なぜ生きる意味が感じられないのか: 満ち足りた空虚について

著者 :
  • 笠間書院
4.17
  • (8)
  • (11)
  • (4)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 161
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784305709691

作品紹介・あらすじ

【概 要】
なぜ学校に行くのか、
なぜ仕事をするのか、
そもそもなぜ生きるのか……?
物質的な不足や社会的な不自由さがない状況で抱く「空虚感」とどう向き合うかを考える一冊。

本書は、「人生に意味を見出せない」という実存的な悩みを持つ若い読者へ、現代社会に蔓延する「満ち足りた空虚感」の根底にあるものを一つずつ解き明かし、人間らしく生きるためにはどうしたらよいかを考えます。モノや情報で溢れる世界で抱く「虚しさ」「無気力」の正体とは? 情報過多なコミュニケーションによって失いつつあるものとは? 効率主義によって見落とされているものとは? 待つ力、信じる力、憧れる力を取り戻すには? 不条理なこの世界で生きるために必要なこととは? 神話や哲学、文学や芸術などで活躍した先人たちの知恵をヒントにひも解いていきます。

【目 次】
はじめに

第1章 現代の空虚とは
時代の変遷と空虚の問題
現代はどんな時代か
「生きる意味が感じられない」という苦悩
「満ち足りている」のに「満たされない」心
先が見えないという不安・先が見えたという絶望

第2章 現代人は進歩したのだろうか
情報過多がもたらすもの
オーヴァー・コミュニケーションの弊害
内省の軽視からメメント・モリへ
文化の菲薄化・幼稚化
神話を失った現代人

第3章 無気力病の背景
「面倒くさい」はどこから来るのか
行き過ぎた効率重視
インスタント病
「たかを括る」ことで失われる「経験」

第4章 憧れの喪失
憧れに生きるモデルの不在
奥行きのないものによる気晴らし
舞台裏を見せ過ぎることの問題点
バブル経済の負の遺産
本物が伝えられていない

第5章 幻滅と諦め
〝ロゴス・クラッシャー〞による不条理に満ちた世界
「ロゴス」が壊されると人はどうなるのか
「荒れ地」としての現代
踏み込まない・踏み込ませないという心理
牙を抜かれた人々
 
第6章 空虚からの脱却
第2楽章のペシミズムの先にあるもの
人間の変化成熟過程
ペシミズムの泥沼化
「ロゴス」を取り戻す

第7章 人間であり続けるために
「考えない」から「真正面から考える」へ
純粋さを死守する
永遠にして女性的なるもの
待つ力・信じる力・憧れる力を取り戻す
どこまでも「ロゴス」の側に立つということ
目に見えぬものの大切さ
愛する存在としての人間

おわりに

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •   数冊目の泉谷閑示さんの本だが、いつも以上に熱が入っていて、著者が、最近の世に切迫した危惧を抱いているのが伝わってきた。
     実は、私もここのところずっと世の中が気持ち悪く感じられて不安に囚われている。儲かるシステムを作り上げた一握りの者たちだけがどんどん強くなる一方で、弱者はより弱くなり、人間はより核となるものを失くし脆弱になり、若者は上っ面だけでキャーキャー騒ぐことに必死になっているように見える。
     この本では、なぜそういう方向に世の中がなってしまったのか、そこから脱却するために我々はどうすべきなのかが書かれている。

    【問題点】
    ・実存的苦悩がかなり早い段階から生じている
    (行きすぎた早期教育、塾通いなどで疲弊し、生きることは、際限なく求められる課題をこなすことなのだ、と学習してしまう)

    ・行き過ぎた効率主義、効率重視のために、「頭」が遊び、学問、芸術、仕事、生活、すべての分野において支配を広げて「心=身体」が関与しなくなり、私たちに喜びや生きる意味を感じさせられなくなった。

    ・生きることを構成しているあらゆる事は、そのプロセス自体に喜びがなければ、どんなに立派な結果を残せたとしても、空虚に感じられてしまう。生きることの結果は「死」だから、極論すれば生きる事は、全てめんどくさいこと、役に立たないことに見えてしまいかねない 。

