死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#2 告発(accusation) 十和田湖・夏の日の悲劇 (徳間文庫)

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  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198948047

作品紹介・あらすじ

死を見つめる〝赤い麦わら帽子の女〟は誰か?
この真相は、誰にも読めない!

読みすぎ注意:中町信はあなたの安眠を奪います

真夏の十和田湖で起きたボートの横転事故を皮
切りに、次々に連続する死のドミノ倒し。背景
に深く関わる疑惑の四人の人妻たちも、飛行機
墜落事故で記憶喪失の生存者一名を残し三名が
死亡。偶然の連鎖か? それとも連続殺人か? 
事件の真相を記す死者からの告発の手紙が、遺
された夫たちを疑心暗鬼の闇に突き落とす。叙
述ミステリの魔術師が放つ究極の騙し絵パズル

(『十和田湖殺人事件』改題)

トクマの特選!
イラスト 三卜和貴

〈目次〉
プロローグ
第一章 夏の日の悲劇
第二章 死者からの手紙
第三章 湖畔に立つ影
第四章 最初の容疑者
第五章 大空の記憶
第六章 空白の近景
第七章 盗作の殺意
第八章 書斎の死体
第九章 死者の告発
第十章 最後の容疑者
第十一章 もう一通の脅迫状
第十二章 偽りの構図
エピローグ

解説 辻真先

感想・レビュー・書評

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  • 真夏の十和田湖で起きたボートの転覆事故を皮切りに、死が次々と重なる究極の騙し絵パズルミステリ!飛行機事故死した関係者の妻からの告発状の意味とは?!

    叙述ミステリの魔術師という二つ名は伊達じゃない!叙述トリックと煽りがあるだけでネタバレでは?と思った自分が打ちのめされた一冊。とにかく構成が緻密!巨大な騙し絵パズルのピースは膨大!ドミノ倒しのごとく連なる殺人と人間関係が、一つの絵として完成するラストは圧巻!

    ボートの転覆はただの事故なのか?!事故の最中、助けを呼ばなかった夫婦と赤い麦わら帽子の女は誰なのか。それを目撃した女性が転落死したのは事故か他殺か。謎だらけの事件の真相を綴ったはずの告発状!しかし、それを送った女性は飛行機事故死!ただ一人生き残った関係者も記憶喪失。疑心暗鬼の中で巻き起こる連続殺人。ああ、謎が多すぎる(笑) 数えればキリがないほどの謎と罠と愛憎劇を、これほど見事に繋ぎ合わせることができるなんて凄まじいとしか言えない。

    主要登場人物が多く、夫婦間の関係性や、手元にある事実を整理するのが大変なのが玉に瑕。ただ、王道の展開に織り交ぜながら伏線回収を丁寧にしてくれるので、ぜひラストまで駆け抜けてほしい。余韻に浸りながら、もう一度読み直したくなる──そんなミステリ。

