- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784168130595
作品紹介・あらすじ
文学論・芸術論を精選したアンソロジー『保守とは何か』『国家とは何か』に続く「福田恆存入門・三部作」の完結編。文学者としての原点を示すアンソロジー。
感想・レビュー・書評
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本書は気鋭の評論家浜崎洋介氏の手になる福田恆存のアンソロジー三部作の完結編である。『 保守とは何か 』が総論、『 国家とは何か 』が各論の政治編、そして本書が各論の文学編である。
恆存の人間観はどこまでも二元論に貫かれている。善と悪、自己と他者、個と全体、絶対と相対・・・、一方を他方に還元するのではなく、両者の矛盾をとことん見据え、その克服、というより、辛うじて綱渡りのような平衡を保たんとする。恆存の文学論もそうした人間観が根底にある。「自己主張がその極限において自己否定に到達する接點においておこなはれない自我確立を私は信じることができないし、またその逆に、自己否定がその極限において自己肯定に到達する接點においていだかれる絶望しか私は信じることはできない。・・・われわれは在るのではなく、成るのである。そして成るためには、肯定から否定へ、否定から肯定への瞬間がつねに必要なのだ。われわれはその瞬間を劇的と呼んでゐる。(自己劇化と告白)」
あるがままの自己を、そのまま自己であると思い込むほど軽率なことはない。恆存にとって表現とは、そこにあるものの再現ではなく、表現しなければ存在しえぬものを、「成るもの」として存在させることである。そして「成る」とは、肯定と否定が相互に陥入する動的プロセスであるとすれば、自他の相互作用の接点である身体を介した行為による表現、即ち演劇を恆存が重視するのも当然だ。「翻訳論」を読めば、恆存が戯曲の翻訳において舞台上の役者の動きをいかに計算し尽して言葉を選んでいるかがわかる。その意味するところも恆存の表現論、そしてその根底にある人間観を踏まえてこそ理解できる。詳細をみるコメント0件をすべて表示