GHQ焚書図書開封4 「国体」論と現代

著者 :
  • 徳間書店
4.00
  • (3)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 31
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198629861

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「國體論」とあるので、仰々しい内容なのかと思つて恐る恐る讀み始めたが、極めてバランスの取れた内容であつた。戰前戰中の國體論でも、眞つ當なものもあれば、さうではないものもある。餘りにをかしいものについてはきちんと指摘してゐる。日本人必讀の書だと思つた。

  •  本書第4巻は「國體」論に関する焚書を取り上げている。國體とは、すなわち日本の國の形。皇室を中心にして形作られている君主国日本そのものを指す。戦前の國體論を見ていくことで失われた(否、失ったふり、見えないふりを無意識の次元でやっているだけで現代にも途切れることなく繋がっている)日本民族の精神性・考え方・心象風景を再確認すると共に、現代社会のシステム上(政治的理由・経済的理由・他)見えにくくされてきている直近の歴史を善悪・正誤すべて分け隔てなく、かつ現代において共に考えてゆくための一助とする試みである。

     本書のスタンスに反論の立場からみると取り上げられている文献が偏っているのではないか?という認識があろうと思う。しかし、何と何を取り上げれば『中立』となるのであろうか?これは誰が選別しても厳密には不可能な相談である。問題は持論を「正しい」「中立」と宣言(宣言せずとも、受け手がそのように感じる記述であれば同じ)して偏向情報を流布するスタイルの書物やメディア(岩波書店、NHK、等)であって、はじめから情報発信側が立ち居地を一定程度以上受け手に伝えている(たとえば保守である・共産思想である等。著者の場合は唯物史観一辺倒を批判し、それを越えた部分を掴もうと表現を続けているスタンスであり、保守系統と認識している)場合には当てはまらない。むしろ『中立』『不偏』が厳密には不可能であることを鑑みれば立ち居地を明示されていると感じ取ることができる著者の書物は健全であろうと思う。

    本書で紹介された焚書は以下の通り。

    大日本國體宣揚會『國體の明徴と政治及教育』     皇學書院    昭和10年6月
    高須芳次郎   『皇道と日本學の建設』       大阪屋號書店  昭和16年5月
    辻善之助    『皇室と日本精神』         大日本圖書   昭和11年4月
    山田孝雄    『國體の本義』           寶文館     昭和11年8月
    文部省編    『國體の本義』                   昭和12年5月
            『日本國體新講座』         明治會編輯   昭和10年2月
    杉浦重剛 白鳥庫吉 松宮春一郎 編著 『國體眞義』 世界文庫刊行會 昭和3年9月
    杉本五郎    『大義ー軍神杉本五郎中佐遺著』   平凡社     昭和13年5月
    山岡荘八    『軍神杉本中佐』          講談社     昭和17年10月

     『國體』に関する特段の予備知識が無い身で詳細を語ることは憚れるのですが、おおよそ印象論でこれら焚書された國體関連の書物を見ると、日本の國體は万邦無比(世界広しといえども日本と類似形態の国家は存在しない)であり、全世界は日本を見習うべき、日本のよさを世界中に広めるべき、等々、兎も角日本万歳論が前面に打ち出された感のある書から、やや唯物史観の流れを汲んだ科学的検証を重視しつつ神話時代の歴史も配慮した國體論を含む歴史観まで様々あります。多分現代日本人には後者の書物のほうが受け入れやすいかもしれません。白鳥庫吉氏の『國體眞義』が後者に該当します。他の國體論書物は万歳度合いが抑制的なのから極端なのまでありますが、基本的に前者の系統になると思います。

     尚、本書途中で『八紘一宇』という用語が出てきますが、これは「日本を中心にして世界をひとつの家にしよう」という思想であり、大東亜共栄圏の思想的支柱であります。これが戦後の朝日的な「人類同善世界一家」という発想と相通じるという着想にはハッとさせられます。おおよそ「國體」論を封印しつつも現代に繋がっている思想とはこの点からも伺われます。

     本書後半では軍神杉本中佐の話が取り上げられています。詳細は本書に譲りますが、一言でいえば、杉本中佐は『國體』を信奉し、日本人の生き様は斯くあるべき!(学者でも思想家でもなく、100万言を尽くす以上のものを体現)という生き方を体現、全うした人物です。最後は戦場にて宮城の方へ向いたまま軍刀を杖にして起立したまま絶命したと言われています。

     『國體』論に関して本書を読むだけでは不十分かもしれません。しかし、そもそも『國體』論自体、よくわからない方も多いのではないでしょうか?そのような状況の中、メディア等を通じて断片的な印象で片付けられがちな『國體』を今一度冷静に考える為に本書に目を通してみることは損はありません。当時の『國體』論の感触がある程度伝わってきます。本書中(194p)で著者が天皇論を考える上での必読書として紹介されたと紹介されている書物を最後に一つ紹介しておきます。
     里見岸雄 『万世一系の天皇~主として国体学的考察』
    昭和36年刊行、平成元年に第五刷ということですから、ひょっとしたら身近に入手する機会が見つかるかもしれません。 

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

西尾 幹二(にしお・かんじ):1935年、東京生まれ。東京大学大学院修士課程修了。ドイツ文学者、評論家。著書として『国民の歴史』『江戸のダイナミズム』『異なる悲劇 日本とドイツ』(文藝春秋)、『ヨーロッパの個人主義』『自由の悲劇』(講談社現代新書)、『ヨーロッパ像の転換』『歴史の真贋』(新潮社)、『あなたは自由か』(ちくま新書)など。『西尾幹二全集』(国書刊行会、24年9月完結予定)を刊行中。

「2024年 『日本と西欧の五〇〇年史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

西尾幹二の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×