グレングールド、音楽、精神

  • 音楽之友社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784276203754

作品紹介・あらすじ

グールド研究における最良の基本書の新訳版

感想・レビュー・書評

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  • (2020/6/4読了)

    本書はピアニストの伝記ではなく、グレン・グールドという音楽思想家の仕事を批判的に論じたものである。

    なにより、グールドが寡黙な変人ではなくて、意外に饒舌なコミュニケーターであることがわかる。

    いわゆるコンサート活動をやめてしまった理由も詳らかだが、「聴衆が演奏会に来る理由は音楽とは無関係だ」という言葉が刺さった。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/44464

  • グレン・グールド、音楽、精神 Glenn Gould
    (ジェフリー ペイザント / 宮澤淳一)
    2007年10月4日第1刷発行

    「ムカデ」

    難しい内容で、理解するにはもう年をとりすぎた。
    若い頃、まだ音楽の勉強をしている頃これを読んだら人生は変わった、とも思えないが...。むしろ、もっと早く音楽の道を諦めることができて人生が広がったかもしれないと思ったりもする。

    グールドの強烈な能力について書いてみよう。
    グールドは、聖徳太子のように、複数の話をききわけることができたそうだ。レストランにいくと周囲のテーブルの3〜4の会話を同時に聞いていたのだという。テレビとラジオを同時につけるのは珍しくなかったらしい。
    グールドが弾く3声4声のバッハは、それぞれの声部が独立している。途中でメロディが途切れてもそれは休符なのである。私がかつて弾いたことのある曲では、こんなところにメロディがあったのかよ!と恐れおののく。グールドの脳は牛の胃のようにいくつかに分かれてる。きっと分かれていると思っていたが、やっぱり聖徳太子だったのかと納得してしまった。

    グールドの音楽は頭でつくられている。その頭の良さについて「ムカデ事件」を説明しよう。
    グールド19歳、ベートーヴェンのソナタ第30番作品109を初めて弾くことになった時のこと。この曲はやがてグールドのお気に入りのコンサートピースになる。(坂本龍一氏の監修のグールド集のCDでも第一曲めとなっている曲でもある。一楽章だけだが)
    グールドはいつもしているように、演奏初日の2〜3週間前に譜読みを初める。まだピアノには触らない。完全に記憶して、演奏会の1週間ほど前に実際にピアノで弾き始める。ピアノを弾く人ならわかると思うが、これで「指が動く?」。グールドではない他の天才ピアニストの逸話にも前の日に曲ができて一晩譜読みして翌日ぶっつけ本番で弾くという話は時々聴くが、グールドはいつもだ。まずは頭で音楽をつくる。それをさらさらとピアノで弾くだけなのだ。私のレベルでいうと、前の日に地図をみて、翌日その場所に地図をみないで到着できるようなものか...。

    ベートーヴェンのソナタ第30番の演奏会1週間前、ピアノを弾き始めたとたんありえない事件がおこる。ある難所でつっかかってしまう。終楽章の第五変奏の途中、六度を保ったまま音階を駆け上がり瞬時に3度に切り替わる箇所。つっかかったら、グールドは弾けなくなってしまったのである。頭の中で完成された音楽を自分の指で壊したら、流行語でいうなら「かたまってしまった」。
    それほど音楽をやっていたわけではない私だがこれはちょっとわかる。ピアノの発表会や試験で、今までつっかかったことのない場所でつっかかると、なし崩しにメロメロになる。最悪の場合、止まる。

    グールドに話をもどす。
    指をどう動かして鍵盤をたたくかを考えるとピアノが弾けないグールドは、おもいあぐねんで数日すごした。演奏会まであと3日になったとき、決意して反復練習を行う。グールドは、自分の弾くピアノの横にラジオ2台をおき大音響でかけた。自分の練習する音が自分に聴こえないようにした。頭で作った完璧な音楽を反復練習で壊さないようにしたのである。ブチ切れのパッセージを何度も聴くということはおぞましいことである。この方法でこの難所は即日クリアされてしまった。
    松本が世界にほこる鈴木メソッドも頭で音楽を作る方法だが(グールドは楽譜から鈴木メソッドは耳からの違いはあるが)バイオリンである。単旋律である。

    ソナタ30番つっかかり事件についてグールドは言う「ムカデは百本の足の動かし方を考えるのが嫌いです。能力を奪われるからです」と。
    ムカデ(百足)は、どの順番で足をうごかしているのか自分では知らない。
    グールドの、グールドが知らない、グールドの脳。

    日本の戦後の音楽教育(特にピアノ教育)は、ある西洋音楽のかたよったものだったことはしょうがないが、私はピアノ練習は反復練習だと教えられ、反復練習をしないと弾けないと思い込まされ、結果、よい反復練習がよい演奏につながると信じていた。
    反復練習は頭で完成した音楽を破壊する。ありうるだろう。
    が、私は知っている。
    私のレベルでは反復練習が必要不可欠である。
    そして、ムカデでもない。

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