神と向かい合った作曲家たち ミサ曲とレクイエムの近代史 1745-1945

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  • 音楽之友社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784276130357

作品紹介・あらすじ

本書は、創作をとおして普遍的な世界に向き合う作曲家の知られざる内面に肉薄し、日本では耳にすることがまだ極めて少ないミサ曲やレクイエムに光を当てる。特に、20世紀前半の両大戦に際して作曲された、知られざるミサ曲・レクイエムの数々は本書独自。ナチス政権下のドイツでミサ曲・レクイエムを作曲した作曲家について述べられるのはおそらく日本初で、最大のポイント。またコラムは、そこだけ読んでも社会や宗教と音楽との関係を深掘りできる充実の内容となっている。合唱愛好家がレパートリーを増やすだけでなく、音楽・芸術史(愛好)家が近現代史を見つめなおすのにも役立つ1冊。
本書では、ミサ曲・レクイエムをひとつのまとまりと捉え、近代以降に焦点を絞って記述する。遠い時代のことではなく、現代により近い時代を生きた作曲家たちが、戦争で命を失っていく存在のために作品を書いたことに、多くの読者が共感を寄せるだろう。

感想・レビュー・書評

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  • ハイドンに始まる古典派の時代から、第二次世界大戦の歴史を踏まえて作られた作品まで、約200年間の間に作曲されたミサ曲とレクイエムを紹介している。

    なるべく多様な作品を紹介しようという趣旨で、一つひとつの曲の紹介はコンパクトであるが、取り上げられている作曲家や作品の数は非常に多い。歴史の中に埋もれたすぐれた作品を掘り起こそうという取り組みとして、とても良いことではないかと感じた。

    ミサ曲とレクイエムの歴史においては、改めてパレストリーナが与えた影響の大きさを感じさせられた。ア・カペラにより純粋な和声の美しさを追求するという姿勢、メロディを重ねながらも透明感のある響きを失わない音楽、またオペラや19世紀後半の交響楽のような演出的な表現や文学性ではなく、純粋な音楽表現を志向するといった点等、その後200年以上の音楽の一つの価値観を形作った作曲家であるということがよく分かった。

    また、ア・カペラによる透明感のある響きという点では、和声やメロディに対するアプローチはまったく異なるものの、20世紀後半に活躍したリゲティやペンデレツキといった現代作曲家にも、その影響が及んでいたという指摘は、印象深かった。

    それ以外にも、宗教音楽の歴史に大きな影響を与えたセシリア協会の活動について、複数の章で触れており、その歴史を通した影響を知ることができた点も良かった。

    セシリア協会は、パレストリーナに代表される純粋な音楽の重要性を訴えた点と、それがゆえに保守的な性格を持ち、現在は名曲と言われている多くの曲に対して否定的な評価を下した点の、両方の特徴を持っている。セシリア協会の存在を知ることで、宗教音楽がどのような振幅を持ちながら発展してきたのかを感じることもできるように思う。

    ミサ曲とレクイエムという視点を設定することで、一般には知られていない作曲家にも光を当てながら、クラシック音楽の歴史のあまり知られていない発展の経路を知ることができる本になっているように感じた。

  • 東2法経図・6F開架:765A/N82k//K

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著者プロフィール

1952年山形生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期退学。現在、桐朋学園大学音楽学部名誉教授。18、19世紀を主な対象とする音楽社会史、音楽思想史を専攻。
著書に『新版 クラシックでわかる世界史──時代を生きた作曲家、歴史を変えた名曲』『ピアノ大陸ヨーロッパ──19世紀・市民音楽とクラシックの誕生』(以上アルテスパブリッシング)、『神と向かい合った作曲家たち──ミサ曲とレクイエムの近代史 1745–1945』『《ドイツ・レクイエム》への道──ブラームスと神の声・人の声』『シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下』(以上音楽之友社)、『ピアノの誕生』『クラシック 名曲を生んだ恋物語』(以上講談社)、『「楽聖」ベートーヴェンの誕生』(平凡社)、『世界史でたどる名作オペラ』(東京堂出版)、共著・共編書に『ベートーヴェン事典』(東京書籍)、訳書に『魔笛とウィーン』(平凡社)、監訳・共訳書に『ルル』『金色のソナタ』『西洋の音楽と社会(7)ロマン主義と革命の時代』(以上音楽之友社)、『オックスフォード オペラ大事典』(平凡社)などがある。

「2023年 『バロック音楽と国際政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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