灰色の季節をこえて

  • 武田ランダムハウスジャパン
4.05
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本棚登録 : 99
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784270006894

作品紹介・あらすじ

1665年春、イングランド中部の村がペスト渦に襲われた。村に腰を落ち着けたばかりの仕立て職人が、首にできた瘤から悪臭を放って死んだ日が始まりだった。すべてを燃やせ!-仕立て職人の遺した言葉も村人は聞く耳を持たなかった。まもなく病は燎原の火のように広がりはじめた。18歳の寡婦アンナの家も例外ではなく、幼い息子二人をたちまち死神が連れ去った。底知れぬ絶望と無力感に覆われた村では、やり場のない怒が人々を魔女狩りへと駆り立て、殺人事件さえ起きた。アンナが仕える若き牧師夫妻は近隣に疫病が広がるのを防ぐために、村を封鎖してこの地にとどまり、病に立ち向かうよう呼びかけた。だが、有力者一族は村を見捨てて立ち去り、死者はとめどなく増え続ける…。史実をもとに、巧みなストーリーテリングと瑞々しい感性で綴られる、絶望と恐怖、そして再生の物語。著者を歴史小説界の頂点に押し上げた記念すべきデビュー長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 1665年のイギリスの田舎町でペストが発生。村の識者である牧師はペストが収まるまで自発的に村を封鎖し、外部との一切の接触を断つことを決める。外部との取り決めで生活に必要な物資は届けられるものの、ペストの伝染は止まらず、村人は次々と病に倒れ、死んでいく。
    下宿させていた他所者が最初にペストに倒れ、村での発生源となったため、始めのうちは村人に忌避されていた寡婦アンナも二人の幼い子供を病で失ったが、村で一番学のある牧師夫妻に献身的に仕え、少しでも病を食い止めようと励んでいたが、状況は日々悪くなる一方。
    出口のない状況に、村人の心は次第に荒廃し・・・?

    というような話。

    田舎の小村でのペストの発生から終焉までを描く話。
    冒頭部分がペストの流行がほぼ収まった時点での描写で、そこから主人公アンナが過去を振り返る形で話が進んでいくので、最後は村の封鎖が解けて終わりなのかと思っていたら全然違った。
    主人公アンナは逆境の中でどんどん知識と力を身に着け成長するが、まさかラストがあんなことになるとは思わなかった。どう頑張っても暗い結末にしかならなそうだと思っていたので、いい意味で裏切られた。

  • 1665~66年に英国の小さな炭鉱の村を襲ったペスト禍。
    運命共同体と化した村人たちが危機を乗り越えるべく耐え、奮闘するが、同時に迷信から来るリンチも。
    主役の女性も幼い二人の息子を失い、悲しみにくれる暇もなく村人たちのために奔走。
    心の支えとなったのは、村人たちを指導した若い牧師夫妻。
    その状況でも友情と嫉妬、愛情と憎悪が渦巻く。
    危機に際して剥き出しになる人間の醜さと、真の強さを持つ人間の美しさ。
    近世英国のキリスト教社会という閉鎖的な舞台ですが、ラストは意外な展開に!?

    牧師さんが一番の肉体労働者で、身を粉にして働く姿が涙ぐましいですねw(^O^;
    17世紀中葉に実際に英国で発生した「イームの疫病」を題材にしています。
    著者ジェラルディン・ブルックスの長編デビュー作です(^O^)

    ニン、トン♪

  • イギリス、ダービシャーの有名な村イームで実際にあった事件がもとになっている。ペストが大流行するロンドンからの織物が病気を運んできた。最初に感染した職人の、全ての荷を焼き捨てるようにとの訴えは貧しい村民には届かず、悪疫は村中に蔓延する。人々の支えとなるべき領主一家は長年仕えた奉公人たちを置き去りにオックスフォードへ逃亡。若い牧師と名家出の妻が献身的に村人の為に働く。
    語り手は無骨だが優しい鉱夫の夫を落盤で、ふたりの幼子を悪疫で続けざまに亡くした若い寡婦。牧師夫妻に導かれて無学な細民から薬草の知識を身につけて村民の助けになるまでに成長していく。
    物語のはじめは悪疫が去った翌年、残された人々が辛うじて生き延びている村。そして前年の疫病の年の物語が本編。最後にまた初めの年に戻る。
    村を封鎖することによりペストの蔓延を防いだ牧師モンペッソンは実名だし、他の人々もほぼ忠実に描かれているようだが、実在の村イームの名が使われていないのには何か意味があるのだろうか?
    あと、封鎖された村に生活物資を支援するチャッツワース・ハウスの伯爵、公爵じゃないの?と思ったら、この人は4代伯爵で公爵になるがそれはまだ後の話。ちなみにハードウィック家のベスの子孫だった。
    ところで、最後近くになって意外な展開。尊敬に値すると思った牧師、かなりの狂信者だった。
    最後のエピローグもなんだかこれいらないや、って、感じでした。
    古典的な題材を現代の感覚であしらうとこうなるのかなあ。

