- Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
- / ISBN・EAN: 9784191752122
感想・レビュー・書評
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高田宏といえば、1964年から75年まで元・エッソ石油のPR誌「エナジー」の名編集者として名をはせ、企業のPR誌でもやり方によって文化・芸術分野でいかに尖鋭的な活動ができるかを証明したあと、1978年には『言葉の海へ』という言語学者・大槻文彦の評伝で亀井勝一郎賞+大佛次郎賞をW受章して華々しく作家のスタートを切った人ですが、今ではその著書もゆうに100冊を越えている名エッセイストです。
今年8月で78歳ですが、この本の刊行時は61歳で書かれたのは50代後半。そこで彼は、還暦も近づいてきて、新しい小説に興味が持てなくなり、最近のものを退屈しながら読むくらいなら、前に読んで手応えのあったものを再読したいという気持ちになった。それと、長編を書いていくなかで作者が成熟してゆくのを見るのが面白くなった、という告白をしています。
たしかに、還暦まではまだ随分と間がある私でさえ、日々いちおう新刊書をチェックし書評で物色し、ひょっとして新しい書き手のすばらしい作品がどこかにあるはずだとか、あの作家、10作目になる今度の作品こそきっと今までにない傑作が生まれるはずだとか幻想を抱いて血眼になってはいますが、たいていは、華々しく有名な賞を受賞した新人作家の屑のような駄文を読まされたり、名のある作家にもドブに捨てたくなるような愚作を読まされたり、ほとんど散々な目に会っているのが実情ですから、その気持わからないでもありません。
そして彼は、若いころに読んだ長編小説を再読して驚いたことを書いています。
ビクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』は、その半分以上がパリの下水道とか修道院とか浮浪児なんかに関する考察で占められていて、つまり物語の本筋とは何の関係もない膨大な余談で埋め尽くされていること。
それに、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』にはたくさんの子供たちが描かれている、そのことの意味や、中里介山の『大菩薩峠』に貫徹する放浪の精神を見出して呆然とする。
ゆったりとした何度目かの読書の中で、かつては気づかなかったまったく新しい視点との出会い。
そう、もうそろそろ、私たちも気がついても良さそうなものかもしれません -
001.初、並、カバスレ、帯付。
H.21.10/9.松阪BF. -
拾い読み