ち着かなくなる。(中略)なぜかこの男から呼ばれると男子生徒からふざけ交じりに『センセイ』と呼びかけられているような気持ちになるのだ」。たぶん、シュっとしていて黒縁のメガネをかけた無造作ヘアー男子だと思うんだよね(偏見)。それでいて学校の先生!
    あと、『お蔵入り』に出てくる小島のそこはかとない色気の描写。P149「スポーツ中かのような健やかさと、それを裏切る双眸の暗さ。土でわずかに汚れた頬と、濡れて額に張りついた長い前髪には、どこか倒錯した色気がある」。
    こういう描写があるのも、やっぱり女性作家さんの作品だよなぁ(偏見)。

    だけど、基本的には要注意の作品。裏表紙にもあるように、「凶器のように研ぎ澄まされた”取扱い注意”の傑作短編集」です。ゾクゾクしたい時におすすめ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      naonaonao16gさん
      ありがとうございます、本年も宜しくお願いします。。。

      猫は面倒臭いコトが苦手(病院へ行くとか)なので、...
      naonaonao16gさん
      ありがとうございます、本年も宜しくお願いします。。。

      猫は面倒臭いコトが苦手(病院へ行くとか)なので、ボチボチ騙し騙し生活しています。
      naonaonao16gさんも、まことさんも猫の真似をしてはいけません(誰もしないと思うが)。。。

      > タイトルの癖が強すぎて…!!
      仔猫の時に読んだ2大トラウマ本の一つです。
      もう一つは「ネギをうえた人 朝鮮民話選」金素雲:編(岩波書店)
      「ベロ出しチョンマ」はタイトルまんまなショッキングな、、、
      2024/01/12
    • naonaonao16gさん
      にゃんこさん

      こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします!!

      なるほど、、
      わたしは騙し騙しでも、不調と共存し続ける、ということができる...
      にゃんこさん

      こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします!!

      なるほど、、
      わたしは騙し騙しでも、不調と共存し続ける、ということができるにゃんこさんが素晴らしいと思うのです。
      わたしはまだ喉の不調が続いているのですが、その日の状態によって一喜一憂、振り回されているので…
      今後大病を患った時に生きていけるんだろうか、と、気がかりでなりません。まあ、メンタルの問題ですね。

      仔猫時代のトラウマがにゃんこさんを強くしたのでしょうか、、、
      2024/01/13
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      naonaonao16gさん
      > まあ、メンタルの問題ですね。
      もう歳だから、健康診断とか要らない気がしてますが、勤め先が五月蠅く言うの...
      naonaonao16gさん
      > まあ、メンタルの問題ですね。
      もう歳だから、健康診断とか要らない気がしてますが、勤め先が五月蠅く言うので仕方なく年一回「人間ドック」を受診しています。
      確かに猫は図太いです。でも末期になれば痛みに負けて「もう死なせてぇ~」と叫ぶかも知れません。
      ただ此のコトは、猫的に過剰なお節介で成り立っていて、死にたいと言う人の言い分が通るようになった時に、死にたくない人へ「死にたいでしょ?家族にも迷惑掛かってるし」とか平然と言うようになるコトを危惧して踏ん張るコトにしているだけなんです。←大袈裟

      まことさん
      「なんむ一病息災」は、トラウマになる話ではありませんので、、、
      2024/01/15
  • 本当に本当に些細な引っ掛かり。
    それを突き詰めて、見えてきた真実がゾワゾワするけれどおもしろい。
    読んでいて一緒に「もうやめてくれ!」と叫びたくなるスリルと、それでも見たくなるおもしろさに大満足。

  • ヒヤヒヤした〜!
    自分のせいで起きた不幸の短編集。
    【お蔵入り】が1番お気に入り。
    先が気になってあっという間に読了!!

