〈悪の凡庸さ〉を問い直す

制作 : 田野 大輔  小野寺 拓也 
  • 大月書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784272431090

作品紹介・あらすじ

アイヒマンを形容した〈悪の凡庸さ〉。アーレント自身は歯車のように命令に従っただけという理解を否定していたにもかかわらず、多くの人が誤解し続けている。この概念の妥当性や意義をめぐり、アーレント研究者とドイツ史研究者が真摯に論じ合う。[目次]序 いま〈悪の凡庸さ〉の何が問題なのか?第?部 〈悪の凡庸さ〉をどう見るか1 〈悪の凡庸さ〉は無効になったのか?――エルサレム<以前>のアイヒマンを検証する2 〈机上の犯罪者〉という神話――ホロコースト研究におけるアイヒマンの位置づけをめぐって3 怪物と幽霊の落差――あるいはバクテリアが惹き起こす悪について4 〈悪の凡庸さ〉をめぐる誤解を解く第?部 〈悪の凡庸さ〉という難問に向き合う――思想研究者と歴史研究者との対話1 〈悪の凡庸さ〉/アーレントの理解をめぐって2 アイヒマンの主体性をどう見るか3 社会に蔓延する〈悪の凡庸さ〉の誤用とどう向き合うか

感想・レビュー・書評

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  • 122号を読んで〜ハンナ・アーレントと「悪の凡庸さ」 - 一人ひとりが声をあげて平和を創る メールマガジン「オルタ広場」(2014.3.20)
    https://onl.sc/KnxQ8Ku

    ハンナ・アーレント「悪の凡庸さ」に通じる安倍政権の面々|日刊ゲンダイDIGITAL(2018/11/17)
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/241833

    【浪速風】悪の凡庸さ - 産経ニュース(2022/4/13)
    https://www.sankei.com/article/20220413-XSAWQFXEK5PRZKNUJAYYU3S2FI/

    悪の凡庸さ ~大衆の思考停止こそ社会的罪 映画『ハンナ・アーレント』 | Novella | 映画・音楽・書籍のレビュー & 恋と生き方のエッセイ(2023年4月25日)
    https://novel.onl/hannah-arendt/

    〈悪の凡庸さ〉を問い直す - 株式会社 大月書店 憲法と同い年
    http://www.otsukishoten.co.jp/book/b630603.html
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    「アーレント自身は歯車のように命令に従っただけという理解を否定していたにもかかわらず、多くの人が誤解し続けている。」

  • 「悪の凡庸さ」というと一般に、平凡な人物が盲目的に上からの指示にしたがい、結果として恐ろしい悪に加担することを指す。官僚などが職務に忠実に物事にあたったがゆえに、戦争犯罪といった、醜怪な悪事の一端を担うことになるわけだ。
    元はといえば、ナチス親衛隊員でユダヤ人大量移送に関与したアドルフ・アイヒマンを評して、哲学者ハンナ・アーレントが述べた言葉から来ている(『イェルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告』)。終戦後、南米に逃亡していたアイヒマンは、イスラエル当局に捉えられ、1963年、エルサレムで裁判を受ける。ユダヤ系ドイツ人であるアーレントが裁判の傍聴記として書いたのが前出書である。その中で、アーレントは「悪の凡庸さ(陳腐さ)(Banality of Evil)」という言葉を使っている。
    この言葉はかなりのインパクトを持って世間に受け入れられ、スタンレー・ミルグラムの服従試験(いわゆるアイヒマンテスト)やスタンフォード監獄実験といった、「普通の人」が権力を握ったがゆえに悪に傾いていくことを示唆する心理実験なども展開されていく。
    だが、実際、アイヒマンとはどういう人物だったのか。そしてアーレントが「悪の凡庸さ」という言葉で表そうとした概念はどういうものだったのか。
    それらと、世間一般に抱かれているこの言葉のイメージに、かなりの乖離があるのではないかというのが本書の主眼である。

    そもそもアイヒマンは上の命令に唯々諾々としたがうだけの「小役人」であったのか。そのあたりにスポットライトを当てたのが、ベッティーナ・シュタングネトの『エルサレム〈以前〉のアイヒマン』である。南米での逃亡・潜伏時代のアイヒマンは、饒舌で、ナチス時代を後悔するわけでもなく、むしろ自分の現在の境遇に不満すら抱いていた。「命令で」「仕方なく」やったというには主体的でありすぎたアイヒマンの姿が浮かぶ。

    実際、専門家の間では、人口に膾炙した「“凡庸”なアイヒマン像」は、実態に即していないというのは既に認められたことであったという。にもかかわらず、世間一般の認識との大きな差はどうして正されぬままなのか。
    「悪の凡庸さ」に関する論点を、歴史学者とアーレント研究者(思想研究者)がさまざまな視点から解き、対談も行ったのが本書である。

