四月は少しつめたくて

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 222
感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309023748

作品紹介・あらすじ

世界は言葉の拘束衣を着ている、詩はその綻びか。活字ではなく浮世に生きる詩と詩人を描いて新鮮。――谷川俊太郎ほんとうの意味でかわいい人しか出てこない、ほんとうの意味できれいな物語です。――吉本ばなな

感想・レビュー・書評

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  • いつからか詩を書けない詩人、子供の死に心深く罪の意識を宿す編集者、友人の自殺未遂に自ら外の世界とつながる言葉をなくしてしまった少女、少女に語りかける真の意味をもつ言葉を探し続ける母親、4人をめぐる言葉と詩の物語。

    作者の谷川さんご自身が詩を書かれるので、言葉に対する執着、愛着は強い。
    「意味を失ってしまった言葉に、もう一度意味を持たせるにはどうしたらいいのか」
    「詩は心の内側に降りていくための階段」

    物語の中に出てくる純粋な言葉と詩へのこだわりの対極に、物欲にまみれた現実の描写は詩の純粋さを際立たせる。ラストで用意された、詩人と編集者、少女と母親の行き着いた結論はもう少し深く味わいたかった。

  • 今の私たちは、自分の話した言葉がどう切り取られ、誰にどう批判されるかわからない世の中に生きている。目の前にいる人に発した言葉であっても、様々なツールによってそれは拡散される。人はそれを確かめもしないで、ささやき合い、悪意のない態度で、距離感で、人を追いつめることができる。本当のことなんて言えない。当たり障りのない言葉で相手を認め、口をつぐむ。または、匿名で相手を罵倒する。罵倒する言葉も決まりきっている。自分の生み出した言葉なんかでなく、お決まりの言葉を使って…。今の時代の小説だなあと思った。

  • もう10年以上、詩を書けずにいる大詩人。彼に詩を書いてほしいと願う編集者。娘が事件に巻きこまれて以来、言葉を発しなくなってしまったことを気にやむ母親。
    みんなが誰かに伝えるための言葉を渇望している。意味のある言葉を使って意味のある会話をしたい。けれど、「ほんとうの言葉」って何だろう。借り物ではない自分の言葉で、気持ちを伝えたい。それにはどうしたらいいのか。
    答えは、詩の中にあった。大詩人が最後に見つけた、「詩とは、自分の心の内側に下りていくための階段」という言葉が、深く深く僕の心に響いた。

  • 久々に心持っていかれる本に出会った。
    と言っても、大好きな谷川俊太郎さんのコメントが帯にあったのと、タイトルに惹かれたというのが手に取った理由…。でも出会えたことに心から感謝してる。

    もともと詩を読むのが好きで、学生時代、心のモヤを取るために、自分を励ますために、日記の終わりにいつもポエムを書いてたのを想い出して、じわじわこう…蘇るものがあった。(電車の中で読んでたので思わず涙をこらえた)

    いつだって振り回されるけど
    いつだって難しくて苦しいけど
    “言葉”って
    最高にいいものだなあって
    改めて思わせてくれた。

    ただそれだけ、ありがとうの気持ちをこの本に対して、著者の谷川さんに対して伝えたくなって、初!レビューというものを投稿してみた。

    ただの自己満レビュー。
    それでいいやないか!笑


    PS.大詩人、藤堂孝雄という人物に惹かれ、しまいには虜に…こういう人、好きだ。
    それに振り回される担当の桜子、そして主婦のまひろさん、かわいい…‼︎

  • 詩が書けない藤堂とその周囲の人をめぐるお話。

    詩とは「心の内側に降りていく階段」であって,
    世間にあふれている言葉ではダメなんだ。
    そのことが強く伝わってきました。

    普段,気にせず使っている言葉。
    だけども,本当は,言葉は大切に扱わなくちゃならないんだ。
    そう感じました。

    言葉を使うっていうことは難しいですね。

  • 現代にとても即した小説で、誰もが薄々思っていたことが書かれていた。

    スマホ、ライン、スタンプなどの登場で言葉はどんどん従来の意味から離れ、空虚なものとなってきている。かわいい、いい感じなど使い勝手の良さから意味が複数加えられ本来の意味を見失った言葉もある。