  • ● 感想
     非常に複雑で、様々な要素が絡みあった作品。冒頭で、鹿角容子という人物が死亡した事実が告げられる。事故とも見えるが、他殺とも思われる。容子の夫であり、刑事である鹿角圀唯が捜査をする。
     容子が死ぬ前に、容子のもと恋人で、過去に容子をひどい目に遭わせていた松口秀明が溺死していた。その溺死する場面を黙認していた夫婦がいたという。容子は、その夫婦に殺害されたのではないかと、圀唯は疑う。
     もう一つの要素として、天神三津子、蒲生貞子、小田切雪枝、葛西幸子の4人が乗った飛行機が墜落。天神三津子だけが生き残る。
     蒲生貞子は、夫である蒲生晃明と天神岳久に告発の手紙を送るが、岳久は純粋失語の症状で読めない。蒲生晃明は、手紙の内容をごまかす。
     また、溺死した松口秀明は癌で余命わずか。それでいて、ミステリ作家になりたいという夢があり、天神岳久の過去作を自己の作品として出版社に持ち込み小田切孝にも見せる。これを小田切孝が盗作してしまう。
     葛西は、天神岳久の方が盗作をしたと疑う。
     整理すると、この物語を複雑にしている要素として以下のものがある。
     飛行機事故により、蒲生貞子、小田切雪枝、葛西幸子が死に、天神三津子だけが生き残ったこと。
     天神岳久が純粋失語の症状。この症状により蒲生幸子が出した手紙を岳久は読めず、蒲生晃也が内容をごまかしたこと。
     松口秀明が天神岳久の過去作を自己の作品として持ち込む。これを小田切孝た盗作したこと。
     天神三津子と蒲生晃也が不倫をしていたこと。
     これらを利用した叙述トリックが仕掛けてらており伏線もある。極めて技巧的な作品
     読んでいて力作だと感じるが、面白いかというと、複雑になり過ぎていて、すんなり驚けない。詰め込み過ぎなのである。本当によくできたミステリは、1つの事実が核となっており、その核に気付くことで、様々な要素の真相が明らかになっていくような作りの作品だと思う。これだと、サプライズも高く、分かりやすい。
     この作品は、その核がない。天神岳久が純粋失語であったことが大きなポイントとなっているが、この事実と、盗作騒ぎ、不倫騒ぎ、飛行機事故といった他の要素の核となっておらず、それぞれが小さな核となっている。
     要約しにくい作品であり、どういう作品だったと一言で言えないので、印象に残りにくい。複雑な作品だったという印象が残ってしまう。
     力作だし、こういった練り込まれた作品は好みである。しかし、1つの核から様々な点が解きほぐされていく作品よりは低い評価となってしまう。★3で。

    ● メモ
    鹿角容子
     刑事である鹿角圀唯の妻。湖畔の達磨岩から落ちて死亡。「十和田湖の事件」を目撃したことが原因で殺害された。松口秀明が溺死するのを助けずに見ていた小田切孝・雪枝夫婦に殺害されたと思わせて、実は、蒲生晃也と天神三津子の不倫の現場を目撃したことが原因で殺害されていた。

    松口秀明
     十和田湖で溺死。女性関係のスキャンダルで、天神岳久の弱みを握っている。癌で長く生きられない状態だった。ミステリ作家になりたかったために、天神岳久の過去の作品を勝手に持ち出し、自分の作品として売り込む。これが、天神岳久の盗作騒ぎにもつながる。また、この作品を小田切孝が自分の作品として発表。これがバレないように、小田切夫婦は、松口が溺死しようとする場面で、転覆事故を黙殺した。

    柏木里江
     容子の高校時代の同級生。容子の死を他殺と疑う。容子の死の真相を告発しようとして、殺害される。
     蒲生晃也、貞子夫婦に松口の転覆し黙殺と容子殺害を告発する手紙を出した…思われていた。しかし、実際は、松口由美と話をしたことから、容子は不倫の現場を目撃したことが原因で殺害されたということに気付く。最初は、天神岳久と蒲生貞子が不倫している現場を目撃したから、容子が殺害されたと思ったが、貞子と話をして、蒲生晃也と天神三津子が不倫していた場面の目撃したから殺害されたと気付く。
     天神岳久にも手紙を出していたが、天神岳久が失語症だったこと、それを利用し、手紙に着いて、蒲生晃也が嘘の内容を告げたことが、この事件をややこしくした。

    松口由美
     松口秀明の妻。鹿角容子が、松口秀明が溺死しようとした場面を黙殺したと誤解し、容子を責める。容子は、黙殺されていないことを、家政婦に証言してもらおうと思い、天神の別荘に向かい、不倫現場を目撃し、殺害されるという流れとなる。

    浅海和歌子
     天神三津子の姉。プロローグに登場し、蒲生晃也の手紙の3枚目を盗んだ人物。最後にも出てくる。ちょい役だが、天神三津子が犯人ではなく、別の人物が犯人であると見せかける叙述トリックとなっている。

