自白の風景 (徳間文庫 ふ 13-13)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (534ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198918415

感想・レビュー・書評

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  • 冤罪をモチーフにした推理小説で、冤罪の問題点がわかりやすく描かれていて面白かった。川喜田の動機や犯行にちょっと無理があり、ぼやかして書かれているところが気になりつつも、それぞれの人間の弱さ、狡さをうまく表しながら、先の読めない展開に一気に読まされた。

  • 本分よりの引用
    「私も、これまでは世にある冤罪はひと事だと思っていた。
    今は、条件さえそろえば、いつでも無実の罪が着せられるものだということが生身でわかる」

    群馬県梅ヶ原市郊外で、轢き逃げ事件が発生した。
    被害者は滝川という老人で、間もなく元刑事・堀内が逮捕される。
    堀内は無実を主張し、弁護を牧に依頼してくる。
    実は牧と堀内、そして滝川の間には、16年来の因縁があったのだ。
    上記引用部分は、1994年に起きた松本サリン事件で重要参考人として取調べを受けた河野善行さんの言葉で、作品の中にも登場する一文である。
    冤罪事件のニュースが流れても、所詮は他人事だ。
    話題になっているときはそれなりに情報も入ってくるが、大概の場合、後日談はない。
    冤罪をテーマに真正面から取り組んだフィクションが少ないなら、自分が書いてみようと思ったのが執筆のきっかけだという。
    冤罪は多くの人を巻き込みながら、誰ひとりとして幸せにはならない。
    もし唯一の例外があるとしたら、真犯人くらいだろうか。
    本当に無実なら、犯罪・・・まして殺人となったら自供などするはずがない。
    一般的にはそう思うのがあたりまえだし、何となくではあるけれど私もそう思っていた。
    しかし、落とし穴はどこにでもある。
    誰かが・・・特に警察が・・・本気で犯人だと思い込んだら、逃れるのは相当に難しいだろう。
    どんなに綿密な計画を立てたとしても、意図的に仕組まれたものはいつかは露見する。
    犯人も、いずれは捜査の手が伸びてくることをどこかで覚悟していただろう。
    しかし、あの裁判でのドンデン返しには驚いた。
    「そうきたか!!」と絶句した。
    真犯人の動機だけがいまひとつ説得力に欠けているような気がしたが、それも作品の完成度の高さの前ではかすんでしまう。
    読み応えもあり、考えさせられる作品としても、読んでよかったと思える作品だった。

  •  元暴力団員畑村順次を刺殺したとして逮捕された矢代昌宣は、一旦は犯行を自供しますが、裁判では一転して犯行を否認、無罪を主張します。堀内利勝警部が発見した物証、血のついたシャツには決定的証拠とするには疑わしい点がありましたが、結局、滝川実を裁判長とする裁判官らは、矢代に有罪判決を下します。矢代は服役中も無罪を訴え続けますが、結局獄中で病死します。菊山事件と呼ばれるこの事件は、近しい関係者以外には忘れられていきますが、この事件を決して忘れない、矢代が犯人でないことを知っている人間がいました。それは真犯人です。
     何年も後、遠く離れた場所でひき逃げ死亡事件が発生します。被害者は、菊山事件を裁いた元裁判長滝川実、加害者として拘留されたのは、同じ事件で捜査の中心だった元警部堀内利勝でした。堀内は一旦は犯行を自供するものの、後に無罪を主張、そうする中で、自分は計略に嵌り、自らの強引な捜査で有罪とされた菊山事件の矢代と同じ立場に立たされていることを知ります。
     この本のテーマは冤罪です。自白を後に翻す容疑者に対し、やってもいないことを自供するはずがない、あれは最後のあがきだなどと私たちは思いがちですが、作者は本の題名の通り、虚偽の自白に導かれる風景を説得力を持って描いていきます。証拠を捏造したり、自白を強要したりする捜査官に、罪の意識はほとんどありません。それは彼らが非人間的だからではなく、彼らは状況から被疑者の有罪を確信していて、運悪く決定的証拠がないだけだと考えているからです。自分たちの行為が正義だと思っている以上、彼らの良心が暴走を止めることは期待できないでしょう。
     この本はミステリーなのですが、作者にはまず描きたかった題材として冤罪の構造があり、ミステリー作家である以上、それをミステリーを通して表現した、私にはそんな風に感じられました。だからといって娯楽性が低いわけでは決してなく、人間の挫折、偶然事件に巻き込まれる理不尽さ等を考えながら、最初から最後まで飽きることなく一気に読めます。結末も、先を読むのが得意でない私には意外でした。社会派ミステリーの傑作であり、お勧めの本です。

  • 冤罪がテーマと言っていいのだろうか。人の生き様というのだろうか。最後の最後まで緊張感あり。

  • 「冤罪とはいかに不条理に作られるか」を主題にした社会派エンターテイメント。警察の過酷な取調べ、楽になりたくてつい口にしてしまう嘘の自白、捏造される証拠品などを鵜呑みにして判決を下す裁判官…こういった事実が実際にあると訴えるメッセージ性の強い作品です。冤罪に追い込んだ元刑事が冤罪に巻き込まれる構図はなかなか面白く、読み応えがありました。
    思いがけないラストに多少の失望感を味わいましたが、色々考えさせられる終わり方だと思いました。

  • 冤罪の持つ構図を逆手にとったような作品で、多少のエンターテイメント性とノンフィクションぽい部分が適度に融合していて、最後まで一気に読めました。

    自白を強要していた警官が自ら強要される立場になっていく様は、恐ろしいものがあります。

    作品としては、人物にもう少しキャラだてがほしい気がするのと、エンドがもうひとつでした。なので☆1引きました。

    少し古い作品ですが、冤罪を知る上でも

    もっと読まれてよい良書だと思います。

  • 骨太の推理小説。
    正直地味と思ったけど、途中でやめることなく最後まで読ませるのは、作者の文章力か。

    最終章がとても熱い。面白かった。

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著者プロフィール

1943年東京都生まれ。東京大学理学部卒。82年『ハーメルンの笛を聴け』で第28回江戸川乱歩賞候補。85年『殺人ウイルスを追え』で第3回サントリーミステリー大賞佳作。〈壮&美緒シリーズ〉に代表されるトラベルミステリー、『自白の風景』『黙秘』『審判』『目撃』『無罪』などの法廷ミステリー、『「法隆寺の謎」殺人事件』『人麻呂の悲劇』などの歴史ミステリーにも定評がある。

「2023年 『殺人者 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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