    詩人というのは、言葉に対して真摯で、物事に対しても簡単に考えるということをしない人種だとわたしは思う。そんな言葉と物事を大切に考える詩人と、現代の浪費される言葉を並べて描き、生きた言葉を使うことの大切さを読者に教えてくれる。

    作中に出てくる詩がとても素敵でした。「謝罪は権力を与える」その通りだと思います。今まで一度も考えたことがなかったけれど、謝ることも一筋縄ではいかないのだなと。心に何か傷痕を残すような素敵な言葉がたくさん詰まっていて読んでいて心地が良かったです。

  • しみじみ素敵な本だった。
    ストーリーとか展開とかなんかそんなのはもうどうでもよくって。
    よくはないんだけど。
    お話があってこその言葉なんだけど。
    言葉がぎゅーっと胸にしみる。

    ー愛していると口にしようとしたら、その言葉がからっぽなのを発見した。

    クルミの「つらかった」の一言が
    ほんとうに胸にすーっと沁みてきて
    救われるってこういうことなのかなって。

    「霧が晴れたら」
     そぼ降る雨の中を きみは濡れてやってきた 
     ふくらんだポケットからそっと取り出したのは
     生まれたての言葉
     歩けるようになるまでわたしが育てるわ
     湿った髪を右手でかき上げ きみはきまじめに言った
     息をしているのかいと僕が聞くと
     大丈夫 呼吸という言葉を与えたからと答える
     栄養も知能も発達もちゃんと食べさせた
     みんな漢字二文字なんだと僕はつぶやいて
     悪夢も腐敗も絶望も二文字だと思い出す
     不吉な予感を押し殺し きみの手の中をのぞいたら
     生まれたての言葉は かすかに震えながら僕を見上げた
     なんて呼べばいいのかな
     まぬけな質問をする僕に きみはゆっくり瞬きし
     それはあなた次第じゃないと苦笑する
     いつのまにか雨はやんで 細かい霧が立ちこめている
     この子のいつか 意味に出会って恋をするのね
     君の声が途中からすべるようになめらかで
     僕はその先にあるものを 盗むようにそっと見つめる
     おとなになった言葉太刀が ひっそりと寄り添えば
     やがて声になり そして詩になる
     そのときまで僕らは待てるだろうか
     それが二人で生きているということなのか
     そう自分に問いかけながら 僕は静かにきみの手に触れる
     霧が晴れたら きみを送っていこう
     生まれたての言葉をこわがらせないよう
     おだやかな道を遠回りして

    「失うという事は なくなるという事実ではない
     そこにはもはやそれがないと知る その体験なのだ
     失われていくものが命をかけて
     きみに教える
     これで終わりではないと」

    河出書房新社

  • 妻に先立たれ「詩」が書けなくなった詩人と、担当編集者の話。「詩」というものが、なかなか難しくて理解困難。「人がじゃんじゃん同じ言葉をあちこちで使うと、その言葉の意味がどんどんすり減っていく。」この感覚はわかる気がする。

  • 詩を書けなくなった詩人、寄り添う担当編集者、傷つく娘に本当の言葉を掛けられなくなった母。
    それぞれの苦悩を、妥協せず、言葉に真の意味を持たせることで開放する。
    言葉、そしてそれを綴る詩、その意味を味わった気がする。

  • 文句なしの「良い」一冊。

    日々、生活の中で
    言葉を選んでいるのは、それらを紡ぐ一人一人。
    その各々、本に登場するみんなが
    品を持っている。
    だから文章に無駄がない。

    詩人と、編集者の関係は
    どこか滑稽。
    でもその距離に、二人の
    控えめな主張と深い悲しみが
    現れているようです。

    教室の生徒さんと、
    そのご家族たちも、
    誰一人、不要なキャラクターがいない。

    とても満足度の高い一冊でした。

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著者プロフィール

1960年、神戸市生まれ。2012年『おしかくさま』で第49回文藝賞を受賞。他の著書に、小説『断貧サロン』『四月は少しつめたくて』、エッセイ『競馬の国のアリス』『お洋服はうれしい』などがある。

「2016年 『世界一ありふれた答え』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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