    天神三津子
     蒲生晃也と不倫をし、不倫の現場を目撃されたことから、蒲生晃也と、鹿角容子を殺害する。プロローグで、墜落する飛行機で蒲生貞子と話をしていた人物である。飛行機事故で生き残り、証言をするが、記憶を取り戻した後の証言は嘘。小田切夫妻を犯人にしたてあげようとした。

    天神岳久
     ミステリ作家で女好き。純粋失読という障害で、文字を読むことができなくなっている。この物語のキーマンであり、ややこしくしている張本人。鹿角容子に手を出そうとしていたり、蒲生貞子と不倫をしていると疑われたりし、ミスディレクションの役割を果たしている。松口秀明に弱みを握られており、秀明に、過去の作品の原稿を盗まれたことも、物語をややこしくしているし、小田切夫婦が秀明の溺死を黙認した事件につながる。また、純粋失語を蒲生晃也に利用されており、天神岳久に贈られた手紙を読めなかったこと、その手紙の内容を蒲生晃也に読ませたが、蒲生が嘘の内容を話たことが、叙述トリックとなっている。最後は、蒲生晃也と天神三津子の不倫の事実を知り、晃也に殺害される。

    小田切雪枝
     夫である小田切孝に、癌で余命いくばくもない、松口秀明の作品の盗作を促す。飛行機事故で死んでいるが、天神三津子の策略により、鹿角容子殺害の犯人に仕立て上げられようとされた。

    小田切孝
     極度のスランプになっていたことから、妻である雪枝の促しもあり、松口秀明の作品を盗作。秀明の溺死を黙認する。また、これが天神岳久の過去作であったことから、身の破滅を感じ、自殺する。物語では、犯人役としてミスディレクションになっているが、最も怪しい人物でもあり、まぁ、犯人ではないなと思われる立場

    葛西幸子
     飛行機事故で死ぬ。

    葛西清吉
     編集者。天神岳久が、松口秀明の作品を盗作していると考える。最終的に、蒲生晃也が、天神岳久をかばっていると誤信し、蒲生晃也に殺害される。

    蒲生貞子
     天神岳久と並ぶ、この物語のキーパーソン。飛行機事故で死ぬ。独自に十和田湖事件を捜査し、鹿角容子殺害の真相を知る。最初は、柏木里江に、天神岳久と不倫していたと誤解され、容子殺害を疑われる。ここから、蒲生晃也と天神三津子の不倫の事実を知り、天神岳久と蒲生晃也に手紙を出す。天神岳久が純粋失語であり、蒲生晃也が嘘をついたことから、事態がややこしくなる。物語をややこしくするために存在するような人物

    蒲生晃也
     鹿角容子、葛西清吉、天神岳久殺害の犯人。天神岳久が文字が読めない状態であることを知っており、これを利用して貞子からの手紙の内容を、物語の登場人物だけでなく、読者にも誤解させる。天神岳久殺害は、岳久が複数の締切の原稿を用意していたことを利用したアリバイトリック。妻を殺害された被害者っぽい位置にいたが、最後は、天神三津子と不倫をしており、原稿を得るために、この事実を隠そうとしていたことが分かる。

    鹿角容子
     もと恋人である松口秀明に過去にひどい目に遭わされていた。そのことで、秀明の妻から、秀明の溺死を黙認した人物と誤解される。その誤解を解くために、天神岳久の別荘を訪れると、蒲生晃也と天神三津子の不倫の現場を目撃。そのため、殺害される。こう書くと、かなりひどい目に遭っている人といえる。

