かぐや姫、物語を書きかえろ!

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309030074

感想・レビュー・書評

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  • 書店で見かけて読みたくなり、図書館で借りてきた。綺麗な状態で嬉しかった!

    文学的作品に根強く残る男性に優位な表現や社会風俗に、すっかり慣れていた自分に気付かされた。
    源氏物語の雨夜の品定めに感じる、うっすらとした嫌悪感の正体が分かった、って感じ。

    舞姫の章がいちばん面白かったというか、とっつきやすかったな。

  • 藤原道綱母、と聞いたときに『こんな有名な人なのに、XXのお母さんとか、Aの娘とかじゃなくて、本名分からないの??』と思ったことがある方は必読の1冊。
    かぐや姫や舞姫等の物語世界の中で自我を持ってしまった女二人の冒険譚、なのだが書いてあることが全部現実とあまりにもReflectiveなので、読みながらちょっと辛くなる。これからの物語と女性の中からは、ミソジニーが消失しますように。

    そして作者はホラーの名作、トンコ書いた人なのか…作風が幅広くてすごい。

  • 自分が持つ本当の強さに気付いていない女性たちのために、書かれた一冊なのだと感じた。

    強い女性というのは必ずしも、蓮舫や上野千鶴子や北条政子のようなタイプを意味するのではない。むしろその真逆タイプの、自分は劣っているとコンプレックスを抱える人が、本当の強さを持っていたりする。

    この本は「2人の姫」と「男基準の物語の神」の対決と謳われているが、少し違うように思う。
    実際は「自分は劣っているとコンプレックスを抱えている1人の女性」が、「女性蔑視な男神」と「フェミナチな女友達」の板挟みになっている状態だ。

    男神が姫たちに課す試練は、あまりにも男尊女卑的で読んでいて鬱になる。
    フェミナチな女友達の言動は、女性団体のそれを思わせることがあり、鬱陶しくもなる。
    両者に挟まれたヒロインは、実際には狂言回しにすぎない。
    そもそもヒロインたちを虐げる「女性蔑視な男神」は、この本の作者に動かされているのであり、しかもその作者は女性なのだ。

    BookBangのインタビューによると、作者は当初、性別不詳の別筆名で発表したかったらしい。
    女性蔑視な男神を創造したのは女性作者、という矛盾現象を避けたかったのではないかと思う。
    https://www.bookbang.jp/review/article/725472

    別のインタビューを読むと、作者は男性親族の暴力に苦しんできたようである。
    http://book-sp.kodansha.co.jp/topics/happiness/
    そういう女性は極度のフェミナチ化、ミサンドリー化することが多いと聞く。
    しかしながらこの本では(特に蟹工船の章では)、作者が近年の声高なフェミニズムを、冷めた目で観察しているように感じられる。

    未だに本質的に変わらない、男主導社会のなかでも諦めるな。
    だが昨今のフェミニズム風潮に、都合よく利用されるな。
    女性を応援する物語でありながら、作者はそういう警告も込めているように感じる。

    では諦めず、利用されずに生きていくにはどうすればいいのだろう。
    蓮舫でも上野千鶴子でも北条政子でもない女性は。
    「自分が持つ本当の強さに気付け」ということなのだろう。

    自分がどの立場で読むかで印象や評価が大きく分かれそうな、一冊だと感じた。

  • 店頭で見かけて興味を持ったが、こういう表紙と帯だと立ち読みは言うまでもなく、レジに持っていくのはおっさんにとっては酷であり、ネットで買わざるを得なかった。読みながら小ネタのパロディにニヤニヤする部分もあるが、おっさんにとっては居心地が悪くなる部分もあり、読みながら「すんません」と。忠臣蔵は長編バージョンで読んでみたい気がする。

  • どこまで行けば、めでたしめでたし?

