刑務所しか居場所がない人たち : 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話

著者 :
  • 大月書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784272330935

感想・レビュー・書評

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    以下、総評
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    世間知らずの自分だから、刑務所の実態を知らずに生きてきてしまった。

    我々の想像に反して、イベントごとを重視している刑務所もあるのだとか。

    クリスマスやバレンタインデーを受刑者で楽しむらしい。

    それに対して、一部から批判がある。税金で犯罪者を楽しませるなんて…!と。

    だけど筆者は説く。彼らの中には、人生で一度たりともクリスマスを祝ったことが無い人がいる。

    ああ、そうか。もうすっかり、そんな人は自分の周りにはいない。ゲーテッドコミュニティではないけど、恵まれた人の中にいるのだと再認識してしまった。

    知らず知らずのうちに自分の世界認識が狭まっていようだと知る。

    それから、刑務所には刑務官がいる。

    若い刑務官は息巻いてやってくる。犯罪者を更生させようと意気込んでいる。

    だけど、想定外の現実を目にする。知的障害を抱える受刑者や、病気の受刑者、それから高齢で歩けない受刑者を前にする。

    とある刑務官は恐ろしく優しくなったという。泣いて眠れない受刑者に子守唄を歌ってやる。面会を拒絶する受刑者を説得して、その後泣いて感謝される。

    クリスマスを祝ったことがない人たちが、やさしい刑務官に見守れて、生まれて初めてイベントを楽しむ。

    セーフティネットからこぼれ落ちた場所でさえ人情とやさしさがあるのだと、筆者の語る現実に泣けて仕方なかった。

    だけど、彼らは「シャバ」に出ても居場所がないから軽犯罪を犯して戻ってくるという。

    外の世界には、精神的な繋がりがない。経済的なよりどころがない。生活の基盤がどこにもない。そういう現実が待っている。

    セーフティネットを突き抜けた場所として、刑務所が機能している。そういう側面はあるのだと知った。

    「刑務所しか居場所がない人たち」の意味を理解する。

    受刑者として過ごした筆者だからこそ、同じ目線で語ることができるのかもしれない。ポップな装丁と、やさしい語り口だけども、だからこそ現実の問題としてスッと抵抗なく胸に入ってくる。

    読書家として、この本を読めて良かった。

    読みながら、何度か本を閉じて一時中断した。本を閉じて目を閉じないと、涙がこぼれてきそうだった。

    筆者の説く「ソーシャル・インクルージョン」のために、できることをしよう。「生き直し」を必要としている人のために、自分ができることをしたい。

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    各論や細かいメモ書きについては長くなってしまうので省略。書評ブログに書いたので良ければそちらもどうぞ。
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC_%E5%88%91%E5%8B%99%E6%89%80%E3%81%97%E3%81%8B%E5%B1%85%E5%A0%B4%E6%89%80%E3%81%8C%E3%81%AA%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%81%9F%E3%81%A1_%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E8%AD%B2%E5%8F%B8

  •  知的障害者の刑務所内での処遇の不十分さ及び、社会的な支援を得られないまま障害者が再犯に至というループを問題提起するも、結局は予算不足という壁に阻まれる現状が書かれている。
     社会には本書の問題以外にも色々な問題が山積しており、問題に優先順位をつけて予算という限りあるリソースをどのように振り分けるかということに集約されると思う。障害者による犯罪問題の対応の必要性は否定しないが、そういった観点から、特に本書が心に刺さる内容とは感じられなかった。

  •  実際に受刑者として刑務所に服役した元衆議院議員によるドキュメント。こども向けの本で、難しい言葉は使わずに、分かりやすい語り口調で書かれている。
     刑務所における障がい者の割合の高さには驚いた。そして、彼らは、悪意をもって犯罪を起こすというより、十分なサポートが得られず、生活の中で困難を抱え、結果やむを得ず加害者となっているようなケースが多いようだ。
     日本では、福祉サポートをする余裕はあまりない。助けを受けるために必要な障がい者認定すら、自治体によって基準がばらばら、全体の数値はWHOの半分程度だ。発症率の違いではなく、認定基準による。つまり、本当は助けが必要なのに、そこに結び付かず、社会の中で大変な思いをしている障がい者の方がおおい。
     福祉施設にも断られ、刑務所以外に行くところがない、出所すればホームレス生活。刑務所が福祉施設化している現実は、ゆがんだ構造のように感じられた。

  •  著者の山本譲司さんは,衆議院議員だったときに,秘書給与流用事件を起こして逮捕,
     判決確定後,控訴をせずに服役することになったが,その刑期のなかで,刑務所では凶悪犯よりも知的障害者が多いことを知る。
     障害があるために,社会で生きるすべを知らず,数百円程度の万引きや食い逃げ事件を起こして刑務所に入る。刑期を終えて刑務所を出ても,暮らす場所も収入もなく再び犯罪を起こして刑務所に帰ってくる。

     そのような累犯障害者(というのは山本さんの造語である)を,出所後に支援し,一定の道筋をつけて社会で暮らしていけるようにするというのが山本さんが目指すあり方なのだと感じた。
     受け入れる側の体制がまだ整っていないようにも感じているが,この本に出てくる「ふるさとの会」の活動で,改善されてきている途上なのだろう。

