圏外編集者

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  • 朝日出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255008943

感想・レビュー・書評

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  • 現代の「編集」を考えたくて読んだ。しかしメディアが時代を編集し、トレンドという大きなうねりを作り、世の中に力を持つことができたのは「かつて」の話であることを、結果的に痛感する。もう活字メディアが生き残る道は限られており、いかに作り手個人が熱狂し続けることができるのかということ(だけではないが…)。インターネット以降の「編集」を考えるのにとても心強い一冊、なのだが、今はもはやポストパンデミック以降の「編集」を考える必要がある。

  • 読み終わって、好きなことをして生きられる幸せを噛みしめる。メインストリームばかりじゃ、楽しくない。
    書くこと、取材すること、知られていない逸材を世に出すこと。編集者もライターも媒体なのかもしれない。
    WEBも本も好きだけど、やっぱり紙の本が好きだ。一方で、収入得ているのはWEB。紙の本メインで生活するのが私の目標。

  • 編集者・都築響一が自分の仕事の方法などを語り、それを書き起こした本。ポップカルチャーというかサブカルというか、今までにない本を作ってきた編集者で、有名な人のようなのだけど、すみません、私は読んだことありません。仕事のやり方も考え方も個性的で、ただただ凄いなあと思いながら読んだ。

  • パンクなんて言葉、人生で一回も使ったことないし、これからも数えるほどしか使わないだろうけど、この本はパンクだ。
    自分の感性を信じればいいと思える。

    やっぱり人生のカッコよさって、自分の信念を貫いていることにあると思う。
    都築響一さんは、そこの強度がとても高い。
    信念が強いし繊細だ。
    情報を余すことなく伝えることが編集者で、報道の仕事だと考えている都築さんの考えは、この本でも体現されている。

    ページのギリギリまで詰められた文章。あとがきまで無駄なスペースが一つもない本。

    これはかっこいいわ。

  • 仕事の中心は有料メールマガジン。月4回。1万~2万字。200枚以上の写真。デザインはウェブサービスチームに。

  • 明快で痛快。著者の編集者魂が炸裂している一冊。
    『POPEYE』や『BRUTUS』の編集に携わった著者は、「おもしろいとわかっているから」取材に行くのではなく、「おもしろそう」だから行く、編集会議は集団責任回避にすぎないから一切不要、そんなことしている間にネタの鮮度はどんどん下がる、と一刀両断。雑誌を作るのに読者層は想定しないし、マーケットリサーチなど一切しないと、にべもない。
    読者を見るのではなく、自分を見る、「スキマ」ではなく、「大多数」を見る、その自分の目を信じて取材に突き進む。有名建築家がデザインした豪邸に住んでいるひとより、狭い賃貸マンションに住んでいるひとの方がずっと多い。デートで豪華なホテルに泊まるひとより、国道沿いのラブホテルに泊まるひとの方がずっと多い。メディアはどうして取り上げないか、という強烈な苛立ちと危機感。著者のそうした姿勢には、爽快感すら覚える。

    ところで、紙に載る文章に比べて、ネットに載る文章は起承転結が明確でなく、「起」の部分にすべてを持ってきている、という著者に指摘には思わず唸った。ネット上の文章に感じる軽い違和感の正体はまさにこれだ。

  • 思索

  •  賃スポットやラブホテルなどの写真集(?)で有名な著者のなかば自伝。かなりロックな在りように感動w。



    圏外編集者

     1990年のドイツでフランクフルトブックフェアにいった。ロシアの「サミスダート」を集めた展覧会があって、ロック系(ローリングストーンズ)の本を買おうとしたら、限定五分で売れない、といわれた。
    当時のロシアはコピー機が使えないから、手動でタイプライターに5枚挟んで打つ。力を入れて打てば5枚ぐらいまで写るから、とのこと。

    P13
     自分がどうしても読みたいけれど、その本が世の中には存在しない。かといって、誰かを説得して作ってもらう能力や財力は持っていない。でも、意欲だけは誰よりもある。この強い意志が、タイプを叩く力になって「モスクワ・ローリングストーンズ・ファンクラブ会報」は世に生まれた。

    P28
     その編集長から教わったことはいろいろあるけど、いちばん身についたのは、「読者層を想定するな、マーケットリサーチは絶対にするな」だった。知らない誰かのためでなく、自分のリアルを追求しろ、と。そういう教えが、僕の編集人生のスタートだったかも知れない。

