「法の番人」内閣法制局の矜持

  • 大月書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784272211081

作品紹介・あらすじ

憲法9条の解釈変更=集団的自衛権容認は許されない!長年にわたり政府の憲法解釈を担い、いま岐路に立たされる内閣法制局の元長官みずからがその内実と責務を語り、解釈改憲がもたらす立憲主義の破壊に強く警鐘を鳴らす。

感想・レビュー・書評

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  • 結論を先に書くと「解釈改憲が許されない理由」は書かれていません。
    内容に入る前に著者を紹介します。
    阪田雅裕氏:弁護士資格も持っている元役人で、大蔵省・国税庁を経て内閣法制局に異動となり法制次長(事務方トップ)になった人です。
    川口創氏:日弁連の憲法委員会副委員長。
    この二人の対談本というか、川口氏が阪田氏に質問をするという本です。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/477319279.html

  • これまでの政府の憲法解釈を変更し、集団的自衛権を一定の場合に行使できることを可能にするいわゆる「安保法制」の成立前に、元内閣法制局長官の阪田雅弘氏が弁護士の川口創氏を聞き手に、阪田氏の半生を振り返りつつ、これまでの憲法9条をめぐる政府解釈や内閣法制局の職務内容、その立憲主義に対する矜持などについて語っている。
    憲法9条の解釈について、従来の内閣法制局の「論理」がよく理解できる内容となっている。今回の「安保法制」が該当するかは微妙なところだが、一般に憲法や法律の解釈に事情変更はあり得ると考えるので、従来の政府解釈の延長線上に絶対に「集団的自衛権」容認がないとは言い切れないと思うが、阪田氏のいうとおり、この問題は「論理の問題」として考えるべきであり、デュープロセスにのっとって、憲法改正という王道を歩むべきという主張は納得のいくものだった。
    ところどころ、自分は担当していなかったからというような理由で、阪田氏が川口氏の問いかけに逃げているように感じられたのは、少し残念だった。

  • ◆ 憲法9条と集団的自衛権の関係 p.157
     集団的自衛権にあたる実力行使については、政府は一貫して9条との関係で許されないと解してきました。それは、自衛隊がなぜ合憲かという論理と一体不可分でもあります。(戦力の不保持を定めた)憲法9条のもとで自衛隊が許されるのは、外国の侵略によってわが国の存立や国民の安全が脅かされたときに主権国家として指をくわえて見ていることはできず、それを排除するための実力が必要とされるからです。そういう実力組織として存在が許されているということの裏返しとして、そうでない場合に自衛隊が実力を行使することはできない。すなわち、集団的自衛権の行使のようなことはできないということです。


    ◆ 憲法9条2項の定める「戦力」とは何か? p.122
     自衛隊は憲法9条2項で禁止されている「戦力」ではないと政府は考えている。
     憲法9条は確かに戦争と武力の行使を放棄しています。けれども、憲法がまず先にあるわけではなく、国民があっての憲法ですから、憲法によって何よりも守られるべきものは国民の基本的人権ということです。だからこそ憲法は、いろいろな人権の保障を定めているわけです。(略)

     問題は外国からの武力攻撃を受けたときに、国家はどうすればいいのかということです。9条があるゆえに無抵抗だというのが、果たして憲法の予定するところであろうかということです。(略) 少なくとも人権が侵害されている状態を排除するというのは、主権国家として最低限の責務ではないか。そういう意味でのいわゆる自衛権がある。(略)
     その上で、その自衛権があったとしても、それを実現させる能力がなければ、それこそ権利としての意味がない。ですから、自衛の権利を行使する、とりも直さず国民を守るために、必要最小限度の実力組織を持つことまで9条が禁止しているとは考えられない。
     この、自衛のための必要最小限度の実力組織までを9条2項が禁止しているわけではないというのが政府のレトリックで、60年間ずっと一貫してその立場を取り続けてきたということです。

    ◆ 安倍政権と外務省人脈とのつながり p.177
     外務省の中では、かなり以前から、集団的自衛権行使を認めるべきだという主張があったと聞いています。現在の安保法制懇のメンバーでもある岡崎久彦さんなどの、かねてからの主張ですし、そういう方たちの考えが安倍総理にも反映されてきたということではないかと思います。日本版NSCの初代局長の谷内正太郎なども集団的自衛権容認に積極的で、安倍さんとも個人的に親しいとされています。(略)