    鹿角圀唯
     容子の夫であり、刑事。容子殺害の真相を知るために、十和田湖事件を捜査する。柏木里江とも協力するが、里恵は死亡。松口秀明の溺死を黙認した人物に容子が殺害されたと考える。松口秀明の溺死を黙認したのは小田切夫婦だったが、実際は、天神三津子と蒲生晃也の不倫の現場を目撃したことから、容子はこの二人に殺害されていた。里江が出さなかった手紙を読んだことから真相に気付く。最後のポイントは、天神岳久が純粋失語だったこと。

  • 甘めだけど、この評価。普通に面白かった。
    複雑に入り組む事件と見えていたことが全てではないけど、二転三転する様相は良かった。
    まあやっぱり人は死にすぎだよね。とは思うけど。

  •  徳間文庫による故・中町信氏の復刊企画、「死の湖畔三部作」の第2弾が刊行された。第1弾に当たる『田沢湖殺人事件』の復刊から約1年が経過。今回は『十和田湖殺人事件』だそうです。もっと早く出るものだと思っていたが、早速読んでみる。

     騙しの派手さという点では『田沢湖殺人事件』が上かもしれないが、本作もある意味十分派手だろう。とにかく事件関係者が死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。容疑者候補がことごとく死ぬのだから、その度に推理のやり直しとなり、苦笑せざるを得ない。

     オープニングから凄い。釧路発の航空機に同乗していた関係者たちが、墜落によっていきなり死ぬ。笑うに笑えん。初版刊行は日航機墜落事故の翌年であり、よくこの設定が通ったものだという気もする。映像化は現代でも難しいだろうなあ。

     前作も妻を失った男が主人公だったが、今回も妻を失った警察官の鹿角が主人公である。妻の死は事故だと思われていたが、他殺である疑いが浮上した。調査に動く彼の立場は、公人でもあり私人でもある。情だけに流されないのはプロの矜持か。

     一連の事件の発端は、十和田湖で発生したある事故と思われた。十和田湖畔の宿近辺に集まっていた、作家や出版関係者、その妻たち。そこにあの男が現れたばかりに…。出版業界の悲喜こもごもに巻き込まれた鹿角の妻は、とばっちりだよなあ。

     どんでん返しの多さにやや混乱するし、新情報の出し方はずるい。前作よりスマートさに欠けるが、バランスなんぞ知るかという強引さが潔くもある。感動させる気なんぞ毛頭ない。とにかく、最後まで読ませようというエネルギーはすごい。

     前述の通り、あまりに死者が多いので、数少ない生き残りが自動的に真犯人になってしまうではないか。クローズドサークル的と言えなくもない。それにしても、こんなに死者を出しておいて、動機はそれかいっ! 盛大にずっこけてしまった。

     褒めているのか貶しているのかわからない感想を書いて申し訳ないが、楽しめたし面白かったのは間違いない。社会派作品が評価されがちな昨今、無心になって読めるミステリーは少ない。短絡的に動く登場人物たちが、どこか愛おしい。

  • プロローグで展開されるスリリングなシーンを、そのままに受け取っちゃいけないんだろうなあ、と裏を読みながら読むのはやはり楽しい。あちこちに播かれた、違和感のあるエピソードの意味が終盤一気に解き明かされていく快感は、これこそミステリという気がする。とはいえ、何かに気付いた登場人物がそれを伝えることなく死ぬというパターンが、しつこく五回も繰り返されるのはさすがに無理があるだろう。少なくとも四つめの死を防げなかった警察は、無能と誹られても文句は言えまい。トリックの仕掛けにおいてはこれだけ繊細な作家さんが、ここまで無神経な展開を是とするのはやっぱり不思議。

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著者プロフィール

1935年群馬県生まれ。早稲田大学文学部卒業。 66年に「闇の顔」で第1回双葉推理賞候補になる。『新人賞殺人事件』(後に『模倣の殺意』に改題)で単行本デビュー。叙述トリックを得意とし、『空白の殺意』『三幕の殺意』『天啓の殺意』などの著作がある。2009年逝去。

「2022年 『死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#2 告発(accusation) 十和田湖・夏の日の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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