  • ゾワゾワくる!
    それぞれの主人公が些細なことをきっかけに、どんどんドツボにはまり、追い詰められていく。
    端から読むと、その選択よくないよ!絶対よくない!と思うんだけど、実際主人公だったら同じように自滅するかも。

  • 5つの物語が収録された短編集

    「ただ、運が悪かっただけ」
    このお話に出てくるじいさん!めっちゃムカつく!こういう世の中の全ては俺の言う通りになる、自分が正義だと思い込んでる奴…いるんだよね〜接客業を長年やってるからよくわかる 家族にもそうやって接して、方々から嫌われて全く自分を改めようともしない(こういう人って嫌われてる事に気づいてないのかな?それとも嫌われたって関係ねえと思っているのか…どっちにしろ哀れ)まぁこんな結末になるわなw
    主人公が気にする必要は全くもってない!
    主人公が繊細すぎるのか…私ならザマァ!と思ってしまう(性格悪いか…)

    「埋め合わせ」
    このお話の主人公も繊細だし気が弱い…だけど、どうしようどうしようと焦る心の描写に自分もなんだかぞわぞわしてしまう
    同僚が一枚上手だったねw
    この作者は実際にあった色々な事件や事故からインスパイアされて、こういうお話を考えてるのかなと思った それくらい、ほんとによくありそうなどこにでも起きそうな事柄から、主人公の焦る心理がうまいこと描かれている

    「忘却」
    これも無さそうでありそうな、面白い話だった お年寄りばかりのアパート、これからも増えていくんだろうし、私もこの立場になりかねない…忘れる事でこうなって…でも忘れる事も生きていく上では必要だ
    タイトルが巧い!

    「お蔵入り」
    これも映画業界ではありそうな話
    お蔵入りはしないまでも公開日がずれ込んだり、実際にお蔵入りしてしまった作品は数あるだろう…監督としてはたまったもんじゃないよね〜でも余計な事はしない方が良かったよね〜ってお話だ
    この少女の気持ちは女性なら気づくはず…思春期ならなおのこと、傷つくに決まってるんだから!

    「ミモザ」
    このお話もけっこう好きだな〜女性のこの感情、わかる!しかしこの男も嫌な男だわ〜こんな男と付き合っていた事実があるなんて私なら吐き気がするわ(´ཀ`」
    ラスト、旦那は旦那で怖い!

    どのお話も腰のあたりからゾワゾワ感が昇ってくるようなイヤ〜なものばかり!
    一風変わったイヤミスのような作品
    短編集だけど満足感はあったので、興味のある方はぜひ!

  • どれも心がざらっとする嫌な感じの短編です。
    それがいいんですよね。
    1話目の「ただ、運が悪かっただけ」は嫌な感じだけで終わっていなくて好きです。
    ☆は3と1/2くらいで。

  • どこにでも居そうな普通の人々が巻き込まれる、背筋がゾクっとするような、5つの物語からなる短編集。
    きっかけは全て、あるちょっとした「秘密」を抱えたこと。そこから日常が、思わぬ方向に変化していく。
    特別な大事件が起こる訳ではないのだけれど、それだからこそ、明日は我が身かも、と感じてしまう。
    人間の心の奥に隠されている欲や毒は、他人事とは割り切れず、ジワジワと迫るような恐ろしさがあった。

  • 良いですね、芦沢央っぽい嫌ーな気分になる短編5編。タイトル通り、ではどうすれば良かったのだろう、と考えてしまう話を違ったテイストで描いてるので一気に読めた。それぞれの話のテーマも現実的で、自分の身に置き換えても考えてしまうし、更に分かり易くさらっと読み易いのにしっかりどろっとした物が残る味は、作者が年を重ねる毎に上手くなってる気がする。こういう話がもっと読みたい。

  • 現代版『罪と罰』と言っても過言ではない。
    リアルすぎて、主人公に感情移入してしまう。決してわざと悪さを働こうと企んでいたわけではない。一番怖いと思ったのは、誰もが抱く感情が元となって人生が破滅に向かう過程を見事に描いている。その感情とは、自己保身したい気持ち、臭いものに蓋をしたい気持ち、黙っていればわからないだろうという気持ち、そして過去の恋愛を思い出すこと、、、これらの感情を抱かない人がいるだろうか。
    まるで悪夢を見ているような、夢と現実の境がわからなくなるような読後感。

  • 物語を読み終わり、
    うーん、気分が落ち込む本だ…
    救いを求め、解説も読み始ると
    「汚れた手をどこで拭けば良かったのか」
    のフレーズにやられました。
    素晴らしい解説でした。

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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