    ◎そこで、大切なのが教育のあり方。
    ○教育とは単に知識の伝承を行うことではなく、憧れに至る豊かな世界があるということを啓蒙するところにこそ本質がある。
    ○教育の真の目的は美を愛することである
    (オスカーワイルドの言葉)

    「もし、研究者や教育者が、真にある思想についてその真髄を理解し十分に咀嚼できているのであれば、必要に応じて、学生や読者に向けて、わかりやすい言葉で伝えることもできるはずだ。しかし、そうでないのが実情で、そのために、本当に伝えられるべき思想が、それを必要としている人たちに人たちに届けられずに終わってしまっている。」

    ○そろそろ、私たちは「親しみやすく」「わかりやすく」「手っ取り早く」「面白おかしく」といった段階を卒業して、専門家気取りの者たちが囲い込み隠してしまっていた本物たちを、じっくりと時間をかけ探し出して、自分たちのもとに奪還し、それらと静かに向き合うべきだと思うのです 。

    【問題点】ロゴスとは、人間ならば持っているはずの共通認識や共通感覚のこと。このロゴスが近年になって、崩壊の危機に瀕しているのではないかと思われる。
    ・“ロゴス・クラッシャー”による不条理に満ちた世界。ウクライナ侵攻、過去の不正を認めない政治家、我が子を殺してしまっても「しつけだった」と言い、反省もしない親など…

    ・ハンナ・アレントがアイヒマンに関して述べている抜粋はとても興味深かった。

    ◎そこで、人間のあり方が大切になってくる

    ・ベートーヴェンの『エロイカ』からの考察
    第一楽章、アレグロ・コン・ブリオ
    第二楽章、葬送行進曲
    第三楽章、スケルツォ(諧謔曲と訳される)
    第四楽章、プロメテウスの創造物の主題の変奏曲
    という並びになっている。この四つの楽章の並びが、そのまま人間精神の成熟段階を象徴的に反映したものになっている。という考察。
    1、オプティミズムの段階
    2、ペシミズムの段階
    3、積極的ニヒリズムの段階
    4、統合的人格の段階

    ○「頭」優位な価値観に覆われて、壊されつつある私たちの「ロゴス」。この人間的な知性を取り戻すためには、我々の「心」の発する声を、おびただしい情報のノイズでいっぱいになっている「頭」の声の奥に、根気よく聴き取ることが必要。

    『冷蔵庫がいっぱいである限り、人々は、本気でものを見ないし、考えもしない。』
    (アレクシエーヴィチの言葉)

    すべての人間の中には、当人が自覚しているか否かは別として、男性原理も女性原理も存在している。
    (多少強引であるがと著者は前置きし、)「頭」は理屈っぽく、物事をコントロールしたがり、支配や所有を思考するような能動的性質があることから、男性原理(アニムス)。
     一方「心=身体」は、理屈抜きに感覚や直感によって瞬時に物事の本質を捉える叡智があり、自然原理と直接つながっていて、対立や支配ではなく融和的な受動性という美点を備えているので、女性原理(アニマ)。
    ✳︎両者がそれぞれの美点を尊重しあい、共働するような状態が人間のあり方である。

    ◎これからどうすべきか
    待つ力、信じる力、憧れる力を取り戻さないといけない。どこまでもロゴスの側に立たないといけない。我々の「心=身体」だけが、人間的なものの有無を見分けられる重要なセンサーを備えている。
    人生がいかに不条理なものであったとしても、「にもかかわらず」もう一度生きることを選ぶという、「信」「愛」「希望」という論理ならざる意志を待たねばならない。

    と締めている。

    一度読んだだけでは到底全部を掬いきれない。そして、著者が問題だとしている人間の姿にほぼ全部自分も当てはまっている。無気力で生きること自体を面倒だと感じ、たかを括って多くのことを諦め、思考停止してしまっている。反省することばかりだけれど、だからといって「にもかかわらず」の境地にはなれそうもないというのが正直なところ。せめて、物事の真の部分を、心の声を見聞きしようという姿勢をまず持ち、この本に出てきたいつくかの本を読んでみようと思う。