  • 4.11/82
    内容(「BOOK」データベースより)
    『1665年春、イングランド中部の村がペスト渦に襲われた。村に腰を落ち着けたばかりの仕立て職人が、首にできた瘤から悪臭を放って死んだ日が始まりだった。すべてを燃やせ!―仕立て職人の遺した言葉も村人は聞く耳を持たなかった。まもなく病は燎原の火のように広がりはじめた。18歳の寡婦アンナの家も例外ではなく、幼い息子二人をたちまち死神が連れ去った。底知れぬ絶望と無力感に覆われた村では、やり場のない怒が人々を魔女狩りへと駆り立て、殺人事件さえ起きた。アンナが仕える若き牧師夫妻は近隣に疫病が広がるのを防ぐために、村を封鎖してこの地にとどまり、病に立ち向かうよう呼びかけた。だが、有力者一族は村を見捨てて立ち去り、死者はとめどなく増え続ける…。史実をもとに、巧みなストーリーテリングと瑞々しい感性で綴られる、絶望と恐怖、そして再生の物語。著者を歴史小説界の頂点に押し上げた記念すべきデビュー長篇。』


    原書名:『Year of Wonders』
    著者:ジェラルディン・ブルックス (Geraldine Brooks)
    訳者:高山 真由美
    出版社 ‏: ‎武田ランダムハウスジャパン
    単行本 ‏: ‎420ページ

  • 1665年、イングランドのある村でペストが広まってしまう。村は外とのつながりを断ち、疫病を封じ込めようとするが……実話をもとに描かれた物語だが、ずっとペストと戦い続ける人々の疲労、不安、いらだちが、物語の語り手である主人公の目を通して伝わってくるので、読んでいるこちらのダメージもけっこうなものだった。閉ざされた世界での死と隣り合わせの生活は、内に抱えきれなくなった負の感情を誘爆の連鎖に導いてしまう。しかしそんな中にあっても信念の歪んだ人間の言動は異常に映るのだからすごい。ラストは怒涛の展開になるが、主人公のこれからも続くであろうしたたかな生き方に称賛とエールをおくりたい。

  • ペストものだった・・・なんてーか、このご時世シャレにならんな・・・全然時代も国も違うんだけどさ・・・

  • かつてイングランドでペストが流行した時、村の出入り口を閉ざして近隣に病気が広がるのを防いだ村があったというのは知っていたのだけど、それ以上の興味を持ったことがなくて忘れていた。これはその村のお話。
    時代はペスト流行史上2番めにひどかった1665年、場所はピークディストリクトのEyam。

    沢山の人が亡くなった時点から物語が始まって、主人公は20歳を越えたばかりで2人の子供を亡くした寡婦……という、いかにも暗い設定で、一瞬心が揺らいだのだけど、読み続けてよかった。この主人公の心の強さ、村人全体にも通じる、すべきことをする(ピューリタン的な)勤勉さと強さが、人間の手に負えない不条理さや悲劇を前にしてじわじわと効いてくる。

    決して声高ではないのだけど、女性原理の強さも描かれていて、主人公が最初は望んではいないのだけど、結局生命を生み出す性としての女性の職業である産婆、その裏面ともいえる魔女(薬師)として成長していく、というところも興味深い。男性原理の強いピューリタン社会での必要悪のような、畏れられながらも蔑まれ、一歩間違えば魔女扱いで殺されかねない、その不安定さを受け入れつつ前進してきた女性たちの系譜。
    最後の展開もスパイスが効いていて、しかも爽快。

    「古書の来歴」のジェラルディン・ブルックス、抑えた筆致と圧倒的な知識が素晴らしい。本当に力量があるなあ。これからも楽しみ。

  • 文学

  • 初作家さん ぶとくないが読み応えあった

    ペストに荒れる村に宗教が絡む 
    ひとり身のアンナがエリノアに対し段々と愛おしさが芽生えてくる 
    病に倒れたエリノアを看病するマイクルに対する嫉妬心は今までの清廉アンナとは違う人間臭さが見えた 

    男は種まいたら終わり それもある意味悲しいような
    アンナが我が子につけた名前 エリノアへの深い想いにガツンとやられた

  • 時代背景とかめちゃ好み。
    人物描写もよくここまで描けるもんやなっと感心。

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