ビリー・ホリデイと奇妙な果実: 20世紀最高の歌の物語

  • 大月書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784272612109

作品紹介・あらすじ

それはカフェ・ソサエティからはじまった…。伝説的な天才歌手、ビリー・ホリデイが歌う"20世紀最高の歌"と公民権運動の足音。

感想・レビュー・書評

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  • ビリー・ホリデイが「奇妙な果実」を歌い始めるとまわりの動きはすべて停止し、歌い終わっても沈黙が支配する。この瞬間、ビリー・ホリデイの伝説が始まり、アメリカの20世紀後半の歴史が始まったと言えるのかもしれない。

  • 大分前だが森達也が製作した「放送禁止歌」という秀逸なノンフィク
    ション映像があった。同名で書籍ににもなっている。

    放送してはいけないと言われる歌は存在するが、そのほとんどは
    メディアの自主規制である。これは日本だけに存在するものでは
    ない。

    「暗い日曜日」という歌がある。亡くなった恋人を思い、最後には
    自殺を決意するという内容。自殺を誘発するとの理由で放送禁止に
    されたと言われるが、都市伝説の範疇に過ぎない。

    しかし、アメリカには実際に放送が自粛された歌があった。ユダヤ系
    アメリカ人が詩を書いた「奇妙な果実」だ。

    日本でも何人かの歌い手が歌っているが、私が聴いたのは浅川マキ
    の歌だった。正直、初めて聴いた時は意味が分からなかった。でも、
    どうにも落ち着かない気分になった。

    南部の木々は 奇妙な果実をつける
    血が葉をぬらし 根もとにしたたる
    黒いからだが 南部のそよ風にゆれる
    奇妙な果実は ポプラの木からぶらさがっている

    すてきな南部の のどかな風景
    飛びでた眼球 ゆがんだ口
    マグノリアの花の香りは甘く、みずみずしい
    するとふいに鼻をつく 焼けた肉の臭い!

    ここにあるのは カラスがついばむ果実
    雨にうたれ 風にさらされ
    陽差しに腐って 木から落ちる
    ここにあるのは 奇妙で苦い作物

    歌ったのは黒人の歌姫、レディ・デイことビリー・ホリデイ。後に
    薬物とアルコールでボロボロになってしまうのだが、彼女は南部にま
    だ差別の残る1930年代後半にニューヨークのクラブでこの歌を歌った。

    本書はビリーがどのようにこの歌と出会い、自分のものとしていった
    のか。また、この歌を聴いた人々がどんな思いを抱いたのかを追って
    いる。

    当時、大手レコード会社は録音を渋り、歌える場所も限られていた。
    ラジオでの放送も自主規制がかかった。それでも、ビリーはこの歌
    を歌い続けた。

    漫画しか読めなかったと言われる彼女は、幸薄く亡くなった自身の
    父親の姿をこの歌に重ねていたのか。

    白人にリンチされる黒人。そして殺されたその体は木から吊るされる。
    「奇妙な果実」と呼ばれた黒人の遺体。それを歌詞に盛り込んだ歌
    は、やはり人の気持ちを落ち着かなくさせるのではないだろうか。

    ヨーロッパではアメリカほどには規制はなかったようだが、フランス
    では反米に通じるとされたらしい。

    晩年、友人宅でその息子の為にビリーは「奇妙な果実」を歌った。
    「のどかな風景ってなんのこと?」。少年の言葉にビリーは答える。

    「これはねぇ坊や、白人たちが黒人を殺・しているときのことなんだよ。
    かれらは坊やみたいな小さな黒人の子どもをつかまえ、その子の
    キンタマをむしり、それを、くそっ、いまいましいったらありゃしない、
    そこ子の喉に突っ込むんだよ。これはそういう意味なんだよ」

    「これがね、やつらがやっていることなんだ。これが、くそいまいましい
    のどかな風景ってやつなんだ」

    今でもアメリカではこの歌には自主規制がかかっているのだろうか。

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