    物語の神は男中心の物語を描いていく。その中で、自分たちの幸せを目指そうと、自分の描きたい物語を描こうとする「さよ」と「ごう」。何度も何度も物語の神に挑み、退場させられて、それでも描き続ける物語のハッピーエンドは——。

    そうなんだよなぁ、と読み終わって一言。平安時代から脈々と、女の幸せとは〜と"教えてくれる"物語が続いてきた。この令和の今でさえ、幸せな女性の生き方とされる物語はどこかいびつなままだ。「さよ」も「ごう」も、ずっと挑み続けている。それでも相手は「神」だ。幸せな結末はまだ見えない。

    しかし、この本で「正しい物語」である「女性の幸せな生き方」が描かれなかったことこそ、答えだと思う。誰かに「正しい物語」を与えられることこそおかしいのだから。

  • 舞姫の部分が分かりやすくて好きでした。森鴎外読んだことないので見てみようと思います。正直なところ私には読みにくいと感じる部分がありました。激しい展開や、誰の発言なのか、とか。

  • 古典名作を舞台にして男性の為の物語を綴る神に反抗する二人の少女というフォーマットを使い、作者のフェミニズム的主張が色濃く出た一作です。時代背景に関してはかなり調べて書かれているのは伝わりましたが、正直言ってどの話もしんどい描写が多く、物語に爽やかさがないのがツラい。

  • 古典文学が苦手だからと軽い気持ちで手にとったら期待以上で何度も鳥肌がたってしまった。こんなにも軽い読み口でこんなにも剥き出しのフェミニズムと両立させているなんて。古典を舞台にこんなに女女の物語を仕立てあげられるなんて!


    古典文学の芸術性を論じられてきたなかで女性たちは決して自由なんかじゃなかった。物語の登場人物も、作者も、読者も、女性は「文学史」からも実社会からも周縁化されてきた。それをなんて鮮やかに浮き彫りにするのだろう。
    この小説は名無しの姫二人が自らを名付け直し、物語を転生しながら「物語の神」に抗う話であるが、単なるファンタジーではなく、歴史修正というわけでもない。残念ながら書きかえても男社会が綴る「正史」に塗り潰されていく。けれど物語は終わらない。それは今を生きる世代に託されているから。だからタイトルは過去の歴史に対してかかっているのではなく(かかってはいるのだが)、あらゆる告発を目にしてきた読者を未来へ鼓舞するものだと私は受け取った。
    女性同士だからといって無条件に友人になれるわけではない。それでも女性が一歩を踏み出すとき、くじけそうになったとき、支えとなってくれるのはシスターフッドなのだと信じたい。

  • 和風ファンタジー小説と思って読んでいたら、和風は和風だけど、日本の女性の権利や扱いを古今の有名作品のパロディから紐解くみたいな話になっていた。
    正直なところ、こういう「女性の解放」みたいな話はあまり興味はない。
    声を上げたってどうにもならない気がするからだ。

    子供の頃から男子が掃除をサボっても大して咎められないのに対し、女子がそうすればクラス全員がサボったと説教を受け、男女同じように気が付かないことでもそれが女であれば親族や職場から馬鹿にされる。
    ごく当たり前のこと、例えば公共の場やいろんな人を対象とするポスターなどで、女性を消費するような性的な含みのあるイラストを使わないで欲しいといった声でさえ、「表現の自由の侵害」「フェミ」などと叫ばれ潰される。
    ただTPOを守って欲しいだけなのに。
    もちろん、男性には男性の苦しみがたくさんあるのだろう。
    それでも日本の政治家も経営者もほとんどは男性で、世の中の実権は男性が握っている。
    更に争いになれば肉体的な強さでは女は男に敵わない。
    男を殺す女より、女を殺す男の方が圧倒的に多い。
    そういう怖さ悲しさは男性にはわからないんだろうなと思うことがしばしばある。

    そういうことを、普段考えないようにしていることを思い出してしまうから、「女性の解放」のような話は苦しいのだ。
    この本でも心の蓋がぱかっと開いて、とめどなく嫌だったことが溢れ出てとてもしんどかった。

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著者プロフィール

1975年生まれ。福井県出身。2007年に「あちん」で『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞、08年に同作でデビュー。2008年に「トンコ」で第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。他の著書に、『太陽おばば』(双葉社)、『終末の鳥人間』(光文社)などがある。

「2013年 『幸せすぎるおんなたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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