     もともと中高生向けに書かれた文章なので,非常にわかりやすいし,これからどうしていくか若い人にこそ読んでいただきたい本だと思う。

  • 自分の中でまた新たな世界が広がった気がする。
    障害者についてはまだ知らないことだらけである。自分の身の回りには刑務所に入るような人はおらず、刑務所といえば極悪人の集まりというのが正直なところであった。しかしやはり実際に獄中を経験した人の言うことは説得力があり、実態はだいぶ違ったもののようだ。障害者の犯罪は罪名がつくことで大げさになってしまっているが、なにをしたかまで知れば世間の考え方は大きく変わると思う。
    中でも印象的だった点が3つある。1つは障害者にとって刑務所が一番幸せだと思わせてしまっている社会である。作中にもあったが障害を持った犯罪者は多くがそれまでの人生において被害者であったケースが多い。それに比べて獄中は虐待などの被害を受けることもなく食事も出されるため釈放されても望んで刑務所に戻ろうとしてしまう人が多いそうだ。2つ目は獄中の労働は高くても時給40円ということである。これは釈放後の生活費を稼ぐというよりもただ単に時間を潰すためのものであるということを象徴しているように感じた。そして3つ目は障害者は「悲しい」という感情に敏感であるということだ。前にも述べたようにこれまで被害を受けることが多かった障害者にとって悲しみは人一倍感じ、恐れているものであると思う。それを根底に置くというのが障害者を理解し、接する上で大切なことだと思った。

    • ミサッキーナさん
      今までに思いつくようで、実際にあることを書いた本「障害と犯罪の話」があるのがわかった。レビューも内容を読まなくても詳しいので、健常者と障害者...
      今までに思いつくようで、実際にあることを書いた本「障害と犯罪の話」があるのがわかった。レビューも内容を読まなくても詳しいので、健常者と障害者について改めて同じと違いを考えたい。
      2019/07/06
  • 獄窓記や、累犯障害者を著した山本譲司元議員の近年の本。初めて獄窓記や累犯障害者を読んだ時の衝撃を思い出し、原点に立ち返った気分です。涙が出ました。この黄色い本はティーンズ向けなのか易しい言葉で書かれていて読みやすいけど内容はしっかりしていて、しかも最近の動向が取り入れられている。
    知らなかったことは、①アメリカには「アンフィット」という知的障害に理解のある法曹が行う裁判があること(62p)、②埼玉弁護士会に、障害者の情状弁護のための基金がつくられていること(71p)。勉強になりました。
    障害のある人にどう接するか。無視、ではなく、同じところを探す。気持ちを想像する。
    刑事司法に関わる人にもそうでない人にもぜひ読んでほしい、知ってほしい話です。

  • 子供向けの本だが、大人が読んでも、障がい者に対する正しい認識を得られる良書。軽度の知的障害者に対して、適切な福祉政策をとらないことが、犯罪者を増やし、結果として、余計な財政負担を生んでいることがよく分かる。

  • 刑務所の中には、軽度の知的障がい者が、軽い罪を犯して、何度も再犯を繰り返している、という場合が多くみられるとのこと。それは、保護者や身元引受け人かいないために、住居や仕事がない状態で、すなわちシャバでは生きていけない人たちがいる、っていうこと。
    それで、刑務所の中が福祉施設化している…
    なんとも皮肉な現象ですね。ただ、皮肉では済まされない辛い現象でもあります。加害者となった障がい者の人たちは、それまでの人生で常に被害者であったとも書かれています。
    全く知らない世界があるんですね。でも、知ることによって、意識することはできる。
    一人でも多くの人が読んで知って意識することで、著者が投げ掛けている「だれもが安心して暮らせる社会って、どんな社会だろうか」ということを考えていけると思う。

  • 凶悪犯や詐欺師の珍行、奇行、凶行を書いた本かと思ったら日本の福祉制度の脆弱さを突いた超社会的な内容だった。
    それにしても普段の認識とあまりにもかけ離れている現状に驚愕。
    この本はもっといろんな人に読んで欲しい。

  • 刑務所しか居場所がない人たち:学校では教えてくれない、障害と犯罪の話。山本譲司先生の著書。刑務所が障害を持つ人たちの行き場になってしまっているという日本社会の歪んだ現状をわかりやすく説明している良書。障害を持つ人でも障害を持たない人でも誰もが幸せに暮らせる社会であってほしい。

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著者プロフィール

1962年生まれ、元衆議院議員。2000年に秘書給与詐取事件で逮捕、実刑判決を受け栃木県黒羽刑務所に服役。刑務所内での体験をもとに『獄窓記』(ポプラ社)、『累犯障害者』(新潮社)を著し、障害を持つ入所者の問題を社会に提起。NPO法人ライフサポートネットワーク理事長として現在も出所者の就労支援、講演などによる啓発に取り組む。2012年に『覚醒』(上下、光文社)で作家デビュー。近刊に『エンディングノート』(光文社)。

「2018年 『刑務所しか居場所がない人たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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