     けれども霞ヶ関というレベルで考えると、集団的自衛権行使を認めるべきだと主張しているのはほとんど外務省だけと言っていいと思いますね。外務省の主流派とされる方々はそうしたお考えです。(略)


    ◆ 「1条たりとも変えさせない」という護憲派も問題? p.190
     一方で、憲法について、いかなる条文の変更も許さないという護憲の立場も問題だと思いますね。そうした立場が一方に強かったことが、今回の解釈改憲の動きの一因にもなっていると思います。改正を議論すること自体まったくダメというような姿勢は、むしろ国のあり方についての議論を歪めます。(略)
     現実に改正が必要だったか、改正できたかということは別として、必要があれば改正しうるものだということを、国民が理解する必要があったのではないかと思います。

  • 憲法9条の「解釈」を変更して集団的自衛権の行使をできるようにすることは、立憲主義という国のあり方そのものを否定する行為であることをインタビュー形式でわかりやすく説明している。語り手は内閣法制局の元長官。集団的自衛権を行使できるようにしたいのであれば、解釈変更ではなく憲法改定するほかないとの立場を取る。一方、集団的自衛権を行使できるようにすべきかどうか、という国の進むべき道については政治家の仕事であり自分の職分ではないと述べる。感情的には「そこを切り離していいのか?」という気もするけど、自分の職責の分界点を明確にするというのもプロフェッショナルの一要素なんだろうなあ。
    「解釈改憲と明文改憲」「個別的自衛権と集団的自衛権」「武力行使の一体化」の意味を理解できた。

  • 非常に分かりやすかった。

  • 「解釈改憲」のどこが問題? - 株式会社 大月書店
    http://www.otsukishoten.co.jp/news/n7828.html

    大月書店のPR
    http://www.otsukishoten.co.jp/book/b165082.html

  • 副題は、解釈改憲が許されない理由。
    元長官が異議!。憲法9条の解釈変更による集団的自衛権容認は暴挙―その論理とは?
    戦後60余年積み重ねられた憲法解釈の重みをもっとも知る人物が語る、立憲主義の要としての法制局の責務とその危機。全国民必読の書。(2014年刊)
    ・はしがきーインタビューにあたって
    ・第1章 内閣法制局とはいかなる機関か
    ・第2章 9条解釈と自衛隊海外派遣
    ・第3章 集団的自衛権行使はなぜ認められないか
    ・第4章 立憲主義を守る
    ・あとがき

    インタビューなので読みやすい。掘り下げ方が不足しているきらいはあるが、内閣法制局とはいかなる機関なのかが分かりやすい。
    内容が偏っているかもという危惧があったが、さほど違和感は感じなかった。やはり「理屈の問題」ということもあろうか。
    内閣法制局は法の番人とも言われる。これには、本来、法の番人は最高裁であるという批判もあり、内閣法制局を批判する時にも使われるが、本書によると、法律を作る入口
    での憲法適合性のチェック機関としての役割を果たしているという。裁判は事後的な判断であり、ある程度の時間がかかる。制定した法律自体が違憲だった場合、国民生活にも多大な影響を及ぼすという説明は、法制局の意義を簡潔に説明している。
    第2章、第3章では、「9条解釈と自衛隊海外派遣」と「集団的自衛権行使はなぜ認められないか」について、憲法の解釈をやさしく解説しており、なるほどと思った。
    阪田氏は、集団的自衛権の行使に賛成とも反対とも言わない。ただ、現憲法の規定でいくと行使することは出来ず、不都合があるのであれば、憲法を改正すれば良いと言う。これはこれで法律家としての見識であろう。

    全編に渡って自制心が働いており、物足りなく感じる部分もあるが、立憲主義、法治主義とは何かを考える上で、読む価値は十分にあると言える。

  • 4〜5

  •  内閣法制局についてよく分かる一冊。集団的自衛権の問題は解釈改憲でなく明文改憲すべきとの姿勢はぶれない芯を感じさせる。

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著者プロフィール

[第Ⅱ部第1章3]
アンダーソン・毛利・友常法律事務所顧問、元内閣法制局長官。大蔵省(財務省)入省後、通商産業省重工業局電子政策課企画係長、苫小牧税務署長、武蔵府中税務署長、在ロスアンゼルス総領事館領事、国税庁長官官房総務課長等を歴任。

「2018年 『日本型法治主義を超えて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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