  • 共感できること8割、新しい気付き2割でとても面白い本だった。
    古典の引用部分は理解しきれない内容もあったが、わかりやすく解説してくれているので読み進められた。
    図書館で借りたが、自分の手元に置きたくなる本。

    この人の他の本も読みたいな。

  • 100回読みたい

  • 空虚を感じ、生きている意味を感じないことは、効率重視、情報過多、進んだ文明がもたらす今の世の中で感じないことの方が異常だ。頭でしっかり考え空白を埋める作業をしなくて良い。考える事、悩む事があると言うことは生きている証拠なのだ。
    それを念頭に、今の空虚感と向き合う。そして考える事が大切であり、素敵な時間と考えたいと思えるようになった。
    面倒、手間、プロセスを楽しめるよう。本来そこが楽しいものなのだ。今の世の中に埋もれてはいけない。

  • ・心の底から喜びを感じられる刹那が本当に訪れるものなら、あの世でどうなった
    ってちっとも構わない
    ・思考とは本来空白の時間があってこそ可能
    ・ちょうど美酒の醸成が閉じた空間で嫌気発酵性を必要とし、これがもし閉じずに酸素に触れてしまうと、アルコールではなく素が生成されてしまうのに似ている
    ・遊びの本質は無目的。メリットを考えない
    ・真の満足というものは決して結果ではなく、プロセス
    ・すべては極めて副次的な人生の役割すらこのような見方の中では無意味だし、茶番に過ぎない
    ・与えられるものが少ないほど想像力は満足する
    ・この時代に生きていて「空虚さ」を感じて苦悩する方がはるかにまっとう
    ・つまり大人は未熟で、小児は成熟

  • あと10回読みたい

  • わかりやすい。痩せるという実利的な行動が暴走して人生すらも痩せていく。にもかかわらず、を大切に

  • 満ち足りたように思える現代に生きているのに、なぜ生きる意味が感じられないのか。
    哲学や文学、様々な思想を引用して紐解いていく。

    取っ付きにくい部分もあったが興味深く読めた。というより、よく理解できないな~とすぐ諦めてしまう事が現代の虚しさに繋がっている旨書かれているため、それはできなかった。

    「ロゴス」を持たない人に惑わされないようにする。
    量より質。

  • .
    #なぜ生きる意味が感じられないのか
    #満ち足りた空虚について
    #泉谷閑示
    22/9/27出版

    物質的な不足や社会的な不自由さはないけど

    なぜか「空虚感」を感じることもある現代を

    人間らしく生きるには?

    #現代の空虚
    #読書好きな人と繋がりたい
    #読書
    #本好き
    #読みたい本
    https://amzn.to/3S985Bn

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

泉谷 閑示(いずみや・かんじ)
精神科医、思想家、作曲家、演出家。
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒業。パリ・エコールノルマル音楽院留学。同時にパリ日本人学校教育相談員を務めた。現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック(東京/広尾)院長。
大学・企業・学会・地方自治体・カルチャーセンター等での講義、講演のほか、国内外のTV・ラジオやインターネットメディアにも多数出演。また、舞台演出や作曲家としての活動も行ない、CD「忘れられし歌 Ariettes Oubliées」(KING RECORDS)、横手市民歌等の作品がある。
著著としては、『「普通」がいいという病』『反教育論 ~猿の思考から超猿の思考へ』(講談社現代新書)、『あなたの人生が変わる対話術』(講談社+α文庫)、『仕事なんか生きがいにするな ~生きる意味を再び考える』『「うつ」の効用 ~生まれ直しの哲学』(幻冬舎新書)、『「私」を生きるための言葉 ~日本語と個人主義』(研究社)、『「心=身体」の声を聴く』(青灯社)、『思考力を磨くための音楽学』(yamaha music media)などがある。

「2022年 『なぜ生きる意味が感じられないのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

泉谷閑示の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
アンデシュ・ハン...
エーリッヒ・フロ...
小川 哲
アンデシュ・ハン...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×