天涯の海 酢屋三代の物語

著者 :
  • 潮出版社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784267022593

作品紹介・あらすじ

いまや世界中に広がった日本食「握り寿司」。
江戸時代に考案された酒粕から造る「粕酢」の登場が、現代まで続く寿司人気のきっかけとなった。
のちのミツカングループ創業三代、三人の又左衛門を描く歴史長編!

感想・レビュー・書評

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  • 現在のミツカングループの創業三代――江戸時代の3人の「又左衛門」の物語だ。

    読む前は「地味な題材だなァ」と思ったものの、読んでみたらとても面白かった。
    さすがに歴戦のプロ作家、事実に基づいて話を盛り上げる術を心得ている。

    江戸文化に造詣の深い作者だけに、酒粕由来の「粕酢」の誕生が江戸前寿司の隆盛につながっていくまでの描写が濃密だ。

    私は昔、江戸前寿司の黎明期について記事を書いたことがあり、本作にも出てくる華屋与兵衛(江戸前握り寿司の考案者)についても調べた。
    なので、いっそう楽しめた。

  • 半田市と聞いて浮かぶのは新美南吉とミツカン酢。他県から移り住んだ私はそのどちらも慣れ親しんだものなのに名古屋からほど近いその地が出自だと知らなかったのだ。

    「ゲイシャ・フジ・スシ」世界から見た日本をイメージするワードでもある「寿司」。食べた事がないという日本人はわずかだろう。物語はこの「寿司酢」を現在に近いレベルにまで引き上げた三代にも渡る人々に焦点を当てている。

    酒造りと酢の薄皮一枚な関係性。「酒が火落ち(腐造)」すると酢になり、もし酒が「焼けて」しまえば他の酒を守るため最悪廃棄してしまうのだという。
    当時の酢は酸味が強くあまり一般的には普及してしなかったようだ。が、江戸では寿司が大流行り、もしかしたらここに勝機があるのでは?と気付く。
    いつの時代にも発想の転換と努力を重ねる人々が現れ、それを支え、継承していく人々がいる。1人との思いがけない出会いが後の世に深みと拡がりを見せる。
    一族の利益は勿論、地元・半田村を守る為に尽力した経緯を知り、改めて彼の街並みを眺めてみたくなった。

    酢の物や最近では多種多様なアレンジもあり、より身近に感じるお酢。安心安全かつ安価で入手できるのも先人たちと今を大切に繋いでいる人のおかげなのだと感じた。

  • 「蔦重の教え」の作者だけに、この作品も圧巻の読み応え。
    ミツカンの成り立ちの伝記になっている。

    副題が「酢屋三代の物語」

    不思議なことに、当主は他家からの養子が大きな名を残している。

    元々は名古屋地区の酒蔵。
    だが、いつまでも上方の酒には一歩どころか
    常に値段では半額以下。

    評判の悪い江戸の酒よりはマシといった評価。

    酒蔵で樽が酢になってしまったことに端を発し、
    もっと美味しい酢はどうしたら作れるか?
    研究を重ね、酒粕から上等な酢を作ることに成功。

    「粕酢」と言う名前の新しいお酢は、江戸に持っていき、人々に食べてもらうと、なんと、寿司屋から高評価。

    そこから、大きく商売が変わる。

    この物語は、新しい美味しい酢づくりという、大事業を成功させるまでの、歴代当主の苦労、その妻の援助を、感動的な物語に仕上げている。

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著者プロフィール

著者:車浮代 Kuruma Ukiyo
時代小説家/江戸料理・文化研究所代表
大阪出身。企業内グラフィックデザイナーを経て、作家の柘いつか氏に師事。江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、 NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壺』『先人たちの底力。知恵泉』などの TV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニ ブックスPLUS新書)、『免疫力を高める 最強の浅漬け』(藤田紘一郎氏と 共著/マキノ出版)、『1日1杯の味噌汁が体を守る(』日経プレミアシリーズ)、 『天涯の海 酢屋三代の物語』(潮出版社)、『蔦重の教え(』飛鳥新社/双 葉文庫)ほか多数。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修も。 『和食Style.jp 』にて「豆腐百珍のすべて」連載中。

「2022年 『江戸の料理本に学ぶ 発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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