    P30
     若い編集者を夢中で働かせるコツって、給料じゃない。メシ!これはいまだにそう思う。のびのびやらせて、腹いっぱい食べさせて、飲ませる。これにかぎる。

    P32
     けっきょく、編集を学ぶヒントがどこかにあるとしたら、それは好きな本を見つけてじっくり読み込むしかないと思う。

    P46
     余白たっぷりのデザインがぜんぶダメなわけではないし、詰まってりゃいいってもんでもない。一冊の本や雑誌が、なにをどれだけ伝える器であろうとしているのかを見極めること。それがエディトリアル・デザイナーの資質だと思うし、そこには著者や編集者と、デザイナーのコミュニケーション能力もすごく関係してくる。

    P84
     (東京在住の夢を追っている若者の雑然としている住処を特集した「TOKYO STYLE」を編集・出版した後)
     それで地方の子たちは「こんな(東京でのラグジュアリーな)生活、私にはとても無理」ってあきらめていたのが、「実はこうだったんだ!」って。「これなら私の方が勝ってる」から、「もう、すぐ東京に行くことにします!」とか書いてあって、「ちょっと待て」みたいな(笑)。
     (略)当時は東京と地方はまだ情報伝達の時間差が確実にあった。そうして、メディアが取り上げる例外的な「東京」が、いかに美化されたウソなのか、それが地方の子たちにいかに無用な劣等感を植え付けているのかが痛感できた。そういう「大手メディアの欺瞞」にこのへんで気づいたことが、僕にはすごく大きなことだった。

    P96
     (目指すような珍スポットを探すも地元の人も知らずor教えてくれず結局自分の足でひたすら探し回って、締め切りぎりぎりまで見つかるって危機が何度もあった)
     最初のうちは自分がそういうの探すの、けっこううまいかもと思ったりもした。でも、そんな予期せぬ出会いが何度も何度も重なるうちに、ある日悟った-これは自分が探し当てているんじゃない、相手に探し当てられているんだ。自分は見つけてるんじゃなくて、「呼ばれてる」だけなんだって。

    P130
     (ラブホテル特集をして思ったこと)
     ふつうは泊まれない一流ホテルや旅館の本がいくらでもあって、ふつうに泊まれるラブホテルの本が一冊もない。(略)そういうものばかり見せられているうちに、劣等感やフラストレーションを抱きかねない。けっきょく、メディアが描く図式は一緒だった。

    P142
     前に大竹伸朗くんが言っていて、なるほどなと思ったのは「現代」という二文字がつくと、いきなりロクなもんじゃなくなると。「現代美術」「現代音楽」「現代文学」・・・(略)「現代」という文字がついたとたん、やたら小難しくなったりする。難解なのが高級、みたいな。(略)
     わからないから、自分の本を買って勉強しなさい、自分の授業にでなさい(略)。意地悪な言い方をすれば、難解にしておくことが専門家の商売のような気さえしてくる。

    P145
     現代美術の外側にアウトサイダー・アートがあるように、現代史の外側にある何かを探せたら、と思っているところに(略)「ROADSIDE JAPAN」の詩版みたいなのをやらない?と(友達であった新潮の編集長に)提案して始めたのが「夜露死苦現代詩」の連載だった。

    P166
    (彼の本に登場する「田我流」が地方の若者を描いた「サウダーヂ」という映画に主演した)そこでもきっちり描かれていたように、今日本の地方がおかれている状況は、ほんとうにどうしようもない。シャッター商店街と郊外化。若者に仕事は見つからないし、賃金は低安定化だし、文化的なプロジェクトなんてなにもない。
     セックスと車しかなくて、でもどこを運転してもイオンタウンと洋服の青山と東京靴流通センターとパチンコとファミレスがあるだけ。そういう東京とは比べものにならない閉塞感でがんじがらめになっているからこそ、「ひどすぎて笑える」くらいのやりきれなさだからこそ、こころを撃つ何かが生まれてくる。