    アーレント研究者の主張からすると、アーレントがいった「凡庸さ」というのは、「よくある(common)こと」を指しているのではなく、またアイヒマンが結果をまったく想像せずに業務を行っていたとアーレントが考えていたわけでもない。彼は相当理知的で、結果についても十分理解をしていた。けれども自分の枠組みの外側から、それを考え直すことをしなかった。ある種、紋切り型の言葉、紋切り型の行動にしたがい、惨事の中でかなり大きな役割を果たしたことを「凡庸」と呼んでいる。
    彼女はある意味、この言葉がもたらすインパクトも予想していた。キャッチ-なフレーズが衆目を集めるだろうと考えてはいただろう。
    とはいえ、初出となった『エルサレムのアイヒマン』は雑誌連載が元となっており、その言葉の概念についての説明が十分だったとは言えない。むしろ、やや不用意であったと言ってもよいだろう。
    そこから誤解が生じ、十分に訂正されることもなく、現在に至っていると言えそうだ。

    さほど長い本ではないが、経緯に対する歴史学者の苛立ちや、歴史学者と思想学者のスタンスの違い、あるいは専門家の常識と世間一般に流布する誤った説との乖離など、読みどころはいろいろある。すべてにクリアな結論が出るわけではないが、考える種や気づきも多い。

    個人的にはホロコースト関連の話にはずっと関心があり、断続的ではあるが、関連本や映像作品にも触れてきた。その延長線で数年前、アーレントを扱った映画(『ハンナ・アーレント』)、アイヒマンを扱った映画(『スペシャリスト』)やその他の映画・ドキュメンタリーなども見てきた。そうした中で、記録に残るアイヒマンを「知らずに悪事に加担した平凡な小役人」と捉えるのは、徐々に違和感が大きくなった。
    この点に整理がついたのは収穫だった(ここまでが長かった・・・)。
    この後もホロコーストを追うかどうかは昨今の中東情勢を見ると少々考えるところはある。いずれにしろ、少し別の面から考えていくことになりそうな気もする。

  • 東2法経図・6F開架:234.074A/Ta89a//K

  • 面白いし読みやすい。
    エルサレムのアイヒマンが難しすぎた自分にとっては良い解説本になった。
    後半の対話もバチバチな感じで緊張感があった。主体性と忖度についての議論は特に良い。
    何冊か深掘りしたい人へのおすすめが紹介されてたから、読んでみよう。

  • 面白かった!
    難しそうかな?という予想に反して、夢中になって読了。アイヒマンの行為主体性の話は、組織で働く1人の人間として考えさせられます…。
    論文から対談という構成も、難しいところをフォローしてもらえる感じで良かったです。

  • ちょっと間違った読み方かもですが、問いに対して違う専門知がコンテキスト擦り合わせつつ議論深めていく様に興奮しました。面白かった。

    凡庸さに対する認識や見解は概ね一致を見つつ、どう評価するかは捉える抽象度や会話の文脈で異なるのかなあと思いつつ、そうなる可能性への視点は常に持ちたいと思いました。

  • 「官僚的な組織の中で上からの命令に従っただけの小役人」としてアイヒマンを/悪の凡庸さを捉えることが誤りであること。そこは合意できるが「凡庸さ」の理解は各々で異なる。

    他者の立場に立って考えられないこと。彼1人ではない多数の人や国家の集積を意識してのwording。イデオロギーに基づいた意欲的な仕事ぶりで昇進を目指すその姿。責任転嫁が上からも下からも起きる中、責任の所在がなくなってゆくこと。

    忖度によって選択した行動に主体性を見るか。など、現代的な問もたくさん投げかけられている。

  • 40年近くにわたって個人的に考えていたこと、もやもやしていたことが新しく前に進めた本だった。
    前に進んだからといって何か解決したわけではなく、また別の課題がクローズアップされたのだが。
    それでもとてもわたしにとって意味のある本となった。

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著者プロフィール

1961年生まれ。関西学院大学大学院博士後期課程退学。岡山商科大学教授。訳書にハンス・エーリヒ・ノサック『ブレックヴァルトが死んだ――ノサック短編集』(未知谷 2003)イェルク・フリードリヒ『ドイツを焼いた戦略爆撃 1940-1945』(みすず書房 2011)フリードリヒ・デュレンマット『デュレンマット戯曲集』(鳥影社 2012-2015)ベッティーナ・シュタングネト『エルサレム〈以前〉のアイヒマン――大量殺戮者の平穏な生活』(みすず書房 2021)がある。

「2021年 『エルサレム〈以前〉のアイヒマン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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