    (ニャン2倶楽部Z 素人露出投稿のみで構成されている。雑誌のヒエラルキーとしてプロの女優や売れっ子モデルを使っているのが頂点で、読者投稿のみのこの雑誌はほぼ最底辺。)
     ただ、そんな最底辺の露出投稿雑誌でも、写真を投稿できる人たちはやっぱり恵まれた部類でもある。(略)写真に撮らせてくれる相手がいるのだから。そういう相手すらいない、写真を撮ることさえできない人間でも何かを発信できる場所、それが「読者イラスト」コーナーだ。
     (略)
     脳内は妄想でパンパンに膨らんでいるけれど、自分には縛らせたり、調教させてくれる相手がいない。自分には縛らせたり、調教させてくれる相手がいない。カネで買うこともできない、それどころか女性に声をかけることすら苦手。そういう男たちが自分の妄想を絵にしては、送ってくる。なかに毎月何枚も。なかには創刊以来20年以上、欠かさずに。(ぴんから体操さんを紹介)。

    P178
     世の中でいちばんアートを必要としているのは、描くことが生きることと同義語であるようなアウトサイダーであるとか、明日死刑になるかも知れない最後に時間に絵筆を持つ死刑囚とか、露出投稿雑誌に掲載されるのが人生唯一の楽しみであるようなイラスト職人とか、ドールにだけ自分の気持ちをぶつけられるアマチュア写真家とか、そういう「閉じこめられてしまったひとたち」ではないのか。アートは彼らにとっての、最後の命綱ではないのか。

    <美大のワナ>
     もう学校(美術大学)は「いろいろ機材が使えるでかいレンタルアトリエ」と割り切った方がいいし、先生や助手は版画のプレス機の操作とか、技術的にわからないことを教えてくれる人、くらいに思ったほうがいい。

    P220
     自費出版というかたちで地元のカルチャーを、自分たちで発信できるようになったら、もう東京はいらない。

     いい服が好きなのは、なにもおかしなことじゃない。(しかしふだんの生活ではそのしたにユニクロのパンツを合わせるのがふつう)
     でも、いまのファッション雑誌のほとんどは、そういう着こなしを載せない。(略)上から下までぜんぶ、一つのブランドで統一されているのがお約束だ。(略)それはもはやコーディネートではない。カタログや、お店のショーウィンドゥと一緒だ。スタイリストは独自のコーディネートを考える人ではなくて、ブランドと雑誌をつなぐ係り。ファッション雑誌の役割が終わった瞬間だったのかも知れない。

    P254
     かつては情報格差というのものがあった。ふつうのひとには手に入れられない最新情報をパリコレやニューヨークのくラブや、ロンドンの美術館で入手できる専門家がいて、それを「一般人」に広めることで「専門家」という商売が成り立ってきた。
     (略)インターネットがすべてを変えてしまった。

  • 怒りと劣等感からうまれた熱を帯びた取材。身近すぎて見ようとしなかった世界の面白さ。本はまた知らない世界を教えてくれる。都築響一のバイタリティおそるべし。

  • プロとアマチュアの境界とは?、誰でもネットなどを通じて作品を発表でき、多くのことを知ることもできるこの時代に、果たして専門家の果たす役割は何だろうか?
    読書と合わせて著者の都築さんのトークを聴く機会があり、色々お尋ねできて非常に良かった。「最高なモノを作ること=ゴールではない、結果ではなくプロセスでハッピーになりたい」「完成度より持続する思いを重視したい」というまさに、そういった思いから表現し発信していらっしゃるのだと思う。

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著者プロフィール

1956年東京生まれ。1976年から1986年まで「POPEYE」「BRUTUS」誌で現代美術・デザイン・都市生活などの記事を担当する。1989年から1992年にかけて、1980年代の世界現代美術の動向を包括的に網羅した全102巻の現代美術全集『アートランダム』を刊行。以来、現代美術・建築・写真・デザインなどの分野で執筆活動、書籍編集を続けている。
1993年、東京人のリアルな暮らしを捉えた『TOKYO STYLE』を刊行。1997年、『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』で第23回木村伊兵衛写真賞を受賞。現在も日本および世界のロードサイドを巡る取材を続けている。2012年より有料週刊メールマガジン『ROADSIDERS’weekly』(http://www.roadsiders.com/)を配信中。近著に『捨てられないTシャツ』(筑摩書房、2017年)、『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』(ケンエレブックス、2021年)、『IDOL STYLE』(双葉社、2021年)など。

「2022年 『Museum of Mom’s Art』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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